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2024/11/01 08:02 |
滅びの巨人―1/ベン&テッツ(月草)
場所 :ポポル およびポポル上空
PC :ベン テッツ
NPC:カストル カーシャ(ベンの母) 巨人
_____________________________
 遠い星、豊かな土地。魔法使いが秘術を尽くして戦い、騎士達がそれぞれの信念を賭け
て剣を交えた、そんな時代。
 種々の生体が息づく大地の遥か上方に、一つの影があった。まぶしすぎる太陽光に照ら
され、姿があらわになる。かつては栄えていたであろう文明と、その住人の残骸思しき、千
切れてバラバラに飛んだ骨があちこちに散っている。
 それらが漆黒の空間をあてもなく漂っていた。建造物と白骨が無造作な集団となって漂う
その様子は、まるで都市の一部が切り取られ、投げ出されたかのようであった。前触れもな
く命を絶たれたのか、わが子を抱きかかえたままの人骨もある。
 浮遊物たちの中央には人影と、半透明の青く巨大な球体があった。よく観察すると、人影
は年端もいかない少年であった。両耳からは球体と同じ輝きを放つピアスをし、文様の入っ
た白く滑らかな服を着ている。その顔は少女のように整っている。ピアスのせいもあってな
おさら男と分かりにくくなっていた。
 彼は緊張の面持ちで、球体と向かい合い内部を見据えている。内部には、胎児のような塊
があった。成人した人間とさほど変わらぬ大きさのそれは、封じ込められた球体に対してあ
まりに小さい。
 しかし胎児の目には、この土地を喰らい尽くしてもなお余りある憎悪と欲望がにじみ出して
いる。血と殺戮に飢えたそれは、豊かな星に息づく生命をうまそうに見ている。エサだ、腹を
満たせるだけの十分なエサがある。全身の血が逆流するほどの激しい欲情にかられ、襲い
掛かろうとする。
「――だめだよ」
 胎児の脳内に声がする。同時に青く強烈な閃光が周囲に満ちた。身体が粉々になりそう
な苦痛に、怒りと憎しみの叫びを上げる。
「グオオオオオオォォォォォオォオオ!」
「僕が生きている限りは、お前を暴れさせたりなんかさせない」
 ここを見つけてからもうどれほどの時間、繰り返してきたのだろうか。わずかばかり、仕留
めそこなったばかりに……。こんなちっぽけな肉人形に、ここに押さえ込まれているのが悔
しかった。しかしそれも、まもなく終わる。残りはあと一匹だ。
「う……ゲホッ、ゲホッ!」
 少年は呼吸がままならなくなり、意識が遠のいてしまった。彼が胎児を制御する手を弱め
た瞬間、この世のものとは思えぬおぞましい咆哮が空間を揺るがした。
「グアァァァァ! アアアアァァァァアアアアア!」
 胎児は見る見るうちに肥大化し、あっという間に少年の数倍はあろうかという巨体になっ
た。手からは爪が生え、口からは多数の牙が出た。眼球は真っ赤に充血し、発達した筋肉
に圧迫された血管がむき出しになる。表皮はみるみる粘膜的となり、そのグロテスクな様相
は本性を如実に表しているがごとくであった。内奥から溢れる破壊本能が防護壁をぶち破
り、少年の体から内臓を掻き出せ、そしてぶちまけろと命令する。まずは心臓を、次に肺そ
して腸をやれ、と。
「だ……だめだ……」
 爪が外壁に届き、衝撃に球体が大きく変形する。力を失った球体は弱々しく伸縮し、爪が
外壁越しに彼を狙う。
 爪が少年の胸に達しようとしたとき、球体に亀裂が入った。外殻に囲まれていた液体がわ
ずかに飛び出し、それは不気味に形を変えていく。血管が浮き出て、次に口が生成されて
牙が生える。独立した生命と化したその液体は、少年に襲い掛かった。
 ところが、割れて飛び散った外殻が強烈な青い閃光を放った。と同時に液体をめがけて
猛烈な勢いで接近し、醜悪なそれを吸い尽くした。内部で暴れまわる液体を力ずくで押さえ
つけ、ちょうど小石ほどの大きさとなる。力を使い切った石はもとの少年のピアスと同じ青色
となり、地表めがけて落下していった。
 落下していく間際に、小石――に宿る何か――は少年に呼びかけた。
「―――カストル―――」
