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2024/11/06 17:36 |
イェルヒ&ジュリア&リクラゼット14/リクラゼット(スケミ)
キャスト:リクラゼット
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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「あたし、古代文字って大好きですよ先生。」

 その微笑が、まるで癒えない傷跡のように記憶を犯している。

 その教え子はサボり癖がひどく、どうやって国立であるソフィニアの魔術学院に入れたのかがとても不思議だった。
 古代文字魔術学教師である自分と、サボり常習犯の教え子。本来ならあまり接点もなく、お互いに顔見知り程度であっただろう。
 しかし、「古代文字」が私たちを結びつけた。それが良かったことなのか悪かったことなのか。もう、彼女がいなくなった今では知る由もないが。

 それを同じくして自分は自分でなくなってしまったのだから。
 
 人を導く立場でありながら、私はこの好奇心に耐えられなかったのだ。厳重に封印された、ソレは自分のことを待っているのだろう、その時確かにそう思った。
 ソレこそが、自分の真相であると。





 「…………む。」

 状況を確認する。目前に見えるのは地面だ。そして彼は今、洞窟の中で地面に突っ伏していた。
 魔力でイメージした蛇を全身の中をくまなく探索させる。

(右上腕部打撲、左上腕部正常、腹部擦り傷による出血。)

 診断しつつも手探りで周囲をまさぐると慣れ親しんだ皮の感触。愛用している魔道書であろう。そこに描くべき文字の容量が膨大なため、その魔道書の大きさはとても大きい。なんたって二メートルある彼の身長の腰ほどまであるのだから。
 彼はそれを支えに何とか立とうとする。背表紙である底辺に付けられている車輪が、からり、とかすかな音をたてた。今の彼は、この魔道書がないと移動すら困難な身体になってしまった。それが、「代償」だ。

「……………。」

 なんとかして立ち上がった彼は、手早い動きで自らの傷に応急処置を施していく。たとえ負った傷が軽傷であろうとも、はやいうちに処置しておかないと命に関わることもあるのだ。
 右腕を簡易構成の魔術で補強し、腹部の傷を処置しようと下を向く。その視界に彼の持ち物の中で唯一の金属がちらり、と鈍く光る。護符とともに首から下げられた金属のプレート。そのプレートには彼のギルドランクと名前が記述されていた。発行日は今から二年前になっている。

 彼の名前はリクラゼット=フォルセス。ギルドに所属する「記術使い」、もしくは「ルーンユーザー」と呼ばれる魔術士である。
 「記術使い」とはその字の如く、「記術使い」、記述した文字や図形を媒体に発動する系統の魔術を好んで使う者のことをいう。一言に「記術」といっても様々な種類がある。それは魔方陣や呪符や護符然り。
 そして、古代文字もこの「記術使い」に分類されている。リクラゼットは、その古代文字を求める偏執的な探求者だ。あまりのそののめりこみっぷりに陰では「ルーンフリーカー」とも呼ばれている。
 古代文字、それは遺産。
 文字自体が強大な魔力を持ち、その文字を記すだけで効力を発揮するという魔術。本来魔術を行使する際、魔術を行うための構成・詠唱は使用時にのみ魔力を帯びるという説がある。しかし、古に作られたその文字は常に自身の持つ構成・詠唱に魔力を帯びさせているらしい。つまりは、その文字が消えないかぎり半永久的に魔術は継続するのだ。
 この魔術の特徴は使用者の魔力に左右されずに力を行使することができる点である。
 ただし、その文字の魔力の影響のせいか記述して記録するのはある特定の方法を用いる以外は不可能。故に主に口述継承が使用されてきた。
 しかし、古代文字の書き方はあまりにも複雑でその結果、正確に口述されなかった古代文字は失われていく。
 現在まで無事に口承で伝えられてきた古代文字は数えるほどしかなく、新たに古代文字を発見する術は古代遺産等から発掘される古代文字が記された「ルーンストーン」と呼ばれるものしかないのが現状だ。

 処置を終えた彼は、自らに怪我を負わせた凶器を確認すべく足元を見る。
 彼の感覚が確かならば何かが唐突に足に絡み付いてきたような気がしたのだが……。
 魔術で強化した目が、暗闇をものともせず足に絡みつく物体を認知する。

「……ロープ。」

 そう、それは何の変哲もないただのロープだった。
 足を躓かせるためだろうかロープは左右の壁に縫い付けられている。単純な罠である。暗闇であることを利用した単純な罠。無論、ランプや魔術などの明かりがある場合はただの障害物である。
 無論、リクラゼットの目は魔術により暗闇をものともしない。しかしながら彼は単純なトラップにひっかかってしまった。
 それは何故か。
 それは

「ぬ。」

 再び歩みを再開しようとした彼の身体がゆっくりと傾く。あまりにも軽いその身体は風の抵抗があるのかないのか、ゆっくりゆっくりと落ちていく。
 そう、彼はまた同じ罠にかかったのだ。ちなみに本日三回目である。

 どんくさい。
 それが彼という人物をあらわす形容詞の一つだ。





 あれはそう。
 学院を出て行くことになる事件から何ヶ月か前のことであろうか。
 学院によって摂取され、見捨てられたこの遺跡……バジオの遺跡に関する話が授業で出た時だ。
 私は私的な研究を積み重ねることにより、バジオの遺跡がある位置に古代の遺跡が存在したという結論を出した。それも未だ古代文字が生活の中で当たり前のように使われていた時代の遺跡だ。
 勿論、バジオの遺跡がそれと言っているわけではない。バジオの遺跡の建築様式は古代文字が存在する時代ものではなく、バジオの遺跡自体にはもう何もないだろう。
 しかし、だ。古代の都市や遺跡には遥か地下にも存在するという記録もある。
ということはバジオの更に地下に古代遺跡が存在するのではないのだろうか。
 そのことを学院側に持ち寄ってみたがめぼしい反応はなかった。それもそうだ。何の後ろ盾もない、ただ古代文字に詳しいだけの一教師が「バジオの遺跡に更に遺跡がある。」などといっても何の説得力もないだろう。
 それに、もう何もないがバジオが貴重な遺跡であることは変わりない。リスクは背負いたくないだろう。
 
 そんなことはわかっている。
 わかっているのに去来する悔しさ、寂しさ。

 そんな気持ちでいたからだろうか。私は授業中に柄でもなく熱っぽく語ってしまった。


 「あそこには、可能性がある。」


 そう、確かに言ったんだ。
 誰もが「そんなわけない。」とでも言いたそうな目を向ける中、なんとも不思議な視線を向ける生徒がいた。
 まるで値踏みするような、見定めるような鋭い視線を。いや、あれは問いかけだったのだろうか。

 何故今更そんなことを思い出すのか、まったくもって不可解だった。

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2007/02/10 16:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●もやしーず

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