PC:マシュー リウッツィ エルガ
NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園
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すてきな夕餉
パンにスープ 肉に魚
知らないお酒は赤い色
どんな食べ方だってかまわない
みんなおなじ姿でたいらげた
あぁなんてすてきな夕餉!
歌が聞こえる。
男性の声だ。
朗々としているわけでもなく特別響く声でもないのだが、癇に障らずにするっと耳に入ってくる、不思議な声だ。
歌は、確か、子どもが遊びのときに歌うものだ。
聞き覚えはあるのだが、どうやって遊ぶものかが思い出せない。
この公園で子どもと遊んでいる父親でもいるのだろうか。
エルガ・ロットは足を止める。
いつのまにか止んでいた、歌の主が気になったからではない。
頬かかった水滴が、エルガの視線を変えさせたのだ。
大きく丸い形に作られたため池の真ん中から、水が噴きあがっている。
噴水だ。
池は濁っておらず、底に沈む落ち葉が見える。
よく掃除されているのか、よくバランスを考えて生き物や植物が配置されているのだろう。
水気を含んだ風は、この季節は厳しい寒さをはらんでいるが、それも鼻の奥に感じるツンとした冷気が心地いい。
エルガが在籍していた魔術学院では、祭の時期になると、噴水の流れる水に魔法で色をつけたり光らせたりするような、学生による出し物が見られるが、エルガはこういうまじりっけのない噴水のほうが好きだったりする。
扇型の葉が、一枚水面に落ちる。
そこから広がる波紋をぼうっと眺めていたが、突然、足元に暖かく柔らかい感触を感じた。
「ひゃあ」
思わず声をあげて見下ろすと、にゃあにゃあと声をあげて、盛んに頭をすりつけている生き物がいた。
赤みがかった不思議な風合いの毛並みをした、小柄な生き物だ。すらりとのびた尻尾の先には、小さな炎が灯っている。
「ええと…」
何か魔法に関係あるに違いない生き物だが、愛嬌をふりまく様子は、学園の庭に多数居ついている猫にそっくりだ。
一方的に好意を向けられて、エルガは困惑する。
この生き物の関係者なのか、ぱたぱたと赤い服を着た女性が走ってくるのが見えた。
「ごめんなさい。びっくりしたでしょう?」
長い髪を高く結んだ女性が、エルガの顔を見上げていった。
「あ、ええ」
エルガはなんと答えていいのかわからず、曖昧に頷く。
綺麗な体の形をした人だ。
この太ももまで足が見える服は、ソフィニアの学校で遠方からの留学生が来ているのを見たことがあるが、ここまで鮮やかに着こなしている人はいなかったようにエルガは思う。
「この子、女の子が大好きで。好みの子をみつけるとすぐによっていっちゃうのよ」
女性は身をかがめて、エルガの足元の生き物を抱きかかえる。
「あ、ごめんね。もしかして猫が苦手な人かしら?」
エルガがぼうっとしているのを気にしてか、気遣うように声をかけてくる。
「あ…、そういうわけではないんですけど。猫、なんですか? その…」
「猫っていうか、猫又って知ってる?」
「えーと…」
語感が記憶にひっかかるような気はしたが、はっきりと心当たりはなく、エルガは視線を女性から外して唸る。
「焔猫って言ってね。火属性の魔法が使える猫よ」
エルガの様子を“知らない”と判断した女性は端的に説明をする。
あ、この人、いい人だ。
馬鹿にした様子でも、過度に教え諭す様子でもなく、知識のない人に当然のこととして説明する様子に、エルガは好感を持つ。
「しっぽの焔は熱くないのよ。本当だったら、しっぽ触ってみるって言いたいところなんだけど…、あなたどこかに行く途中よね? たぶん私がこの子を放したら、またさっきみたいになっちゃうと思うのよ」
みぎゃーっと、その生き物は女性の腕の中でうにうに動いて、今にも抜け出しそうだ。
よく見ると、とても奇麗な毛並みをしていて興味が惹かれたが、先ほどのようにやたらと懐かれるのはエルガの得意とするところではない。
「そうですね…。残念ですけど、ありがとうございます」
エルガの言い回しが面白かったのか、女性がぷっと吹き出す。
「ふふ、機会があったらまたゆっくりおしゃべりしたいわね」
エルガはきょとんとしていたが、ぺこりと会釈をする。
「あ、はい…、では失礼します」
そのまま、たし去ろうとしたのだが、足首のあたりに強い抵抗を感じて、つんのめってった。
そのままバランスを崩して、地面に強く膝を打ってしまう。
「あら、大丈夫!?」
女性はエルガに手を差し伸べようとすると、その隙に猫がするりと地面に降り立つ。
「だいじょうぶ…です」
ひっかかった足首と膝はじんじんするが筋を痛めたりはしていなかったようで、彼女の手を借りて、すんなりと立ち上がれる。
今のはなんなんだろう。
足首のあたりに、高さや幅はあまりないが地面と平行に、進路を妨害するものがあった。
「縄とか、紐…みたいな」
エルガはあいまいに首をかしげる。
「怪我とかない? なんか痛そうな音してたわよ?」
女性が、気遣わしげに声をかける。
猫も、今度はすりよってこないで、エルガが転んだあたりの地面で、匂いを嗅ぐようなしぐさをしていた。
「えっと…」
確かに、勢いよく打ちつけたので、少しくらいは怪我をしているような気はする。
しかし、これ以上、知り合いなわけでもない彼女と話を続けるのもどうかと思い、返事につまってしまう。
その時、遠くから呼びかけるような第三者の声が聞こえた。
「おーい、大丈夫かのー?」
少し離れたところから、男性が手を振りながら駆けてくるのが見えた。
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NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園
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すてきな夕餉
パンにスープ 肉に魚
知らないお酒は赤い色
どんな食べ方だってかまわない
みんなおなじ姿でたいらげた
あぁなんてすてきな夕餉!
