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2025/03/10 06:31 |
立金花の咲く場所(トコロ) 39/ヴァネッサ(周防松)
件  名 :
差出人 : 周防 松
送信日時 : 2007/04/17 23:34


PC:(アベル) ヴァネッサ 
NPC:ウサギの女将 ラズロ
場所:エドランス国 せせらぎ亭

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ギサガ村を出て、王都での……というよりも、アカデミーでの生活を始めてからしば
らくの日数が経った。
やはり王都の規模は、長く過ごしてきた村のそれとは違う。
ギサガ村は、半日もかからず全てを回ることもできた。
しかし王都は……言わずもがな。
一気に広くなった世界に、時折戸惑いながら、どうにかこうにか毎日を送っている。
今はまだ『日常』とは呼べないが、そのうちに慣れきって、村で生活していた時のよ
うな感覚で暮らす時が来るのだろう。

(そろそろ、お義母さんに手紙を出そうかな……)

とぼとぼとアカデミーからの帰り道を歩きながら、ヴァネッサはそんなことを考えて
いた。
村を出る時に、カタリナとそんな会話をしていたのだ。
「落ちついたら手紙を書きます」と。
その「落ちついたら」というのが、そろそろ、今頃じゃないかとヴァネッサは思って
いた。

(書き出しはどうしようかな。えーと、最初は『お義母さんへ』で始まって、『お元
気ですか?』かな……その次が、『私は元気です』……あ、でも、私だけじゃなく
て、アベル君やラズロ君のことも書きたいし、そうしたら、『私達は元気です』の方
がいいのかな?……うーん……でも、それって変……)

誰かに手紙を書くなんて初めてのことで、ヴァネッサは手紙につづる文章を考えるの
に夢中である。

この場にアベルがいたら一緒になって文章を考えたりしてくれそうなものだが、今日
はいない。
アベルは何やら先生に呼び出されてしまい、待っていようかと思っていたのだが、他
ならぬアベルから「話が長くなりそうだから」と促され、一人で先に帰ることになっ
てしまった。
……アベルとヴァネッサは、村にいた時と同じように、今もだいたい一緒に行動して
いる。
深い意味はない。
仲が悪いわけじゃないのだし、何より気心が知れた相手だから、ぐらいの理由であ
る。
もし、お互いに少しでも妙な感情があるのなら、意識してしまう事で距離ができてく
るだろう。
二人には、そんな気配すらない。
すなわち、お互いをそんな対象として見ていない、ということである。

リリアなどは、何やらそんな設定の恋愛小説を読んだらしく「血のつながらない兄と
か弟とのラブロマンスって、経験してみたい!」などとのたまって、ヴァネッサをひ
たすら苦笑させたものだが。

だいたい手紙に書く内容が決まったところで、せせらぎ亭に到着した。
考え事をしながらでも無事に辿りつけるようになったのは、大いなる進歩である。
少し前ならば、曲がるべき角を通り過ぎてしまったり、道を一本間違えてしまったり
ということもあった。

「た、ただいま……」

いまだに、敬語を使いそうになるのをこらえながら、ヴァネッサは帰宅の挨拶をし
た。
すると、女将がパタパタと厨房の奥から小走りにやってきた。
女将は、そんなヴァネッサに「おかえりなさい」と微笑むと、それから、ちょっと慌
ただしい感じで、
「ねぇねぇねぇ、ヴァネッサちゃん。急なんだけど、明日は臨時休業にするわ。アベ
ル君やラズロ君が来たら、そう伝えておいてちょうだい。じゃあじゃあじゃあ、私、
これからちょっとだけ出かけてくるから」
「臨時休業……ですか?」
ヴァネッサは、首をかしげて女将を見た。
カタリナが店を休むことは滅多になかった。
その滅多にない休みの日というのが、体の具合が悪くて、どうにもならないという時
だった。
(女将さん……具合が悪いのかな)
そう思うと、出かけるという女将が心配になる。
「女将さん。お体の具合が悪いのなら、その用事、私が代わりに行って来ますけ
ど……」
すると、女将はぴょこんと耳を動かした。
「あらあらあら、心配してくれるのはありがたいけど、そうじゃないのよぉ」
「え?」
ヴァネッサは思わず首を傾げてしまう。
それなら、一体どういった理由だろうか。

「それがねぇ、うちのお店の味を支える、大事な調味料が底をついちゃったから、明
日はそれを取りに行くために、お休みにするのよ。これから、明日出かけるための準
備をするの。そんな、深い事情とかじゃないから、安心してね」

そう言いながら、小さな両手を口元で合わせている仕草が、なんとも可愛らしい。
女将の正確な年齢はわからないが、おそらくはカタリナやギアよりも上だろう。
それなのに、やっぱり、可愛い。
……失礼になるだろうから、決して口にはしないけれど。

「あ……あの」
不意に、ヴァネッサの頭に一つ、ひらめきが起きた。
「なぁに?」
そう言って見上げてくる丸い瞳が、何とも愛くるしい。
「あの、その、調味料を取りに行くの、やらせてもらえませんか?」
「えぇえぇえぇ? 別に、難しいことじゃないからいいけど……でもでもでも、いい
の? アカデミーでの授業とかもあるんでしょう?」
「授業の方は何とかなります。それに、そういう用事って、下宿させてもらってる側
がやるもの、っていう気がするし……」
役に立ちたいんです、と言うと大げさな気がして、ちょっと言えないヴァネッサであ
る。
女将は、そんなヴァネッサを見上げて、ふ、と力を抜いた。
「うーん……それなら、お願いしちゃおうかしら。じゃあじゃあじゃあ、今から
ちょっと説明するわね」
「はい」


「ただいま!」

そこへ、アベルが帰ってきた。


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2007/04/21 22:13 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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