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PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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いつからか…
男の姿、男の態度を取るようになったのは…
(ああ…あいつが死んでからか…)
まどろみの中で、ニーツは呟く。
あの男がいなくなって、ニーツはそれまでの格好を捨てた。
(あいつの事…忘れていたのに。あの馬鹿妖精王の所為で…)
小さく、毒づく。けれど、そんなに不快ではなかった。
―今となっては、昔の、話。
目をあけると、見知らぬ天井。
「あ、ニーツ君」
こちらは、聞き覚えのある声。イートンだ。
…すこし、頭が痛い。
「良かった~。もう大丈夫なんですか?」
心底ほっとしたように、イートンが寄ってきた。その腕の中には、じたばた暴れる件の木兎。
「ん…ああ、まあ、な」
ニーツは、やはり億劫そうに答える。
いつの間にか、服が着替えさせられている。一体誰がやったのか、ふと気になった。
「二日も寝ていたのですよ~。もう、心配で心配で…」
イートンの言葉に、頭を抑えようとしたニーツの手が止まる。
「…二日?」
「はい。それはもう、ぐっすりと眠っていましたよ」
にっこりと微笑むイートンの腕から、ポトリッと木兎-ナスビが零れる。
そのまま駆け出そうとしたところを、イートンがガッシリと掴んで抱えなおした。
『は、離せ~』
「もう、だめですよ。ナスビちゃん」
『我輩はナスビなんかじゃない~!』
(何やってるんだか…)
二人(もとい、一人と一個)のやり取りを見つめながら、ニーツは、小さくため息をついた。
しかし、二日とは…頭が痛いのは、寝過ぎの所為か。いや、そればっかりでもあるまい。
不覚を取った、と、ニーツは気だるい身体を起こした。と-
「ニーツ君、寝顔、可愛いですね」
何の邪気もない笑顔で、イートンが言う。思わず、ニーツは寝台からずり落ちそうになった。
「な…!?」
思わず赤くなるニーツを、ニコニコとイートンが見つめる。
「あ、ニーツ君、新しい反応♪」
「ふ…ふざけたことを言うな!!」
赤くなったまま、怒鳴るニーツ。もちろん、そんな言葉にイートンが耳を貸すはずもない。
「ふざけてませんよ。…で、起きたばっかりで大変申し訳ないのですが、少々頼みがありまして…」
ニコニコと言うイートンの腕から、再びナスビが零れ落ちた。
「…断る」
「…」
「そういわずに」
八重たちの所に場所を移動して、ニーツに事情を説明して-
その答えが、こうだった。即答である。
「それを、俺がやる理由がない」
「ニーツしか、やれる人がいない」
「…お前らがやれば?」
「いや、それは…」
確かに、イートンの顔は母親譲りだが、女装が似合うか…と訊かれれば、思わず頭を抱えるだろう。しかも、市長…エドガーは、その母親に骨抜きだったという。はっきり言って、反応が恐ろしい。八重の女装なんて、問題外。…想像するのも恐ろしい。
「やっぱり、ニーツ君が適当でしょう」
『いいではないか。女の子らしい格好をするだけであろう?』
「そうなんですけど…」
「なんにせよ、俺は絶対そんなことしないからな」
フイッと、ニーツはそっぽを向く。頑なだ。
「ウ~ン…それは困ったね」
顔を見合わせた八重とイートンの後ろで、イートンの伯父が本当に困ったように声を上げた。そしてニーツは、初めてその人物に気付いたように、声を上げる。
「…誰だ?お前」
「あ、僕の伯父さんですよ」
「はじめまして。う~む、君も興味深いねえ…」
じろじろと無遠慮に、彼はニーツの顔を眺めた。そしてボソリと、
「細胞、くれないかね?」
「……」
呟いた言葉に、ニーツが冷たい視線を送る。その瞳は、『何だこの馬鹿は』と語っていた。
