PC: フェイ、コズン
NPC: レベッカ、リズ、シャルナ
場所:道中宿兼酒場
――――――――――――――――
夜の闇に包まれた町は、黄昏時の騒ぎがうそのように静まり返っていた。
もともと旅の途中の休憩所といった風情で、日が沈んでから騒げるところなど
酒場ぐらいしかない。
しかし先刻の騒ぎですっかり気をそがれてしまったようで、何時もは唯一喧騒
の耐えることのない酒場も町とともに眠りについたかのように静かだった。
フェイ、コズン、レベッカの三人は体の汚れ(とくにコズンは飛び大口の体液
もだいぶ浴びていたため、一風呂浴びなければ落ち着けなかった)
を落としてさっぱりすると、夕方までとは打って変わって静かな酒場のテーブル
で、主人の差し入れてくれた果実酒を飲みながらようやく一息をついていた。
もともと和気あいあいとした一行でない上に、なにやら思案に耽るフェイが押
し黙っていることもあって、コズンはあまり機嫌よくなかった。
コズンもフェイ相手に楽しく酒を酌み交わすつもりはなかったが、あの召喚師
だか格闘士だかわからない敵と言葉を交わしたらしいフェイからなんらか説明が
あるだろうと思って、こうして辛気臭いのを我慢して相席しているのだ。
「……おい!」
さすがに我慢も限界、とコズンが声を荒げようとしたとき、テーブルの上に
座って葦のストローで果実酒を味わっていたレベッカが、その小さい手を上げ
て、宿部分でかる二階に通じる階段のあるほうを指し示した。
「コズン、お客さんよ」
「ああ?」
首だけをひねってそちらを見たコズンは、こちらのテーブルに一人の女性が近
づいてきてるのが見えた。
無地の白いシャツにゆったりしたズボンというラフな格好のその女性を怪訝な
表情で見てたコズンは、その相手がテーブルの脇まで来て頭を下げたところでよ
うやく誰か気がついた。
「あんた確か、あの子の……」
「はい、アニスを助けていただきありがとうございました。 連れのシャルナと
申します」
騒ぎの中で、助けを求めて叫んでいた女性は名乗った後もう一度頭を下げた。
「あの子は大丈夫?」
「はい、だいぶ疲れているようですが、幸いたいした怪我もありませんでしたから」
レベッカにそう答えるシャルも疲労の影が見えていたが、アニスが無事だったこ
とを確認できたからか、落ち着いた様子だった。
「別に……ああ、いや、そうだ、そういやあの胸のところの変な刻印から血が出て
たけど、あれも止まったのか?」
コズンとしては不本意な部分もあったため、ありがとうといわれても素直に受
けられず、おもわず悪態で返しそうになったコズンだったが、彼の言いそうな事
をよく知るレベッカに睨まれ、あわてて別の話題に切り替えた。
「傷はたいしたことなさそうだったけど、その割りに血が止まらなくて気になっ
てたんだ」
「はい、もう大丈夫です」
シャルナは一瞬フェイに目をやりながらそう答えた。
「ふーん、変な呪詛とかじゃなくてよかったな。 なんか魔除けっぽかったけど」
「ええと、あれは……」
コズンが流れで何気なく聞いたことにシャルナは答えを言いよどむ。
「……血を封じているのか?」
ふいにフェイが感情を感じさせない声を出した。
内心「せっかくお礼にきてんのに、つめてーやつだ」と、フェイの無反応に対
して思っていたコズンも一瞬虚をつかれて驚いたものの、すぐに
「血?」とフェイの言葉の意味がわからないことにムッとして、眉をしかめてし
まう。
レベッカはもっと素直に、
「血?」
と疑問を声に出してシャルナとフェイを交互に見上げた。
シャルナは返事をしかけて、またフェイをみて口ごもる。
