PC クロエ、アダム
NPC シックザール
Place ヴィヴィナ渓谷川辺
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吐くものは取っていなかったのが幸いし、胃液だけを吐き出すだけですんだ。
透明度の高い川の水で、口の中をゆすぐ。そのまま顔に突っ込むように顔を浸して、うーん
と唸る。
「気持ちわりぃ…」
ここ三日間で魔法攻撃一回+締め付け攻撃+飛び降りというトリプルダメージをくらっている
のだ。常人よりかは鍛えている自信はあるが、そもそもお題目が常人でも死ぬんじゃないか
割と、というレベルのものである。肉体的にかなり無理が来たらしく、体中に鈍痛が巡ってい
る。
「まずいなぁ…これだと」
山越え、谷越えなんて無理に近い。一刻も早くここから離れなきゃいけないのだが、体が言
うことを聞いてくれない。先程のすったもんだの際に確認したら、腹部に異常なほどの青痣
が広がっていて、ついでにさっきから血痰まじりの唾が出てくる。もしかしたら内臓を傷つけ
たのかもしれない、そうするとますます事態は深刻だ。
「クロエさんに先行ってもらうしかない、かな…」
ははは、案内人失格である。自嘲紛れに笑みが零れた、川から顔を離すとくらりと眩暈が
起こる。そしてまた川に突っ伏してしまう。やっぱ自分にはそういう、国家とか大脱走とかス
ケールの大きいことは向かないのかもしれない。
水面の中の異常眼は冷静に、水面の温度と透明度、成分分析までつらつらと始める。スズ
ナ山脈の鉄分が0.5%と言われても何の役にも立たない。せめて、コイツがもう少しだけでも
もっと力のある能力だったら…
「…情けねー…」
いつものことだったが、今回ばかりは自分に落ち込むアダムであった。
************************************************************************
『クロエさん、落ち込んでる?』
「はい…」
正直に答える竜に、刀は「だよねーやっぱり」と言葉口調だけで溜息をついた。嘘がつけな
いアダムは、やっぱり嘘がつけなかったので、ラドフォードでの逃走劇の真相を丁寧に話し
てしまったのである。
「…昔は、それでも人との争いはありました。でも、そんな…今みたいなことはなかったんで
す。そんな、私が」
シックザールを抱え込んでうつむくクロエ。話を終えたアダムはトイレだとか行って川のほう
へ行ってしまった。残されたクロエはうつむいたまま、沈鬱な表情でアダムの残したシック
ザールと一緒にいた。
『……兵器って見られていたことにショックだったの?』
「違う…と思います。私のせいで、クリノクリアのエルフ達にそんな迷惑をかけてしまったこ
と…シメオンが今も酷い目にあってるかもしれないこと…そして、」
シックザールに、一粒の水滴が零れた。
「また、私は人を殺してしまうかもしれない…」
そのまましばらく時が過ぎた。木々の揺れる音と、小鳥の鳴声が頭上に響いている。風が
少しだけ強くなってきて、クロエのスカートを揺らした。そして、先に喋りだしたのはシックザ
ールのほうだった。
『ねぇ、クロエさん。僕、一度も人を殺したことないんだ』
「…え?」
唐突に始まった会話に、クロエは涙を流すのも忘れてぽかんとした。
『おかしいデショ?だって僕、刀だもん。人を殺すために作られたんだ。でもね、アダムは僕
で人殺しをしたこと、一回もないよ』
「………」
クロエの泣き顔に、シックザールは明るい口調で…それこそ茶飲み話みたいな雰囲気で続
けた。
『僕はただの道具だけどアダムはね、”友達だ”って言ってくれるんだよ。友達に人殺しさせ
るわけにはいかないだろって。僕、どうして刀なんだろうって思うときあったよ。だってアダム
とかクロエさんみたいに”生きるために”生まれてこれたなら、どんなに幸せかなぁって』
「…生きるため?」
『だって、クロエさんには生かすか殺すか選択権があるじゃない。でも僕にはないものだし。
僕はそもそもそれ専用のために作られたから、それ以外のことには役に立たないって思っ
てたんだよ…でもね』
もし刀に胸があったのなら、シックザールは胸を張って答えただろう。自信に満ち溢れた言
