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2024/05/16 14:47 |
Get up! 02 /フェイ(ひろ)
PC: フェイ
NPC: エルガー 先生
場所:エドランス

――――――――――――――――

  泣き叫ぶ事もできないほどに恐怖に硬直する子供にから、目が離せずにいると
頭の中で冷静な部分が声を響かせる。

(アレハ、ボクジャナイ……ボクジャナイ……)

 その子供をかばうつもりだったのか、飛び出した戦士の一人が一撃の下に崩れ落
とされる。
 その戦士の体をまたぐように乗り越えてきたのは、豹の体に人間のようにも見え
る頭をもつ人頭獣身の魔獣だった。
 全長3メートルはゆうに超えるであろう巨体ながら、豹の肉体にふさわしいしな
やかさで大地を踏みしめるさまは、脆弱な生命を威圧するにふさわしかった。
 しかしながらその頭部は醜悪な男の顔を連想させる人頭で、耳元まで避ける口か
らは細かく並んだ牙の列がよだれに光り、目から感じる邪悪な意思とあいなって、
とても雄大とか壮大といった形容詞が思い浮かばないような有様だった。
 
(アレモチガウ……アノトキノアイツトハ……ニテイルケドチガウ……)

 頭が痛む。
 魔獣を確認して、声がより大きく響く。
 気が遠くなりそうな声に耐えるその視界に、立ち尽くす子供を見定めた魔獣がゆ
っくり歩み寄るのが映った。
 子供の瞳が恐怖から絶望に変わるのを感じた瞬間、目の前が赤く染まり周りが何
も見えなくなり、それとともに体が駆け出すのを感じた。

「フェイ! まだはやい!」

 後ろで誰かが叫ぶのが聞こえたが、それを無視して駆ける。
 魔獣が前足を振り上げようとしていたが、気配を察したのかフェイが飛び出して
くるほうを向き、とっさにそちらに向かって凪ぐように前足を振った。

「オオオオオオオオオ!」
「GAAAAAAAAAAA!」

 のどから自然にもれる咆哮が魔獣のそれと交じり合い大地を揺らす。
 魔獣の左側面に突っ込んだフェイは、片手で抜き放った直刀を水平に突き出すよ
うにしたまま腰に構え、腕をさながら弓を限界まで引き絞るようにそらしたまま、
寸前で急停止をして鉄すら引き裂く必殺の爪をかわす。
 そして腰元からひねりの力を腕先にまで伝えるようにし、その上に急停止の「た
め」のちからを乗せて魔獣の横っ腹にぶち込んだ。

「GUAAAWOOOOOO!」

 3メートル強の体がはじけるように横に倒れる。
 ほんの刹那の攻防に、もてる最大の攻撃力を打ち込んだフェイはそれでも油断な
く魔獣の様子を伺っていたが、視界の隅で子供が動き出したのを捕らえた。

「おい、こっちくんな! 逃げろ!」
 
 注意をそらしたといっても気は張っていたはずだったが、高度な戦闘においてそ
のわずかな隙が命取りになる。
 フェイが味方とわかったのか、こちらに来る気配を向けた子供に声をかけたその
一瞬、魔獣が跳ねるように起き上がると、その勢いのまま前足の凶爪を振り下ろし
た。

「っが!」

 気がつくのが遅れた分交わしきれないと悟ったフェイは、とっさに剣を斜に構え
て受けようとしたが、その圧力に抗しきれずになぎ倒されるように飛ばされた。

「GOAAAAAA!!」

 弾かれるときに腕から胸にかけて、鎧ごと引き裂かれ、地面に打ちつけた衝撃と
凶爪によるその傷とでふらつく視界に猛る魔獣の姿が映った。
 おそらく魔獣も致命傷を負ったはずなに、今だけは怒りに狂い、もてる力すべて
を暴力と化す嵐となっていた。
 だが、その嵐がフェイを襲う事はなかった。
 薄れ行く意識のなか、体制を整えた仲間達が連携をとりながら魔獣に対している
のをみた。

