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2024/11/06 19:31 |
イェルヒ&ジュリア&リクラゼット16/イェルヒ(フンヅワーラー)
キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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 忍び足の心得など、イェルヒには当然ない。
 この、音の反響する空間で、何故に気づかれず、ルークをつけることができたのか。
 ルーク達が鈍感であったということもあっただろう。
 しかし、それ以上に。

びぃよぉーーーーん

「ルぅゥーーーーーーークさまァ!!!!」

 どうやら、今度は、ゴムを利用した罠に引っかかったらしい。
 ぬらぬらしたもの(ルークが滑った模様から推測して、恐らく油だろう)を避けながら、イェルヒは思った。
 尾行対象者が騒がしくてよかった、と。
 ……反響効果の高いこの場所で、この叫び声を聞かなければいけないのが辛いが。

「うあぁ!」

 突如、吸い込まれるような響きが聞こえた。
 その声の主は……

「イマツぅうぅうぅう!!」

 ……そう。ルークの声ではなかったのだ。(当のルークは、声の揺れからして、どうやらまだゴム仕掛けの罠にひっかかっているらしい)

 そこに、今度は、バチン、とゴムの切れる音がした。
 それに伴うのは勿論。

「ぐぉぁ!」

 そして、振動。
 間違いない。この、床の下からのものだ。

 ……変だ。
 あまりに、唐突過ぎる。
 そして……何故、穴がある?
 床は、石で敷き詰められている。先ほどまでの、稚拙な罠では、穴を掘るなどの仕掛けは考えられない。
 先ほどの音の反響からして、穴は浅くは無く、その先にはある程度の空間があるようだ。
 おかしい。

 「この遺跡の特徴は平面性にある」

 この遺跡、パジオの資料の書き出しを思い出す。
 生命の源である、「種」に対する信仰だそうだ。
 地中深くには「死」があり、それが時とともに浮上し、「生」になる。その、「生」の直前の形が「種」である。
 その、生と死を孕んだ神秘状態を崇めるという、信仰のゆえに、通常ならば多層構造をとりがちな地下に、珍しい平面構造をとっているというのが、一つの特徴である。
 確か、そんなことが書いてあったはずだ。
 ただ、この信仰による遺跡は、いくつか発見されている。
 パジオはその中でも、とりわけ目立っていない。遺跡の規模は中規模。遺物は、ありきたりなものばかりであり。ご神体である種も、現在ではなんの変哲の無い植物のものであった。

 その、遺跡に、何故、更なる『地下』がある?

 そんなことは、どこにも記されていなかった。
 もし、そんなことが、発見されていれば、パジオは注目されていたはずだ。
 鼓動の感覚が早くなる。体温の上昇も確認できる。
 今まで追尾していたことを忘れ、イェルヒは早足でルーク達を追った。
 しかし、そこには、切れたゴムの残骸と、その付随したなんだかがぶら下がっているだけで、穴など、無かった。
 生命力の精霊は、足元から感知されている。
 つまり、あの二人は、ここで落ちたのは事実のようだ。
 イェルヒは、杖を軽く振った。すると、その杖の先に明かりが灯った。
 それを、辺りの壁に照らし、周囲の壁をしばし観察する。

「これは……」

 しゃがみこんで壁の下部に見入る。
 イェルヒの指の先には「開放」を意味する、一文字の古代文字。
 それは、石の模様に紛れて記されており、注意深く見ないと、見逃してしまうものだった。

「何故だ……?」

 イェルヒは目を細める。彼の、考え込む時の癖だ。
 ただでさえ、普段から目つきが悪いというのに、この時の顔は、さらに凶悪になる。傍から見ると、機嫌が悪いとしか思えないことに、彼はまだ気づいていない。

「……おかしい。
 この遺跡に……なぜ、この文字がある?」

 自然こそに力があるという信仰の文化の遺跡に、「力ある文字」がある事例など、無い。
 そもそも、この自然崇拝文化と、「力ある文字」は、相反する思想だ。共存しているはずがない。
 杖を握る手に、自然と力がこもる。
 古代文字は、力を発動した後、時間がたたないと効力が戻らないタイプらしい。
 したがって、後を追いかけることはできない。
 このまま、学院に戻って報告すれば、きっと、特待処遇は約束されるだろう。それどころか、イェルヒの評価は上がるに違いない。

「……課外活動は苦手なんだ。
 肉体労働だって、向いていない。
 部屋にこもっていれば、広く知識は集まるから、不便はない。
 まだ、勉強すべきことは、ここだけじゃない。他にも沢山ある……」

 思わず、今まで来た方向に、顔が向く。
 だが。その顔の方向はまだ、踏み出していない領域に続く道に向き直った。

「……なのに、何故、俺は、先に進みたいと思うのか」

 心臓が好奇心に震える。
 杖を握りなおし、イェルヒは立ち上がった。
 そして、先へ進む道に踏み出した。
 そんな、彼の熱い思いを、冷やすように、バケツが水とともに降ってきた。

 ばしゃん。

 運命の残酷さに、イェルヒは静かに耐える。バケツが、イェルヒの頭に当たらなかったのは不幸中の幸いであろうが、そんなのは気休めにしかならない。
 ただ、ルークならば、バケツを頭にかぶるというベタな展開にはなっていただろうな、と空想をして、ほんの少しだけ、慰められた。
 握り締めていた、地図を確かめる。
 丈夫な、紙でできているから、そう簡単には、崩れはしないだろうが……。
 地図は、びっしょりと濡れていた。

「ん……?
 ……なん……だ? コレは」

 遺跡の場所が記された地図の端が、『めくれている』。
 その地図の下に、何か、神がもう一枚張り付いているようだ。
 イェルヒは慎重に、それをめくって剥がしていく。
 地図の下には。
 地下の存在まで、詳しく書かれた地図があった。

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2007/02/10 16:48 | Comments(0) | TrackBack() | ●もやしーず

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