キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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イェルヒは、古代文字を見つけた。
が、しかし、そこからは、古代文字独特の輝きがない。
これで、三つ目だ。
「……地図があったって、意味が無いじゃないか……!!」
古代文字の魔力。
それは、記述された時点で、記述された物質に対して発動される。よって、使い手を選ばない。
その物質的な媒体にて形状による発動がゆえに、変化に弱い。
文字の一部が擦れて消えたり、傷が付いて切断されたりすると、魔力は失われる。
期待された割には、「どうでもいい遺跡」と判断された遺跡だ。落胆は、調査に直に反映される。つまりは……粗雑に扱われる。
地図には、残り2つ、古代文字の在り処が記されている。
イェルヒは、来た方向を振り返る。地図によると、遺跡の中頃に来ている。
忌々しそうに、古代文字を見る。
こんな些細な傷で……阻むと言うのか。
あの、講師ならば、再生できただろうか?
と、イェルヒは気づいた。
……どこにも、傷などない。
これは、破損した文字ではない。
文字自体の魔力は失われてはいない。
これは、使用された直後の、回復されていない文字だ。
「……ちょっと……待て」
誰だ?
あの、多数の罠を仕掛けた、馬鹿か?
馬鹿な。あのイカレ具合は半端じゃなかったぞ。
しかし、イェルヒにあるのは「イカレも突っ切れば、運がきまぐれに味方する」という、ルークの前例だけだ。
急がなければ。
馬鹿どもが、貴重な古代遺産を破損してしまっては、手遅れだ。
なんといっても、馬鹿が二組。傷つけられる可能性は二倍になんてものじゃない。
自然と、早足になる。
地図によれば、この近くにもう一つあるはずだ。
―――が。
「……タチの悪い冗談は……やめてくれ」
イェルヒは古代文字の前で、崩れるように座り込んだ。
そこにあったのは、破損した古代文字ではなく。
使用された直後のもの。
専門ではないが、どのくらいの時間が経過したのかなどはわからない。が、おそらく数分前から、半日までの間、といったところか。
「誰なんだ……」
願わくば、馬鹿でないことを祈るばかりである。
地図を見る。
―――残り一つ。
イェルヒは自覚している。自分は、運が決していいほうではないということを。五分五分ならば、悪い方になる確率が大きいのだ。
諦める覚悟と、捨てきれない期待を抱き、イェルヒは歩き出す。
神など信じていないイェルヒは、何かに祈ることをせずに、ただ、歩いた。
そんな彼に偉大なるかな、神は微笑んだのだ。
「あった……」
イェルヒ自身、信じていなかった存在が、そこにはあった。
保存状態、良好。直後の使用形跡、無し。
柄にも無く、イェルヒは少し浮かれた。
だから、彼は気づかない。
経験的な自分の運の悪さを、忘れてしまったのだ。
”五分五分ならば、悪い方になる確率が大きいのだ”
悪意の神は、微笑んだ。
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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イェルヒは、古代文字を見つけた。
が、しかし、そこからは、古代文字独特の輝きがない。
これで、三つ目だ。
「……地図があったって、意味が無いじゃないか……!!」
古代文字の魔力。
それは、記述された時点で、記述された物質に対して発動される。よって、使い手を選ばない。
その物質的な媒体にて形状による発動がゆえに、変化に弱い。
文字の一部が擦れて消えたり、傷が付いて切断されたりすると、魔力は失われる。
期待された割には、「どうでもいい遺跡」と判断された遺跡だ。落胆は、調査に直に反映される。つまりは……粗雑に扱われる。
地図には、残り2つ、古代文字の在り処が記されている。
イェルヒは、来た方向を振り返る。地図によると、遺跡の中頃に来ている。
忌々しそうに、古代文字を見る。
こんな些細な傷で……阻むと言うのか。
あの、講師ならば、再生できただろうか?
と、イェルヒは気づいた。
……どこにも、傷などない。
これは、破損した文字ではない。
文字自体の魔力は失われてはいない。
これは、使用された直後の、回復されていない文字だ。
「……ちょっと……待て」
誰だ?
あの、多数の罠を仕掛けた、馬鹿か?
馬鹿な。あのイカレ具合は半端じゃなかったぞ。
しかし、イェルヒにあるのは「イカレも突っ切れば、運がきまぐれに味方する」という、ルークの前例だけだ。
急がなければ。
馬鹿どもが、貴重な古代遺産を破損してしまっては、手遅れだ。
なんといっても、馬鹿が二組。傷つけられる可能性は二倍になんてものじゃない。
自然と、早足になる。
地図によれば、この近くにもう一つあるはずだ。
―――が。
「……タチの悪い冗談は……やめてくれ」
イェルヒは古代文字の前で、崩れるように座り込んだ。
そこにあったのは、破損した古代文字ではなく。
使用された直後のもの。
専門ではないが、どのくらいの時間が経過したのかなどはわからない。が、おそらく数分前から、半日までの間、といったところか。
「誰なんだ……」
願わくば、馬鹿でないことを祈るばかりである。
地図を見る。
―――残り一つ。
イェルヒは自覚している。自分は、運が決していいほうではないということを。五分五分ならば、悪い方になる確率が大きいのだ。
諦める覚悟と、捨てきれない期待を抱き、イェルヒは歩き出す。
神など信じていないイェルヒは、何かに祈ることをせずに、ただ、歩いた。
そんな彼に偉大なるかな、神は微笑んだのだ。
「あった……」
イェルヒ自身、信じていなかった存在が、そこにはあった。
保存状態、良好。直後の使用形跡、無し。
柄にも無く、イェルヒは少し浮かれた。
だから、彼は気づかない。
経験的な自分の運の悪さを、忘れてしまったのだ。
”五分五分ならば、悪い方になる確率が大きいのだ”
悪意の神は、微笑んだ。
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