「は!?」
 心の内部から直接声が聞こえた。気を取り戻した少年は、異形の爪が胸部を狙う光景を
見た。
「だめだ、とまれ!」
 疲弊した身体に鞭を打ち、残った力を解放する。耳にかけたピアスが球体と共鳴するかの
ように青く輝き、胎児を責める力となる。
「ガアアアァァァアアアア!!」
 激痛にもんどりうってのたうちまわったそれは、巨体から姿に戻っていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ごめんね、みんな。痛い思い、させちゃったかな?」
 彼はふいに球体に向かって語りかけた。
「もう、僕しかいないんだ。僕が、しっかりしないといけないのに。だけど……」
 どうにか押さえ込むことができたものの、日ごとに力が弱まっていく。彼はまもなく死期が
訪れることをひしひしと感じていた。
「巨人の体液が、こぼれた。何とかしないと、このままじゃ大変なことに」
 彼が犯したミスは取り返しがつかないほど重大なものであった。まもなく訪れるであろう惨
劇をしりながら、それをどうにかする力はもう残っていない。抑えがたいもどかしさと悔しさ
が、心の中を包んだ。
「押さえ込まれているうちに何とかしないと。うぅ!」
無理をした反動でからだが思うようにならない。少年はいつしか気を失ってしまった。







―――ポポルの森の奥深く、人とエルフたちの里―――

 またおかしな夢を見た。ベッドから起きたベンはそう思った。寝起きでぼんやりとした表情
の彼だったが、その瞳は透き通るように青く、光に照らされて宝石のように輝いていた。カー
テン越しにくる朝日に目をしぱしぱさせながら、ぼんやりと頭の中を整理した。   
 身に覚えのない真っ暗なところで、体が宙に浮いている夢だ。はるか彼方には彼の大好き
な夜空の眺めが、見たこともないぐらい鮮明に見ることができた。そこまではよかった。しか
しかれの周辺には人の骨と、見慣れない建物の廃墟が無数に浮かんでいた。遠方の眺め
を差し引いても、とても気持ちのいい夢ではない。
 浮遊物の集団の中央には人影と、やたらと大くて青いボールのようなものがある。さっぱ
り訳が分からなかった。こんな夢を、彼は物心がついたころからしょっちゅう見続けてきた。
近頃はもうすっかりなれっこになってしまっている。
「ふぁーあ、眠たい……」
 ちょっと夜更かししすぎたかな? ベンは少しだけ後悔した。
「それにしても、よくかけたなあ」
 ベッドの横にあるクローゼットに目をやった。星空の絵が掛けてあった。昨日夜更かしして
がんばって完成させた、彼の力作だった。ある程度は想像と記憶で書いた箇所もあるが、
主要な星座の位置関係はばっちりだった。構図といい、色あいといい、どれをとっても申し
分ない。
「やっぱりちょっと高くても、絵の具はいいやつを使うに限るよね」
 自らの最高傑作を前にすると思わず頬がほころんでしまう。時間を忘れてうしばらくっとり
していると、甲高い声にいきなり耳をつんざかれた。
「ベーン! いつまで寝てるの? 今日は森の大掃除の日でしょ」
 一階から女性の声がした。母のカーシャの声だった。そういえば今日は学校のみんなと
森を掃除する日だった。
「あ、そうだった!? 今行くよ」
 大急ぎで服を着替えると、部屋から飛び出て一気に階段を駆け下りた。玄関のドアノブに
手を伸ばしたところで、母親が呼び止めた。
「なに、母さん?」
「朝ごはん食べていきなさい。簡単でもいいから。それと、お弁当もね」
 確かに掃除するのになにも食べていかないのはまずそうだ。ベンはテーブルの上にある
ハムエッグとサラダを大急ぎで胃の中へかきこんだ。
「じゃ、いってくるよ」
「気をつけて行ってらっしゃい。しっかりとお掃除してきてね」
 台所で弁当を受け取ると、ベンははっと何かを思い出したような表情をした。
「そうだ、大事なもの忘れてた!」
 彼は大事なものを身に着けていないことに気がついた。言うが早いか、ベンは階段の前ま
でやってくる。
「時間がないや。せぇーの……」
ベンは膝を曲げてかがみ、足に力を込める。
「やあ!」
 ドン、と乾いた音がした。ベンが床をけった音だ。彼は渾身の力を込めて、思い切りジャン
