キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア
----------------------------------------------------------------
辞書で「浪漫」の項を、イェルヒは静かに閉じた。
「つまりは、現実逃避の誇大妄想か」
この辞書の「浪漫」の解釈に、多少の歪みがあるということを感じ取ってはいるものの、イェルヒはこの編者の意見に深く賛同していた。
「男の浪漫、ここにあり」と書かれている地図を広げる。
イェルヒは、落ち着いていた。
行き先は同じなのだ。
明日朝早く行けば、事情を説明して地図の交換を申し込めばいいのだ。
遺跡もボランティアを要請するほどだ。ちゃんと管理がされ、入り口に監視人などいるに違いない。
つまり、 相手の方が早く着いていたとしても、あの地図を持っている者は『ボランティアをしなければならない』のだ。ロマンを追い求める馬鹿が、そんなものを好き好んでするとも思えない。
だいたい、そのロマン……恐らく財宝の類、もしくは仕掛け等だろうが……は、現段階で存在するのか。と、イェルヒは考える。
大掛かりな調査の終わっている遺跡だ。その『ロマン』は発掘、もしくは解明されているのではないか。
「宝の地図」だとかを発見して、その場所に行ったはいいものの、既にそこは発見されており、荒らされているということは、よくある話だ。
今回のこの遺跡は、比較的ソフィニアの近郊にあるということで観光地化されるようなので、荒らされるということはないだろう。が、発掘されたものは、ゆくゆくはその遺跡に展示されるものの、現段階では保管されているはずだ。
「男の浪漫、ここにあり」の文字を眺める。
いかにも頭の悪そうな文字だ。もともと汚い字体を、変な努力をして、派手に見せようとしながら加工をしながら書いた文字だ。
これを書いた人物も、それに触発された人物も、そこまで考えているとも思えない。……偏見だと言われようとも、ロマンを「浪漫」と漢字でわざわざ書いてある人物に、イェルヒは、どうしても好意的にはなれない。辞書を引いた後は、更にその思いが強くなった。
ふと、思考を切り替える。
最悪の事態を考えよう。
最悪の事態とはなにか。それは、イェルヒの地図を返してくれないこと。
その事態になるには、どのような理由が考えられるか。それは、イェルヒが財宝を横取りしようと勘違いされること……。
……誇大妄想(ロマンチスト)ならではの勘違い。ありえない話ではない。
その可能性を想像し、一瞬にしてイェルヒの背筋に鳥肌が立った。
まさか、そこまでの馬鹿ではあるまい。
そう、頭の中では判断する。が、隅っこあたりで何か……いわゆる『嫌な予感』だとかを知らせているのを、イェルヒは無視できなかった。
明日の荷物に、念のため、魔術発動の杖を沿え、イェルヒは寝る準備を始めた。
明日は、早いのだ。
場所:ソフィニア
----------------------------------------------------------------
浪漫(ロマン)
〔フ roman〕
1 壮大なスケールの構想とドラマチックな筋立てを経(タテイト)とし、青春の叙情性と深く湛(タタ)えられた神秘性などを緯(ヨコイト)として織り成された(長編)物語。
用例・作例
ミステリー―・海洋―
2 △厳しい現実(退屈な毎日の生活)に疲れがちな人びとが、潤いや安らぎを与えてくれるものとして求めてやまない世界。また、それを求める心。
用例・作例
古代史の―〔=なぞ〕に挑む
―〔=夢〕をかきたてる
男の―〔=理想〕
―〔=甘美な世界〕へのいざない
ローマン。
辞書で「浪漫」の項を、イェルヒは静かに閉じた。
「つまりは、現実逃避の誇大妄想か」
この辞書の「浪漫」の解釈に、多少の歪みがあるということを感じ取ってはいるものの、イェルヒはこの編者の意見に深く賛同していた。
「男の浪漫、ここにあり」と書かれている地図を広げる。
イェルヒは、落ち着いていた。
行き先は同じなのだ。
明日朝早く行けば、事情を説明して地図の交換を申し込めばいいのだ。
遺跡もボランティアを要請するほどだ。ちゃんと管理がされ、入り口に監視人などいるに違いない。
つまり、 相手の方が早く着いていたとしても、あの地図を持っている者は『ボランティアをしなければならない』のだ。ロマンを追い求める馬鹿が、そんなものを好き好んでするとも思えない。
だいたい、そのロマン……恐らく財宝の類、もしくは仕掛け等だろうが……は、現段階で存在するのか。と、イェルヒは考える。
大掛かりな調査の終わっている遺跡だ。その『ロマン』は発掘、もしくは解明されているのではないか。
「宝の地図」だとかを発見して、その場所に行ったはいいものの、既にそこは発見されており、荒らされているということは、よくある話だ。
今回のこの遺跡は、比較的ソフィニアの近郊にあるということで観光地化されるようなので、荒らされるということはないだろう。が、発掘されたものは、ゆくゆくはその遺跡に展示されるものの、現段階では保管されているはずだ。
「男の浪漫、ここにあり」の文字を眺める。
いかにも頭の悪そうな文字だ。もともと汚い字体を、変な努力をして、派手に見せようとしながら加工をしながら書いた文字だ。
これを書いた人物も、それに触発された人物も、そこまで考えているとも思えない。……偏見だと言われようとも、ロマンを「浪漫」と漢字でわざわざ書いてある人物に、イェルヒは、どうしても好意的にはなれない。辞書を引いた後は、更にその思いが強くなった。
ふと、思考を切り替える。
最悪の事態を考えよう。
最悪の事態とはなにか。それは、イェルヒの地図を返してくれないこと。
その事態になるには、どのような理由が考えられるか。それは、イェルヒが財宝を横取りしようと勘違いされること……。
……誇大妄想(ロマンチスト)ならではの勘違い。ありえない話ではない。
その可能性を想像し、一瞬にしてイェルヒの背筋に鳥肌が立った。
まさか、そこまでの馬鹿ではあるまい。
そう、頭の中では判断する。が、隅っこあたりで何か……いわゆる『嫌な予感』だとかを知らせているのを、イェルヒは無視できなかった。
明日の荷物に、念のため、魔術発動の杖を沿え、イェルヒは寝る準備を始めた。
明日は、早いのだ。
PR
トラックバック
トラックバックURL: