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PC イートン・ニーツ・八重
場所 メイルーン市長邸
NPC ナスビ・市長・クリエッド
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部屋は静かな雰囲気に満ちていた。
ごおおと部屋の外で風が鳴る。外には強い風が吹いている。
ナスビ、もとい、<ヒエログリフ77>の話を聞くために、市長とクリエッドには少しの間席を外してもらった。二人は、半分うわの空でそれを承諾してくれた。二人とも、今は『野犬』が分離した喜びで、頭の中はお花畑状態だ。
「これで邪魔するものは誰もいない。さあ、話してもらおうか」
八重がナスビの瞳をじっと見据え、話を促す。ナスビは…、じっと何かを思い出すように、静かに目を閉じた。まるで、この場の雰囲気を乱してはならないかのように。
『我輩は…、レン様によって造られた融合生物、<ヒエログリフ>だ。77と
いうのは、我輩につけられた番号。我輩たちは全て、番号で呼ばれていた』
「まるで、囚人か実験動物扱いじゃないですか…」
イートンの言葉に、ナスビは赤い目で冷静な視線を返す。
『レン様には我輩たちは所詮、実験動物にしか見えていなかったのだろうな。レン様は人間と魔族、魔獣を融合させて幾度も実験を繰り返した。我輩はその実験の中でも数少ない成功例だ。満月の晩になっても暴走しない。人に戻ったときは、並みの人間をはるかに上回る力を出すことが出来る』
「魔族や魔獣を人間と融合させる実験を繰り返すなど…、そのドクターレンというヤツは相当狂ってるな」
ニーツが静かに目を閉じたまま言う。魔族の彼には、魔族・魔獣との融合という話には人一倍、思うところがあるのだろう。
「ところで私も、そのドクターレンによって造り出された融合生物なのだろう」
八重が尋ねる。ナスビは静かに『ああ』と答えた。
「ならば何故私は満月の晩、暴走するんだ?そもそも<ルナシー>とは何だ?さっきから聞いていると<ヒエログリフ>の話ばかりだ。私はずっと」
八重は目の奥に訴えるような視線を宿してナスビを見つめた。
「私は<ヒエログリフ>との融合によって<ルナシー>から解放されると思っていた。そのような伝承をある村で発見したからだ。その伝承はウソなのか?<ルナシー>とは<ヒエログリフ>の一体何なんだ?」
『ルナシーは、ヒエログリフの影だ』
視線を落としてナスビが言う。
「影?」
『そう、ヒエログリフが魔力の暴走を起こさない訳。それはレン様が、人間と魔獣を一つに融合させ、さらにそれを二つに分離することによって、魔力の暴走を起こすことのない、魔獣の体の強さのみを受けついだ人間を作り出したからだ。融合生物を、長所のみの塊と、その残りカスに分けて。その長所のみを受け継いだ方は<ヒエログリフ>と呼ばれた、そしてその残りカスは』
「…‥<ルナシー>、か」
八重の自嘲するようなセリフに、イートンが絶句し、ニーツが厳しい眼差しになった。
『お前は幸いだ』
ナスビが八重を見て言う。
『普通ルナシーは人間としての原型も留めていない。お前がルナシーであるにもかかわらずヒトの形を留めていられるのは奇跡に近いことなのだぞ。我輩は…‥我輩は、一度、自分のルナシーを見たことがある』
ナスビの瞳がいつになくぽっかりと虚ろになった。
『それはもう、『ヒト』でも『魔族』でもなかった…‥。紫色の皮膚をした…‥哀れで醜い生き物だった。我輩は…‥、我輩のルナシーのあの醜い姿を、忘れたことなど一度もない』
沈黙がしばらく続いた。風の鳴る音が聞こえる。
「…私のヒエログリフはまだ存在しているのだろうか」
八重がぽつりと呟いた。
「ドクターレンが、私やナスビ…お前を作り出したのは千年も前だ。しかし、私は何故か、ここに存在している。お前も生きている。それなら、私のヒエログリフも…、まだこの世界の何処かで生きているのかもしれない」
『お前が先ほど言った伝承の話』
ナスビが言う。
『ヒエログリフとの融合によってルナシーから解放される…‥。あながち、嘘ではないかもしれないな』
「本当か!」
『ああ、ヒエログリフというのは、お前の欠けたピースのような存在だ。お前たちがまた融合し、それぞれ本来のあるべき姿…‥、魔族と人間の姿に分裂することが出来れば、あるいは、お前は元の人間の姿に戻れるかもしれない』
人間に戻れる…‥、それは八重が四十年間生きてきて、生まれて初めて聞いた、希望ある答えだった。八重は放心して、かたん、と床に膝をついた。
戻れる…。人間に、戻れる…‥。
「しかし、そんな<融合>のできる人間など、この世に滅多にいないんじゃないのか」
ニーツのつっこみにナスビは首を横に振った。
『ああ…‥、たぶんそんなことが出来るのは後にも先にもレン様ただ一人だけであろうな』
八重はため息をついた。
「それでは、無理なのだな…‥。ドクターレンは、千年も昔にとっくに死んでしまっている…」
『レン様なら、あるいは…‥まだ生きておられるかもしれない』
ナスビの言葉に全員がナスビを直視した。
『生きておられれば、レン様はジュベッカに囚われておられるはずだ』
