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2024/05/16 22:21 |
Rendora - 3/アダム(Caku)
PC アダム クロエ
NPC 第一領領主シメオン/シックザール
Place ラドフォード内シメオン屋敷の前⇒部屋⇒廊下⇒部屋
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そういえば、昔母親の口ずさむ歌にそんなのがあった気がする。
クリノクリアの森にすむドラゴンの伝承。世界が余りにも辛く悲しいことばか
りだから、心優しすぎるドラゴンは悲しみのあまりに眠ってしまったのだとい
う。目が覚めるとき、世界がもっと優しくなっているようにと、祈りを込めて
瞼を閉じたという。

祈りだけが百年の時の中、歌として語り継がれていたんだろう。
母親の歌った音階も旋律すらも覚えていないが、その心優しいドラゴンの物語
だけは聞き覚えがある。クリノクリアのドラゴン、クリノクリアの優しい竜。
たしか、タイトルはそんなかんじだった。






***********************

「クリノクリア・エルフが森に棲む事を許した同胞、という意味ですよ」

苗字がクリノクリスだったのはそういうことなのか。アダムの頭がようやく人
並みに追いついてきた頃にシメオンの屋敷へと到着した。

「クロエさんって、年幾つ?」

「シメオン様と幼馴染ということですから、五百歳前後ですが」

「ごひゃ…!!」

あやうく叫びそうになって、口を塞ぐ。声に反応して振り返った少女クロエ
が、不思議そうな顔でこちらを見上げてくる。必死にごまかそうと、にへらと
気抜けする笑顔で笑う。するとにこり、と陽だまりのような微笑を返すクロ
エ。可愛いなぁでも年上かぁ、つか年っつーか世紀?うおぅ俺まだ23ですよ?

「あーそっか、じゃ、俺はここで」

身分を間違えてはいけない、俺は単にうっかり迷い込んだか弱い人間で一般市
民、相手は正統エディウスの半分以上の領土を統治している男で、幼馴染は超
巨大ドラゴン兼美少女だ。釣り合いが取れているかはともかくとしても、久し
ぶりの再会に他人は要らないだろう。

「そんな、せっかくですからアダムさんもどうですか?」

いやそんな眩しい笑顔で言うな!俺の繊細な気遣いよりも、下心というか女の
子に優しくされたいフラグ立つから。こう見えても眼球以外は普通の男の子だ
し、異性に優しくされんのは全人類共通で皆嬉しいし。

「いや、おれシメオンさんと旧知の中ってわけじゃないから」

「エディトもきっと喜びますよ」

と、クロエが女性らしき名前を挙げた瞬間、ぴしりと空気が断裂した。一様に
エルフは顔をこわばらせ、歩みを止めた。事態についていけてないのは、よそ
者のアダムと?マークを頭の上に浮かばせているクロエだけだ。

「…あの、エディトって?」

「シメオンの姉です、とても綺麗な女性で人間にもおおらかな」

シメオンの姉、と聞いて今度はアダムも顔を引きつらせた。クロエは説明しよ
うとして、さらに口を開いたが、周囲のエルフの中から先ほどクロエに「フォ
グナス」と呼びかけられたエルフの槍兵が進み出る。

「クロエ様、エディト様は…」

「何をしているんだ?」

アダムがいるので、さらに言いにくいのだろう。エルフらがどよめいているそ
の時、屋敷の正面扉から、エルフにして珍しい黒一色の服装のシメオンが姿を
見せた。シメオンさんすっげぇタイミング悪っ!てかまずいぞこの状況!どう
する俺&皆(周囲のエルフ)!!

「シメオン!久しぶりですね。以前よりも痩せてしまったのでは?」

「やぁ懐かしい親友よ、そんなところで何を話しているんだ?早く屋敷に入れ
ばいいだろうに」

「実はエディ」

「だぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!シメオンさん、俺入れて!俺高いお茶飲
みたいっ!!腹減ったんでお菓子くださいっ!速攻で光速で!むしろ音速
で!!」

これ以上ないぐらいの必死の形相で笑みを作り、シメオンに握手を求めながら
会話をシャットダウン。切れ長の目を白黒させて唖然とするシメオンに近寄っ
て、ぶんぶん掴んだ腕を振る。肩痛いけど俺、我慢しろ。割とシメオンにお姉
さんの話はえぐいぞ!