葉で、
『僕、刀でよかったなぁって今は思うんだヨ。だって友達のアダムを守ってあげられるモン。
アダムはね言ってたよ”お前は人殺しの道具だったかもしれないけど、今は俺の友達だろ”
って』
一振りの刀が秘めていたのは、そんななんでもない一言だった。
そんななんでもない、当のアダムでさえそのときの会話を覚えているかどうか。しかし、それ
がシックザールの一番大事なものかもしれない。
『クロエさんも、アダムの友達なんデショ?だったら大丈夫だよ、アダムの友達はね、人殺
しなんてしないんだよ』
************************************************************************
クロエが笑った。シックザールも声はなくとも笑っていた。
二人でしばらく笑いあった後、同時にはたと目を(シックザールには目はなかったので気配
を)あわせた。
「…ところで、アダムが遅くありませんか?」
『偶然だよね、僕もそんなコト思ってたんだケド…』
二人は顔を見合わせて(シックザールの本体を見て)、そのまま駆け足で斜面を下りていっ
た。
『よく考えれば、三日前から合計してけっこう生死が危ないかもしんない』
「人間ってどれくらい脆いんですか!?」
人間オンチのクロエに、シックザールはえーと、といいながら考える。
『えーと、割とさっきの飛び降りは十回やると八回ぐらいは死ぬカモ』
「アダム!!」
悲鳴に近い声で、川岸に向かうクロエ。シックザールも『生きてるといいなぁ、だってせっかく
いい事言ったんだし』と呟いた。
************************************************************************
痛みと冷たさで沈んでいた意識の中、ふいに暖かい光で目を覚ます。
急に痛みが引いて、理性が戻り意識が水面から浮上する。か細い手がしっかりと身体を支
えていた。
「良くなりましたか?」
目の前にいるのは、人の形をした竜だった。ぐったりした自分を支えてもびくともしない。普
通逆だろ、いや役割が。
「あれ、クロエさん…回復魔法?」
「いいえ、アダムにお願いしたんです」
「あぁ…そうなの…」
そりゃ女の子のお願いは断れない。自分単純すぎやしないか?
クロエには一種の支配能力があるらしく(本人いわく、お願い事だというが)自然に影響しあ
る程度まで働きかけることができるという。
「本当は人間とかとてもはっきりした自我を持つ命には難しいんですけど」
植物を元気にしたり、水を綺麗にしたりできるという。この場合、アダムの身体に働きかけて
治癒を促進させたと見るべきか。もうクロエさん何やっても驚かないよ俺。
「アダム」
「あー結構楽になった。とりあえず今日寝てればなんとかなりそう…ってなに?」
なんかじっと見つめてくるクロエさん。ちょいと心拍数が上がりそうなのを飄々とした受け答
えで誤魔化そうとするが、顔が赤くなるのは止められない。
「その、…私は友達ですか?」
突然のクロエの、真剣な言葉。
するとアダムはその言葉に酷くショックを受けた顔をし、すぐに引きつった笑顔になって言葉
を続ける。なぜか語尾が震えている。
「…え、ま、まぁそうだよね。友達だよね」
「ありがとうアダム!私は、貴方の友達ですね!」
するとクロエはとても嬉しそうに笑って言った。隣でアダムも笑いつつ、どこか寂しげな目で
それを見つめる。
「友達…だよなぁ、やっぱり」
「はい?」
「いんや、なんでもないから…」
なぜかちょっとだけうなだれるアダムに首をかしげたクロエ。
シックザールは『あーぁ、クロエさんてば見事にやっちゃったなぁ』と心の中で呟いていた。
夕方の空に、薄い雲が伸びる。ようやくクリノクリアの悪夢の一日が終わりを告げようとして
いた。
************************************************************************
Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv1.8
ドキドキ度… ☆☆☆☆★
ほんわか度…☆★★★★
ヤヴァイ度… ☆☆★★★
