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2024/05/17 08:44 |
Rendora-1/アダム(Caku)
PC アダム クロエ
NPC 第一領領主シメオン/シックザール
Place 正統エディウス帝國第一領ノルジア・都ラドフォード内シメオン屋敷→
屋敷の裏手の森
------------------------------------------------------------

「あだだだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー!!!!」

痛い、そりゃあもう。
なんてったって、肩抉られましたからねそこ。ざくっと、えぇざくっと。

「痛い!ていうか、痛いって言えないほどいてぇ!!ぎゃあああああああーー
ー」

エルフのお姉さんは、それでもすっげぇ綺麗な笑顔で、包帯をきつくしめあげ
た。Sだ!綺麗なお姉さんのくせにSだ!でも綺麗だから許す!でも痛い!
と、かなり論理破綻した思考のアダムであった。

*********




『…シメオン、クロエ。お茶にしましょう』

優しい姉の声はいつから自分を苦しめるようになったんだろうか…。
やや頭痛の響く頭を振り払うように、寝室のベランダに出たシメオンはため息
をついた。クリノクリア・エルフの都ラドフォードと、クリノクリアの森全景
を見渡せるこのベランダは、クリノクリア・エルフの祖先が作り上げたもの
で、幼い頃は姉と自分と、そして幼馴染とよく遊んだものだ。
あの頃はよかった、と柄にもなく感傷的になってしまうのは、やはり今日の昼
の事が自分の中で尾を引いているのだろう。一ヶ月ほど前に、エルフの親子が
都市外で襲われ、子供を攫われるという事件が起こった。その子供を別の街で
助けたという旅の青年に対して、都を守るエルフらは一斉に魔法攻撃を仕掛け
てしまったのだ。

青年は軽傷ではないが、命に別状はないという。エルフらの過剰反応は今に始
まったことではない、近頃はエルフらが人間に対して過激な行動をし、出入り
の商人などが個人で武装を強める。それがさらにエルフらの感情を逆撫でし、
警戒をさせる。シメオンの権限を持ってしても、人間らとエルフらの個人感情
だけはどうにもならない。シメオン自身ですら、いまだ人に根深い不信感があ
ることも解決の糸口が見えない要因の一つだ。

「シメオン様、客人の手当てが終わりました」

屋敷仕えの女中エルフがやってきて、例の青年の報告をする。シメオンは何事
もないかったように、平静に聞き返えした。

「そうか、ご苦労だった。具合はどうだ?」

「光の矢が左肩を貫通、右足を掠めていましたが肩以外は完治したようです。
肩は数日ほどはかかるようですが…」

「わかった、後は私が相手をしよう。君は下がりなさい」

「はい」

女中を下がらせ、シメオンはもう一度だけ姉の声が聞こえたような気がした。
人間もエルフも分け隔てなく接した姉。それがシメオンの常に目標だった、そ
れは…彼女が死んだ後も、変わらない。変わらないのだと、自分に言い聞かせ
て。


*********


「…初めまして、客人よ。私の名前はシメオン。正統エディウス第一領ノルジ
ア領領主シメオンです」

アダムという青年は、最初ぽかーんとした表情のあと、うーんだのむーんだの
唸ってから、いきなり驚いた顔でこちらを指差した。人の年齢で20過ぎだと
いう、シメオンにとってはまだ赤子にも感じる年齢だが、彼は随分と若く見え
る。リアクションが素直なせいもあるのかもしれない。

「しめっ、シメオンって!あいやシメオンさんってあの“トレントの王様”の
シメオン!?」

「…あぁ、そのような童謡がエディウス人の間にあることは知っております
が、貴方の国はもしや」

すっと目を細めて、目の前の青年を注意深く観察する。髪色は違うが、よくよ
くみれば確かに瞳はエディウス人種特有の深い青緑色であり、顔立ちや背丈も
この地方の人間の平均的身長に合致する。ちなみに“トレントの王様”という
のは、二百年前ぐらいから人間達が自分の召喚するトレント(木の精霊)のこ
とを童謡化したものである。この地方の民謡の一つだ。

「そうですか、なるほど貴方は確かにエディウス人の血統のようだ」

「あー…まぁ父親のほうが移民だったし。それに前の国家分断で家族で国出た
から、もうここの人間だとは言えねーかもな」

互いに沈黙。アダムはこの話題は避けるべきだったと後悔し、別の話題を振る
ことにする。

「えと、他にも色々母さんは知ってた。ほら“竜の歌”とか」

「あぁ」

シメオンも話題に相槌をあわせる。エディウス地方にはドラゴンが多い、人の
生息域と竜の生息域が重なることは珍しいことではあるが、それはエディウス
地方の特性故だ。

「エディウス地方には鉱石や宝石の類といった「地」の流れが存在します。エ
ディウス鉄脈などもあり、元々大地に根付くドラゴンらが集まりやすいのでし
ょう」

エラスムス山脈などもあり、そこには宝石竜という他ではあまりお目にかかれ
ないドラゴンも存在する。大陸の中央であり、また世界の魔力(マナ)が均等
に循環しやすいのだろう。他にもさまざまなドラゴンがエディウス地方には存
在する。

