----------------------------------------
PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン 市長邸地下牢
NPC ナスビ
---------------------------------------------------
―――満月の翌朝は外に出てはいけないよ。
メイルーンの母親たちは子供たちに、そう強く言い聞かせた。
満月の夜には恐ろしい<野犬>が現れる。
子供たちが道端に転がった哀れな犠牲者たちを見ないように。
―――太陽が上がるまでカーテンをあけてはいけないよ。
焼け落ちた隣の家を、彼らが目にしないように。
そして、死臭に気づかぬように。
---
折角ユサたちから逃げたというのに、また牢屋に逆戻りである。
イートンは背中を向けて四苦八苦しながら服を着替えているニーツから視線を外し、八重の様子を伺い見た。火をつけた煙草は殆ど吸われず、何本も床に転がっていた。
(よっぽど落ち着かないんですねぇ・・・)
そんな彼より更に暇そうなナスビが側をコロコロと転がっていった。
「さて、話を続けようか」
どうやら着替え終わったらしいニーツがコホンと咳をひとつし、2人の注意を向ける。クリエッドが持ってきた服は、銀の糸の刺繍がされた白いシャツに、青いズボン。ニーツには少し大きいらしく、腕まくりした姿が新鮮で可愛らしい。本人には口が裂けても言えないが。
「あの小煩い司書ジジィを呼ぶ前に」
僅かに上げられた手にはいつの間にか本が握られている。伯父の家に置いておいた物だ。何故かしかめっ面のニーツと苦笑いを浮かべる八重。やはり自分が居ない間に、二人の距離は随分近くなったようだ。そんな事を思っていたイートンは自分の名が呼ばれている事に気がつくのにかなりの時間がかかった。
「イートン?」
「あ、はい!?なんですかッ」
あの後八重に踏まれても割れなかった丈夫な眼鏡を押し上げて、慌てて返事をする。そんな自分に肩を竦めると、ニーツはもう一度尋ねた。
「市長の人格分裂が幼い頃からなのか・・・それとも大人になってからのものなのか知っているか?」
予想外の質問に、イートンは首を傾げる。八重も不思議そうな顔でニーツを見た。
「確か、子どもの頃からだったと思います・・・母が言ってましたから」
『ワトスンはとってもいい友人だけど、恋人には出来きなかったの。
だって私、彼5人全員を好きになれないんですもの』
「だろうな・・・」
クリスティーの姿を思い出したのだろう。かなり疲れた声で八重が頷く。市長と同年代の彼には、何か思うところがあるようだ。
「この地、ヴェルンには特別な力があるようだな。ナスビ、お前だってそうだろう?」
『なんの事だ、女装魔ぞ・・・グニュ!?』
ナスビが言い終える前にニーツが足で踏みつけた。そのまま抵抗する丸い頭をグリグリする。見るに見かねたイートンがナスビを救出すると、手にした本をめくり始めるニーツ。
「今はそんなけったいな器に入っているが、お前は人間だろう?」
『・・・・』
驚くイートンの声をバックにニーツとナスビが睨みあう。しかし、プーンと顔を逸らしたナスビの姿は『我輩は知らんもんね』と、体で表していた。
「ヴェルンには複数の魂をくっ付けたり、分けたりする術が存在するようだな」
解読不可能と記された遺跡の複写を眺めながら、ニーツは言った。
そして、その本を思い切り床に叩き落す―――。
PC 八重 イートン ニーツ
場所 メイルーン 市長邸地下牢
NPC ナスビ
---------------------------------------------------
―――満月の翌朝は外に出てはいけないよ。
メイルーンの母親たちは子供たちに、そう強く言い聞かせた。
満月の夜には恐ろしい<野犬>が現れる。
子供たちが道端に転がった哀れな犠牲者たちを見ないように。
―――太陽が上がるまでカーテンをあけてはいけないよ。
焼け落ちた隣の家を、彼らが目にしないように。
そして、死臭に気づかぬように。
---
折角ユサたちから逃げたというのに、また牢屋に逆戻りである。
イートンは背中を向けて四苦八苦しながら服を着替えているニーツから視線を外し、八重の様子を伺い見た。火をつけた煙草は殆ど吸われず、何本も床に転がっていた。
(よっぽど落ち着かないんですねぇ・・・)
そんな彼より更に暇そうなナスビが側をコロコロと転がっていった。
「さて、話を続けようか」
どうやら着替え終わったらしいニーツがコホンと咳をひとつし、2人の注意を向ける。クリエッドが持ってきた服は、銀の糸の刺繍がされた白いシャツに、青いズボン。ニーツには少し大きいらしく、腕まくりした姿が新鮮で可愛らしい。本人には口が裂けても言えないが。
「あの小煩い司書ジジィを呼ぶ前に」
僅かに上げられた手にはいつの間にか本が握られている。伯父の家に置いておいた物だ。何故かしかめっ面のニーツと苦笑いを浮かべる八重。やはり自分が居ない間に、二人の距離は随分近くなったようだ。そんな事を思っていたイートンは自分の名が呼ばれている事に気がつくのにかなりの時間がかかった。
「イートン?」
「あ、はい!?なんですかッ」
あの後八重に踏まれても割れなかった丈夫な眼鏡を押し上げて、慌てて返事をする。そんな自分に肩を竦めると、ニーツはもう一度尋ねた。
「市長の人格分裂が幼い頃からなのか・・・それとも大人になってからのものなのか知っているか?」
予想外の質問に、イートンは首を傾げる。八重も不思議そうな顔でニーツを見た。
「確か、子どもの頃からだったと思います・・・母が言ってましたから」
『ワトスンはとってもいい友人だけど、恋人には出来きなかったの。
だって私、彼5人全員を好きになれないんですもの』
「だろうな・・・」
クリスティーの姿を思い出したのだろう。かなり疲れた声で八重が頷く。市長と同年代の彼には、何か思うところがあるようだ。
「この地、ヴェルンには特別な力があるようだな。ナスビ、お前だってそうだろう?」
『なんの事だ、女装魔ぞ・・・グニュ!?』
ナスビが言い終える前にニーツが足で踏みつけた。そのまま抵抗する丸い頭をグリグリする。見るに見かねたイートンがナスビを救出すると、手にした本をめくり始めるニーツ。
「今はそんなけったいな器に入っているが、お前は人間だろう?」
『・・・・』
驚くイートンの声をバックにニーツとナスビが睨みあう。しかし、プーンと顔を逸らしたナスビの姿は『我輩は知らんもんね』と、体で表していた。
「ヴェルンには複数の魂をくっ付けたり、分けたりする術が存在するようだな」
解読不可能と記された遺跡の複写を眺めながら、ニーツは言った。
そして、その本を思い切り床に叩き落す―――。
PR
トラックバック
トラックバックURL: