キャスト:ジュリア
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
--------------------------------------------------------------------------
「やっと最下層だ!」
崩れかけた階段は見かけほど崩れていないらしい。そこを降りるクラークの足取りはひどく不安定に見えたが、階段そのものはびくともしなかった。
勝手に転倒しかけた彼が悲鳴だか奇声だかを上げた。
擬音にすらできない声がどこまでもどこまでも暗闇に響いていく。見えるはずのないそれを見送るように闇の先を眺めてから、ジュリアは嘆息した。
彼よりはまだ身軽に半ば瓦礫と化した階段を越す。
「意外と運動できる? お姉さん」
「お前ほどのギャグセンスがないだけ」
「あれ、褒められてる。嬉しーなぁ」
言っている方もよくわからない返答に、しかしクラークは何故か満足したらしかった。嫌味に気づいていないだけだとしても本人が幸せなら、それはそれでいいだろう。
何が面白いのかケタケタと笑いながら――背中を向け歩き始めたクラークは、室内用ランプを掲げるように闇に翳して、言った。
「この先から世界の滅びが始まるんだ」
「…………」
物騒な物言いにジュリアは思わず沈黙する。
だが我に返るまでに時間は必要なかった。止まりかけた思考は、何の支障もなく再び動き始める。
「……もう一度、言ってもらえる? 奥に何があるか」
「ことあるごとにチャーハンを作りたくなる呪いのナイフ。」
「もう、なんでもいいけどね……」
そんなものでどうやって世界を滅ぼすことができるのか若干の興味が湧かないでもなかったが、適当に流すことにしておく。
「そしたらお姉さんは下僕にしてあげよう」
「いらない。ってか本気で実行する気なの世界征服?」
「世界征服できそうなものを手に入れたら、とりあえずやるだけやってみないと損だと思うだに」
「……あー、ちょっとわかる」
得体が知れない上にくだらないナイフ一本では、また話が別だ。
適当に相槌を打ちながら退屈まぎれの会話は進む。
いくつもの角を曲がり、通り過ぎ。
やがて目の前に現れたのは、巨大な両開きの扉だった。
「この奥に宝がある!」
目の前にあるのは、巨大な両開きの扉だった。材質は――分厚い石か。岩をそのまま削りだしたのかも知れない。この上なく重厚であり、閉ざされたそれを人間の力で開くことは不可能だろう。
無感動に扉を見上げ、ジュリアは、とても冷静に現実を指摘した。
「……もう開いてるし」
「それはおかしーってやつだぁよ」
クラークは相変わらず統一できていない言葉遣いで反論しながら、懐から一枚の紙切れを取り出した。ランプの光でそれを見下ろす。そして、彼の表情に混じったのは、わずかな含み笑い――
「この地図だと閉まってるのに」
「地図あるんじゃない!」
強引に奪い取る。それは手書きの地図だった。かなり精巧に書き込まれている。
特徴のありすぎる現在地から辿ると、通路の幅までが記憶の通りだ。ご丁寧なことに入り口まで赤線が引かれているのを見て無性に腹が立った。
「お前、さっきは地図ないって! だからこんなところまで来たのに」
「誤魔化したけどー、ないとは言ってないと思ってみたり。
ホラ、やっぱ嘘はいけないし?」
「盗まれたんじゃなかったの?」
「写しを作っておくのは常識かなー」
「……なんで黙ってたの」
自然と口調がキツくなる。ジュリアは年齢不詳の男を睨みつけて問いを重ねたが、返ってきたのは軽薄な笑顔と声だった。
「だって、せっかく偶然にA級ハンター見つけたんだから。
ホントは肉体派の人がよかったんだけど、これはもう、うやむやのうちに無償で手伝ってもらうしかなうわわわぶひゃっ!」
「最低っ、お前サイテーだ!」
自分でも意外なくらい綺麗な軌道を描いた回し蹴りが、クラークの背負い袋に吸い込まれた。バランスを崩し転倒して背負い袋の下敷きになって変な声で鳴いたそれがもがくのを無視して、ジュリアは――
「…………はぁ」
――目の前に口をあける闇と地図を、見比べた。