「…えぇ、私は特に…」

「決まり!シメオンさん俺手伝うよ!皿洗いから雑巾がけまでなんでも出来る
からっ!中、中はいろっ中!」

「いえ客人にそこまでさせるわけには、というか貴方はむしろ怪我人ですので
こちらが…」

「よし!じゃあ俺シメオンさん手伝うからっ!!クロエさんその他それじゃ」

エルフの長をぐいぐい押しながら屋敷に戻す。なにやら不思議そうな顔でこち
らを眺める竜に作り笑いを浮かべる。シメオンさんごめん、他人が幼馴染との
感動の再会にでしゃばります。本心ではないんですよ!と心で言い訳を言って
おいたアダムであった。

***********************


そんな彼らが屋敷に入った後、クロエは小首をかしげてフォグナスという見知
ったエルフに問いかけた。

「…そういえば、あの方は一体どうしてここに?シメオンのお友達なんでしょ
うか?」

「は?あぁ、彼ですか。シメオン様のご客人でアダム・ザインというそうで
す、先日我が同胞の子供らを助けてくださったのですが、こちらの手違いで怪
我を負わせてしまったため、シメオン様自らがご対応なさっているのです」

「まぁ」

やんわりと驚いたような表情をするクロエ。何かを考え込んでいたのか、しば
らく黙っていた後に、くすりと笑う。

「面白い方ですね、人間は皆ああなのかしら?」

「…いえ、おそらく違うかと…」

「じゃあ、彼が特別なんでしょうか?」

「…どうなのでしょうか」

フォグナスとて年齢はクロエに及ばない。また人間の性質など知る由もないの
で、人間が皆ああかと言われると彼も首を傾げるしかない。少なくとも、エル
フでもあまりみないタイプであることは確かだ。フォグナスの思考が横道にそ
れかけて、アダムがなぜああいう行動を取ったかの原因を思い出し、顔を強張
らせて咳をする。

「クロエ様、シメオン様に再会なされる前に一つだけ重要なことが」

「はい?」

クロエの微笑みが、そのエディトに似ていることにようやく気が付いた一同
は、さらに気を重くした。なぜなら、エディトもクロエも、この話をすればと
ても深く悲しむだろうと簡単に予測できたからである。

***********************


『ねぇねぇ、なんでさっきシメオンさんのお姉さんの話、遮ったの?』

無邪気そうに聞いてくる刀にガンを飛ばしてから、周囲に誰もいないことを確
認してアダムは部屋から出てこそこそと喋る。

「余計な口は出すなよ…お前は知らないだろうけど、昔ここはエディウス大帝
国っつってな、ロンデヴァルト2世っつう王様が統治してたんだけど、数年前に
急死したんだ。その後継に息子と、王の弟が二人とも名乗りを上げてて、それ
で国が分裂してんだよ」

『ふーん、で、なんでそれがシメオンさんのお姉さんの話題が禁句になるワ
ケ?』

「話は最後まで聞けっつうの。
いいか、最初はクリノクリア・エルフらは人間の玉座争いになんざ関わりあい
なかったんだけど、王の叔父のほうがすっげぇ好色で、クリノクリア・エルフ
のとある女性に手をつけて、子供まで産ませた挙句自殺に追い込んだっていう
話なの。どこまで信憑性があるかは知らねーけど、少なくとも叔父が打ち立て
た新生エディウス帝國にはクリノクリア・エルフのハーフが王位継承者として
公表されてるし、その母親がシメオンの姉だっつうことも暗黙の了解なわけ」

クリノクリア・エルフが正統エディウスに加担している理由はそこにつきる。
本来、調和を由とする彼らがなぜ、人間の国家間争いの只中にいるのか。それ
は殺された同胞への悲しみと憎しみ、そして未だ人の手の中にある忘れ形見を
取り戻せていないからだろう。