(ちっくしょう……オレはまだ……。)


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 


「死にたいのかと、聞いている! フェイ・ロー!」

 魔獣退治の依頼を終え、アカデミーにて事後報告と手続きを済ませた冒険者達は
休憩用の一室にいた。
 
「るっせーな、勝ったんだからいいだろ?」

 フェイに詰め寄っているのは今回の依頼で組んだパーティのリーダーで、アカデ
ミーでも名の知れた戦士であるエルガーだった。
 180前後の長身のフェイよりもさらに頭一つ高いエルガーは、体つきもしっかりと
鍛えられた筋肉におおわれ、いかにも戦死を体現したような巨漢の青年だった。
 かれらはとある遺跡で目覚めた魔獣討伐のために臨時で組んだ仲間であり、顔見
知りではあるものの普段は別々に活動していた。
 一応リーダーを決めては見たものの、フェイが独走する形となり、こうしてもめ
ているわけだった。

「いくら君の体が人並みはずれていたとしても……。」
「ああ、だからわかったって!」
「フェイ!君のことは知ってるつもりだがこのままでは……。」
「だからうるさいってんたろ!それ以上は言うな!」

 フェイは臆する事もなく真っ直ぐ射抜くようににらみつけ、ふいに話を打ち切る
ように部屋を出て行こうとする。
 戸口に手をかけたところで思い出したように振り向きもせずに、今まで黙って様
子を見ていたアカデミーの教官であり、修士を取ったエルガーやフェイが所属する
「教室」の主任でもある壮年の男に話しかけた。

「先生、あのときの子供は……。」

 先生と呼ばれた男は落ち着いた低い声で答えた。

「大丈夫だ。お前の稼いだ時間がパーティの布陣を完成させるのに役立った。たて
になった戦士も一命を取りとめたそうだ。」

 そう聞いて懸念が消えたのか、少しだけ目元を和らげるとそのまま戸を引こうと
するフェイの背に、今度は男のほうが声をかけた。

「フェイ、一つ間違えばあの子も殺されていたところだ。なんらかのペナルティは
かくごしておけ。」

 フェイは何も言わぬまま、肩越しに手を振ってそのまま外へ出て行った。

「ふー、あいつにもこまったものだな。」
「先生!そんなのんきな。」

 フェイが出て行った戸口を見ながらため息をついた『先生』に、エルガーは渋い
顔で応じた。

「あいつがいくら頑丈だとは言え、人の血が濃くなった今の体は銀の魔力しか効か
ないっていう不死身の肉体ではないんですよ。このままじゃあいつ、本当に死にま
すよ。」
「わかっているよ、エルガー。それはあいつも。」
「ですが……。」
「そうだな……、あいつは連携というものを知らん。今以上のレベルで戦っていく
上でそれは致命的な欠点でもある。」

 一人でいくら強くなろうと、剣闘士のように限定され誕生しかないのであればと
もかく、敵も戦場も条件も常に不確定な中で高いレベルの先頭に勝ち残るのは不可
能に近い。
 今回の件にしても、連携をきちっととっていれば、フェイが一撃入れた後に魔獣
が再び立ち上がる事はなかっただろう。

「ちょうどペナルティも必要な事だし、あいつには自分よりレベルの高いものより
も、むしろ自分が補う側に回る経験が必要かもしれんな。」

 エルガーは『先生』の言わんとするとこを悟って言葉を詰まらせる。

「意味はわかりますが、うかつな者だとつぶされるだけに成りかねませんよ。フェ
イは人を育てるタイプとは思えませんし。」
「まあまて。実は心当たりがなくもないのだ。向こうは向こうで首似た図名をつけ
れるものを探しているらしくてな。」
「……大丈夫なんですか?」

 エルガーの不安に『先生』は肩をすくめた。

「なるようにしかなるまいよ。」
 

――――――――――――――――
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2007/06/19 02:13 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!

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