「エディウスに住む者にとってドラゴンはある意味では身近な存在であったの
ですから、この地方の言い伝えや民謡で一つのジャンルが出来ていくのも不思
議ではない」

「エラスムスの歌、とかよく聞いたなぁ。宝石で出来たドラゴンとかすごいよ
なーエラスムスっていうのも、ドラゴンなんだから、きっとでっかいんだろう
なぁ。」

エラスムス、というのは新生エディウス第4領セイレランと第7領エクレアにま
たがる山脈にすまうドラゴンのことだ。大陸全土を見回しても珍しい、千年越
えを数え、また彼はアラゴナイトという宝石で出来た、絶対的に種族数が希少
な竜だ。シメオンとも交流のある彼は、古くから地方の伝承で古き竜としてか
語り継がれている。

「…えぇ、まぁクロエよりは小さいが」

「は?誰?」

「いえ、なんでもない」

シメオンの呟きに、首を捻るアダムであったが、肩の痛みに思わず呻く。あた
たたた、と情けない悲鳴を上げていると、シメオンの手が肩に触れ、痛みが遠
のいていく。回復魔法らしが、呪文の詠唱もなしに発動できるとは、さすが正
統エディウス帝国の国境線を守る樹林兵トレント三百体の召喚主である。

「客人よ、この度は本当に申し訳なかった。どうかクリノクリア・エルフを許
して欲しい、身勝手な言い分だとは重々分かっている。だが、本当に君個人へ
の悪意はなかったのだ」

「あー…おっけ。いいよ、あんたらの噂も聞いてる。俺個人としてはすっげぇ
豪邸で食いモンが美味しいとこで泊まらせてもらってるから、それだけで十
分」

悪意ではなく、敵意だろうなぁとぼんやり考える。痛みが遠のいた肩をさすり
ながら、周囲を見渡す。

「ところで、俺の持ってた刀知りません?」

「女中に言って、貴方の部屋に戻してあります。女中が不思議がっていたとこ
ろを見ると、なかなか珍しい品物のようですね」

「まぁ…そうでしょーね」

余計な事を言ってないかが非常に不安だが、とりあえず部屋に戻ろうとする。
背中からシメオンの問いかけが聞こえた。

「客人、あなたはエルフが憎くないのですか?それだけの怪我を、善意の代償
に受けながらも」

「いや、でもあん時はマジで焦ったし、びびったって。そりゃ文句がねーかと
言われりゃあるに決まってるけど。でも誤解だったって分かったし、俺ほら、
一平民だからこういう豪邸って泊まれるのこういう事ないと無理だし。まぁ後
は例の子供らが親御さんとこ帰れればそれでいいんじゃねぇかな」

俺、単純だから、と言い捨てて部屋を後にする。正直エルフに対してわずかな
怒りもあったが、子供らが自分を庇った時の泣き顔で全部吹っ飛んでしまっ
た。お人よしな自分に酔ってるのか、あるいは考えるだけの頭がないのか。ま
ぁ後腐れがないのは良い事だ、と割り切ってあてがわれた部屋まで歩く。


『しっつれいだよねー本当!人様のものに怪我まで負わせて!
アダムもアダム、もうちょっと金せしめるぐらい態度デカくしたっていいんじ
ゃない!?こっちは被害者、あっちは加害者』

相変わらず、毒舌塗れの無機物生命体こと謎の刀・シックザールに、アダムは
うんざりと返す。

「失礼千万なのはお前だっつーの、あのね、俺は事なかれ主義なの。ついでに
口だけの無機物と違って人間には良心ってものがあるの」

『そーんなもの、命には代えられないでしょ?アダムはいっつもそうやってボ
ロボロになるんだもん、ただでさえ人間は体が脆いんだから、あっちこっち首
ばっかり突っ込んでると、首なくなっちゃうよ?』

本人(刀)はうまいことを言ったと自画自賛しているようだが、割とアダムは
笑えないのであった。首のない無機物生命体にはわからないだろうが、首がな
くなれば人間はただの死体である。

シメオンの部屋と同じ最上階にある寝室は、ラドフォード全景を見渡せる高い
場所にある。シックザールを担ぎながら、ベランダに出て見るとこれが物凄い
気持ちいい。偉い人ってなんでいつも高いところ好きなんだろう、でも俺も偉
くなくても高い所大好きだし。

『馬鹿だからね』

「てめぇ!俺はいずれ偉大になるっていうフラグなんだよ!」

そろそろコイツぶん殴ってやろうか、と思わず相棒を掴んで振り回す。と、掴
んだのがいつもの持ち手ではなく、鞘だった。怪我のため、担いだ際に適当な
部分を掴んだのだった。当然、

『ってア……』

「あ」

怒りの遠心力はけっこうあったらしい。すっぽーん、と刀身が抜けて、ベラン
ダから急降下!マズイ、下に人がいたら俺殺人犯!健気な英雄から一変して無
差別殺人犯!