しかし、普通の人なら思わずひるむような視線を受けても、伯父は飄々とのたまう。
「君がこの話を承諾してくれないと、君の仲間は困った事になるみたいだ」
「嫌なものは、嫌だと言っている」
「頑固だな。若い頃からそれじゃあ、先が思いやられるぞ」
「余計なお世話だ」
「犬でも、三日の恩は忘れない」
突然、伯父が話を切り替えた。一瞬、話についていけず、三人はきょとんとする。
「君は、二日間、寝台を占領した。少しは感謝して、頼み事を聞いてくれてもいいと思うのだが」
「…つまり、寝かせてやったから、言う事を聞け、と」
口元を少し引きつらせながら、ニーツが答えた。伯父は満足げに、頷く。
「まあ、そうとも取れるかな。ああ、二日しか世話になってないから駄目、とかいうのは無しで」
「…俺に、恩とかそういうのを求められても困るんだが」
「そうか?意外と義理堅そうな気がするんだが。違ったかな?」
ニヤリとそう言って、伯父は笑った。フンッと、ニーツはそっぽをむく。
それなりに、図星だったらしい。
「それでも、嫌だ」
「むう。それでは、仕方ないな。この手だけは使いたくなかったのだが」
どこまでも頑ななニーツに、伯父は小さく肩をすくめた。ハラハラと見守る八重とイートンの横をすり抜けて、ニーツの前に立つ。
そして、言い放った。
「ところで、君の服を着替えさせた時、君の秘密を一つ、知ってしまったんだがね」
その言葉に、ニーツの瞳がスッと細くなった。構わず、伯父は他の人に聞かれないよう、ニーツの耳元で囁く。
「君の、性別の事なんだがね」
「…!!」
思わず顔を赤くしたニーツに、畳み掛けるように、伯父が言葉を紡ぐ。
「俺は別に、あの二人とかに話しても構わないんだけどな。まあ、返答次第で秘密にしてもいいけど」
さあ、どうする?と言外に問い掛ける伯父にを、ニーツは睨み付けた。
後ろでは二人と一個が話についていけず、顔を見合わせている。
甥が甥なら、伯父も伯父だった。
これは、説得とは呼ばない。
―人はこれを、脅迫と呼ぶ。
PC 八重 ニーツ イートン
場所 ヴェルン湖遺跡
NPC 木兎
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いつからか…
男の姿、男の態度を取るようになったのは…
(ああ…あいつが死んでからか…)
まどろみの中で、ニーツは呟く。
あの男がいなくなって、ニーツはそれまでの格好を捨てた。
(あいつの事…忘れていたのに。あの馬鹿妖精王の所為で…)
小さく、毒づく。けれど、そんなに不快ではなかった。
―今となっては、昔の、話。
目をあけると、見知らぬ天井。
「あ、ニーツ君」
こちらは、聞き覚えのある声。イートンだ。
…すこし、頭が痛い。
「良かった~。もう大丈夫なんですか?」
心底ほっとしたように、イートンが寄ってきた。その腕の中には、じたばた暴れる件の木兎。
「ん…ああ、まあ、な」
ニーツは、やはり億劫そうに答える。
いつの間にか、服が着替えさせられている。一体誰がやったのか、ふと気になった。
「二日も寝ていたのですよ~。もう、心配で心配で…」
イートンの言葉に、頭を抑えようとしたニーツの手が止まる。
「…二日?」
「はい。それはもう、ぐっすりと眠っていましたよ」
にっこりと微笑むイートンの腕から、ポトリッと木兎-ナスビが零れる。
そのまま駆け出そうとしたところを、イートンがガッシリと掴んで抱えなおした。
『は、離せ~』
「もう、だめですよ。ナスビちゃん」
『我輩はナスビなんかじゃない~!』
(何やってるんだか…)
二人(もとい、一人と一個)のやり取りを見つめながら、ニーツは、小さくため息をついた。
しかし、二日とは…頭が痛いのは、寝過ぎの所為か。いや、そればっかりでもあるまい。
不覚を取った、と、ニーツは気だるい身体を起こした。と-
「ニーツ君、寝顔、可愛いですね」
何の邪気もない笑顔で、イートンが言う。思わず、ニーツは寝台からずり落ちそうになった。