『えぐい!それヒドくない?無理やりで、しかも自殺?もしかしてアダム攻撃
されたのって…』

「そ、今ここは人間に対してすっげぇ不信感が募ってるわけ。【七領主】っつ
うエディウスの総地主らの中でも正統エディウス帝國寄りを表明してんのは、
第一領ここだけ。…新生への敵対意識と、あとそれを正統エディウスの【黒太
子】が都合よく利用してんだよ」

『【黒太子】って?』

「お前、それも知らねーのか!現正統エディウス国王ロンデヴァルト3世、シカ
ラグァっつう大国の女王から生まれた黒い瞳の少年王のことだっつの」

「正確には女王候補だった方から、ですよ」

とりたてて冷たい声ではなかったが、アダムの背中に冷たい怖気が走る。そろ
そろと後ろを振り向くと、予想に反して平穏な顔のシメオンと出会う。

「…あの、どっから聞いてしました?」

「七領主辺りからです、立ち聞きは良くないとは思いましたが」

よかった、一番まずいとこスルー。お茶会の用意がなされている部屋におっか
なびっくりで戻る。シメオンもそれに続く、なんか気まずい。

「すんません、あのコイツが」

『物のせいにするなー!』

「貴方のような職業の方には、生死を別ける情報なのでしょう。【黒太子】は
確かに異国の血を強く引く王子で、それが国内の有閑貴族や騎士らからの反発
を招いたことも国家分裂の要因の一つであるとされます」

シメオンもあまり気にしていないのだろう。あるいは政治的な話の方向は領主
である彼本来の持ち味か、流麗にこの国の現状を説明しはじめる。

「エディウス国民は排他的な性格が強い人種です。とくに王家の血筋に異国の
血統が混ざることに強い危機感があったようですね。己の人種こそ最高だ、と
いう思い込みを抱く貴族は多い…【黒太子】の話に戻りますが、【黒太子】の
母ベジェネ妃においては彼を身篭ったことで自国から縁を切られ、また女王候
補であったにも関わらずそれから外されたそうですからね」

「マジで?」

「結婚から二年で逝去なされてしまったのも、この国の風土や習慣に慣れなか
ったためだと聞き及びます」

アダムの実際見たわけではないが、【黒太子】の母は相当美人だったらしい。
なんでもシカラグァの黒真珠とまでうたわれた美貌だったそうな。ちなみにア
ダムはそれぐらいしか知らないのであった。だって他人の奥さんなんてそんな
ものです。

「でも今は余所者のほうが多い感じでしたけど…ここはともかく、ヤコイラと
か」

「新生ディウス帝國にほとんどのエディウス貴族や騎士、国民が流れたのです
よ。あちらはエディウス至上主義を掲げ、国民が他国の者の権利を大きく虐げ
てます。国民にとってはあちらのほうが優遇もされるし、何よりローデンバル
ク七世は非常に自国意識の強い方だ。エディウス人種であるだけで大きな特権
を与えられるあちらのほうが国民には都合がよかったのでしょう」

「んで、こっちは万年の人材不足か」

アダムの指摘に、苦笑するシメオン。正統エディウス帝國の人材不足は今に始
まったことではない。その国民・貴族流出によって慢性的な人手不足に陥った
正統エディウスがとった政策は、新生エディウスとは真逆の“移民斡旋”の方
針を打ち出している。

「【黒太子】が異国の血を引くだけあるのでしょう、外人部隊や流れの傭兵な
ど様々な人種が正統エディウス帝國に流れ込んでいます。物資の流通や商人ら
にとっては以前より動きやすいでしょうが、犯罪者も多くまぎれこんでいて、
さらにそれを取り締まる軍という組織は魔女ベルンハルディーネのいわく“憑
き”です」

「あー魔女の呪いだっけか?なんでもえれぇ大変な代物っつーのは聞いたこと
ある。噂だと魔女が作りだした人造の…」

「ご客人、あまりその噂はしないほうがいい。魔女の呪いにかかりますよ」

「う」

シメオンの柔和な、それでいて『その話題は死を呼ぶぞ』という明確な牽制に
アダムの声が小さくなる。と、しとやかな足音が聞こえてきた。おそらくあ
の、竜の少女だろう。先ほどのことを忘れて、アダムは助けを求めるようにそ
ちらのほうを振り返った。

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2007/05/28 23:51 | Comments(0) | TrackBack() | ○Rendora

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