キャスト:リクラゼット
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部、下層
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明かり一つない遺跡の中、念仏のようなか細い声が微かに響く。
その声は声量の小ささだけでなく、くぐもった声のせいでひどく聞こえづらい。
場所が場所なだけにまるでアンデッドや悪霊の恨み言に聞こえなくもない。
しかし、響く声を聞き取るべき聴衆はこの舞台には存在しない。
ただ、役者だけが舞台にのぼっているだけの一人芝居。
まるで意味のない芝居ではあるが、役者である彼にとってソレは至極自然のことだった。
古代文字魔法。
遥か古代の超テクノロジー。
しかしその特性ゆえに実用には向かず、「骨董魔法」との蔑称もある。
はるか昔に存在したロストテクノロジーに思いをはせる、そう、まるで骨董品のように。
そんな魔法に、いかにこの身を捧げ熱心に研究しようとも、それは一人芝居でしかない。
興味を示すものはいた。
だが、それは「骨董魔法」としてしか古代文字に興味を示せないものだった。
学生の時も、教員になった時も。
そして。
(今も、同じ。)
今、自分がいるこの場……バジオ遺跡の地下に古代遺跡があるかもしれないというのは、何だかひどく滑稽なように思える。
そして、皮肉とも。
バジオの遺跡が作られた主な目的は、とある信仰に対する神殿のような役割を果たすためだった。
生命の源である、「種」に対する信仰。
ー地中深くには「死」があり、それが時とともに浮上し、「生」になる。
その、「生」の直前の形が「種」である。
その、生と死を孕んだ神秘状態を崇めるという、信仰のゆえに、通常 ならば多層構造をとりがちな地下に、珍しい平面構造をとっていると いうのが、一つの特徴である。ー
自然信仰にて多く見受けられる形態である。
バジオの遺跡が発見された前後は、神秘の遺跡として魔術師や教員達の関心も高かった。
信仰の対象とされていた「神の種」が巨大な魔力を秘めた魔道器具である可能性があったからだ。
信仰の伝承から「神の種」は生と死……すなわち創造と破壊という両極の力を併せ持つという予測がなされた。
両極の力を内包することにより、力の循環が起き絶え間なく力を発現するため能力は未だ衰えなく健在であるだろう。
そして、その力は両極を孕むが故に強力であると。
それが、彼らの予想であった。
しかし、その予想は裏切られた。
「…………保存状態……良好……」
か細い詠唱をそんな言葉を締めくくり、彼……リクラゼットは手中へと視線を落とす。
筋張ったその手のひらの上に、淡く発光する楕円形の物体がある。
この物体こそ、かつてこの地で信仰されていた御神体こと「神の種」である。
それから魔力は感じられるものの、決して強いものではなく、むしろ弱弱しい印象を受ける。
しかも、その魔力は先ほどリクラゼットが注入した彼自身の魔力だ。
周りを注意深く見回すと、壁や柱に絡まる蔦に「神の種」とまったく同質の物体があるのが見えた。
そう、彼らが期待を寄せた「神の種」は特別な魔道器具などではなく、魔力を保存できるだけの植物だったのだ。
きっと遥か古代に信仰の対象に成りえるほどの強力な魔道器具として機能することができたのは優秀な魔術師の魔力がこもっていたからであろう。
今はもう、そのこめられた力は失われている。
「……予測が正しければ……そろそろ……」
主に「神の種」が生息しているのは遺跡の奥……すなわち祭壇の近くとなる。
リクラゼットの調査が正しいのならば、そろそろ更に地下へ降りるための仕掛けなり魔術封印なりがあるはずなのだが。
「……む。」
リクラゼットは背中に背負っていた巨大な羽根ペンを持つと、地面に魔方陣を描き始めた。羽根ペンは何かの魔道器具なのだろうか、先端から薄い魔力の光を発しては、地面に 光の軌跡を残していく。
文字そのものが魔力をもつ古代魔法とは違い、記述した魔術公式に自らの魔力を通し「力」を発現する。
迂闊に動いて罠を発動したら危険なので、魔術で周囲を探索することにしたのだ。
しばし周囲を探索していたリクラゼットの魔方陣が何かを捕らえた。
それは床に刻まれた古代文字。
「開放」を意味する古代文字であった。