歌が聞こえる。
男性の声だ。
朗々としているわけでもなく特別響く声でもないのだが、癇に障らずにするっと耳に入ってくる、不思議な声だ。
歌は、確か、子どもが遊びのときに歌うものだ。
聞き覚えはあるのだが、どうやって遊ぶものかが思い出せない。
この公園で子どもと遊んでいる父親でもいるのだろうか。
エルガ・ロットは足を止める。
いつのまにか止んでいた、歌の主が気になったからではない。
頬かかった水滴が、エルガの視線を変えさせたのだ。
大きく丸い形に作られたため池の真ん中から、水が噴きあがっている。
噴水だ。
池は濁っておらず、底に沈む落ち葉が見える。
よく掃除されているのか、よくバランスを考えて生き物や植物が配置されているのだろう。
水気を含んだ風は、この季節は厳しい寒さをはらんでいるが、それも鼻の奥に感じるツンとした冷気が心地いい。
エルガが在籍していた魔術学院では、祭の時期になると、噴水の流れる水に魔法で色をつけたり光らせたりするような、学生による出し物が見られるが、エルガはこういうまじりっけのない噴水のほうが好きだったりする。
扇型の葉が、一枚水面に落ちる。
そこから広がる波紋をぼうっと眺めていたが、突然、足元に暖かく柔らかい感触を感じた。
「ひゃあ」
思わず声をあげて見下ろすと、にゃあにゃあと声をあげて、盛んに頭をすりつけている生き物がいた。
赤みがかった不思議な風合いの毛並みをした、小柄な生き物だ。すらりとのびた尻尾の先には、小さな炎が灯っている。
「ええと…」
何か魔法に関係あるに違いない生き物だが、愛嬌をふりまく様子は、学園の庭に多数居ついている猫にそっくりだ。
一方的に好意を向けられて、エルガは困惑する。
この生き物の関係者なのか、ぱたぱたと赤い服を着た女性が走ってくるのが見えた。
「ごめんなさい。びっくりしたでしょう?」
長い髪を高く結んだ女性が、エルガの顔を見上げていった。
「あ、ええ」
エルガはなんと答えていいのかわからず、曖昧に頷く。
綺麗な体の形をした人だ。
この太ももまで足が見える服は、ソフィニアの学校で遠方からの留学生が来ているのを見たことがあるが、ここまで鮮やかに着こなしている人はいなかったようにエルガは思う。
「この子、女の子が大好きで。好みの子をみつけるとすぐによっていっちゃうのよ」
女性は身をかがめて、エルガの足元の生き物を抱きかかえる。
「あ、ごめんね。もしかして猫が苦手な人かしら?」
エルガがぼうっとしているのを気にしてか、気遣うように声をかけてくる。
「あ…、そういうわけではないんですけど。猫、なんですか? その…」
「猫っていうか、猫又って知ってる?」
「えーと…」
語感が記憶にひっかかるような気はしたが、はっきりと心当たりはなく、エルガは視線を女性から外して唸る。
「焔猫って言ってね。火属性の魔法が使える猫よ」
エルガの様子を“知らない”と判断した女性は端的に説明をする。
あ、この人、いい人だ。
馬鹿にした様子でも、過度に教え諭す様子でもなく、知識のない人に当然のこととして説明する様子に、エルガは好感を持つ。
「しっぽの焔は熱くないのよ。本当だったら、しっぽ触ってみるって言いたいところなんだけど…、あなたどこかに行く途中よね? たぶん私がこの子を放したら、またさっきみたいになっちゃうと思うのよ」
みぎゃーっと、その生き物は女性の腕の中でうにうに動いて、今にも抜け出しそうだ。
よく見ると、とても奇麗な毛並みをしていて興味が惹かれたが、先ほどのようにやたらと懐かれるのはエルガの得意とするところではない。
「そうですね…。残念ですけど、ありがとうございます」
エルガの言い回しが面白かったのか、女性がぷっと吹き出す。
「ふふ、機会があったらまたゆっくりおしゃべりしたいわね」
エルガはきょとんとしていたが、ぺこりと会釈をする。
「あ、はい…、では失礼します」
そのまま、たし去ろうとしたのだが、足首のあたりに強い抵抗を感じて、つんのめってった。
そのままバランスを崩して、地面に強く膝を打ってしまう。
「あら、大丈夫!?」
女性はエルガに手を差し伸べようとすると、その隙に猫がするりと地面に降り立つ。
「だいじょうぶ…です」
ひっかかった足首と膝はじんじんするが筋を痛めたりはしていなかったようで、彼女の手を借りて、すんなりと立ち上がれる。
今のはなんなんだろう。
足首のあたりに、高さや幅はあまりないが地面と平行に、進路を妨害するものがあった。
「縄とか、紐…みたいな」
エルガはあいまいに首をかしげる。
「怪我とかない? なんか痛そうな音してたわよ?」
女性が、気遣わしげに声をかける。
猫も、今度はすりよってこないで、エルガが転んだあたりの地面で、匂いを嗅ぐようなしぐさをしていた。
「えっと…」
確かに、勢いよく打ちつけたので、少しくらいは怪我をしているような気はする。
しかし、これ以上、知り合いなわけでもない彼女と話を続けるのもどうかと思い、返事につまってしまう。
その時、遠くから呼びかけるような第三者の声が聞こえた。
「おーい、大丈夫かのー?」
少し離れたところから、男性が手を振りながら駆けてくるのが見えた。
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