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PC ニーツ イートン 八重(ウサギ)
場所 ヴェルン湖
NPC 市長(ジェームス)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
--------------------------------------------------------
紅い月の下で、二つの影が優雅に舞う。
だが其処に絡みつくのは、死の香り。
一つステップを踏み間違えば、永遠に命が奪われる、ギリギリの攻防。
しかし、そんな中でも、ニーツの口元には笑みが浮かんでいた。
全身に駆け抜ける昂揚感。
月の魔力に、爛と瞳を輝かせ、相手を見据える。
相手を見ると、ベル=リアンも同様に、瞳を爛々と輝かせて、こちらを見返していた。
だがその奥には、狂ったような憎悪が見え隠れする。
月の魔力に負の心を増幅され、精神のバランスを崩されているのが、一目で見て取れ た。
(哀れだな…)
だが、同情する余地も無ければ、義理も無い。あるのは、不快感のみ。
「あああああぁ!!」
ベル=リアンが、何度目かの炎を放つ。
子供らしい、単調な攻撃。ニーツは、今度は避ける事をせず、炎を構成していた魔力 を自らの腕に引きつけ、纏わり付かせた。
ニーツを傷つけようと暴れる炎に、己の魔力を流し込み、支配する。その状態で、ニーツは一瞬でベル=リアンの真横へ移動する。
「―――――!!」
ベル=リアンが振り向きざまに撃った赤い玉は、虚しく空を切った。その時には既にニーツは地面にふわりと降り立っている。
ニーツの狙いは初めからベル=リアンではなく…
―ゴゥ―
ニーツ自身の魔力を流し込まれた炎が、一瞬で膨れ上がる。それは、地上にいたベル =リアンの捨て駒、ユサ達を呑み込み、燃え上がった。
『ガ…ガァァァ…!!』
獣のような断末魔の叫びが、あちらこちらから上がる。それはまるで、人間へ戻りたいという、心からの叫びと嘆きに聞こえた。
同情などしない。哀れにも思わない。自らの行いが招いた事だ。
だがせめて、消し去ってしまうのが彼らの為だと、ニーツは思ったのだ。
姿も留めず、ただ、人の記憶には人間として、残るように。
一瞬にして焼き払われたユサ達の姿が、形も残さずに消えると、その存在を消し去った炎もまた、消え失せた。
「さて、これで一対一だな」
ニーツが、上空のベル=リアンを見上げて言った。リアンの瞳は、かなり危険な色に染まっている。
「貴様…!よくも!」
お気に入りの玩具を奪われた子供のように、ベル=リアンはニーツを睨みつける。
「返せ!返せ!!」
だが一瞬後、その狂気に染まった顔に、勝ち誇ったような笑みが張り付いた。ぞくりと背筋に寒気が走り、ニーツは身を翻す。
しかしわずかに遅れ、誰かがニーツを背後から羽交い絞めにした。
「…!まだ残っていたか!」
生気も気配も感じさせないゾンビの一匹が、何時の間にか忍び寄っていたのだ。
強引に、ニーツは抑えられている腕を振り切り、ゾンビを焼き払った。そして体勢を
整える間もなく、咄嗟に魔力障壁を張る。至近距離に迫っていたベル=リアンから放たれた魔力がそれにぶち当たり、弾け、反動でニーツとベル=リアンは後方に吹き飛ばされた。
「ち…大した連携攻撃だな」
「くそう!」
必殺の攻撃をかわされ、ベル=リアンが歯軋りする。
ニーツはざっと戦場を一瞥した。もう、ゾンビの生き残りはいない。本当に、一対一。
