キャスト:ジュリア リクラゼット イェルヒ
NPC:チャーハン魔王(仮)
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
----------------------------------------------------------------
全て夢にしたい。全て夢であればいい。全て夢であれば。全て夢であろう。全て夢なんだ。全て夢だ。
どうにかして、言い切ってみた。自分の心の中で。
しかし、なんたる悲劇だろう。理性が自分にはあった。どうしても手放すことの出来ないひとかけらの。
あぁ、そうだ。手放してしまえばいいんだ。なんて単純なことを思いつかなかったんだろう。
脳裏で、ぎゅっと握り締めている手を……
バタン!
凄まじい音と共に、男が怒りの形相で出てきた。
あぁ、無理だ。こんなにも目の前に現実を提示されては、理性がどうだとかいう問題ではない。現実というミもフタも無い存在というのは、時として残酷である。
男の形相はとにかく、ものすごい。これを形容するならば……あぁ、確かに「魔王」と表現して間違い無いような気がする、とイェルヒは思った。
「どこにやった!!」
あぁ、まともな言葉を言っている。
少なくとも、あの兄弟達よりもまともなのかもしれない。思えば、彼の反応は真っ当だ。うるさければ注意する。物を盗られたらば、取り返そうとする。真っ当だ。
こんなところでチャーハンさえ作っていなければ、の話だが。
とりあえず、言葉は真っ当に通じるらしい。全てを、投げ出したくなって素直に……と言っても、彼らに義理立てする謂れは無いのだが……言った。
「あっちに行きました」
そうか、と鼻息を荒くしながら、男はそのまま去っていって、それで全てが終わるはずだった。
「……ま、待ってくれ」
……誰だ。
「……や、やはり、あれは、チャーハンソード……、い、いや、あなたは……チャーハン魔王で……あの、ここの神の種は……」
自制心があとほんの少し欠けていれば、イェルヒは、元教師であるリクラゼットに対して大きな舌打ちをしていただろう。
興奮しているのか、リクラゼットはうまく文章を組み立てられていない。
ジュリアとかいう女は、明らかに、イェルヒに「止めろよ、あいつを」という視線をこちらに向けていたし、イェルヒは、不本意ながらもその女と同じ意見だった。
だが、イェルヒは、とめられない。いくら、この状況が好ましくないと思っていてもだ。
探究心。
変わり者と呼ばれる学者は、これが強い。イェルヒは、圧倒的な探究心を持つ者に苛立ちを抱えながらも、それ以上に憧れと尊敬を抱いている。
だから、夢中になっているリクラゼットに対して、イェルヒはとめることなど出来るはずが無かった。
そんなイェルヒに見切りをつけたのか、女が口を開いた。が、その前に、男がサラリと答えた。
「確かに、チャーハン魔王とは呼ばれている」
正気か。この男。
誇らしげでもなく、普通に答えている風情に、ジュリアも流石に言葉が途切れた。
「どこでそれを聞きつけたかは知らないが、名のある方と見受ける」
チャーハン魔王と言い出したのは、チャーハンソード(仮)を持ち出し、奇声を上げながら逃げ去った人物だ。
「今は、この通り、残念ながら、もてなすことが出来ない状態だ」
……もしや、チャーハンでもてなすつもりなのだろうか。
「今は急ぐので……では」
と、男……いや、チャーハン魔王は、颯爽と走り出した。
「待ってくれ!」
リクラゼットにしては大きな声だった。チャーハン魔王は、後姿を見せたまま、立ち止まる。
「一つだけ……! あ、あれは、チャーハンソードなのか?」
チャーハン魔王は首をひねり、横顔をこちらに向け……静かに微笑んだ。そして、駆けて行った。意味不明な微笑みの謎を、無責任にも残して。
「……チャーハン魔王……」
熱に浮かされたようにその名を呟いたのは、勿論、言うまでも無い。半裸の学者馬鹿……いや、馬鹿学者だ。
NPC:チャーハン魔王(仮)
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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全て夢にしたい。全て夢であればいい。全て夢であれば。全て夢であろう。全て夢なんだ。全て夢だ。
どうにかして、言い切ってみた。自分の心の中で。
しかし、なんたる悲劇だろう。理性が自分にはあった。どうしても手放すことの出来ないひとかけらの。
あぁ、そうだ。手放してしまえばいいんだ。なんて単純なことを思いつかなかったんだろう。
脳裏で、ぎゅっと握り締めている手を……
バタン!
