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2024/05/21 12:52 |
AAA -05. "A"ll truths are not to be told./イヴァン(熊猫)
PartyMember:
フェドート・クライ イヴァン・ルシャヴナ ヴァージニア・ランバート
Stage:
ガルドゼンド王国南部・フォイクテンベルグ→川原
Turn:
イヴァン・ルシャヴナ(02)
――――――――――――――――

水面を滑る風が涼気を含んで、頬を撫でる。
空には薄く引き延ばした綿を思わせる雲が見えた。それを横切る雁の群れは、
いびつなV字を描きながら遠くの梢に消えていった。

それを見送ったかのようなタイミングで、女――ヴァージニアが
ぽつりとつぶやく。

「恋人が異形に変わり果てるも、愛の力で見つけてハッピーエンド。
…よくある話だけど」
「まー今回使うのはお金の力だし、しかも見つけてもハッピーに
なれそうなのはあの軍人さんくらいかもねー」

変化のない景色に飽きたのか、フェドートが話に乗ってきた。
川岸に佇む一組の男女と言えば聞こえはいいが、
格好が格好だけにある種の非日常を感じさせる。

「おとぎ話の裏側って案外そんな感じよね」
「だよねー」

そんな世間話を聞き流しながら、イヴァンは周囲を見渡した。

対岸に茂った木々は川の中央まで枝を伸ばし、向こうにある淵を
さらに青黒くさせている。

透明な流れは底を隠すことはなく、やけに小さく見える沈んだ岩と、
小魚の群れが縦横無尽に泳いでいる様がはっきり見てとれた。

無理をすれば渡れるほどの川――という話だったが、岸辺近くには
染みのような深い淵が点々として見える。
話を真に受けて迂闊に踏み入れれば、運の悪い人間ならば
溺れそうではある。

朽ちて沈む古木に生えた藻が揺れている。さながら緑の炎のように
ゆらいでいるそれをじっと見ていると、声をかけられた。

「なになになんかいるのー?魚ー?」

あっけらかんとした声に振り向くと、いつの間に近づいたのか
フェドートがすぐそばで整った顔を無邪気な笑顔で崩している。

フェドート・クライ。
竜の目を持つ無敵のランカー。
そのあまりの強さのために噂が噂を呼び、今では都市伝説の域にまで
ある存在だ。実は女だという噂も耳にしていたが、なるほど
そう言われてもおかしくない程の美貌である。
仮に目の前の男が「フェドート・クライ」ではなかったとしても、
歩き方やさりげない仕草からも相当の手錬れだという事が伺えた。

つまり、そういう事なのだろう。

「できれば魚探すより石を探して欲しいのだけれど」

答えずにいると、フェドートの背中越しにヴァージニアがやや
遠くから心底うんざりした様子で水を差してきた。
とはいえ、こちらに対してというよりこの状況に対して
苛立っているのだろうが。

「石は逃げないけど魚は逃げちゃうよ?」
「魚を捕っても報酬は入らないわ」

ヴァージニア・ランバート。
その涼しげな立ち振る舞いと相反する二つ名を背負う女。
武器はその身ひとつと刀だけ。しかし計算され尽くしたその
曲線の刃に触れた者は、煉獄の炎に焼かれでもしたかのように痛むという。
彼らの悲鳴と苦痛を見聞きしてなお、その物憂げな表情を
変えないのならば、あるいはその名を冠するにふさわしい女かもしれない。

何も調べていないのに、目の前の人物に対してこれだけの情報が頭にある。
真偽のほどは定かではないが、すべてガセというわけではないだろう。

そんな事を考えながら視線を水面に移した瞬間、視界の端に映った影を
認めてさっと腕を振る――水を縫い取るようにして、発射された針は
水音を伴って確かな手ごたえを伝えてきた。

水面下でぎらりと銀と銀が絡み合い、ほどなく一匹の魚が左右のエラを
一直線に貫かれて川岸に流れ着く。

「おー」

ぱちぱちと子供のように小さく拍手をするフェドート。
やたら丈の長い服のすそが地面に触れることも厭わず、やや下流に
流れ着いた魚を物珍しそうに観察しだす。

「綺麗な色ー。わっ跳ねた」

急所をはずされた魚はまだ元気だったが、動きを遮る針に邪魔されて
おいそれとは逃げられない。それでも弱る前にと、手早く足元の石を
積んで小さな囲いを作った。

そしてフェドートの元からひょいと魚を取り上げると、針を抜いて
囲いの中に放す。そうして、また岸に佇んで――

「て、ちょっと!」

とうとうヴァージニアが矛先をこちらに向けてきた。
足場の悪さをものともせずに、さっさと歩み寄ってくる。

「あなた達、仕事する気あるの?」
「あるけどー。なんかお腹減ったかもー」

やや口を尖らせて不服そうに反論するフェドートをじろりと
にらみやって、今度はこちらにも同じような目を向けるヴァージニア。
イヴァンは特に感情を込めず女の目を見返して、ぼんやりと
飾りのような泣きぼくろを見つけていたが――ふ、と彼女が
顔を伏せたのですぐに見えなくなった。

「…わかったわ。作戦会議といきましょう」
「はーい!」

やたら元気に返事をするフェドートの声に驚いたように、囲いの中の
魚が跳ねる。イヴァンは手狭になった囲いの中にまたもう一匹を
投げ入れながら、なんとはなしに崩れた塔の跡に目を向けた。


恋人から逃げるために石になった男と、それを他人に探させる女。


男は何のために石になったのだろうか。
誰にも見つかりたくないのならば死ぬべきだ。なのにわざわざ
石になったという事は、誰かに見つけてもらいたいという気持ちが
どこかにあるのではないか。

女は何故自分では恋人を探さないのだろうか。
それほど大事な恋人ならば全てを投げ出して探してもいいはずだ。
高ランクのハンターを複数名雇うのはそう簡単なことではない。
それほどの労力を賭しておきながら、なぜ現地に足を運ぶことすら
しないのだろうか。

――もっとも、自分の知ったことではないが。

「じゃ、貴方は薪でも拾ってきて。カマドはこっちで作るから」
「わー本格的!」

がらがらと石が転がる音と軽快な足音を背後に、イヴァンは
5匹めの魚へ向けて針を放った。

――――――――――――――――
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2008/09/25 08:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○AAA

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