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PC イートン・ニーツ・八重
場所 ヴェルン湖畔・メイルーン市長邸の一室
NPC ワトスン市長・ナスビ・クリエッド
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気がついたら一人だった。
朝日が金色に世界を照らし、小刻みに震えるその小さな身体に、一筋の陽の光が当たったとき、彼の変身は解けた。
素っ裸の彼がふと横を見ると、そこには洋服一そろいがきちんと折りたたまれて置いてあった。目の前には何かが丸く焼き焦げた跡。その大きさ、そして
自分がいる場所から推測して、ここはイートンが魔方陣をスタンバイしていた地点だということが解った。
ようやく彼にも理解できた。どうやら彼は…イートンやニーツたち一行に、置き去りにされたらしい。
「とりあえず…」
彼はいつものように、…その行為は、もう習慣のようになってしまったが…ふうとため息をつくと、空を仰いだ。空は茜色から青に変わろうとしている。
「服を、着るかね…‥」
(寒いしな…‥)
そうして八重は一人、もぞもぞと着替えを始めた…‥。
***********************************
「今日という日は、素晴らしい日だ…‥。人生最高の日といってもいいかもしれない」
そう言って市長は、まるで屋敷の天井をこの腕に抱きしめようとでもするかのように、「ああ…、なんて素晴らしいんだ…」ともう一度高らかに叫んで大きく腕を広げた。
「ああ、私が召喚術の失敗に巻き込まれたのが十歳の頃…‥、長かった…、私の苦しみ…‥、しかし、それももう過ぎ去ったことだ、ああ、イートン君!」
市長はくるっと真後ろにいたイートンの方に振り向いた。その頬は薔薇色に上気している。八重とニーツの隣に、はさまれるように立っていたイートンは、思わず、びくっと驚く。その気迫に押されて一歩、二歩、たじたじと後に下がるイートンの手を、市長はがっちりと両手で捕らえた。
「ありがとう、ありがとう、イートン君!!私がもう満月に怯えなくてすむのは君たちの努力のお陰だ!!」
「し、市長、手が痛い、痛いです!」
「ありがとう、ありがとう!イートン君!!君たちには本当に、何とお礼を言えばいいのか…‥」
「と、とりあえず、手が痛いです!手を離して下さい!市長!」
「ああ…、おっと、すまなかったね、イートン君」
その言葉に、ようやく市長は骨も折れんばかりに力強く握り締めていた手を離した。「ったぁ…‥」と、イートンは離された手をぶんぶんと振る。その手は市長の強烈な握力で、少し赤くなっていた。
「ああ、本当に君たちには何とお礼を言っていいか…‥、お礼の言葉も見つからない程だ…。ありがとう、イートン君、ニーツ君、八重さん。それにナスビちゃんも」
部屋の隅では、クリエッドが白いハンカチでそっと目頭を拭いている。市長に礼を言われ、イートンは「いえ…、そんな…」と少し赤くなってうつむき、ニーツはフン、と鼻を鳴らし、八重は目を少し細め、薄く微笑んだ。
(よかったな、市長)
八重は薄い微笑を浮かべて思う。
(月の呪いから解放されて…)
『我輩を「ちゃん」づけするでない!』
ただ一匹、三人と同じく、その部屋にいたナスビがぷりぷり怒る。
『大体、我輩の名は本来<ナスビ>などというものではないわ!』
「はいはい、<ヴェルンの守護霊>でしょ?」
笑いながら言うイートンを、ナスビはそのルビー色の瞳できっと睨んだ。
『違う…‥、それはレン様が我輩に与えてくださった使命だ。我輩の本当の名は…』
その言葉に、一瞬、その場の空気の流れが止まり、視線がナスビに集中した。
ナスビは言う。
『我輩の名…、我輩は…‥、<ヒエログリフ77>』
どくん
ヒエログリフ。その言葉に八重の心臓が反応した。
(ヒエログリフ…‥、何故…‥?)
八重はぎゅっと服の…、心臓の位置を握り締めていた。黄土色のスーツが皺になる。
(解らない…、この気持ちは何だ…?)