「シックザールーーーーーー!飛べ、お前にならできる!飛ぶんだ!人を殺す
前に!!」

『ぎゃあああああああ!!!僕にどうしろっていうのー!』

アダムの祈りが天に通じたのか、あるいはシックザールが殺人犯というか殺人
物?になることを神が哀れんだのか。ベランダから投げ出されたシックザール
は屋敷の裏手の森のほうへ落ちていった。そこに人がいないことを心底信じて
から、アダムは、昨日受けた光の魔法の如くの速さで屋敷の外に向かって駆け
抜けていった。

*********

「おーい、シックザールー」

森の中へ分け入って、転がり落ちた相棒の名を呼んでみるも反応がない。原生
林のような濃密な樹木と草木の間を苦労して足を進める。この辺りに落ちたこ
とは自前の「異常眼」で特定済みである。ちなみに人が死んでたらどうしよう
と本気で心配。

「死んだか!よし、死んだなら成仏しろよ相棒!」

『ひどいー!こっち!僕を見捨てるなんて、あんなに尽くしてきたのに!』

「いや尽くされた記憶まったくねぇ!皆無!」

かなり斜面に落ちたらしく、アダムの足元から七メートル下の小山のような場
所にぽつんと転がってる相棒を発見。さすがに肩がまだ痛むなか、七メートル
落下はきつい。ついでに肩を怪我してなくても厳しい高さ。でも人間が転がっ
てなくて俺割と安堵してる。仕方ないので、また苦労して足場を選びながら降
りる。やっとシックザールの隣に着地すると、思いのほか堅い感触が靴裏から
響いてきた。

「おりょ?」

『どしたの?』

「いや、地層が岩かなんかかな…今までの感じと違うんだけど…ま、いっか」

とりあえず刀を拾う。落ちたときに木々や雑草に絡まったのか、あちこちに葉
っぱが付着している。

『わーんアダム寂しかったヨー』

「寂しそうじゃねーよな。ったく、手間とらせんなって」

背中のホルダーに装着して、一息ついて周囲を見渡す。来た方向は覚えてい
る、樹林の向きや陽の加減でなんとか方角も分かるだろう。と、思考中に地震
のような揺れが一回。微かな、本当に微かな揺れを感じて、アダムは腰を低く
した。

「………」

『何?ナニ?超人に覚醒?秘められた能力開花とか?』

「うっせ、だまってろ」

規則的に、一度、二度。慎重に丘を降りる。丘は先端が細く、中ほどで盛り上
がり後方ではやや高さを低くして遠くまで伸びている。丘の側面に手を置きな
がら、アダムは無言で周囲を見回した。地震のような感覚は今はない、先程の
かすかな揺れは気のせいだったろうか?

『アダムっ!あだっ、横!横!!』

「あ?」

シックザールいい加減煩せーぞ!という単語を喉から出そうとしていたアダム
がふと横を向くと、そこには紫色の巨大な円形の結晶があった。一メートルあ
るかないか、の巨大な眼球である。チャロアイトのような淡さと深さを感じさ
せる青紫から深紫色の鋭い水晶体が動き、ゆっくりとアダムと目を合わせた。

「……」

『……』

無言。とにかく無言。
蛇に睨まれた蛙ってそりゃ正確だ。もっと正確には竜と目があった弱小生物
だ。待て、この眼球サイズでって頭部はどんだけでかいんだ。ってアレ?もし
かしてこのままだと命が危ないと思う人挙手!ハーイ!

『「ドラゴンだぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー!」』

きっかり一秒後、森に絶叫が響いたのである。






******** * * *…


「おや」

シメオンはエディウス国境線を守るトレントに思念を送るのを止め、書斎から
窓辺による。見渡すクリノクリアの森から小鳥や蝶が飛び立った。そのまま眺
めていると、巨大な蛇のようなシルエットが森から起き上がった。多くの動物
らの声も聞こえてくる。

「…相変わらず大きいな…」

シメオンはしみじみと呟いた。幼馴染の体長は、おおよそ知る限りのドラゴン
の中で最も巨大だ。その百年ほどぶりな姿を見て、近衛兵のエルフらに迎えに
行くように指示をする。
昨日今日といい、色々な出来事が起こるものだ、と彼は妙に感心した。

「お茶の用意を、百年前と同じ銘柄を用意してくれ…あぁ、そうとりあえずミ
ルクは三リットルで」

「さっ、さんりっ…!!」

目を白黒させている従者を見て、わずかだが久し振りに笑みを浮かべるエルフ
の当主。幼馴染の久し振りの起床を出迎えようと、百年前から閉じたままの戸
棚から、百年前の銘柄を取り出しているのだった。


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2007/05/28 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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