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2024/05/21 10:39 |
AAA -04. "A"sk, and it shall be given you./フェドート(小林悠輝)
PartyMember:
フェドート・クライ イヴァン・ルシャヴナ ヴァージニア・ランバート
Stage:
ガルドゼンド王国南部・フォイクテンベルグ
Turn:
フェドート・クライ(02)
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 ヴァージニアの仕事に一段落がついたというので、三人で待合室の隅の椅子のあたり
にたむろして、仕事の条件の希望だの冗談だのを言い合っていると(といっても、イヴ
ァンの代わりに喋っている影が主人の意思を正しく伝えているかどうかは甚だ疑わしか
ったが)、先程の女性職員がカウンターからこちらに手を振ってきた。

「ヴァージニアさん、フェドートさん、イヴァンさん!」

 その声に、少し離れた場所に居合わせていた他の集団が、ぎょっとして振り向いた。
一瞥だけで彼らを無視するヴァージニアとイヴァンの様子は注目を浴びることに慣れて
いることをうかがわせた。フェドートは少しだけ笑いかけてから、二人に続いてカウン
ターへ近づいた。

「さっきのお仕事の話なんですけど、いいですか?
 今ちょうど依頼人が来てて、他の子が話を聞いてるんです。
 それで皆さんのことを話したら、是非とも三人に受けてもらいたいって!」

「なんだか、わたしたちがもうその仕事をするって決まっているような口ぶりね」

 ヴァージニアが軽い毒を含ませた口調で呟いた。
 職員は慌てたように首を横に振った。

「断っていただいても結構ですから。
 強制するつもりなんてありません、大丈夫です!
 でも、せめてお話だけでも聞いてみていただけませんか?」

「聞いたら断れない場合だってあるんじゃないかしら」

「そういう場合は私が耳を塞いでさしあげますから!」

 イヴァンの影から、かすかな忍び笑いが聞こえた。フェドートも笑いながらヴァージ
ニアを横目にした。彼女は相手の心算を確かめようとしただけで、本気で拒否するつも
りはなかったらしく、呆れたような表情で天井を見上げた。

 フェドートは失言に気づいて真っ赤になった職員に、できるだけ魅力的に微笑んだ。

「もしものときはお願いね。案内してくれる?」

「は、はいっ」

 女性職員は勢いよく頷いて、同僚に声をかけてカウンターを任せると、傍らの扉を開
けて待合室へと出てきた。

「こっちです。この先には会議室が幾つかあって、申請があれば貸し出しもしています。
皆さんも何かあったら使ってくださいね。ここで仲介する依頼に関わりのあること以外
の用途だと、有料になっちゃうんですけど……今回はいちばん奥の部屋です。賓客の接
待用にも使う部屋で、ソファのクッションがすごくふわふわなんですよ!」

 ヴァージニアは無関心そうな目をして頷いた。

「へぇ……ところで依頼人はどんな人なの? 仕事に関する話を聞きたいわ」

「えっと、綺麗な人でした。
 背が高くて、きらきらの金髪で……フェドートさんみたいな」

 先行する彼女が振り向いたので、フェドートはその分だけ歩調を緩めた。

「ぼくみたい?」

「はいっ」

 ヴァージニアは歩みを遅らせなかったので、少しだけ取り残されたフェドートはイヴ
ァンの横に並んだ。

「……」

 彼はこちらを横目で見上げて、無言のまま視線を前に戻した。
 その歩みは音もなく、さながら青い影のようだ。たとえばここが夜道で、ふと意識を
外す瞬間があったとすればその途端に見失っても不思議ではない。そして再びその姿を
目に捉えられるときには既に決定的な瞬間は過ぎてしまっているだろう。

「ここです。なんでも、依頼人は貴族の方らしいので、丁寧にしてくださいね。
 皆さんなら大丈夫だと思いますけど」

 ヴァージニアが軽く目を見開いた。彼女が何を思ったのかは、手に取るようにわかっ
た。この一言に尽きるのだろう、“どうしてさっき聞いたときにそれを言わなかった”。
しかしヴァージニアはそれ以上の表情の変化を、恐らくは多大な努力の末に抑制したの
で、職員は何にも気づかずに済んだ。

「……案内ありがとう。ここまでで平気よ。
 普通の人は目の前の扉を開けるだけのことで道に迷わないもの」

「え、でも、耳……」

 フェドートは苦笑してヴァージニアに言った。

「いいんじゃない?」

「…………あなた、さっきから随分と肩を持つわね。
 何かやましい魂胆でもあるんじゃないでしょうね?」

 ヴァージニアは剣呑な小声で言った。
 フェドートは言葉を詰まらせるような短い沈黙の後、目を逸らした。

「よくわかったね」

「最低」

「冗談なのにー」

 フェドートは笑ってそう言い、憮然とした表情のヴァージニアよりも早く、軽いノッ
クをして扉を開けた。そこは手狭ながらも調度の整えられた部屋で、確かにクッション
の柔らかそうなソファが設えられている。