胸キュン度… ☆☆☆☆★
NPC シックザール
Place ヴィヴィナ渓谷川辺
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吐くものは取っていなかったのが幸いし、胃液だけを吐き出すだけですんだ。
透明度の高い川の水で、口の中をゆすぐ。そのまま顔に突っ込むように顔を浸して、うーん
と唸る。
「気持ちわりぃ…」
ここ三日間で魔法攻撃一回+締め付け攻撃+飛び降りというトリプルダメージをくらっている
のだ。常人よりかは鍛えている自信はあるが、そもそもお題目が常人でも死ぬんじゃないか
割と、というレベルのものである。肉体的にかなり無理が来たらしく、体中に鈍痛が巡ってい
る。
「まずいなぁ…これだと」
山越え、谷越えなんて無理に近い。一刻も早くここから離れなきゃいけないのだが、体が言
うことを聞いてくれない。先程のすったもんだの際に確認したら、腹部に異常なほどの青痣
が広がっていて、ついでにさっきから血痰まじりの唾が出てくる。もしかしたら内臓を傷つけ
たのかもしれない、そうするとますます事態は深刻だ。
「クロエさんに先行ってもらうしかない、かな…」
ははは、案内人失格である。自嘲紛れに笑みが零れた、川から顔を離すとくらりと眩暈が
起こる。そしてまた川に突っ伏してしまう。やっぱ自分にはそういう、国家とか大脱走とかス
ケールの大きいことは向かないのかもしれない。
水面の中の異常眼は冷静に、水面の温度と透明度、成分分析までつらつらと始める。スズ
ナ山脈の鉄分が0.5%と言われても何の役にも立たない。せめて、コイツがもう少しだけでも
もっと力のある能力だったら…
「…情けねー…」
いつものことだったが、今回ばかりは自分に落ち込むアダムであった。
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『クロエさん、落ち込んでる?』
「はい…」
正直に答える竜に、刀は「だよねーやっぱり」と言葉口調だけで溜息をついた。嘘がつけな
いアダムは、やっぱり嘘がつけなかったので、ラドフォードでの逃走劇の真相を丁寧に話し
てしまったのである。
「…昔は、それでも人との争いはありました。でも、そんな…今みたいなことはなかったんで
す。そんな、私が」
シックザールを抱え込んでうつむくクロエ。話を終えたアダムはトイレだとか行って川のほう
へ行ってしまった。残されたクロエはうつむいたまま、沈鬱な表情でアダムの残したシック
ザールと一緒にいた。
『……兵器って見られていたことにショックだったの?』
「違う…と思います。私のせいで、クリノクリアのエルフ達にそんな迷惑をかけてしまったこ
と…シメオンが今も酷い目にあってるかもしれないこと…そして、」
シックザールに、一粒の水滴が零れた。
「また、私は人を殺してしまうかもしれない…」
そのまましばらく時が過ぎた。木々の揺れる音と、小鳥の鳴声が頭上に響いている。風が
少しだけ強くなってきて、クロエのスカートを揺らした。そして、先に喋りだしたのはシックザ
ールのほうだった。
『ねぇ、クロエさん。僕、一度も人を殺したことないんだ』
「…え?」
唐突に始まった会話に、クロエは涙を流すのも忘れてぽかんとした。
『おかしいデショ?だって僕、刀だもん。人を殺すために作られたんだ。でもね、アダムは僕
で人殺しをしたこと、一回もないよ』
「………」
クロエの泣き顔に、シックザールは明るい口調で…それこそ茶飲み話みたいな雰囲気で続
けた。
『僕はただの道具だけどアダムはね、”友達だ”って言ってくれるんだよ。友達に人殺しさせ
るわけにはいかないだろって。僕、どうして刀なんだろうって思うときあったよ。だってアダム
とかクロエさんみたいに”生きるために”生まれてこれたなら、どんなに幸せかなぁって』
「…生きるため?」
『だって、クロエさんには生かすか殺すか選択権があるじゃない。でも僕にはないものだし。
僕はそもそもそれ専用のために作られたから、それ以外のことには役に立たないって思っ
てたんだよ…でもね』
もし刀に胸があったのなら、シックザールは胸を張って答えただろう。自信に満ち溢れた言
葉で、