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部、下層
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明かり一つない遺跡の中、念仏のようなか細い声が微かに響く。
その声は声量の小ささだけでなく、くぐもった声のせいでひどく聞こえづらい。
場所が場所なだけにまるでアンデッドや悪霊の恨み言に聞こえなくもない。
しかし、響く声を聞き取るべき聴衆はこの舞台には存在しない。
ただ、役者だけが舞台にのぼっているだけの一人芝居。
まるで意味のない芝居ではあるが、役者である彼にとってソレは至極自然のことだった。
古代文字魔法。
遥か古代の超テクノロジー。
しかしその特性ゆえに実用には向かず、「骨董魔法」との蔑称もある。
はるか昔に存在したロストテクノロジーに思いをはせる、そう、まるで骨董品のように。
そんな魔法に、いかにこの身を捧げ熱心に研究しようとも、それは一人芝居でしかない。
興味を示すものはいた。
だが、それは「骨董魔法」としてしか古代文字に興味を示せないものだった。
学生の時も、教員になった時も。
そして。
(今も、同じ。)
今、自分がいるこの場……バジオ遺跡の地下に古代遺跡があるかもしれないというのは、何だかひどく滑稽なように思える。
そして、皮肉とも。
バジオの遺跡が作られた主な目的は、とある信仰に対する神殿のような役割を果たすためだった。
生命の源である、「種」に対する信仰。
ー地中深くには「死」があり、それが時とともに浮上し、「生」になる。
その、「生」の直前の形が「種」である。
その、生と死を孕んだ神秘状態を崇めるという、信仰のゆえに、通常 ならば多層構造をとりがちな地下に、珍しい平面構造をとっていると いうのが、一つの特徴である。ー
自然信仰にて多く見受けられる形態である。
バジオの遺跡が発見された前後は、神秘の遺跡として魔術師や教員達の関心も高かった。
信仰の対象とされていた「神の種」が巨大な魔力を秘めた魔道器具である可能性があったからだ。
信仰の伝承から「神の種」は生と死……すなわち創造と破壊という両極の力を併せ持つという予測がなされた。
両極の力を内包することにより、力の循環が起き絶え間なく力を発現するため能力は未だ衰えなく健在であるだろう。
そして、その力は両極を孕むが故に強力であると。
それが、彼らの予想であった。
しかし、その予想は裏切られた。
「…………保存状態……良好……」
か細い詠唱をそんな言葉を締めくくり、彼……リクラゼットは手中へと視線を落とす。
筋張ったその手のひらの上に、淡く発光する楕円形の物体がある。
この物体こそ、かつてこの地で信仰されていた御神体こと「神の種」である。
それから魔力は感じられるものの、決して強いものではなく、むしろ弱弱しい印象を受ける。
しかも、その魔力は先ほどリクラゼットが注入した彼自身の魔力だ。
周りを注意深く見回すと、壁や柱に絡まる蔦に「神の種」とまったく同質の物体があるのが見えた。
そう、彼らが期待を寄せた「神の種」は特別な魔道器具などではなく、魔力を保存できるだけの植物だったのだ。
きっと遥か古代に信仰の対象に成りえるほどの強力な魔道器具として機能することができたのは優秀な魔術師の魔力がこもっていたからであろう。
今はもう、そのこめられた力は失われている。
「……予測が正しければ……そろそろ……」
主に「神の種」が生息しているのは遺跡の奥……すなわち祭壇の近くとなる。
リクラゼットの調査が正しいのならば、そろそろ更に地下へ降りるための仕掛けなり魔術封印なりがあるはずなのだが。
「……む。」
リクラゼットは背中に背負っていた巨大な羽根ペンを持つと、地面に魔方陣を描き始めた。羽根ペンは何かの魔道器具なのだろうか、先端から薄い魔力の光を発しては、地面に 光の軌跡を残していく。
文字そのものが魔力をもつ古代魔法とは違い、記述した魔術公式に自らの魔力を通し「力」を発現する。
迂闊に動いて罠を発動したら危険なので、魔術で周囲を探索することにしたのだ。
しばし周囲を探索していたリクラゼットの魔方陣が何かを捕らえた。
それは床に刻まれた古代文字。
「開放」を意味する古代文字であった。
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