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2024/11/01 07:45 |
Get up! 06/フェイ(ひろ)
PC: フェイ コズン
NPC: レベッカ、飛び大口、少女(アニス)の連れの女性
場所:道中宿兼酒場

――――――――――――――――


 フェイにとって戦いとは単純なものだった。
 目標と問われれば当然のように「復讐」と即答するフェイだったが、
より限定するなら戦いの場において仲間を守り切る、言い換えれば生
き残らせることが強さを求める大きな理由だった。
 そのためにフェイがたどりついた結論は、仲間の誰にも攻撃が届く
前に敵をせん滅する、単騎先行による最大打撃だった。
 もちろんそれはよほどの強敵を相手にした場合のことだったが、必
要のない時はどうかといえば、それこそリーダーの指示に従い、チー
ムプレーでもあるいは後衛の守りでもそつなくこなしてきた。
 つまり極論すれば、フェイの戦闘における選択とは、指示をこなす
か単騎突撃するかの二択だったのだ。
 フェイにすれば余計な思考をそぎ落としその分戦闘能力に特化させ
るために編み出した戦術だった。


 エルガー達なら迷うことなく召喚現場に向かうだろう。
 しかし今闘っているのはコズンとレベッカだ。
 飛び大口程度一匹二匹ならともかく、数はかなりいる。
 
「誰か! あの子を! アニスを助けて!」

 その時フェイの耳は叫ぶような悲鳴を聞いた。

 犠牲者が出ているのか?と思った時にはすでにフェイは駆け出していた。
 
 
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 アカデミーに依頼が来るだけあって、力自慢のドワーフやハーフオ
ークやほかにも「普通の村人」と言い切るには眉をひそめそうな雑多
な人種がいながら、ちゃんとした戦士はいないらしく、村の中は辛う
じて飛び大口をかわして身を守れている程度のものが数名見えるだけ
であとは建物の中や物陰に隠れて、飛び大口の接近のたびに悲鳴をあ
げてるのばかりで、しっかり倒しているのはコズン達だけだった。

「誰か! あの子を! アニスを助けて!」

せっかく隠れていた建物から、周囲の止める手を振り切って少女と成
熟した女性の間ぐらいに見える旅装束の女性が飛び出して叫んだ。

「なんだ、なにかんがえてんだ!」

 神経をすり減らすように敵をひきつけ、レベッカのダガーでさらに二
体を落としていたコズンは突然の乱入者に、戸惑いと怒りの声を上げる。

「あ、あの娘のことじゃない? 最初につれてかれた女の子!」

 新たな飛び大口の急襲をぎりぎりでかわすコズンの肩の上でレベッカ
がそう言った。、
 コズンも苦い顔しながら目をそちらに向ける。

「ちっ! でもこんな状況じゃ……って、おい! にげろ!」

 文句を言いかけたコズンはあわてて叫んだ。
 少女をさらい空に逃げた飛び大口を見上げながら叫ぶ女性の死角から、
さらに別の飛び大口が急降下しているのが見えたのだ。

「遠い!」

 レベッカもダガーを投擲態勢に構えるが、非力な彼女は長距離のスロ
ーイングは不可能だった。
 気づいた瞬間からコズンは駆け出していたが、回避で崩れた体制から
では到底間に合うものではなかった。

 コズンの声にようやく自身の危機に気がついた女性が首をひねる。
 コズンの位置からは見えないが、おそらく恐怖に目を見開いて、迫り
くる脅威を眼前にしているのであろう、それまで上げていた声もピタリ
と止まり硬直したように立ち尽くす。
  女性に迫る飛び大口がその名にふさわしい大口を開け――

「あ!」

 コズンの肩の上でレベッカが声を上げた。
 
 
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
 
 
 辺境に位置するこの村は当然あるていどの畜産は自前で賄っている。
 酒場から少し先にある少し開けたところには、家畜のためにいくつ
かの柵に囲われた飼育所が設けられていた。
 田舎の村らしくただ柵で囲っただけで放し飼いされてた家畜たちが
まっ先に犠牲になったのだろう。
 その騒ぎを聞きつけ様子を見に出てきた村人がさらなる犠牲になっ
たのかはわからないが、空をみあげると飛び大口の特徴でもあるのど
袋が、獲物をとらえた証拠に張っているものが幾つか確認できる。

(やはり、そうか)

 こんなに多くの飛び大口があらわれ、獲物をとらえたはずの奴が、
何かを待つように空中にとどまっている。
 本来群れをなさないはずなのに、なわばり争いをするでもなく、
「仕事」を終えたものは待機しておとなしく待っている。
 あり得ないことだが、召喚によって使役されているのなら、術者に
よってそうコントロールされていたとしても不思議はない。
 確信を深めたフェイは、視線を動かして現場の確認をする。
 地面には四体が撃ち落とされている。

 フェイはコズンの資質はそれなりのものがあると見ていたものの、
一対一ならともかく飛び大口クラスを複数相手取るにはまだまだ経験
不足とよんでいた。
 経験とはつまり視野と選択肢の広さである。
 複数相手にするには最低限一体を相手にしつつほかの敵の動きをと
らえ続けるだけの余裕がいる。
 それは体や技を鍛えるだけでは身に付かず、ただひたすら実践の積
み重ねで得るしかないものだった。
 おまけに建物の中から外を伺うような気配が多数あるところをみる
と、コズンがその身をさらすことで避難の時間を稼いだことが予測さ
れた。

(ふん、そのぐらいはしてもらわねば、な)

 そして、焦ったようコズンが見つめる先には、一人の女性とそこに
迫る一体の飛び大口がいた。
 それらを一瞬で確認したフェイは、走りながら呼吸リズムを変え、

「はぁっ!」

 一気に一息ではきながら、全身の筋肉の収縮を足へと伝え、地面を
踏み砕くほどの力に変えて解き放った。
 その瞬間、フェイの視界がぶれるようにして流れ、一瞬の後には、
飛び大口を眼前にとらえていた。
 女性と飛び大口の間に飛び込んだフェイは剣をふるう。
 ただ其の一撃で真っ二つに両断された飛び大口は、勢いそのまま
に二つに分かれて左右に飛び散る。
 
「さて、と」

 女性の無事を確認し、駆け寄ろうとしているコズンを一瞥すると、
仲間がやられたことも気にせずにさっそく新たな獲物に反応して群が
りだす飛び大口に視線を向けた。

 
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「おい! あんたならおとせたんじゃないのかよ!」

 駆け付けたフェイは飛び大口が不用意に飛びかかってくるたびに、
いっそ無造作とも見える動作で撃ち落とし続けた。
 そうして残ったほとんどが、文字通り獲物で腹(喉袋)を膨らませ
たものになった。
 しかしフェイは、しばらく様子を見るように空を旋回していたそれ
らがどこかへ飛び立つのを黙ってみていたのだった。

「アニス、というのはおつれですか?」
「は、はい。 あの」
「大丈夫ですよ。 お任せください。 必ず助けますから」
「あ、お願いします!」
「レベッカさん」
「え、なに?」
「ほかの被害の確認を」
「そうだね、うん、聞いてくる」
「…・・・おい!」

 実に淡々と話を進めるフェイに、コズンが改めて怒鳴る。
 
「はー、あんな所を飛んでるものを落としたら中にいる人も無事で
は済まんことぐらいわかるだろう」
「ぐ……でも逃がしたらおなじだろうが。巣穴に返したら餌になる
んだろうが!」

 いきり立つコズンにフェイは怒るどころか、溜息をつく。

「まさか、あれが野生のものとか思ってないだろうな」
「? なんのことだ?」
「おまえ……アカデミーに座学がある理由がわかったよ」
「んだと!」

 コズンにはフェイがあきれている理由はわからなかったが、バカ
にされていることはわかったのだろう。
 コズンとしてはフェイの実力を目の当たりにしたからこそ、フェ
イなら何とかしただろうという確信があった。
 アカデミーのトップクラスの実力がどういうものなのか。
 認めたからこそそれを使い切らなかったフェイに腹を立ててしま
うのだった。
 そんなコズンに説明してやる気もないフェイは、村人に聞き込み
をしているレベッカのほうを何とはなしに見る。

(レベッカはさすがに気付いているはず。俺の五感と妖精族の魔力に
対する感覚の鋭さがあれば追跡は可能だ)

 レベッカがこちらに戻ってくるのを見て、横で納得いかない様子の
コズンに言い放つ。

「レベッカさんが戻ったらすぐに出るぞ。 こういうのは根本から絶
たねばな」
「根? なんのことだ?」
「詳しいことはレベッカさんにでも聴け。 ああそれと、今度は武器
を離すなよ」
「! てめぇ……」

 コズンがなにか言おうとする前にレベッカが戻ってきた。

「あー、また喧嘩して。 とりあえずやられたのは家畜だけで、人はあ
の女の子だけみたいね」

 その言葉にはコズンが飛び出したおかげで被害が少なく済んだという
意味が隠されていたが、フェイは気付かないふりをする。
 そんなフェイを仕方ないなーといった風にみたレベッカは苦笑する。

「それで、フェイはわかってるんでしょ?」
「ええ、すぐに追います」
「そうね、あれはどう見ても捕獲用よね。殺す気ならもっといいのいる
だろし」
「だから、何の話だよ!」
「急ぐほど結果はいいはず、いきますよ」
「わかった」
「おい!」

 コズンの怒声を聞き流しながらフェイは飛び大口の気配の残る先をみる。

(召喚というのが気にかかるが、まさか、な)


――――――――――――――――
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2008/05/01 14:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!

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