ベル=リアンがギリッとニーツを睨む。赤い魔力の光が、その全身から右手に凝縮し、ニーツの方へ駆け出した。が、一歩進んだところで、その動きが止まる。
「あ…あぁ!?」
ベル=リアンが、信じられない物を見るように、自らの足へ視線を移した。其処には、何時の間にか地面から生えていた一本の蔦が絡み付いていた。
いや、絡みつくだけではない。その蔦は所々、赤く変色している。よく見れば、蔦の先端が、ベル=リアンの足に喰い込んでいた。
集中力をなくしたベル=リアンの魔力が拡散する。
「未熟者」
ふっと笑みを浮かべて、ニーツは言い捨てた。そう言っている間にも、蔦はベル=リアンの体を這うように、成長していった。
「くぅぅ…」
蔦に身動きを封じられ、集中力すら失われたベル=リアンは、膝をつき、ニーツを見上げる。必死に蔦を振りほどこうとしたが、ニーツの魔力が込められた蔦には何の影響も及ぼさない。
歴然とした魔力の差が、其処にあった。
「直球だけが戦いじゃない。ひとつお利口になっただろう?もっとも…」
ニーツはゆっくりとベル=リアンに近寄った。
その手には魔力が集まり、剣の形をとった。
スッと、ベル=リアンの首筋にそれを当てる。
「お前に未来は無いけどな」
「く…」
「知っているか?ドクター・レンが召喚術で繋いだ場所…何処の魔族達を呼び出して
いたか」
冷ややかな眼差しで語るニーツ。腕は、動かさない。
ベル=リアンの頬に、ザアッと汗が流れた。
「し、知ってるわけないじゃないか」
「…深遠なる闇。苦痛と悲鳴が折り重なる場所。永久の牢獄。死するよりも辛い、絶望の地。
お前も魔族なら、これの意味する場所が解るだろう?」
ベル=リアンの瞳が大きく見開かれる。その顔に浮かんだものは、絶望。
ニーツは、ベル=リアンに顔を寄せた。目の前に、その金の瞳を捉える。
口元には笑み。瞳の奥には、明確な殺意。声に含まれるのは、残忍さ。
果たしてそれは、怒りに起因するものなのか。それとも、本性なのか。
「…ふふ…今ならまだ間に合う。さあ、行こうか」
告げるニーツの言葉に、ベル=リアンの絶叫が重なった。
---------------------------
空間に闇が滲み出している。
魔界へのゲート。
魔界、と一言に言っても、その意味は広い。魔族と言っても様々な個体を指すように。
今この場で繋がっているのは、ドクター・レンが好んで繋いでいた場所。
魔族の中でも、特に残虐で、残酷、犯罪行為を好み、誰にも手がつけられない様な魔族たちが堕とされた場所。
名は特に無い。吹き溜まり、とも呼ばれる。永遠の闇、と呼ぶものもいる。その呼び名は様々だが、其処に行った者は、二度と帰ってこられないとされる場所。
そんな危険な場所故に、召喚術に失敗は許されない。
無論、今行われている儀式にも。
古代文字が燦然と輝き、術者の姿を浮かび上がらせた。
術者が立つ魔方陣の横には魔方陣がもう一つ描かれており、其処に市長が横たえられている。
魔方陣の傍らには、魔力の風に髪を靡かせたナスビの姿。更には、弱体化したウサギが、その横に座り込んでいる。
市長が目覚め暴れるのを警戒していたナスビは、ふと顔をあげた。
「ふむ…」
カサリと叢が揺れ、其処から蔦を巻きつけたベル=リアンを引きずる形で、ニーツが姿を現す。
「遅かったな。間に合ったか。
…そいつは?」
「お土産さ」
にっこりと―本当に、邪気を感じられない程に、可愛らしくにっこりと―ニーツは微笑む。
それが逆に怖くて、ナスビは思わず後ずさった。
「……何かあったのか?」
「いや?特に何も無いが?
