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2025/03/10 07:04 |
Rendora-10/クロエ(熊猫)
キャスト:アダム・クロエ
NPC:シックザール
場所:クリノクリアの森→ヴィヴィナ渓谷川辺
――――――――――――――――

もう一度クロエが倒れた古木を谷底に落として
焚き木を足したのを除けば、平穏な夜だ。

夕闇に染まる谷底はさらに寒さを増し、焚き火から少しでも離れれば
あっという間に体温を奪っていってしまう。
それほど入り組んだ地形でもない谷底にある、わずかな出っ張りの隅で
二人は火を囲んで座っていた。

膝を抱えると、スカートに染み付いた焚き木の匂いが鼻を通る。

それから顔をそむけるように、クロエはアダムのほうをちらと見た。
アダムは鞄から取り出した金属の筒を、やはり金属製の爪でこじあけている。
尋ねると、缶詰という保存食の類だと彼は答えた。

クロエが多少癒したためか、アダムはさきほどより動けるようになっていた。
が、それでもこの谷底で食料を確保して料理するまでには回復していないらしく、
こうして貴重な缶詰の封を開けている。

まじまじとそれを見ていると、アダムは手を止めた。
そして困ったように笑い、缶詰を開けていた道具を差し出してくる。

「やってみる?」
「いいんですか!?」

ぱっと顔が輝くのを自覚しながら、クロエは嬉々として頷いた。

「ふちにツメを引っ掛けて…そう、そんでもって押して…」
『クロエ、逆だよそれー』
「こうですか?」
「いや、上下逆ってことじゃなくてね…」

アダムとシックザールの声を背景に何回かやってみるものの、
どうにも上手くいかない。危うい手つきのクロエを見るアダムは、
顔を見て察するに缶を引っ繰り返されることを恐れているようだった。

「か、代わろうか」
「そのほうがいいみたいです」

苦笑して、素直に缶を明け渡す。手早く蓋を開けながら、アダムが尋ねてくる。

「ラドフォードには缶詰、ないんだ?」
「どうでしょう?少なくとも100年前はこんな便利な物見たことありませんでした。
今は…あるのかわかりませんが」
「そっか…クロエさん、起きてからラドフォードにいたのって一日もないんだよね」

なにげなく放たれたその事実に、はたと動きを止める。
同時に「しまった」という顔で、アダムも一瞬手を止めた。

「ごめん」
「いえ…気にしないでください。あれ以上ラドフォードに留まっていたら、
むしろ離れられなくなっていたかもしれませんから」

微笑して返すが、アダムはそれは建前だと受け取ったらしい。肩を落として、
開いた缶詰に直接フォークを突っ込む。
アダムに食欲がないのははた目にも明らかだった。
あまり噛まずに缶詰の中身を口に掻き込んで、一言も発することなく数分で
質素な食事を終わらせてしまう。

「俺、そろそろ寝るね」
『えー。もうー?』
「そうだよ。怪談でも話せってのか?」

カラン、と空になった缶にフォークが当たって音をたてる。
その音に我に返ったクロエは頷いたが、既にアダムは焚き火にあてて
乾かしていた薄い毛布のようなものを引っ張っると、鞄を枕にして
岩と岩の間に身体を横たえようとしていた。

「ちょ、ちょっと待ってください」

慌てて制止する。しかしアダムは背に当たる石の感触に顔を
しかめながら言った。

「あぁ、大丈夫だよ。何時間かしたら見張りするから」
「違いますっ」
「?」

立ち上がり、疑問符を浮かべたアダムと焚き火から少し離れる。
アダムはそのまま動きを止め、ぽかんと事の成り行きを見ていた。
それには構わず、呪文を呟いてさっと身を翻す――

一瞬後には、川に沿って竜の姿で横たわっている。
がらがらと音を立てる石原を腹の下に敷いて、ゆっくりと
アダムのほうを見る。半身を起こした青年は、まだ呆気に
とられた顔でこちらを凝視していたが。

一日に何度も身体を変化させるうち、クロエは確実に距離感を
掴み始めていた。
人の姿であれば声を張らなければ川の流れる音に負けてしまう
距離でも、竜の姿ともなれば話は別だ。
もっとも、相手の心に直接響く念話では距離は関係ないが。

『どうぞ』
「はぁ!?」

すっとんきょうな声をあげて、アダムが冷水でも浴びせられたような
顔で完全にこちらに身体を向けてくる。
クロエは顔をアダムの鼻先に近づけると、さらに地面に顔を伏せて、
額を見せ付けるようにしながら言った。

『石の上で寝るのはつらいでしょう?よかったら私の上に寝てください』
「な、何言ってんの?え、いや…え?」

ワイアーム種族の体には鱗のほかに、わずかだが羽毛が生えている。
わずかといってもそれはクロエの身体全体の割合の話であって、
アダム一人くらい寝転がってもまだ余裕があるほどの範囲を占めているが。

それでも抵抗があるらしく――クロエにはどうして彼がそれほど
ためらうのかさっぱりわからなかったが――アダムはただうろたえている。

『いいじゃん、寝ちゃいなよ。昼間あのずるべたキモ竜に背中から
ダイレクトに落ちて超痛いっぽいじゃん』

面倒臭そうに、シックザール。

『仮に追っ手が来たとしてもそのまま逃げられますし…。
見張りなら私がしているからゆっくり寝ていてください』
「いや、そうじゃなくてね……」

ぺたんと顎をつけたまま、じっとアダムの狼狽ぶりを
上目遣いに見て、一言呟く。

『知っていますか?私を見ると、よい夢が見られるそうですよ』

・・・★・・・

竜の姿のときにはないもの。

人の姿のときにはあるもの。

視界を濁す水。

感情を洗い流す透明な水滴。

羅列すれば"それ"を表す人間の言葉はいくらでもあった。
しかし、クロエはそれの本当の名前について考えたことはない。
そもそも人語をこうして日常的に使う事すら初めてに等しい。

"それ"が何か問いかけたら、アダムは笑うだろうか。
それとも疎ましく感じるだろうか。

(人にとっては…ありふれたものでしょうから…)

ちょうど頭の頂点あたりにアダムの重みを感じる。
ついさっきまで落ち着かない様子で寝返りを打っていたようだったが、
疲労が勝ったのかぴくりともしない。

結局のところ、100年かけても人間は変わりはしなかったのだ。

ふっと、そんな思考が脳裏をかすめる。
人間は優しくなどなっていなかった。それどころかさらに強大で
冷酷なものになっていた。
ぎゅっと胸を締められるような感覚に襲われながら、クロエは
静かに目を閉じる。

脳髄の向こうから音の無い絶叫が聞こえる。

それらを発する者の顔に恐怖などありはしなかった。
ただ驚愕のうちにすべてを取り払われて塵と化していく様を、
クロエは余さず見ていた。

すべてが果てる光景。その中心にいる自分。
その光景を作り出した自分。


『綺麗だった』


(やめて!)

凄惨な記憶に割り込んできた、柔らかい声を振り払うように
目を見開く。
いつの間にか呻いていた。低い地鳴りのような竜のいななきは
谷底で反響し、水音にかき消されていった。

その中で、アダムの寝息が聞こえる。

(この姿になっていてよかった…)


人の姿だったら、きっと泣いていただろうから。


――――――――――――――――
機関車があるなら缶詰くらいあってもいいじゃない。

Rendora診断(最高五つ★)
恋愛レベルLv2
ドキドキ度… ☆★★★★
ほんわか度…☆☆★★★
ヤヴァイ度… ☆☆☆☆★
胸キュン度… ☆☆★★★
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2007/08/24 01:49 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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