忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 21:01 |
MT「01.アルス・モンディの書」/ライアヒルト(Caku)
PC.ライアヒルト.アーシェリー
NPC.声だけの使者、赤い髪の吸血姫、胡散臭い髭面の男
Place.プロピア盆地の街リオン・ドール→ルバイバ・キエーロ通り三番街
--------------------------------------------------------------------


「なんですとぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




絶叫は真夜中の大聖堂の礼拝堂に響き渡った。
その悲痛さと音量は、殉教した聖者も柩から飛び上がって驚くかといわんばか
りの絶叫だった。

「だってその”本”を運ぶ旅団が通るっていうからっ!三日三晩山道で張って
たんですよっ!!」

深夜の静寂を切り裂く絹、というかガラスを引っかいたような金切り声をあげ
たのは一人の神父。へなへなと床に座り込み、がっくりと両手を床について土
下座のような姿勢に崩れる。周囲にリアクションをする人物の影は見当たらな
い…と、思いきや、礼拝堂の十字架の裏手から声が聞こえた。

「”向こう”も予想外だったらしい、なにせ翌日には今までの巧妙さなんて欠
片もない混乱っぷりだ。おかげで組織を丸ごと潰せたんだが、肝心の”本”の
行方がわからない という事だ」

モルフ地方で最も大きいイムヌス教大聖堂、ボルド山の麓に広がるプロピア盆
地の街リオン・ドール。イムヌス教が色濃く根付くこの街の守護聖人は「金獅
子」と呼ばれる巨漢で、その身体で千人の民を救い出したとされ、街のシンボ
ルとして大聖堂でも威風堂々とした屈強な男の像が祭られている。その屈強な
男の像の下で、女々しく声を震わせながら泣く男に声は同情したのか、続けて
事情を説明しはじめた。

「その組織なんだが、一人取り逃がしたらしい。というか、よりによって一番
面倒な男を取り逃がした…召喚術士のエストイって奴だ」

リオン・ドール大聖堂、七十七悪魔第十四番・魔術師シズが封印されているこ
の大聖堂は順位が高い悪魔が封印されているとあり、聖堂というよりも要塞と
いったほうが相応しい外観をしている。窓枠は全て鉄格子で塞がれており、開
いている鉄扉ごしに見える廊下には物々しい武器ばかりが飾られていた。

「召喚術士……?召喚師ではないんですかぁ?」

「師じゃない、士だ。数年前まで魔術学院に在籍してたらしいが異端の悪魔召
喚集団に手を貸していた、ってことで学院から即時退学されてる。事実は手を
貸すどころか主催者だったらしい。その後、悪魔召喚集団のカリスマに身を落
として…」

「つまり屑ね、まるで第十四番のような男」

今までの会話にない、ソプラノヴォイス。

「そのとおり」

礼拝堂の角、長椅子に座っていた一人の淑女の答えに神父以外の男が答える。
先ほどから冷静に神父に返答していた声だ。

「その屑なんだが、おそらく盗まれた”本”を取り戻しに夜盗の足を追ったん
だろう。盗賊ギルドの情報を買いに来たとこまではこっちも掴んだ、もちろ
ん”本”の足取りもだ」

「なんでそれで捕まらないのかしら?”本”の足取りが掴めたなら、先回りし
て回収してしまえばいいじゃない」

淑女の髪は血よりも鮮やかに赤くて、宝石のように透き通っていた。月の曖昧
な光ですら反射して、きらきらと輝いている。人にはありえない艶だ。神父と
の会話が果てしなく無駄だと気が付いたのか、声だけの相手は淑女の方に気配
を向ける。

「…足取りは掴んだが行方が分からない。その阿呆な夜盗はその旅団がどんな
組織か、奪い盗んだ”本”がどんなものかも知らずに見知らぬ商人に転売した
らしい。場所は大陸南のルバイバという街の手前で、四日後にはある市が開か
れるということでかなりの商人が入り込んでいるらしい。商人個人の特定は掴
めていない」

「…あら、ルバイバ?あそこは美味しい料理店があったのよ。八十五年前ぐら
いだけれどまだあるかしら?」

ふと回想に入る淑女の口元が薄く笑った。異様な八重歯を除かせて、うっとり
と呟く。

「…それは知らんが。とにかく四日後からルバイバをあげて開催される”魔道
書市”のために各地から本屋らが詰め掛けてる。ルバイバ手前でその夜盗、ど
この馬の骨にそれを売ったらしく何百もいる商人一人一人潰していくしかな
い」