ふうん。イートンにしては頑張っているな。もう少しで最終段階じゃないか」
微笑みながら言うニーツに、ナスビはこれまでこんなに恐怖を感じた事があるかと、思わず過去を思い返していた。
「さて、こいつも祭りに入れてもらおうかな…」
そんなナスビに構わず、ふふ…っと笑って、ニーツは気絶したベル=リアンを見下ろした。
PC ニーツ イートン 八重(ウサギ)
場所 ヴェルン湖
NPC 市長(ジェームス)・ナスビ・ベル=リアン・ユサと部下達
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紅い月の下で、二つの影が優雅に舞う。
だが其処に絡みつくのは、死の香り。
一つステップを踏み間違えば、永遠に命が奪われる、ギリギリの攻防。
しかし、そんな中でも、ニーツの口元には笑みが浮かんでいた。
全身に駆け抜ける昂揚感。
月の魔力に、爛と瞳を輝かせ、相手を見据える。
相手を見ると、ベル=リアンも同様に、瞳を爛々と輝かせて、こちらを見返していた。
だがその奥には、狂ったような憎悪が見え隠れする。
月の魔力に負の心を増幅され、精神のバランスを崩されているのが、一目で見て取れ た。
(哀れだな…)
だが、同情する余地も無ければ、義理も無い。あるのは、不快感のみ。
「あああああぁ!!」
ベル=リアンが、何度目かの炎を放つ。
子供らしい、単調な攻撃。ニーツは、今度は避ける事をせず、炎を構成していた魔力 を自らの腕に引きつけ、纏わり付かせた。
ニーツを傷つけようと暴れる炎に、己の魔力を流し込み、支配する。その状態で、ニーツは一瞬でベル=リアンの真横へ移動する。
「―――――!!」
ベル=リアンが振り向きざまに撃った赤い玉は、虚しく空を切った。その時には既にニーツは地面にふわりと降り立っている。
ニーツの狙いは初めからベル=リアンではなく…
―ゴゥ―
ニーツ自身の魔力を流し込まれた炎が、一瞬で膨れ上がる。それは、地上にいたベル =リアンの捨て駒、ユサ達を呑み込み、燃え上がった。
『ガ…ガァァァ…!!』
獣のような断末魔の叫びが、あちらこちらから上がる。それはまるで、人間へ戻りたいという、心からの叫びと嘆きに聞こえた。
同情などしない。哀れにも思わない。自らの行いが招いた事だ。
だがせめて、消し去ってしまうのが彼らの為だと、ニーツは思ったのだ。
姿も留めず、ただ、人の記憶には人間として、残るように。
一瞬にして焼き払われたユサ達の姿が、形も残さずに消えると、その存在を消し去った炎もまた、消え失せた。
「さて、これで一対一だな」
ニーツが、上空のベル=リアンを見上げて言った。リアンの瞳は、かなり危険な色に染まっている。
「貴様…!よくも!」
お気に入りの玩具を奪われた子供のように、ベル=リアンはニーツを睨みつける。
「返せ!返せ!!」
だが一瞬後、その狂気に染まった顔に、勝ち誇ったような笑みが張り付いた。ぞくりと背筋に寒気が走り、ニーツは身を翻す。
しかしわずかに遅れ、誰かがニーツを背後から羽交い絞めにした。
「…!まだ残っていたか!」
生気も気配も感じさせないゾンビの一匹が、何時の間にか忍び寄っていたのだ。
強引に、ニーツは抑えられている腕を振り切り、ゾンビを焼き払った。そして体勢を
整える間もなく、咄嗟に魔力障壁を張る。至近距離に迫っていたベル=リアンから放たれた魔力がそれにぶち当たり、弾け、反動でニーツとベル=リアンは後方に吹き飛ばされた。
「ち…大した連携攻撃だな」
「くそう!」
必殺の攻撃をかわされ、ベル=リアンが歯軋りする。
ニーツはざっと戦場を一瞥した。もう、ゾンビの生き残りはいない。本当に、一対一。
ベル=リアンがギリッとニーツを睨む。赤い魔力の光が、その全身から右手に凝縮し、ニーツの方へ駆け出した。が、一歩進んだところで、その動きが止まる。
「あ…あぁ!?」
