忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 00:05 |
星への距離 1/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ
NPC:仕立て屋一家
場所:セーラムの街
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

セーラムという小さな街には、仕立て屋が一軒あった。
注文を受けて衣服を仕立てるのが主な仕事だが、金さえもらえば寸法直しや古着の仕
立て直しもする。
店は二階建てで、一階に店を構え、二階を生活の場にしている。
店主と、その妻、そして息子の三人が、経営を切り盛りしていた。

二年前までは。


「洗濯に行ってきます」

カゴいっぱいになった洗い物を抱え、二階から降りてきた少女は、そう言って外へと
続くドアを開けようとした。
小柄で肉付きが薄く、銀色の髪にカチューシャをつけた少女である。

「スーシャ、これも洗っておきな」

威圧的な低い声に振り向くと、ばさ、と頭に布が落ちてきた。
放られたのだ、と理解するのに時間はかからなかった。

――汗くさい。

人に向かって汚れ物を投げつけるのは、失礼極まる行為である。
怒りをおぼえて当然、と言ってもよい。
しかし、スーシャと呼ばれた少女は特にこれといって怒りの反応を示さなかった。
うつむき加減の目に悲しみの色を浮かべたものの、何かを言うこともなく、放られた
布をカゴに入れる。

「行ってきます」

静かに告げ、ドアを開けて外へ出た。
洗濯場は家の敷地内にある井戸のそばだ。
そこまでのわずかな距離を歩きながら、スーシャの青い目に、じわり、と涙がにじ
む。
口元をぎゅっと閉じ、カゴを持つ手に力がこもる。
……泣くのをこらえているのだ。
泣いたってどうしようもないことぐらい、彼女だって理解している。
それに、泣いているところを目撃されたら、「めそめそして、気に入らない」などと
なじられてしまう。

スーシャは、二年前、この仕立て屋の家にもらわれてきた、養女だった。

世間一般に、養女がどんな扱いを受けるのかはわからないが、スーシャの場合、この
家において一番立場の弱い人間だった。
どこにも味方などいない。
たとえ八つ当たりをされても、文句など言えない。
そんなことをしたら、「養ってもらっているくせに、逆らうのか」と、さらにひどい
目にあわされる。
拳や平手、怒鳴り声の記憶は、彼女から笑顔を奪い取っていった。

辛いことがあったとしても、飲みこんでしまえばいい。
胸が痛んだとしても、押し殺して耐えればいい。
そうしていれば、とりあえず、何事もないのだから。

スーシャには、仕事の手伝いではなく、家事の役目が与えられていた。
「仕事を覚えられて、将来、技術を盗まれたら困る」というのが理由だった。

掃除、洗濯、食事作り。

別に嫌いな事ではない。
する事自体は煩雑なことではないし、きれいになった床や、真っ白になったシャツを
見ると達成感すらおぼえる。
食事作りだって、よい味に仕上げられると、味見の時に浮かれてしまう。

しかし、これが、単なる義務でやらされている『労働』なら、どうなるか。
単純である。
ただひたすら、何の感動もなく、苦痛なだけだ。
なじられないよう、そつなく仕事をこなすだけ。

しかも、どんなに体調を崩していても休ませてはもらえない。
体調不良で上手くできないでいると、たちまち、罵詈雑言を浴びせられる。

泣いている暇はない。
さっさと済ませないと、家の中から、怒鳴り声で名を呼ばれる。
あの声を聞くと、おかしくなるのではないかというぐらい心臓が跳ねあがって、身が
すくむのだ。
乱暴に目をこすり、井戸から水をくみ上げる。
桶の中で揺れる水面に映った顔は、まるでぐしゃぐしゃに顔をゆがめて、泣いている
ようだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PR

2007/07/20 02:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<MT「02.橋上の戦い」/アンシェリー(いずる) | HOME | Rendora-9/アダム(Caku)>>
忍者ブログ[PR]