事務のカウンターの窓口はいくつかあった。
そしてどれもいくつか空いており、そしてどの受付人もヒマそうな所作でなにやら仕事をしている。
が、イェルヒは躊躇無く、一番近い受付に、ツカツカと足音を立てながら近づく。
受付人の男性は、目の前に気配を感じたらしいが、作業のキリが悪いのか、顔は上げない。
そんな受付人の態度を意に介さず、イェルヒは単刀直入に用件を告げる。
「ボランティアを探している」
数秒し、事務員はペンを置き、一度イェルヒの顔をチラリと見、「あー、ハイハイ」などと呟きながら本棚からファイルを取り出し、パラパラとめくり始める。その手つきは、流石、と言うべきであろうか、手馴れている。
「あぁ。聞いています。イェルヒさんですね。先生の方から連絡されましたので。
今、募集しているボランティアは……孤児院への教養の促進、老人ホームへのケア出張、町の清掃に……これなんかどうですかね? 自然と触れ合うという名目の元に、単なる山登りなんかもありますよ」
「ガキと老いぼれ、他人の後始末に、アウトドアは私には向いていない」
苦々しげな……というよりも、不機嫌そうな表情で、イェルヒは突き放すように言う。どことなく、偉そうに言っているようにも感じられる。
「……アンタ、世間を舐めてませんか」
事務員は小さく呟く。が、イェルヒは涼しい顔でその言葉を聞き流す。
「こう……なんか、自分のこの技術の育成に関わるような分野では無いか?」
「あのねぇ……ボランティアは、誠意でやるんですよ? 基本的に見返りを期待するもんじゃないんですよ?」
「本当に心の底から善意の塊でやるヤツなら、こんなところにいない。医療系にでも行っているさ。
主な生徒は単位や、就職っていう見返りのタメだろう?
勿論、私も『特待』という見返りがなきゃやらない。
そのついでに自分を成長させる作用があれば尚良いってだけじゃないか。その当然の要求をして何が悪い」
踏ん反り返って言う台詞でもないのだが……などと思いながらも、事務員は自分の仕事をこなす。
「……仕方ないですねぇ。本当に特別ですよ? このボランティア、本当に貴重で人気なんですから。」
そう良いながら、とあるページを開き、イェルヒに向ける。
「最近、殺人事件が起きているのは知っていますよね? そこで急遽募集されているのが現場の清そ……」
「断る」
間髪入れずに、しかし絶妙な間で入る合いの手。
「ってか、本当にそれは人気なのか……?」
疑いの眼差しを向けるが、事務員はサラリと受け答える。
「……生体構造からのアプローチを考えている生徒さんには人気なんですがねぇ……。分野が違いましたか」
イェルヒは手を差出しながら、うんざりした口調で事務員に告げる。
「もう……いい。自分で探すから、そのファイルを貸してくれ」
半ば奪うようにそのファイルを取る。
その様子を見ながら、事務員はこの今回の措置に納得した。「あぁ、成る程。特待には人格を計る何かしらの便宜が必要だ」と。
とはいえ、自己中心的な変人だからこそ天才なのだ、とも事務員は理解している。
「……この特待制度、矛盾が生じるよなぁ」
そう、ボソリと呟くが、目の前のエルフは眉間にシワを寄せながらファイルを睨むように眺めていて、気づきもしない。単に眺めて選ぶだけだというのに、瞬時に集中力を発揮しているようだ。
「疲れないのかねぇ」などと、他人事のように思い、事務員は、さして急ぎもしない書類に再び取り掛かる。
数分後、ムスリとした顔つきで、エルフの青年が、ファイルのページを開き、事務員に突きつけた。
「コレにする。手続きを、してくれ」
『遺跡探索・発掘の手伝い』
そのページの紙には、大きな字でそう書かれていた。
そしてどれもいくつか空いており、そしてどの受付人もヒマそうな所作でなにやら仕事をしている。
が、イェルヒは躊躇無く、一番近い受付に、ツカツカと足音を立てながら近づく。
受付人の男性は、目の前に気配を感じたらしいが、作業のキリが悪いのか、顔は上げない。
そんな受付人の態度を意に介さず、イェルヒは単刀直入に用件を告げる。
「ボランティアを探している」
数秒し、事務員はペンを置き、一度イェルヒの顔をチラリと見、「あー、ハイハイ」などと呟きながら本棚からファイルを取り出し、パラパラとめくり始める。その手つきは、流石、と言うべきであろうか、手馴れている。
「あぁ。聞いています。イェルヒさんですね。先生の方から連絡されましたので。
今、募集しているボランティアは……孤児院への教養の促進、老人ホームへのケア出張、町の清掃に……これなんかどうですかね? 自然と触れ合うという名目の元に、単なる山登りなんかもありますよ」
「ガキと老いぼれ、他人の後始末に、アウトドアは私には向いていない」
苦々しげな……というよりも、不機嫌そうな表情で、イェルヒは突き放すように言う。どことなく、偉そうに言っているようにも感じられる。
「……アンタ、世間を舐めてませんか」
事務員は小さく呟く。が、イェルヒは涼しい顔でその言葉を聞き流す。
「こう……なんか、自分のこの技術の育成に関わるような分野では無いか?」
「あのねぇ……ボランティアは、誠意でやるんですよ? 基本的に見返りを期待するもんじゃないんですよ?」
「本当に心の底から善意の塊でやるヤツなら、こんなところにいない。医療系にでも行っているさ。
主な生徒は単位や、就職っていう見返りのタメだろう?
勿論、私も『特待』という見返りがなきゃやらない。
そのついでに自分を成長させる作用があれば尚良いってだけじゃないか。その当然の要求をして何が悪い」
踏ん反り返って言う台詞でもないのだが……などと思いながらも、事務員は自分の仕事をこなす。
「……仕方ないですねぇ。本当に特別ですよ? このボランティア、本当に貴重で人気なんですから。」
そう良いながら、とあるページを開き、イェルヒに向ける。
「最近、殺人事件が起きているのは知っていますよね? そこで急遽募集されているのが現場の清そ……」
「断る」
間髪入れずに、しかし絶妙な間で入る合いの手。
「ってか、本当にそれは人気なのか……?」
疑いの眼差しを向けるが、事務員はサラリと受け答える。
「……生体構造からのアプローチを考えている生徒さんには人気なんですがねぇ……。分野が違いましたか」
イェルヒは手を差出しながら、うんざりした口調で事務員に告げる。
「もう……いい。自分で探すから、そのファイルを貸してくれ」
半ば奪うようにそのファイルを取る。
その様子を見ながら、事務員はこの今回の措置に納得した。「あぁ、成る程。特待には人格を計る何かしらの便宜が必要だ」と。
とはいえ、自己中心的な変人だからこそ天才なのだ、とも事務員は理解している。
「……この特待制度、矛盾が生じるよなぁ」
そう、ボソリと呟くが、目の前のエルフは眉間にシワを寄せながらファイルを睨むように眺めていて、気づきもしない。単に眺めて選ぶだけだというのに、瞬時に集中力を発揮しているようだ。
「疲れないのかねぇ」などと、他人事のように思い、事務員は、さして急ぎもしない書類に再び取り掛かる。
数分後、ムスリとした顔つきで、エルフの青年が、ファイルのページを開き、事務員に突きつけた。
「コレにする。手続きを、してくれ」
『遺跡探索・発掘の手伝い』
そのページの紙には、大きな字でそう書かれていた。
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