プした。空中で身体を一回転させて、見事な着地を遂げた。自分の身長の2倍以上もある
階段を、一っ飛びにジャンプしてしまったのだ。あっという間に二階に着いたベンは、一目散
に自室のベッドを目指した。ガチャ、と勢いよくドアを開けて部屋へ駆け込む。
「これこれ、これがなくっちゃね」
 そういってベンが手にしたのは、彼の瞳の色とそっくりな青い色をしたピアスだった。
「よし、完璧!」
 慣れた手つきで耳にピアスをする。なんとなく、身体に元気が沸いてくるような気がした。
椅子におきざりにしていたスカーフを巻きつけると、急いで玄関へ向かう。白いスカーフは、
彼のお気に入りなのだ。
「ちょっとベンー? あれって、もしかしてあの青いピアスのことー?」
「うん、そうだよ」
 上の階からベンが返事した。
「もーう、女の子じゃないんだから。午後からソフィニアから来られたの先生方と遺跡めぐり
でしょ」
「ごめんね、でも大事なものなんだ。それに、スカーフも忘れちゃってたし」
 二階から飛び降りたベンは、音も衝撃もなく静かに着地した。いつもの光景なのか、カー
シャは驚くこともせず話を続けた。
「今日来られるテッツ先生っていう方は、規則に『すごーく』厳しいらしいから、覚悟しておい
たほうがいいんじゃないかしら」
「え、うそぉ!? でも、ほんとなの?」
 ウソウソ冗談よ、という返事を期待したベンであった。その淡い期待は、わずか数秒で崩
れ去ることとなる。彼の質問が終わったのと同じ時刻、突然大きな老人の声が響き渡った。
「『おそーい!!! 遅刻しちょるガキども、時間は守らんかい! わしはぬしらの担当のテ
ッツじゃ。ぬしらは特別メニューでみっちり授業してやるから覚悟せい! 根性叩きなおした
るわぁ!』」
 あっけにとられ、しばし呆然とするベン。気を取り直した彼は、震える声で言った。
「……い、今のは?」
「さあね、ご本人なんじゃないの。魔法学院のえらい先生らしいし、こんなことくらい朝飯前
なんじゃないかしら」
 カーシャはベンをほのめかした。その表情には、いじわるな笑みが浮かべられていた。
「ああ、まずいや。急がないと。じゃ、いってきまーす!」
ベンの表情にみるみる焦りが浮かび出る。彼はあいさつを交わすのと同時に、玄関を飛び
出していった。
「あははは! 今日も元気ね、がんばってらっしゃい!」
 大慌てのベンをよそに、彼女は息子の元気な姿にいたく上機嫌だった。
「それにしてもあの子ったら、どこであんなピアスを拾ってきたのかしら」
 ベンの付けているピアスには見事な幾何学模様が彫り付けてあった。材質もよい、装飾の
技術も抜群である。まともに買えばいくらになるだろうか。若いころおしゃれ好きだったカー
シャは、値段を考えるとくらくらした。
「まあいいわ、似合ってるんだし。あの子の天性かしら。それにしても……」
 カーシャは部屋に掛けてあった写真に目をやった。家族全員の写真であった。そこには幼
いころのベンと、若いころの自分、そして見知らぬ男性が立っている。
「ねえあなた。あんなに体が弱かったベンが、こんな元気になるなんてねえ。」
 今はなき夫に語りかけるように、彼女はささやいた。
「うふふ。あなたにも見せてあげたかったわ。鈍感なあなたは女の子と間違えちゃうかもしれ
ませんけど。ほんと困っちゃいますわよねぇ。ちゃんと彼女さんはできるんでしょうかねぇ」
そうはいいつつも、カーシャにはベンがかわいく思えて仕方ないのであった。
「さあて、きっと疲れてくるでしょうから、今日の夕飯はご馳走にしちゃいましょうか。ねぇ、あ
なた。」
 カーシャは髪を後ろに結わえると、早速夕飯の下ごしらえに取り掛かった。待ち受けるベ
ンの過酷な運命を、露ほども知らぬままに。




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2007/08/24 02:11 | Comments(0) | TrackBack() | ○滅びの巨人

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