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
--------------------------------------------------------------------------
「やっと最下層だ!」
崩れかけた階段は見かけほど崩れていないらしい。そこを降りるクラークの足取りはひどく不安定に見えたが、階段そのものはびくともしなかった。
勝手に転倒しかけた彼が悲鳴だか奇声だかを上げた。
擬音にすらできない声がどこまでもどこまでも暗闇に響いていく。見えるはずのないそれを見送るように闇の先を眺めてから、ジュリアは嘆息した。
彼よりはまだ身軽に半ば瓦礫と化した階段を越す。
「意外と運動できる? お姉さん」
「お前ほどのギャグセンスがないだけ」
「あれ、褒められてる。嬉しーなぁ」
言っている方もよくわからない返答に、しかしクラークは何故か満足したらしかった。嫌味に気づいていないだけだとしても本人が幸せなら、それはそれでいいだろう。
何が面白いのかケタケタと笑いながら――背中を向け歩き始めたクラークは、室内用ランプを掲げるように闇に翳して、言った。
「この先から世界の滅びが始まるんだ」
「…………」
物騒な物言いにジュリアは思わず沈黙する。
だが我に返るまでに時間は必要なかった。止まりかけた思考は、何の支障もなく再び動き始める。
「……もう一度、言ってもらえる? 奥に何があるか」
「ことあるごとにチャーハンを作りたくなる呪いのナイフ。」
「もう、なんでもいいけどね……」
そんなものでどうやって世界を滅ぼすことができるのか若干の興味が湧かないでもなかったが、適当に流すことにしておく。
「そしたらお姉さんは下僕にしてあげよう」
「いらない。ってか本気で実行する気なの世界征服?」
「世界征服できそうなものを手に入れたら、とりあえずやるだけやってみないと損だと思うだに」
「……あー、ちょっとわかる」
得体が知れない上にくだらないナイフ一本では、また話が別だ。
適当に相槌を打ちながら退屈まぎれの会話は進む。
いくつもの角を曲がり、通り過ぎ。
やがて目の前に現れたのは、巨大な両開きの扉だった。
「この奥に宝がある!」
目の前にあるのは、巨大な両開きの扉だった。材質は――分厚い石か。岩をそのまま削りだしたのかも知れない。この上なく重厚であり、閉ざされたそれを人間の力で開くことは不可能だろう。
無感動に扉を見上げ、ジュリアは、とても冷静に現実を指摘した。
「……もう開いてるし」
「それはおかしーってやつだぁよ」
クラークは相変わらず統一できていない言葉遣いで反論しながら、懐から一枚の紙切れを取り出した。ランプの光でそれを見下ろす。そして、彼の表情に混じったのは、わずかな含み笑い――
「この地図だと閉まってるのに」
「地図あるんじゃない!」
強引に奪い取る。それは手書きの地図だった。かなり精巧に書き込まれている。
特徴のありすぎる現在地から辿ると、通路の幅までが記憶の通りだ。ご丁寧なことに入り口まで赤線が引かれているのを見て無性に腹が立った。
「お前、さっきは地図ないって! だからこんなところまで来たのに」
「誤魔化したけどー、ないとは言ってないと思ってみたり。
ホラ、やっぱ嘘はいけないし?」
「盗まれたんじゃなかったの?」
「写しを作っておくのは常識かなー」
「……なんで黙ってたの」
自然と口調がキツくなる。ジュリアは年齢不詳の男を睨みつけて問いを重ねたが、返ってきたのは軽薄な笑顔と声だった。
「だって、せっかく偶然にA級ハンター見つけたんだから。
ホントは肉体派の人がよかったんだけど、これはもう、うやむやのうちに無償で手伝ってもらうしかなうわわわぶひゃっ!」
「最低っ、お前サイテーだ!」
自分でも意外なくらい綺麗な軌道を描いた回し蹴りが、クラークの背負い袋に吸い込まれた。バランスを崩し転倒して背負い袋の下敷きになって変な声で鳴いたそれがもがくのを無視して、ジュリアは――
「…………はぁ」
――目の前に口をあける闇と地図を、見比べた。
PR
トラックバック
トラックバックURL: