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2025/04/30 22:22 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:2~ /イートン(千鳥)
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PC  :八重・イートン・ニーツ・ウピエル
場所  :オーディル
NPC :ナスビ
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「…って事で、オレを仲間に入れてくれりゃあ、その場所を教えるけど?」

(さぁ、どうする?)

 挑むような、否、こちらを試すような目で、ついさっきまでこの部屋の下で、
軽快に楽器をかき鳴らしていた男が自分達を見ていた。
 イートンは思わず眩暈を覚えた。単に先ほど無理に飲んだアルコールのせいか
もしれないが、同様に隣に立つ八重もその顔に力ない表情を浮かべていたので、
やはりこの男のせいだろう。
 文机に腰掛けたニーツは未だかつて無いくらい、不機嫌なオーラを発しながら
黙っている。こんな彼を見るのは、そう、メイルーンの不良どもに『お嬢さん』
と言われて以来だ。確かその時も、彼はこんな風に足を組んで座っていたので、
もしかしたらこれがニーツの『非常に怒っている』ポーズなのかもしれない。も
しくは、一時の感情に流されない為の『自制』のポーズか…。

 部屋の空気は沈黙を保ち、誰かが答えることを待っていた。しかし、イートン
は自分が答える気など更々なかった。自分の役割は彼らを『見届ける』事で、け
してこの物語の話を進める気などなかったからだ。
 ここで答える権利があるのは、話の張本人である八重か、又は…。

「断る」

 素っ気無い言葉がニーツからこぼれた。

「ほぉ」

 男はさほど残念がった様子も無く、続きを促すように声を上げた。

「お前が何者かは知らないが、俺はお前を必要としない」

 淡々とした声音に対し、内容はなんと冷ややかな事か。もし、自分がそんな答
えを返されたら、無力の己を恥じて一生彼の前に姿を現せられないかもしれな
い。

「ジュデッカの牢獄の地図ならば既に手に入れてある。」

 イートンは、ふと、ニーツがたまに自分達の前から行方を晦ますことがあるこ
とを思い出した。そうして帰ってきた後、大抵彼はイートンがけしてお目にかか
れないような、古かったり貴重な本を手にしている。市長の屋敷を出る前も、や
はりニーツは数日姿が見えなかったので、そのときにあの『図書館』で資料を漁
っていたのかもしれない。

「はーん、さすが魔族。抜け目が無いねェ。そう、ご存知のとーり、あの牢獄は
難攻不落、いんや、内部からはけして囚人が抜け出せねぇ、最強最悪の檻の中
さ。抜け出す穴も無けりゃ、増築による歪みも無く、100年以上前から内部は
なんの変わりも無い、はずだった」

 そこで、男はわざと言葉を切った。
 自然と集まる視線に満足すると、その細く長い人差し指を軽く振る。

「しかし、つい最近、一人の男が逃げた。それも最下層…『地下100階』の人
間が、だ。もちろん外部にゃ漏れてない情報だが」
「!」

 これはニーツも初耳だったのだろう。はっ、としたように厳しい顔をして黙
る。

「それによって出た被害で、牢獄の中は一部さま変わりしてやがる。ちょうど7
0階から99階辺りだな。さて、ドクターレンは、何処に居る?」
「なんでお前がそんなことを知っている」 
「200年ぽッちとは言え、それだけの時間を睡眠に費やすと、世の中変わっち
まってるからな。色々情報を更新したついでに、な」
「200年…」

 八重が唸る。どうやら、目の前の男は随分と長命な生き物らしい。
 40代にさしかかり、そろそろ身体や気力に衰えを感じ始めた八重にとって
『200年』を軽く言われてしまうと複雑な気分なのかもしれない。
 まだ若造のイートンには分からないことであったが。

「成る程、それだけ情報を貰えば十分だ」
「お~い、おぃ、俺ぁドクターレンの」
「分からないようだから、はっきり言おう。お前の力など借りる必要はない」
「ふぅ~ん、ま。いいけどな。お手並み拝見といこうじゃないか」

