キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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何をもってして「正しい選択」かを言い切ることができるのかはわからない。
どんな選択をしても、そこには後悔と確信が絶対に存在し、選択されなかった道には期待と絶望を含んでいる無数の可能性がある。
そうと分かっていてしても。今、これだけは分かる。
これは間違った……しかも最低最悪の選択だった。
あの後、そのまま帰ろうかとも思った。
が、そうもいかなかった。
そもそもの目的は、特待生の資格のためだ。
そして、その為の「人格優秀の定義」のボランティア。
学院でのイェルヒの立場は、実は肩身の狭いものだった。
魔術学院は、「広く優秀人材を募る」という言葉を掲げているが、そこは人の集まり。個人個人の偏見は拭えない。そして闘争が、そこにはある。一般的に外れるものは、弾かれやすい。
エルフ種族。
理由はそれだけで十分だった。
入学試験に種族欄がなかったからこそ、特待の枠を勝ち取れた。が、それを快く思わない人はいる。それは、立場の上下を問わずに。
一度引き受けたボランティアをキャンセルする。重要書類を紛失する。このような失態は絶対にしてはいけない。
特に、今回は「人格優秀の定義」の強化を図っている。ここでのミスは、絶対に犯してはならない。
こうしてイェルヒは、この遺跡、パジオに踏み出した。
それでも、ルーク達と接触しようとは思わなかった。
興奮状態にあり、思い込みやすい状況にある彼にいくら説得しても、疑われるだけであろう。
見守るのだ。
見極めるのだ。
終わりを。
明かりをつけず、イェルヒはルーク達の後を付けていた。
視界は、おぼろげながら、見える。……研究者の言うことでは、光ではなく、熱を感知しているらしいのだが。
そして、もう一つ。イェルヒには視界を補助する能力があった。
生命の精霊を頼りに。
感情に取り巻く精霊を頼りに。
ルーク達の進路を感じ取る。
そう、見えるのだ。「精霊」と呼ばれる存在が。先ほどの「熱を感知する能力」も、どうやらここから起因しているらしい。
イェルヒには……古い風習を守るエルフ族には、その、自然を感知する能力が備わっている。聞くところによると、その習俗を捨てたエルフ族には、その能力が消えてしまっているらしいが。イェルヒは、前者の出身だった。
通常、その能力を持つものは、自然と交わることによって、その力を成長させる。
だが、イェルヒにはその道を選ぶことができなかった。
その存在が見えるのにもかかわらず、イェルヒはその存在との交流ができなかった。
精霊に嫌われている。
精霊たちのその振る舞いはそのようにしか見えないものだった。
見えるだけに、それは……
いや、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
イェルヒは、その感情を理性という名のナイフで切り捨てる。
今、自分が選んでいる道は、いわば逃げ道だ。
系統が理論付けられて構成されている魔術に。
後悔はある。未練もある。だが、それと同等に、確信と充足がある。
どんな道でもそれはある。
では、この、最低最悪に思えるこの道にも、それらはあるのだろうか?
この、見捨てられた遺跡に、それらはあるのだろうか?
……ここに、希望を抱いている者は、その自身が思い描いたものを手に入れることができるのだろうか?
そう、幻想に限りなく近い夢想を思い描き、イェルヒは、記憶の片隅で、とある人物を思い出した。
この場所に希望を抱いている者。
それは、学院にも、確か一人いた。
二年ほど前のことだ。このパジオに、情熱を抱いている古代言語学の講師がいた。
あそこには、可能性がある。
彼はそう言っていた。
その彼は、もう、学院にはいない。
何の理由かは知らないが、彼は学院から消えた。
その講師の名は、確か……。
場所:ソフィニア近郊 -遺跡パジオ、内部
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何をもってして「正しい選択」かを言い切ることができるのかはわからない。
どんな選択をしても、そこには後悔と確信が絶対に存在し、選択されなかった道には期待と絶望を含んでいる無数の可能性がある。
そうと分かっていてしても。今、これだけは分かる。
これは間違った……しかも最低最悪の選択だった。
あの後、そのまま帰ろうかとも思った。
が、そうもいかなかった。
そもそもの目的は、特待生の資格のためだ。
そして、その為の「人格優秀の定義」のボランティア。
学院でのイェルヒの立場は、実は肩身の狭いものだった。
魔術学院は、「広く優秀人材を募る」という言葉を掲げているが、そこは人の集まり。個人個人の偏見は拭えない。そして闘争が、そこにはある。一般的に外れるものは、弾かれやすい。
エルフ種族。
理由はそれだけで十分だった。
入学試験に種族欄がなかったからこそ、特待の枠を勝ち取れた。が、それを快く思わない人はいる。それは、立場の上下を問わずに。
一度引き受けたボランティアをキャンセルする。重要書類を紛失する。このような失態は絶対にしてはいけない。
特に、今回は「人格優秀の定義」の強化を図っている。ここでのミスは、絶対に犯してはならない。
こうしてイェルヒは、この遺跡、パジオに踏み出した。
それでも、ルーク達と接触しようとは思わなかった。
興奮状態にあり、思い込みやすい状況にある彼にいくら説得しても、疑われるだけであろう。
見守るのだ。
見極めるのだ。
終わりを。
明かりをつけず、イェルヒはルーク達の後を付けていた。
視界は、おぼろげながら、見える。……研究者の言うことでは、光ではなく、熱を感知しているらしいのだが。
そして、もう一つ。イェルヒには視界を補助する能力があった。
生命の精霊を頼りに。
感情に取り巻く精霊を頼りに。
ルーク達の進路を感じ取る。
そう、見えるのだ。「精霊」と呼ばれる存在が。先ほどの「熱を感知する能力」も、どうやらここから起因しているらしい。
イェルヒには……古い風習を守るエルフ族には、その、自然を感知する能力が備わっている。聞くところによると、その習俗を捨てたエルフ族には、その能力が消えてしまっているらしいが。イェルヒは、前者の出身だった。
通常、その能力を持つものは、自然と交わることによって、その力を成長させる。
だが、イェルヒにはその道を選ぶことができなかった。
その存在が見えるのにもかかわらず、イェルヒはその存在との交流ができなかった。
精霊に嫌われている。
精霊たちのその振る舞いはそのようにしか見えないものだった。
見えるだけに、それは……
いや、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
イェルヒは、その感情を理性という名のナイフで切り捨てる。
今、自分が選んでいる道は、いわば逃げ道だ。
系統が理論付けられて構成されている魔術に。
後悔はある。未練もある。だが、それと同等に、確信と充足がある。
どんな道でもそれはある。
では、この、最低最悪に思えるこの道にも、それらはあるのだろうか?
この、見捨てられた遺跡に、それらはあるのだろうか?
……ここに、希望を抱いている者は、その自身が思い描いたものを手に入れることができるのだろうか?
そう、幻想に限りなく近い夢想を思い描き、イェルヒは、記憶の片隅で、とある人物を思い出した。
この場所に希望を抱いている者。
それは、学院にも、確か一人いた。
二年ほど前のことだ。このパジオに、情熱を抱いている古代言語学の講師がいた。
あそこには、可能性がある。
彼はそう言っていた。
その彼は、もう、学院にはいない。
何の理由かは知らないが、彼は学院から消えた。
その講師の名は、確か……。
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