凄まじい音と共に、男が怒りの形相で出てきた。
あぁ、無理だ。こんなにも目の前に現実を提示されては、理性がどうだとかいう問題ではない。現実というミもフタも無い存在というのは、時として残酷である。
男の形相はとにかく、ものすごい。これを形容するならば……あぁ、確かに「魔王」と表現して間違い無いような気がする、とイェルヒは思った。
「どこにやった!!」
あぁ、まともな言葉を言っている。
少なくとも、あの兄弟達よりもまともなのかもしれない。思えば、彼の反応は真っ当だ。うるさければ注意する。物を盗られたらば、取り返そうとする。真っ当だ。
こんなところでチャーハンさえ作っていなければ、の話だが。
とりあえず、言葉は真っ当に通じるらしい。全てを、投げ出したくなって素直に……と言っても、彼らに義理立てする謂れは無いのだが……言った。
「あっちに行きました」
そうか、と鼻息を荒くしながら、男はそのまま去っていって、それで全てが終わるはずだった。
「……ま、待ってくれ」
……誰だ。
「……や、やはり、あれは、チャーハンソード……、い、いや、あなたは……チャーハン魔王で……あの、ここの神の種は……」
自制心があとほんの少し欠けていれば、イェルヒは、元教師であるリクラゼットに対して大きな舌打ちをしていただろう。
興奮しているのか、リクラゼットはうまく文章を組み立てられていない。
ジュリアとかいう女は、明らかに、イェルヒに「止めろよ、あいつを」という視線をこちらに向けていたし、イェルヒは、不本意ながらもその女と同じ意見だった。
だが、イェルヒは、とめられない。いくら、この状況が好ましくないと思っていてもだ。
探究心。
変わり者と呼ばれる学者は、これが強い。イェルヒは、圧倒的な探究心を持つ者に苛立ちを抱えながらも、それ以上に憧れと尊敬を抱いている。
だから、夢中になっているリクラゼットに対して、イェルヒはとめることなど出来るはずが無かった。
そんなイェルヒに見切りをつけたのか、女が口を開いた。が、その前に、男がサラリと答えた。
「確かに、チャーハン魔王とは呼ばれている」
正気か。この男。
誇らしげでもなく、普通に答えている風情に、ジュリアも流石に言葉が途切れた。
「どこでそれを聞きつけたかは知らないが、名のある方と見受ける」
チャーハン魔王と言い出したのは、チャーハンソード(仮)を持ち出し、奇声を上げながら逃げ去った人物だ。
「今は、この通り、残念ながら、もてなすことが出来ない状態だ」
……もしや、チャーハンでもてなすつもりなのだろうか。
「今は急ぐので……では」
と、男……いや、チャーハン魔王は、颯爽と走り出した。
「待ってくれ!」
リクラゼットにしては大きな声だった。チャーハン魔王は、後姿を見せたまま、立ち止まる。
「一つだけ……! あ、あれは、チャーハンソードなのか?」
チャーハン魔王は首をひねり、横顔をこちらに向け……静かに微笑んだ。そして、駆けて行った。意味不明な微笑みの謎を、無責任にも残して。
「……チャーハン魔王……」
熱に浮かされたようにその名を呟いたのは、勿論、言うまでも無い。半裸の学者馬鹿……いや、馬鹿学者だ。
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