忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 16:04 |
BLUE MOMENT -わなとび- ♯1/マシュー(熊猫)
キャスト:マシュー
NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園

――――――――――――――――

まる一日すべてを足止めした強風は、明け方に止んだ。

昼の空は真新しい色で広がり――まるで一枚、古い膜を取り去ったかのように
明るかった。
今いるエランド公園は、街のほとんどを石畳で覆われたコールベルに存在する
公園の中でも珍しく、緑の多い、芝生のある公園だった。
特に数十本から成るイチョウ並木は、毎年秋になると見事な黄金に染まる。

ぱしん、という小気味よい音がして、空にゆるやかな弧がかかった。
音は一定のリズムを刻みながら、カーブを描いては消えるを繰り返す。



すてきな夕餉

パンにスープ 肉に魚
知らないお酒は赤い色



大抵の子供なら知っている縄跳び歌だ。
マシュー・ゾディワフ・スワロフスキーはそれを口ずさみながら、
ただひたすらに腕を動かしていた。

ただし飛び手は誰も居ない。脇にあるイチョウの木にロープの端を
くくりつけ、道を塞ぐようにしてたった一人で縄を回している。



どんな食べ方だってかまわない
みんなおなじ姿でたいらげた

あぁなんてすてきな夕餉!


歌が終わっても無論誰も来ない。ひら、と黄色と濃い緑の
グラデーションのかかった扇形の葉が落ちてきた。
それを目で追おうとふと顔をそらした時、聞き慣れた声がした。

「また変な事して」
「おー、ジュンちゃん」

歩いてきたのは、同居人のジラルドだった。手に箱を抱えて、呆れた顔で
こちらを見ている。声が届きやすい位置に彼が近づいてくるのを待って、言う。

「値は?」
「えぇ、ほとんどタダ同然です」
「そうじゃろう。きっと向こうも手放したかったに違いないからのう」

満足そうに笑って、また縄回しを再開する。

「で、マシューさんは何してんですか」
「アンケート」
「は?」
「『道の真ん中で縄を回したら、何人が跳んでくれるか?』という」
「…結果は?」
「午前中までで15人」
「意外に飛んでた!」

とさ、と道の端に箱を置くジラルド。中身は買い取った商品が
入っているはずだ。

「まぁそのうち14人がお散歩中の保育園児じゃが」
「いいタイミングでひっかかったんですね」
「あと引率の先生にごはん誘われた」
「そっちもひっかけたのか畜生!!」

心底悔しそうに歯を軋らせるジラルドに、朗らかに笑ってやる。

「ジュンちゃん代わりに行ってくると良いよ」
「なんかそれ負けな気がするんでいいです…先に帰りますね」
「なあ、ジュンちゃん」

意気消沈しながら箱を抱えようとするのをさえぎるように、手を止めて
縄を地面に下ろす。それを示し、問う。

「これ、何に見える?」

木とマシューの間は、縄が一直線に横たわっている。
ジラルドはそれを一瞥し、こともなげに答えた。

「縄跳びの縄ですね」
「うん、ではこっちに立って」

縄の横を示す。ジラルドはふとこちらの顔を見たが、あきらめたように
素直に移動する。その顔を言葉で示すなら――『また始まった』と言った
ところだろうか。

「これは?」
「縄は縄ですが、店長と木を結ぶ線とも言えるかな」
「ではもう一本増やしてみると」

うんうんと頷いて、足元においてあった縄の束をほどき、同じように
木とマシューの間に置く。こうして、ジラルドの前には二本の縄が
横たわる形になった。

「道ができましたね」
「こうすると?」

今度は縄を十字に交差させる。そろそろ飽きてきたのか、ジラルドは
軽く上の空で答えた。

「四つの部屋ですね」
「では一本に戻して」

木に結んだままの縄を外し、結びまとめる。残った一本を両手に持ち、

「はいぐるぐるー」

ぱっと棒立ちのジラルドに巻きつける。

「ちょ、馬鹿やめろ!」

ばたばたと巻かれた縄をほどきながら罵声を浴びせかけてくる
ジラルド。マシューは適当に縄を手放すと、残ったほうの縄を回収して
まとめて手に持った。

「よし、帰ろうか」
「なんなんですか今の」

慌てて木箱を抱えあげて、先を歩くこちらに足早で追いついてくる。
マシューは結んだ縄を手にひっかけてくるくる回しながら、ぼんやりと
空を見上げながら答えた。

「いやな、ちょっと罠を仕掛けてみようかと」
「罠?今のがですか?」
「今のは実験」
「成功?失敗?」
「んー。要・改良」
「まぁ…ご近所に迷惑がかからないようにしてくださいね。そのうち
回覧板まわってこなくなりますよ」

はぁ、と嘆息して同じように空を見上げた、つもりだったのだろう。
何かに気づいていきなり飛びつくようにして顔をこちらの手元に近づける。

「これ!洗濯物干してたロープじゃないですか!!
…ここにあるってことはそういう事ですよね!?ねぇ!」
「ばれた?」
「干してあったシーツは!?」

一気に血の気をひかせた顔で、すごんでくるジラルド。しかし
マシューは動じず、むしろ真顔で応じる。

「大丈夫、ちゃんと避雷針にくくりつけてきた」
「ぜんぜん大丈夫じゃないですよ!白旗か!」
「いや旗ならもっと絵とか描いて――あ」

勢いがついた縄の束が、手からすっぽ抜けて。

大きな弧を描いて茂みの中へ落ち――

「ぎゃん!」

その直後聞こえてきた悲鳴のような鳴き声に、マシューとジラルドは
思わず顔を見合わせて立ち止まった。

――――――――――――――――
PR

2008/10/23 18:45 | Comments(0) | TrackBack() | ○BLUE MOMENT -わなとび-

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<Tu viens avec moi 02  剣の影へ/ヒュー(ほうき拳) | HOME | 異界巡礼-12 「誰そ彼」/フレア(熊猫)>>
忍者ブログ[PR]