だがフェイは意外なことに微笑を浮かべてうなずいた。
「大丈夫だ。 エドランスは君たちの望んだとおりの国だ」
この言葉の意味もわからなかったコズンとレベッカは、顔を見合わせて「なん
のこと?」「しるかよ!」と目で会話した。
「……はい。 あれはあの子の……獣の血を封印してたんです」
「やはりそうか。 では俺の血に反応して封印が敗れかけて傷になったんだな」
「はい。 ですが先ほど術を強くかけなおしたので、もう大丈夫です」
「……失礼だが、貴女は封印もしてなさそうだが……」
「お察しのとおり、血はつながってません」
「そうか……」
フェイとシャルナは事情が通じているらしく、よどみなく会話を進めていく。
しかしそれでは面白くないのが二人。
とくにコズンはフェイがわかってて自分がわからない状況が面白いはずもなく、
「おい! 二人で分かり合ってねーで、少しは説明しろ!」
と不機嫌そうにはき捨てた。
シャルナはまだ不安そうだったが、改めて説明した。
「アニスは半獣人、ライカンスロープの血を引いているのです。 完全ではない
ので、瞳の色が変わるほかは嗅覚が鋭くなる程度なので、今まで
軽い封印で血を抑えてその変化を封じていたのです」
意を決して打ち明けたシャルナの覚悟をよそに、コズンとレベッカは「それ
で?」とたいした反応を見せなかった。
その様子にシャルナが戸惑ったように言いよどむと、フェイは発足間もない仲
間でも初めてみるような笑みを見せた。
「そういうことだ。 この国では隠すようなことでもない」
フェイのこの言葉にまずはレベッカが、そして遅れてコズンもようやく一つの
ことに思い至った。
エドランス以外での人間の国における偏見と差別。
この国に慣れてしまい、ましてやそうしたことを考えたことのないコズンに
は、はなから想像の外の話だったのだから、あの紋章を目にしてもそういう使い
方をされるとは思いつきもしなかった。
レベッカは地域によっては自分も差別される側だと知っていたが、仲間に恵ま
れ、エドランスではそういう体験をしたこともなかったため、や
はり忘れていたのだ。
「そんなもん、さっきまでのここの酒場だけ見ても、きにするやつのほうが珍し
いってわかりそうだろ」
コズンはなんとなくぼやくように言うとフェイに向き直った。
「ひょっとして、さっきからそれを考えてたのか?」
「それもあるが……」
アニスもあの謎の男もフェイのことを「オオカミ」と呼んだ。
アニスは「匂い」を嗅ぎ取ったのだろうと思うし、封印が反応したのもフェイ
に気づいた理由かもしれない。
だが、問題はフェイに何を伝えようとしていたのか。
流れからして警告かとあたりをつけていたが、それはこの事件に対する認識を
大きく変えてしまうあたらしい事実を示していた。
つまり、やつらは獣の血脈を狙った可能性だ。
ひとつ、フェイには思い至ることがあった。
それはフェイがすべてを失ったあの事件、フェイは「血のほとんどを失って」
いたということ。
今まで単に負傷で出血多量と思っていたが……。
(考えすぎか? だが、あの男は俺が狙われるといった。 そして今回の件)
フェイはコズンとレベッカに話すべきかとも思ったが、確証も足らず、復習を
望む自分の思い込みの可能性も高かったため、迷っていた。
「いや、一度これまでの被害者のことを調べてみる必要があるな、とな」
「ああーそうね。 たしかにあんなのが出てくるなんて、単なるリビングモンス
ターの騒動なんておもえないもんね」
レベッカが相槌を打つ。
コズンも先程の強敵を思い出して、悔しさが再び胸を熱くするのをかんじた。
(畜生! 次はあんなザマじゃおわらねぇ!)
レベッカはコズンの考えてそうなことはお見通しだったがそこには触れずに
シャルナのほうを見た。
「ね、あなたたちもいちど狙われてるし、アカデミーに相談してみない? 私た
ちもどうせ戻るんでしょ?」
最後のはフェイへの問いかけだった。
過去の事件を調べるなら、報告もかねていちど戻る必要がある。
「私たちは何のあてもありませんから、紹介していただけるならありがたいです」
シャルナも本とはお礼とともに、安全なところまで送ってもらえないか頼むつ
もりだったので、断る理由は何もなかった。
「そうだな。 明日、アニスだったか? 彼女が大丈夫そうなら、一緒にアカデ
ミーに戻ろう」
「けっ! 逃げ帰るんじゃねーだろうな」
「やつらも標的を変えるだろうし、闇雲にここらをさまよっても効率は悪いし
な。 もっともお前がさまよう分にはかまわんがな」
「てめぇ!」
「ふたりとも! いい加減にしなさい!」
その様子を見ていたシャルナはようやく安心できたのか、初めて少女らしく微
笑んだように見えた。
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NPC: レベッカ、リズ、シャルナ
場所:道中宿兼酒場
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夜の闇に包まれた町は、黄昏時の騒ぎがうそのように静まり返っていた。
もともと旅の途中の休憩所といった風情で、日が沈んでから騒げるところなど
酒場ぐらいしかない。
しかし先刻の騒ぎですっかり気をそがれてしまったようで、何時もは唯一喧騒
の耐えることのない酒場も町とともに眠りについたかのように静かだった。
フェイ、コズン、レベッカの三人は体の汚れ(とくにコズンは飛び大口の体液
もだいぶ浴びていたため、一風呂浴びなければ落ち着けなかった)
を落としてさっぱりすると、夕方までとは打って変わって静かな酒場のテーブル
で、主人の差し入れてくれた果実酒を飲みながらようやく一息をついていた。
もともと和気あいあいとした一行でない上に、なにやら思案に耽るフェイが押
し黙っていることもあって、コズンはあまり機嫌よくなかった。
コズンもフェイ相手に楽しく酒を酌み交わすつもりはなかったが、あの召喚師
だか格闘士だかわからない敵と言葉を交わしたらしいフェイからなんらか説明が
あるだろうと思って、こうして辛気臭いのを我慢して相席しているのだ。
「……おい!」
さすがに我慢も限界、とコズンが声を荒げようとしたとき、テーブルの上に
座って葦のストローで果実酒を味わっていたレベッカが、その小さい手を上げ
て、宿部分でかる二階に通じる階段のあるほうを指し示した。
「コズン、お客さんよ」
「ああ?」
首だけをひねってそちらを見たコズンは、こちらのテーブルに一人の女性が近
づいてきてるのが見えた。
無地の白いシャツにゆったりしたズボンというラフな格好のその女性を怪訝な
表情で見てたコズンは、その相手がテーブルの脇まで来て頭を下げたところでよ
うやく誰か気がついた。
「あんた確か、あの子の……」
「はい、アニスを助けていただきありがとうございました。 連れのシャルナと
申します」
騒ぎの中で、助けを求めて叫んでいた女性は名乗った後もう一度頭を下げた。
「あの子は大丈夫?」
「はい、だいぶ疲れているようですが、幸いたいした怪我もありませんでしたから」
レベッカにそう答えるシャルも疲労の影が見えていたが、アニスが無事だったこ
とを確認できたからか、落ち着いた様子だった。
「別に……ああ、いや、そうだ、そういやあの胸のところの変な刻印から血が出て
たけど、あれも止まったのか?」
コズンとしては不本意な部分もあったため、ありがとうといわれても素直に受
けられず、おもわず悪態で返しそうになったコズンだったが、彼の言いそうな事
をよく知るレベッカに睨まれ、あわてて別の話題に切り替えた。
「傷はたいしたことなさそうだったけど、その割りに血が止まらなくて気になっ
てたんだ」
「はい、もう大丈夫です」
シャルナは一瞬フェイに目をやりながらそう答えた。
「ふーん、変な呪詛とかじゃなくてよかったな。 なんか魔除けっぽかったけど」
「ええと、あれは……」
コズンが流れで何気なく聞いたことにシャルナは答えを言いよどむ。
「……血を封じているのか?」
ふいにフェイが感情を感じさせない声を出した。
内心「せっかくお礼にきてんのに、つめてーやつだ」と、フェイの無反応に対
して思っていたコズンも一瞬虚をつかれて驚いたものの、すぐに
「血?」とフェイの言葉の意味がわからないことにムッとして、眉をしかめてし
まう。
レベッカはもっと素直に、
「血?」
と疑問を声に出してシャルナとフェイを交互に見上げた。
シャルナは返事をしかけて、またフェイをみて口ごもる。
だがフェイは意外なことに微笑を浮かべてうなずいた。
「大丈夫だ。 エドランスは君たちの望んだとおりの国だ」
この言葉の意味もわからなかったコズンとレベッカは、顔を見合わせて「なん
のこと?」「しるかよ!」と目で会話した。
「……はい。 あれはあの子の……獣の血を封印してたんです」
「やはりそうか。 では俺の血に反応して封印が敗れかけて傷になったんだな」
「はい。 ですが先ほど術を強くかけなおしたので、もう大丈夫です」
「……失礼だが、貴女は封印もしてなさそうだが……」
「お察しのとおり、血はつながってません」
「そうか……」
フェイとシャルナは事情が通じているらしく、よどみなく会話を進めていく。
しかしそれでは面白くないのが二人。
とくにコズンはフェイがわかってて自分がわからない状況が面白いはずもなく、
「おい! 二人で分かり合ってねーで、少しは説明しろ!」
と不機嫌そうにはき捨てた。
シャルナはまだ不安そうだったが、改めて説明した。
「アニスは半獣人、ライカンスロープの血を引いているのです。 完全ではない
ので、瞳の色が変わるほかは嗅覚が鋭くなる程度なので、今まで
軽い封印で血を抑えてその変化を封じていたのです」
意を決して打ち明けたシャルナの覚悟をよそに、コズンとレベッカは「それ
で?」とたいした反応を見せなかった。
その様子にシャルナが戸惑ったように言いよどむと、フェイは発足間もない仲
間でも初めてみるような笑みを見せた。
「そういうことだ。 この国では隠すようなことでもない」
フェイのこの言葉にまずはレベッカが、そして遅れてコズンもようやく一つの
ことに思い至った。
エドランス以外での人間の国における偏見と差別。
この国に慣れてしまい、ましてやそうしたことを考えたことのないコズンに
は、はなから想像の外の話だったのだから、あの紋章を目にしてもそういう使い
方をされるとは思いつきもしなかった。
レベッカは地域によっては自分も差別される側だと知っていたが、仲間に恵ま
れ、エドランスではそういう体験をしたこともなかったため、や
はり忘れていたのだ。
「そんなもん、さっきまでのここの酒場だけ見ても、きにするやつのほうが珍し
いってわかりそうだろ」
コズンはなんとなくぼやくように言うとフェイに向き直った。
「ひょっとして、さっきからそれを考えてたのか?」
「それもあるが……」
アニスもあの謎の男もフェイのことを「オオカミ」と呼んだ。
アニスは「匂い」を嗅ぎ取ったのだろうと思うし、封印が反応したのもフェイ
に気づいた理由かもしれない。
だが、問題はフェイに何を伝えようとしていたのか。
流れからして警告かとあたりをつけていたが、それはこの事件に対する認識を
大きく変えてしまうあたらしい事実を示していた。
つまり、やつらは獣の血脈を狙った可能性だ。
ひとつ、フェイには思い至ることがあった。
それはフェイがすべてを失ったあの事件、フェイは「血のほとんどを失って」
いたということ。
今まで単に負傷で出血多量と思っていたが……。
(考えすぎか? だが、あの男は俺が狙われるといった。 そして今回の件)
フェイはコズンとレベッカに話すべきかとも思ったが、確証も足らず、復習を
望む自分の思い込みの可能性も高かったため、迷っていた。
「いや、一度これまでの被害者のことを調べてみる必要があるな、とな」
「ああーそうね。 たしかにあんなのが出てくるなんて、単なるリビングモンス
ターの騒動なんておもえないもんね」
レベッカが相槌を打つ。
コズンも先程の強敵を思い出して、悔しさが再び胸を熱くするのをかんじた。
(畜生! 次はあんなザマじゃおわらねぇ!)
レベッカはコズンの考えてそうなことはお見通しだったがそこには触れずに
シャルナのほうを見た。
「ね、あなたたちもいちど狙われてるし、アカデミーに相談してみない? 私た
ちもどうせ戻るんでしょ?」
最後のはフェイへの問いかけだった。
過去の事件を調べるなら、報告もかねていちど戻る必要がある。
「私たちは何のあてもありませんから、紹介していただけるならありがたいです」
シャルナも本とはお礼とともに、安全なところまで送ってもらえないか頼むつ
もりだったので、断る理由は何もなかった。
「そうだな。 明日、アニスだったか? 彼女が大丈夫そうなら、一緒にアカデ
ミーに戻ろう」
「けっ! 逃げ帰るんじゃねーだろうな」
「やつらも標的を変えるだろうし、闇雲にここらをさまよっても効率は悪いし
な。 もっともお前がさまよう分にはかまわんがな」
「てめぇ!」
「ふたりとも! いい加減にしなさい!」
その様子を見ていたシャルナはようやく安心できたのか、初めて少女らしく微
笑んだように見えた。
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