ベル=リアンが、信じられない物を見るように、自らの足へ視線を移した。其処には、何時の間にか地面から生えていた一本の蔦が絡み付いていた。
いや、絡みつくだけではない。その蔦は所々、赤く変色している。よく見れば、蔦の先端が、ベル=リアンの足に喰い込んでいた。
集中力をなくしたベル=リアンの魔力が拡散する。
「未熟者」
ふっと笑みを浮かべて、ニーツは言い捨てた。そう言っている間にも、蔦はベル=リアンの体を這うように、成長していった。
「くぅぅ…」
蔦に身動きを封じられ、集中力すら失われたベル=リアンは、膝をつき、ニーツを見上げる。必死に蔦を振りほどこうとしたが、ニーツの魔力が込められた蔦には何の影響も及ぼさない。
歴然とした魔力の差が、其処にあった。
「直球だけが戦いじゃない。ひとつお利口になっただろう?もっとも…」
ニーツはゆっくりとベル=リアンに近寄った。
その手には魔力が集まり、剣の形をとった。
スッと、ベル=リアンの首筋にそれを当てる。
「お前に未来は無いけどな」
「く…」
「知っているか?ドクター・レンが召喚術で繋いだ場所…何処の魔族達を呼び出して
いたか」
冷ややかな眼差しで語るニーツ。腕は、動かさない。
ベル=リアンの頬に、ザアッと汗が流れた。
「し、知ってるわけないじゃないか」
「…深遠なる闇。苦痛と悲鳴が折り重なる場所。永久の牢獄。死するよりも辛い、絶望の地。
お前も魔族なら、これの意味する場所が解るだろう?」
ベル=リアンの瞳が大きく見開かれる。その顔に浮かんだものは、絶望。
ニーツは、ベル=リアンに顔を寄せた。目の前に、その金の瞳を捉える。
口元には笑み。瞳の奥には、明確な殺意。声に含まれるのは、残忍さ。
果たしてそれは、怒りに起因するものなのか。それとも、本性なのか。
「…ふふ…今ならまだ間に合う。さあ、行こうか」
告げるニーツの言葉に、ベル=リアンの絶叫が重なった。
---------------------------
空間に闇が滲み出している。
魔界へのゲート。
魔界、と一言に言っても、その意味は広い。魔族と言っても様々な個体を指すように。
今この場で繋がっているのは、ドクター・レンが好んで繋いでいた場所。
魔族の中でも、特に残虐で、残酷、犯罪行為を好み、誰にも手がつけられない様な魔族たちが堕とされた場所。
名は特に無い。吹き溜まり、とも呼ばれる。永遠の闇、と呼ぶものもいる。その呼び名は様々だが、其処に行った者は、二度と帰ってこられないとされる場所。
そんな危険な場所故に、召喚術に失敗は許されない。
無論、今行われている儀式にも。
古代文字が燦然と輝き、術者の姿を浮かび上がらせた。
術者が立つ魔方陣の横には魔方陣がもう一つ描かれており、其処に市長が横たえられている。
魔方陣の傍らには、魔力の風に髪を靡かせたナスビの姿。更には、弱体化したウサギが、その横に座り込んでいる。
市長が目覚め暴れるのを警戒していたナスビは、ふと顔をあげた。
「ふむ…」
カサリと叢が揺れ、其処から蔦を巻きつけたベル=リアンを引きずる形で、ニーツが姿を現す。
「遅かったな。間に合ったか。
…そいつは?」
「お土産さ」
にっこりと―本当に、邪気を感じられない程に、可愛らしくにっこりと―ニーツは微笑む。
それが逆に怖くて、ナスビは思わず後ずさった。
「……何かあったのか?」
「いや?特に何も無いが?
ふうん。イートンにしては頑張っているな。もう少しで最終段階じゃないか」
微笑みながら言うニーツに、ナスビはこれまでこんなに恐怖を感じた事があるかと、思わず過去を思い返していた。
「さて、こいつも祭りに入れてもらおうかな…」
そんなナスビに構わず、ふふ…っと笑って、ニーツは気絶したベル=リアンを見下ろした。
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