PC:ジルヴァ マックス ラルク
場所:シカラグァ連合王国・直轄領(ご飯屋)
―――――――――――――――――――――――――――
食後に茶を一杯頼むと、砂糖の衣を着せた豆菓子を入れた小鉢が添えられていた。
「おや」
「何だい?」
化粧っけのない中年の女性が、ジルヴァの前に湯飲みを置くときに眼を丸くしたので、ジルヴァは不機嫌に応じる。
ジルヴァは、このように驚かれるのにはある程度は慣れていた。
汚れるのもかまわず地面に引きずっている分厚いローブの裾や、顔の半分以上を隠しているフードは、他者に警戒心を抱かせるに十分な物だし、嫌悪感やぶしつけな興味を隠そうともしない人間はどこにでもいる。
大抵の場合は無視してやり過ごすのだが、その店の者の反応が悪意の感じられない素朴なものだったので、つい言葉を返してしまったのだ。
「いやぁね、それがあたしったらさ」
女性はお盆を抱えて恥ずかしそうに片手を振る。
「おばあちゃんのこと、厨房から見てて、なんかちっちゃい子が野郎2人に連れられてるんだなぁって思っちゃったんだよ。それでつい菓子なんか用意しちゃったんだけど、余計なお世話だったかね」
「……歯は丈夫なほうだからね。ありがたくいただくよ」
ジルヴァがそう答えると、女性は「そりゃよかった」とからから笑って、厨房に戻っていった。
「マックスさんが魚をむしってあげてたから、遠目では子どもさんを世話してるように見えたんですかねー」
豆菓子は一人分ずつ配られていたから、ラルクもさっそくつまみ上げて言う。
「さぁね」
一粒噛むと、豆の部分まですんなり砕ける。一度ゆでてから炒ってあるのだろうか。豆の香ばしさや旨みと砂糖の甘さの相性がいい、滋味に富む菓子だ。
ジルヴァはこの店にラルクが連れてきた理由が、なんとなくわかる気がした。
「ところでさっきの何だったんでしょうねぇ」
ぽってりとした湯のみの中身をすすって、ラルクがへらっと笑っていう。
体調のためか、知らない人間と話すことに慣れてきたためか、この若者はさっきからどこか緩んでいるように見える。
「さっきのって?」
「ほら、ジルヴァさんが泊まってる宿まで行ったとき。魔法使い同士の喧嘩とかですかねぇ。変わった感じの女の人も出てきましたし。どう思います?」
ラルクが、旅慣れていると言っていたマックスに話を振る。
「さぁ…。魔法がらみのことは生憎あまり詳しくないので」
「そうなんですかー。まぁ、ここっていろんな人がいるからなぁ」
「痴話喧嘩だろ。魔法使いでもいりゃあ、大げさになることもあるんじゃないのかい。あんまり今騒ぎにもなっていないし、テロがあるような治安の悪いとこでもないんだろ?」
そもそも飛び出してきたのはジルヴァの知っている人間で、騒ぎがあったのはジルヴァの泊まっていた部屋なのだが、しれっとジルヴァは言う。
いや、だからこそジルヴァはあの騒ぎがたいしたものではないと思っていた。
わざわざジルヴァを睨みつけてから逃走するほど余裕のあったナーナ=ニーニが、少しでもなんらかの脅威の存在する状況であの男を一人にしておくわけがないのだ。
ほぼ間違いなく、痴情のもつれの面倒な話で、ナーナ=ニーニが些細なことでぷっつり切れただけの話だろうとあたりをつけていた。
新しい客が入ってきたのだろう。夜気が篭った店内に入ってくる。
その外気に、先ほど感じた生花のような甘い香が混じっているのに気づいたが、ジルヴァは何も言わずに豆を噛んだ。
-----------------------------------------------
場所:シカラグァ連合王国・直轄領(ご飯屋)
―――――――――――――――――――――――――――
食後に茶を一杯頼むと、砂糖の衣を着せた豆菓子を入れた小鉢が添えられていた。
「おや」
「何だい?」
化粧っけのない中年の女性が、ジルヴァの前に湯飲みを置くときに眼を丸くしたので、ジルヴァは不機嫌に応じる。
ジルヴァは、このように驚かれるのにはある程度は慣れていた。
汚れるのもかまわず地面に引きずっている分厚いローブの裾や、顔の半分以上を隠しているフードは、他者に警戒心を抱かせるに十分な物だし、嫌悪感やぶしつけな興味を隠そうともしない人間はどこにでもいる。
大抵の場合は無視してやり過ごすのだが、その店の者の反応が悪意の感じられない素朴なものだったので、つい言葉を返してしまったのだ。
「いやぁね、それがあたしったらさ」
女性はお盆を抱えて恥ずかしそうに片手を振る。
「おばあちゃんのこと、厨房から見てて、なんかちっちゃい子が野郎2人に連れられてるんだなぁって思っちゃったんだよ。それでつい菓子なんか用意しちゃったんだけど、余計なお世話だったかね」
「……歯は丈夫なほうだからね。ありがたくいただくよ」
ジルヴァがそう答えると、女性は「そりゃよかった」とからから笑って、厨房に戻っていった。
「マックスさんが魚をむしってあげてたから、遠目では子どもさんを世話してるように見えたんですかねー」
豆菓子は一人分ずつ配られていたから、ラルクもさっそくつまみ上げて言う。
「さぁね」
一粒噛むと、豆の部分まですんなり砕ける。一度ゆでてから炒ってあるのだろうか。豆の香ばしさや旨みと砂糖の甘さの相性がいい、滋味に富む菓子だ。
ジルヴァはこの店にラルクが連れてきた理由が、なんとなくわかる気がした。
「ところでさっきの何だったんでしょうねぇ」
ぽってりとした湯のみの中身をすすって、ラルクがへらっと笑っていう。
体調のためか、知らない人間と話すことに慣れてきたためか、この若者はさっきからどこか緩んでいるように見える。
「さっきのって?」
「ほら、ジルヴァさんが泊まってる宿まで行ったとき。魔法使い同士の喧嘩とかですかねぇ。変わった感じの女の人も出てきましたし。どう思います?」
ラルクが、旅慣れていると言っていたマックスに話を振る。
「さぁ…。魔法がらみのことは生憎あまり詳しくないので」
「そうなんですかー。まぁ、ここっていろんな人がいるからなぁ」
「痴話喧嘩だろ。魔法使いでもいりゃあ、大げさになることもあるんじゃないのかい。あんまり今騒ぎにもなっていないし、テロがあるような治安の悪いとこでもないんだろ?」
そもそも飛び出してきたのはジルヴァの知っている人間で、騒ぎがあったのはジルヴァの泊まっていた部屋なのだが、しれっとジルヴァは言う。
いや、だからこそジルヴァはあの騒ぎがたいしたものではないと思っていた。
わざわざジルヴァを睨みつけてから逃走するほど余裕のあったナーナ=ニーニが、少しでもなんらかの脅威の存在する状況であの男を一人にしておくわけがないのだ。
ほぼ間違いなく、痴情のもつれの面倒な話で、ナーナ=ニーニが些細なことでぷっつり切れただけの話だろうとあたりをつけていた。
新しい客が入ってきたのだろう。夜気が篭った店内に入ってくる。
その外気に、先ほど感じた生花のような甘い香が混じっているのに気づいたが、ジルヴァは何も言わずに豆を噛んだ。
-----------------------------------------------
PR
トラックバック
トラックバックURL: