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2024/05/16 17:51 |
Get up! 03/コズン(ほうき拳)
PC: コズン
NPC: レベッカ、日の出の魔道師、すてきな盗賊
場所:木賃宿/保健室

――――――――――――――――




「俺は宮廷魔術師になる」

 太陽を大地が飲み込んでいた。赤骨通りに面する名もない小さな木賃宿はにぎわいはじ
め、それぞれが夕餉の支度を始めている。

 そんな中でそこの雰囲気とは一線を画した魔道師が一人、なじみきった一人のひょろ長い
盗賊に話しかけている。魔道師の視線に人のいい狐といった風貌の男は何となくいずらそう
に机をなでた。

「今日でさよならだ」

 そういって彼は出て行った。
 振り返ることはない。止める間もない。そんなこともしない。
 冒険者とは不似合いな礼服を身に纏い、宮廷魔道師を表す銀色の肩当てを右の方にして
いるのが、すでに決別であったからだ。


 彼ら二人がそれを知ったのは数日過ぎた同じ木賃宿だった。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

   

 保健室にはコズンだけがいる。

 学園に入ったことはないし、話す相手もいないので、じろりと外を見ていると、剣技の初級
講座らしきものが始まっていた。
 いまさら見ても面白くもないが、それでもしばらく睨んでいた。

 あの後、ここに運び込まれ、治癒の呪文によって回復したらしい。さっきまで話し相手だっ
た保健の先生とやらが言っていた。なかなか面白い、主に話しより言動が。しかし、その話
し相手もクソ面白くもない授業に取られてしまった。

 暇そうにごろりと二回転がった後、彼はため息をついた。
「アレの続きでもやるか」
 ベット下に転がっている背負い袋から裁縫道具を億劫そうにとりだし、中に入っていたさき
ほどとは別の人形を縫い始める。
 布の切れはしを集めて作った、つぎはぎの人形で顔を作ってやれば完成だ。
 外からはかけ声が響き、笑い声や怒声がいやに耳に入ってくる。

 けッ、とだけつぶやいた後、縫い物に集中する。

 そう、後こいつに笑った顔を付けてやるだけなんだ。邪魔すんな。
 でもよ、笑った顔ってどんなのだっけ。

 そう思った時にがらりと保健室の扉が開いた。

「すいませーん。コズンって子いませんかー」

 快活そうな少女の声だ。高いことは高いが不快にならない柔らかさがそこにはあった。
「うおへぁ」
 鋭かった双眸は情けない表情で覆われてしまう。そして、裁縫道具をぱっぱと鞄にぶち込
み、何事もなかったように

「あー、そこなのね」
 仕切りのカーテンの方からひょっいと出てきたのは手乗りサイズの少女だ。背中にはトン
ボにも似た羽を生やし、人の目の高さにふわふわと浮かび上がっている。フェアリーだ。

「なんで、おまえがいんだよ!」
「何でかって? 簡単じゃない」
 ふわりと羽を動かし、笑顔でにじり寄るフェアリー。ひまわりの花みたいな色のワンピース
が小さく揺れる。ゆっくりと進み出て、耳たぶを両手でやさしく掴む。


「あ・ん・た・が! また! やっちゃったんでしょうが!」


 叫びと共に耳たぶを根菜でも引き抜くように力の限りひっぱり上げる。
「あだだだ!」
「あああ、もう最低! まったくあんたって奴は」
 体重の軽いフェアリーを文句の合間に振り払い、耳を押さえて口を開いた。
「いや、あれは、だなぁ、レベッカ」
「いいから! 言い訳なんてどうでもいいわ。ああ、なんであんたと知り合いなんていっちゃん
だろう。
 折角のここの研究室といっしょに遺跡調査できる機会だったのに! あんたなんか、ほっと
いっておけばよかったんだわ!」

 反論しようとした口が急に縮こまる。遺跡、とだけコズンは口を動かした。

 レベッカと呼ばれたフェアリーは頭を軽く抱えて、やれやれと首を振る。
「まったく、こーいう時に限って、あの男どもときたら。肝心な時にいないんだから」
 やれやれと両手をあげため息を吐くフェアリー。

 レベッカ達三人と冒険したのはもう随分前の話だ。みんな熟練の冒険者でコズンはパー
ティの戦士が抜けてしまったため入った人間だった。

 そして、とにかく毎日冒険に出た。毎日、そう毎日だ。

 オークの戦士達と共闘したこともあったし、ダンジョン一歩目の階段で滑って転げ落ちて
死にかけたこともあった。情報の齟齬で危うく依頼人に斬りかかることもあった。
 そんな日々はもう遠くだ。すてきな盗賊はふらりとどこかに消えてしまったし、日の出の魔
道師はもういない。
 少し顔を伏せて、コズンは声を絞り出した。
「……悪かった」
「分かればよろしい」
 素直に謝るコズンに、ころりと表情を変えてそよ風みたいに笑いかける。

 その風でも役不足なのだろうか、コズンは顔を伏せたままだ。
「遺跡、おまえ好きだもんな、みんないないのに、潜るチャンスなかなかないもんな」
「いーってこと。あたし達の後輩なんだら、ね」
 レベッカは肩をバシバシと叩いた。
 コズンの耳たぶは赤くなっている。

「ま、反省ついでに一仕事、頼んでいいかしら」
「あ、いいぜ。やってやるよ」


 彼がこの安請け合いに後悔するのにはたいした時間はいらなかった。


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2007/08/24 02:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!

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