『僕、刀でよかったなぁって今は思うんだヨ。だって友達のアダムを守ってあげられるモン。
アダムはね言ってたよ”お前は人殺しの道具だったかもしれないけど、今は俺の友達だろ”
って』
一振りの刀が秘めていたのは、そんななんでもない一言だった。
そんななんでもない、当のアダムでさえそのときの会話を覚えているかどうか。しかし、それ
がシックザールの一番大事なものかもしれない。
『クロエさんも、アダムの友達なんデショ?だったら大丈夫だよ、アダムの友達はね、人殺
しなんてしないんだよ』
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クロエが笑った。シックザールも声はなくとも笑っていた。
二人でしばらく笑いあった後、同時にはたと目を(シックザールには目はなかったので気配
を)あわせた。
「…ところで、アダムが遅くありませんか?」
『偶然だよね、僕もそんなコト思ってたんだケド…』
二人は顔を見合わせて(シックザールの本体を見て)、そのまま駆け足で斜面を下りていっ
た。
『よく考えれば、三日前から合計してけっこう生死が危ないかもしんない』
「人間ってどれくらい脆いんですか!?」
人間オンチのクロエに、シックザールはえーと、といいながら考える。
『えーと、割とさっきの飛び降りは十回やると八回ぐらいは死ぬカモ』
「アダム!!」
悲鳴に近い声で、川岸に向かうクロエ。シックザールも『生きてるといいなぁ、だってせっかく
いい事言ったんだし』と呟いた。
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痛みと冷たさで沈んでいた意識の中、ふいに暖かい光で目を覚ます。
急に痛みが引いて、理性が戻り意識が水面から浮上する。か細い手がしっかりと身体を支
えていた。
「良くなりましたか?」
目の前にいるのは、人の形をした竜だった。ぐったりした自分を支えてもびくともしない。普
通逆だろ、いや役割が。
「あれ、クロエさん…回復魔法?」
「いいえ、アダムにお願いしたんです」
「あぁ…そうなの…」
そりゃ女の子のお願いは断れない。自分単純すぎやしないか?
クロエには一種の支配能力があるらしく(本人いわく、お願い事だというが)自然に影響しあ
る程度まで働きかけることができるという。
「本当は人間とかとてもはっきりした自我を持つ命には難しいんですけど」
植物を元気にしたり、水を綺麗にしたりできるという。この場合、アダムの身体に働きかけて
治癒を促進させたと見るべきか。もうクロエさん何やっても驚かないよ俺。
「アダム」
「あー結構楽になった。とりあえず今日寝てればなんとかなりそう…ってなに?」
なんかじっと見つめてくるクロエさん。ちょいと心拍数が上がりそうなのを飄々とした受け答
えで誤魔化そうとするが、顔が赤くなるのは止められない。
「その、…私は友達ですか?」
突然のクロエの、真剣な言葉。
するとアダムはその言葉に酷くショックを受けた顔をし、すぐに引きつった笑顔になって言葉
を続ける。なぜか語尾が震えている。
「…え、ま、まぁそうだよね。友達だよね」
「ありがとうアダム!私は、貴方の友達ですね!」
するとクロエはとても嬉しそうに笑って言った。隣でアダムも笑いつつ、どこか寂しげな目で
それを見つめる。
「友達…だよなぁ、やっぱり」
「はい?」
「いんや、なんでもないから…」
なぜかちょっとだけうなだれるアダムに首をかしげたクロエ。
シックザールは『あーぁ、クロエさんてば見事にやっちゃったなぁ』と心の中で呟いていた。
夕方の空に、薄い雲が伸びる。ようやくクリノクリアの悪夢の一日が終わりを告げようとして
いた。
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Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv1.8
ドキドキ度… ☆☆☆☆★
ほんわか度…☆★★★★
ヤヴァイ度… ☆☆★★★
胸キュン度… ☆☆☆☆★
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