 ポケットに両手を突っ込んだ男は、軽くニーツを見下ろすとくるりと背を向け
た。無防備な姿だったが、その背中にニーツがそれ以上感心を払う様子はない。

「あ、あの…」

 扉の横でハラハラと事の成り行きを見守っていたイートンは、男に声をかけよ
うとした。しかし、何を言えば良いのか分からなかった。自分をダシにした事を
怒るべきか、更なる情報を引き出すために近づくべきか…。
 結局口を噤んだイートンの肩を、男は親しげに軽く叩いた。

「確かにこんな気の強いお子様じゃ、にーちゃんも大変だなぁ」
「そ、そんな事ないですけど」
「ま、ガンバレや」

 そう言って笑った目は既にあの炎の赤ではなく、覚めた碧眼だった。


 パタン。

 
 扉の閉まる短い音が、軽く余韻を残し、部屋に広がる。
 その波が落ちつくより先に、更に軽い着地音が乗った。ニーツが机から降りた
のだ。

「さて、君はどうするんだ、八重」
「ふむ?」
「奴はお前に情報を与えると言ってるんだぞ。これは俺の問題じゃなくお前のも
のだ」
「そう、だな…」

 八重は渋い顔のまま思案した。
 先ほどの、口だし無用の雰囲気とは裏腹に、ニーツは自分一人で男の申し出に
答えるつもりはなかったようだ。黙る八重から視線を外して、ニーツはイートン
を見た。色の異なった青と赤の瞳に見つめられて、思わず身体が強張った。

「まったく、厄介な男を連れてきたもんだな…」
「ご、ごめんなさい…」

 確かに連れてきたのはイートンだったが、相手は元々『ルナシー』である八重
目的で近づいてきたのだ。自分のせいではない気もしたが、取りあえず素直に謝
っておいた。
 そんなイートンに幾分か表情を和らげたニーツが、転がっているナスビを足で
止めて拾った。

『ぬぁ!我輩を足蹴にするとは何と不遜な!お子様魔族のクセに!!』
「あの男をお前はどう感じた?ナスビ」
『ふん!もとは人間だったようだな。上手く力を受け継いでおるが、所詮作り物
だ』
「それならばお前と一緒じゃないか。所詮ヒエログリフはドクターレンの生産物
なんだろう」
『失礼な!!我輩をそんじょそこらの吸血鬼といっしょにするな!!』
「き、吸血鬼!?」

 ナスビの言葉にイートンはビックリして声を上げた。
 もちろん、イートンもあの男がただの人間でないことは薄々、いやかなりの
勢いで確信していたが、彼が吸血鬼などだとは思っても見なかったのだ。

「俺達の行く場所は他でもない、ジュデッカだ。一般人には限りなく安全で、犯
罪者には絶望を意味する都市…。アレだけの力を持った長寿の吸血鬼が人を襲わ
ずに居れたと思うか?俺はそんな男を抱えこむのはゴメンだな」
「そ、そうですよねぇ…」

 吸血鬼はたった一人で1個師団を壊滅させるほどの力を持つという。
 その力自体は頼もしくも思うが、人間を襲う種族なのだ、長く関われば自分た
ちにいつ危険が及ぶかわからない


「つまり、それがお前がやつを拒んだ理由か?ニーツ」
「まさか。第一それを言ったら俺自身が魔族なんだからな。単に、あいつの図々
しい態度が気に入らないだけだ」

 プンと横を向いたニーツに思わずイートンは八重と顔を見合わせてこっそり苦
笑した。
 ニーツの気位の高い性格を思えば当然かもしれないが、それでも男の強引な登
場のし方は最初に八重とイートンがニーツに会った時と何の変わりもなかったの
だ。

「何を笑ってる?」
「いえ、何でもないですよ。もう夜も遅いですから、早く寝たほうが良いです
ね」

 目ざとくこちらの様子に気づいたニーツにイートンは穏やかに答えた。既に、
二人の間に先ほどまでのギスギスした空気はない。隣で八重がほっと息を吐い
て、ナスビを拾い上げたのが分かった。

(一応、彼に感謝するべきなのかな…)

 確かに、二人の関係を修復すると言う目的を男は果たしたことになる。今度あ
ったらお礼を言うのも良いかもしれない。どうせ、また会うことになりそうだ
し。
 のほほんとそんな事を思っていたイートンだったが、彼の感謝を吹き飛ばして
居しまうような、吸血鬼との再会が待っているとは知る由もなかった
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2007/02/17 23:58 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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