「それで行方が分からない?と」

「おおよそ三万冊、本という本が揃い集うらしい。魔術者、魔法使いには垂涎
ものらしいな。面倒な事になった、興味本位の輩に売られると事は大きくなる
ぞ」

「あのぉ……」

二人の会話の間に、間抜けな声が邪魔をした。いささか冷たい沈黙の後、おず
おずと崩れていた男…四角眼鏡のひょろんとした男が立ち上がる。神父服だ
が、胸元に下がったロザリオはイムヌス教で有名な金十字架ではなく、真っ白
な十字架だ。中央には右目が異様な開き方をしている天使と竜の精緻な彫り物
が刻まれている。

「僕、不眠不休で山道を見張ってたんです…そりゃあもう大変で大変で…蚊に
さされるわ、狸に出くわすわ、雨が降ってくるわ、鴉にめがねを持ってかれる
わ…!!」

必死に今までの経緯を熱心に説明する男。熱弁が上がるほどに二人(一人+声)
の視線が冷たくなっていくのに気が付かないらしい。

「だからその」

「…ラーヒィが行きたくないなら、私も行かないわ。でも、このままじゃ無辜
の人々の手に”アルス・モンディの書”が渡るかもしれないわね。あら大変、
悪魔召喚なんて一度呼び出すと帰すのにどれだけちと肉が必要かしら?」

「さりげに貴女の目的が分かってしまった僕はなんて不幸なんでしょう、あぁ
聖女アグネス様、僕の愛する人はルバイバのご飯が食べたいだけに僕を死地へ
と向かうよう圧力をかけてきますぅぅぅ」

二人の男女の会話がどこかネジがずれていることも声は百も承知のようだっ
た。その中身には触れずに、今回の任務の題名を言葉にした。

「……”アルス・モンディの書”、七十七悪魔第二十九番・不死人オーエンハ
イムの「死」が宿るとされる禁書だ。エストイの狙いはそれだ、その本を回収
し、可能ならば消し去れ。これは聖命である」

-----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------

ルバイバの街は、怪しげな人々が所狭しとひしめき合っている。
今、街を見渡せば人、人、人。良く見ればエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、
獣人、思いつき限りの人種がひしめき合っていて、中には複眼をそなえた昆虫
の外見をした人型もいる。まったく共通性のない人々だが、総じて胸にめいっ
ぱい抱えているのは大量の本、本、本。

ルバイバの街が、年に一度怪しく活気付くのがこの”魔道書市”だ。本自体は
まだまだ希少価値が高く、保存にかなりの気遣いが必要とされる。ただでさえ
紙という素材は消耗しやすい。そんな、普段は棚や箱にしまって表に出ない”
本”、しかも「魔法」「魔術」果ては「誰にでもはじめられる錬金術」から
「魔女の料理本」まで…魔法を中心にした様々な蔵書が一挙に出揃うこの市
は、大陸各国から多くの魔術者、魔法使い、研究者を呼び寄せる。

ルバイバで一番広い、ルバイバのキエーロ通り3番街。
ルバイバの街は上から見ると十字の通りに区分されており、さらに運河が枝分
かれして街の中を血管のようにめぐっている。北の通りは1番街、東の通りは2
番街…というふうになっていて、ここは南側の大通りなので「3番街」と呼ばれ
ている。

そんな妙におどろおどろしく、なぜかわくわくする人々の群れの中に、やや低
い身長の女性が苦労して歩いている。まるで人の波が壁のように、しかも動く
ので背が低い者にとってはあまり歩きやすいとはいえないのだろう。黒髪のセ
ミロングを揺らして群れのなかを泳いでいく。

キエーロ通り三番街の通りにかかる川は三つ。その石橋のうえには、この時期
に国内から国外から来た本の売り手のために用意されている建物があった。窓
から落ちそうなほどに乗り出した本の商人が声高に「惚薬の作り方」の本を片
手に宣言をしている。その隣では背の曲がった老婆が口の中の金歯を(全部が
金歯らしい)光らせながら、自身の伝記だというガマガエル表紙の本を法外な
値段で客に押し付けている。

黒髪の女性、はようやく人並みから少し外れてほっとしたらしく。人並みで乱
れたマントを直す。

「そこのお嬢さん、ルバイバの魔道書市に来たなら最低、二冊は買って帰らに
ゃ死ねないぜ?」

と、男の声に女性が振り向く。
そこには胡散臭い髭面の男が、真っ青な装丁の二冊の本を差し出しながら笑っ
ていた。

-----------------------------------------------------------------------
PR

2007/06/19 02:16 | Comments(0) | TrackBack() | ○まじかる★たっぷ

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<Get up! 02 /フェイ(ひろ) | HOME | Rendora - 5/アダム(Caku)>>
忍者ブログ[PR]