PC イートン・ニーツ・八重
場所 メイルーン市長邸
NPC ナスビ・市長・クリエッド
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部屋は静かな雰囲気に満ちていた。
ごおおと部屋の外で風が鳴る。外には強い風が吹いている。
ナスビ、もとい、<ヒエログリフ77>の話を聞くために、市長とクリエッドには少しの間席を外してもらった。二人は、半分うわの空でそれを承諾してくれた。二人とも、今は『野犬』が分離した喜びで、頭の中はお花畑状態だ。
「これで邪魔するものは誰もいない。さあ、話してもらおうか」
八重がナスビの瞳をじっと見据え、話を促す。ナスビは…、じっと何かを思い出すように、静かに目を閉じた。まるで、この場の雰囲気を乱してはならないかのように。
『我輩は…、レン様によって造られた融合生物、<ヒエログリフ>だ。77と
いうのは、我輩につけられた番号。我輩たちは全て、番号で呼ばれていた』
「まるで、囚人か実験動物扱いじゃないですか…」
イートンの言葉に、ナスビは赤い目で冷静な視線を返す。
『レン様には我輩たちは所詮、実験動物にしか見えていなかったのだろうな。レン様は人間と魔族、魔獣を融合させて幾度も実験を繰り返した。我輩はその実験の中でも数少ない成功例だ。満月の晩になっても暴走しない。人に戻ったときは、並みの人間をはるかに上回る力を出すことが出来る』
「魔族や魔獣を人間と融合させる実験を繰り返すなど…、そのドクターレンというヤツは相当狂ってるな」
ニーツが静かに目を閉じたまま言う。魔族の彼には、魔族・魔獣との融合という話には人一倍、思うところがあるのだろう。
「ところで私も、そのドクターレンによって造り出された融合生物なのだろう」
八重が尋ねる。ナスビは静かに『ああ』と答えた。
「ならば何故私は満月の晩、暴走するんだ?そもそも<ルナシー>とは何だ?さっきから聞いていると<ヒエログリフ>の話ばかりだ。私はずっと」
八重は目の奥に訴えるような視線を宿してナスビを見つめた。
「私は<ヒエログリフ>との融合によって<ルナシー>から解放されると思っていた。そのような伝承をある村で発見したからだ。その伝承はウソなのか?<ルナシー>とは<ヒエログリフ>の一体何なんだ?」
『ルナシーは、ヒエログリフの影だ』
視線を落としてナスビが言う。
「影?」
『そう、ヒエログリフが魔力の暴走を起こさない訳。それはレン様が、人間と魔獣を一つに融合させ、さらにそれを二つに分離することによって、魔力の暴走を起こすことのない、魔獣の体の強さのみを受けついだ人間を作り出したからだ。融合生物を、長所のみの塊と、その残りカスに分けて。その長所のみを受け継いだ方は<ヒエログリフ>と呼ばれた、そしてその残りカスは』
「…‥<ルナシー>、か」
八重の自嘲するようなセリフに、イートンが絶句し、ニーツが厳しい眼差しになった。
『お前は幸いだ』
ナスビが八重を見て言う。
『普通ルナシーは人間としての原型も留めていない。お前がルナシーであるにもかかわらずヒトの形を留めていられるのは奇跡に近いことなのだぞ。我輩は…‥我輩は、一度、自分のルナシーを見たことがある』
ナスビの瞳がいつになくぽっかりと虚ろになった。
『それはもう、『ヒト』でも『魔族』でもなかった…‥。紫色の皮膚をした…‥哀れで醜い生き物だった。我輩は…‥、我輩のルナシーのあの醜い姿を、忘れたことなど一度もない』
沈黙がしばらく続いた。風の鳴る音が聞こえる。
「…私のヒエログリフはまだ存在しているのだろうか」
八重がぽつりと呟いた。
「ドクターレンが、私やナスビ…お前を作り出したのは千年も前だ。しかし、私は何故か、ここに存在している。お前も生きている。それなら、私のヒエログリフも…、まだこの世界の何処かで生きているのかもしれない」
『お前が先ほど言った伝承の話』
ナスビが言う。
『ヒエログリフとの融合によってルナシーから解放される…‥。あながち、嘘ではないかもしれないな』
「本当か!」
『ああ、ヒエログリフというのは、お前の欠けたピースのような存在だ。お前たちがまた融合し、それぞれ本来のあるべき姿…‥、魔族と人間の姿に分裂することが出来れば、あるいは、お前は元の人間の姿に戻れるかもしれない』
人間に戻れる…‥、それは八重が四十年間生きてきて、生まれて初めて聞いた、希望ある答えだった。八重は放心して、かたん、と床に膝をついた。
戻れる…。人間に、戻れる…‥。
「しかし、そんな<融合>のできる人間など、この世に滅多にいないんじゃないのか」
ニーツのつっこみにナスビは首を横に振った。
『ああ…‥、たぶんそんなことが出来るのは後にも先にもレン様ただ一人だけであろうな』
八重はため息をついた。
「それでは、無理なのだな…‥。ドクターレンは、千年も昔にとっくに死んでしまっている…」
『レン様なら、あるいは…‥まだ生きておられるかもしれない』
ナスビの言葉に全員がナスビを直視した。
『生きておられれば、レン様はジュベッカに囚われておられるはずだ』
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