意識というものをコーヒーのようにスプーンでぐるぐるとかき回されたような気持ちだった。…憎い?…懐かしい?…愛しい?どれも違う。
「ヒエログリフ…?そうなると、お前、<ヒエログリフ>なのか?」
ニーツがナスビに尋ねる。そして、
「おい、八重、お前がルナシーの情報に飛びつかないなんて珍しいな。…おい、どうした?顔色が悪いぞ」
「え…‥?ちょっと、八重さん!」
ヒエログリフ、という言葉に唖然としていたイートンは、はっとして八重の身体を揺さぶった。
「八重さん…‥、ちょっと…、どうしたんですか?八重さん!」
「あ…ああ…‥、大丈夫だ…」
イートンの顔を見て八重は弱々しく笑った。
「大丈夫だよ」
彼が弱さを見せたのはここまでだった。イートンから目をそらした八重は、次の瞬間からはその鳶色の瞳をナスビに向けた。その瞳はすっと細く、冷徹なものを奥に秘めた決意のある瞳だった。
「ナスビ…‥、いや、<ヒエログリフ77>…‥。お前の知っている全てを」
ナスビと八重の視線がまっすぐに合った。
「私に話して欲しい」
PC イートン・ニーツ・八重
場所 ヴェルン湖畔・メイルーン市長邸の一室
NPC ワトスン市長・ナスビ・クリエッド
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気がついたら一人だった。
朝日が金色に世界を照らし、小刻みに震えるその小さな身体に、一筋の陽の光が当たったとき、彼の変身は解けた。
素っ裸の彼がふと横を見ると、そこには洋服一そろいがきちんと折りたたまれて置いてあった。目の前には何かが丸く焼き焦げた跡。その大きさ、そして
自分がいる場所から推測して、ここはイートンが魔方陣をスタンバイしていた地点だということが解った。
ようやく彼にも理解できた。どうやら彼は…イートンやニーツたち一行に、置き去りにされたらしい。
「とりあえず…」
彼はいつものように、…その行為は、もう習慣のようになってしまったが…ふうとため息をつくと、空を仰いだ。空は茜色から青に変わろうとしている。
「服を、着るかね…‥」
(寒いしな…‥)
そうして八重は一人、もぞもぞと着替えを始めた…‥。
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「今日という日は、素晴らしい日だ…‥。人生最高の日といってもいいかもしれない」
そう言って市長は、まるで屋敷の天井をこの腕に抱きしめようとでもするかのように、「ああ…、なんて素晴らしいんだ…」ともう一度高らかに叫んで大きく腕を広げた。
「ああ、私が召喚術の失敗に巻き込まれたのが十歳の頃…‥、長かった…、私の苦しみ…‥、しかし、それももう過ぎ去ったことだ、ああ、イートン君!」
市長はくるっと真後ろにいたイートンの方に振り向いた。その頬は薔薇色に上気している。八重とニーツの隣に、はさまれるように立っていたイートンは、思わず、びくっと驚く。その気迫に押されて一歩、二歩、たじたじと後に下がるイートンの手を、市長はがっちりと両手で捕らえた。
「ありがとう、ありがとう、イートン君!!私がもう満月に怯えなくてすむのは君たちの努力のお陰だ!!」
「し、市長、手が痛い、痛いです!」
「ありがとう、ありがとう!イートン君!!君たちには本当に、何とお礼を言えばいいのか…‥」
「と、とりあえず、手が痛いです!手を離して下さい!市長!」
「ああ…、おっと、すまなかったね、イートン君」
その言葉に、ようやく市長は骨も折れんばかりに力強く握り締めていた手を離した。「ったぁ…‥」と、イートンは離された手をぶんぶんと振る。その手は市長の強烈な握力で、少し赤くなっていた。
「ああ、本当に君たちには何とお礼を言っていいか…‥、お礼の言葉も見つからない程だ…。ありがとう、イートン君、ニーツ君、八重さん。それにナスビちゃんも」
部屋の隅では、クリエッドが白いハンカチでそっと目頭を拭いている。市長に礼を言われ、イートンは「いえ…、そんな…」と少し赤くなってうつむき、ニーツはフン、と鼻を鳴らし、八重は目を少し細め、薄く微笑んだ。
(よかったな、市長)
八重は薄い微笑を浮かべて思う。
(月の呪いから解放されて…)
『我輩を「ちゃん」づけするでない!』
ただ一匹、三人と同じく、その部屋にいたナスビがぷりぷり怒る。
『大体、我輩の名は本来<ナスビ>などというものではないわ!』
「はいはい、<ヴェルンの守護霊>でしょ?」
笑いながら言うイートンを、ナスビはそのルビー色の瞳できっと睨んだ。
『違う…‥、それはレン様が我輩に与えてくださった使命だ。我輩の本当の名は…』
その言葉に、一瞬、その場の空気の流れが止まり、視線がナスビに集中した。
ナスビは言う。
『我輩の名…、我輩は…‥、<ヒエログリフ77>』
どくん
ヒエログリフ。その言葉に八重の心臓が反応した。
(ヒエログリフ…‥、何故…‥?)
八重はぎゅっと服の…、心臓の位置を握り締めていた。黄土色のスーツが皺になる。
(解らない…、この気持ちは何だ…?)
意識というものをコーヒーのようにスプーンでぐるぐるとかき回されたような気持ちだった。…憎い?…懐かしい?…愛しい?どれも違う。
「ヒエログリフ…?そうなると、お前、<ヒエログリフ>なのか?」
ニーツがナスビに尋ねる。そして、
「おい、八重、お前がルナシーの情報に飛びつかないなんて珍しいな。…おい、どうした?顔色が悪いぞ」
「え…‥?ちょっと、八重さん!」
ヒエログリフ、という言葉に唖然としていたイートンは、はっとして八重の身体を揺さぶった。
「八重さん…‥、ちょっと…、どうしたんですか?八重さん!」
「あ…ああ…‥、大丈夫だ…」
イートンの顔を見て八重は弱々しく笑った。
「大丈夫だよ」
彼が弱さを見せたのはここまでだった。イートンから目をそらした八重は、次の瞬間からはその鳶色の瞳をナスビに向けた。その瞳はすっと細く、冷徹なものを奥に秘めた決意のある瞳だった。
「ナスビ…‥、いや、<ヒエログリフ77>…‥。お前の知っている全てを」
ナスビと八重の視線がまっすぐに合った。
「私に話して欲しい」
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