「な…!?」
思わず赤くなるニーツを、ニコニコとイートンが見つめる。
「あ、ニーツ君、新しい反応♪」
「ふ…ふざけたことを言うな!!」
赤くなったまま、怒鳴るニーツ。もちろん、そんな言葉にイートンが耳を貸すはずもない。
「ふざけてませんよ。…で、起きたばっかりで大変申し訳ないのですが、少々頼みがありまして…」
ニコニコと言うイートンの腕から、再びナスビが零れ落ちた。
「…断る」
「…」
「そういわずに」
八重たちの所に場所を移動して、ニーツに事情を説明して-
その答えが、こうだった。即答である。
「それを、俺がやる理由がない」
「ニーツしか、やれる人がいない」
「…お前らがやれば?」
「いや、それは…」
確かに、イートンの顔は母親譲りだが、女装が似合うか…と訊かれれば、思わず頭を抱えるだろう。しかも、市長…エドガーは、その母親に骨抜きだったという。はっきり言って、反応が恐ろしい。八重の女装なんて、問題外。…想像するのも恐ろしい。
「やっぱり、ニーツ君が適当でしょう」
『いいではないか。女の子らしい格好をするだけであろう?』
「そうなんですけど…」
「なんにせよ、俺は絶対そんなことしないからな」
フイッと、ニーツはそっぽを向く。頑なだ。
「ウ~ン…それは困ったね」
顔を見合わせた八重とイートンの後ろで、イートンの伯父が本当に困ったように声を上げた。そしてニーツは、初めてその人物に気付いたように、声を上げる。
「…誰だ?お前」
「あ、僕の伯父さんですよ」
「はじめまして。う~む、君も興味深いねえ…」
じろじろと無遠慮に、彼はニーツの顔を眺めた。そしてボソリと、
「細胞、くれないかね?」
「……」
呟いた言葉に、ニーツが冷たい視線を送る。その瞳は、『何だこの馬鹿は』と語っていた。
しかし、普通の人なら思わずひるむような視線を受けても、伯父は飄々とのたまう。
「君がこの話を承諾してくれないと、君の仲間は困った事になるみたいだ」
「嫌なものは、嫌だと言っている」
「頑固だな。若い頃からそれじゃあ、先が思いやられるぞ」
「余計なお世話だ」
「犬でも、三日の恩は忘れない」
突然、伯父が話を切り替えた。一瞬、話についていけず、三人はきょとんとする。
「君は、二日間、寝台を占領した。少しは感謝して、頼み事を聞いてくれてもいいと思うのだが」
「…つまり、寝かせてやったから、言う事を聞け、と」
口元を少し引きつらせながら、ニーツが答えた。伯父は満足げに、頷く。
「まあ、そうとも取れるかな。ああ、二日しか世話になってないから駄目、とかいうのは無しで」
「…俺に、恩とかそういうのを求められても困るんだが」
「そうか?意外と義理堅そうな気がするんだが。違ったかな?」
ニヤリとそう言って、伯父は笑った。フンッと、ニーツはそっぽをむく。
それなりに、図星だったらしい。
「それでも、嫌だ」
「むう。それでは、仕方ないな。この手だけは使いたくなかったのだが」
どこまでも頑ななニーツに、伯父は小さく肩をすくめた。ハラハラと見守る八重とイートンの横をすり抜けて、ニーツの前に立つ。
そして、言い放った。
「ところで、君の服を着替えさせた時、君の秘密を一つ、知ってしまったんだがね」
その言葉に、ニーツの瞳がスッと細くなった。構わず、伯父は他の人に聞かれないよう、ニーツの耳元で囁く。
「君の、性別の事なんだがね」
「…!!」
思わず顔を赤くしたニーツに、畳み掛けるように、伯父が言葉を紡ぐ。
「俺は別に、あの二人とかに話しても構わないんだけどな。まあ、返答次第で秘密にしてもいいけど」
さあ、どうする?と言外に問い掛ける伯父にを、ニーツは睨み付けた。
後ろでは二人と一個が話についていけず、顔を見合わせている。
甥が甥なら、伯父も伯父だった。
これは、説得とは呼ばない。
―人はこれを、脅迫と呼ぶ。
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