 腰掛けているのは、豪奢な黄金の髪を丁寧に編んで後ろに流した若い女。切れ長の目
元を強調するように繊細な線が引かれ、睫には銀の粉が散っている。肢体を包む男物の
装束は、逆にその艶めかしさを増して見せているように感じさせた。腰に剣――軍刀と
呼ばれる類の。

 女は火花のような鮮紅色の眸でこちらを薮睨みにし、ぞんざいに腕を振って、他人に
命令をすることに慣れた者独特の(つまり、フェドートが実はあまり好きでない類の)
口調で言った。

「きみたちか、よく来た。そこへかけろ」

「……ええ、よろしく」

 ヴァージニアが囁くように言った。三人は女の向かいのソファに腰掛けたが、それは
体が沈みこむほど柔らかかった。代わりに立ち上がった職員が、一緒に来た職員の背を
押して部屋から追い出した。

「自己紹介でもしましょうか?」

 女は長い脚を組んで、頷いた。

「聞こう」

「ヴァージニアよ。こちらがフェドートで、こちらが……」

「イヴァン・ルシャヴナ」

 沈黙を保っていた青ずくめが、ぼそりと言った。それは初めて聞いた彼の声だった。
 ヴァージニアは一瞬だけ言葉を失ってから、改めて仕切りなおした。

「全員がAランクってこと以外で、何か知りたいことは?」

 女は鷹揚に微笑した。

「きみたちは何が得意なのかね?
 つまり、私の頼みごとに向いているかどうか、ということだが」

「大抵の相手には負けないつもり。特に、男には」

 ヴァージニアが即答した。フェドートはイヴァンの言葉を待ってみたが、どうやら先
程ので今日の分は使い果たしてしまったらしく、彼が口を開く気配はなさそうだった。
となるともう少し汎用性のある返答を用意する必要があるので、フェドートは適当な言
葉を探した。まさに目の前の女のような人種を納得させられるような答え方は、いくつ
か予想がついていたけれど。

「おもしろそうなことならなんでもやるよ? 巷では高ランクハンターは戦うしか能が
ないって思われてるみたいだけどー、他のこともできるんだよ。だよね、イヴァンくん」

 同意を求めてみる。青フードは無反応のようにも、かすかに頷いたようにも見えた。
 女は二人分の返事で満足したのか、思案する風に唇に指を当てた。白い指先の動きが
妙に官能的だったので、フェドートは内心だけで苦笑した。

「あ、ぼく、あと明後日のお昼には帰らなきゃいけないから、長いお仕事は無理だよ」

 女は渋い顔をした。

「別にどうしてもきみたちでなくても構わないのだが……
 できれば早く決めてしまいたいとは思っている。時間も、まあ、そうはかからないだ
ろう。私も長くかけるつもりはない――数日が経てば、今考えているのとは別の手段に
頼ることになるだろうから」

「はっきりしないわね」

「武力が必要なら部下を使う。きみたちに求めるのは、口の堅さだ。私は冒険者などと
いう輩をまったく信用していないが、それなりに名の知れた者ならばある程度は期待で
きるだろうと思った。つまり……何だ、その、仕事の内容は、あまり世間に知られたく
ないことだ」

「後ろ暗い仕事ならいくらでも請けてきたわ。
 いろんな人の秘密を知っているけど、言い触らしたことはないわね」

「ぼくもー。悪魔の起こし方とか、人の生き返らせ方とか知ってるよ。内緒ね?」

「……ねえ、フェドート。あなたが喋ると、わたしの説得力までなくなるんだけど?」

 ヴァージニアが猫なで声で言った。眠たげな目元に本物の殺意が見えた。フェドート
は少し俯いて黙っておくことにした。イヴァンは何を思っているのか無言のままだ。
 女はため息をついた。

「次に紹介される者がきみたちよりも信用できるという保証がない以上、もうきみたち
に頼みたいのだが、この様子では、内容を知らないままで頷いてくれそうにはないな」

「当然」

「……まあ、いいか。断るにしても、幾らか払おう」

「口止め料ね」

「その言い方は無粋で好まないがな。
 とにかく話すから、聞いてから判断してくれ」

 ヴァージニアは反対しなかった。
 女はまた唇に指を当てた。

「ああ、私はツィツィリエという。家名は、悪いが名乗れない」

 男装のツィツィリエ、男勝りの令嬢。フェドートはその名前を知っていた。
 たとえば彼女の首を切り落として陣へ持ち帰れば、いくらかの金貨と、ついでに後で
騎士の位でももらえるかも知れない。どちらにもあまり興味がない。戦争で遊ぶために
稼いだのであって、稼ぐために戦っているわけではない。
 他の二人は彼女を知っているだろうか。この国の者か、近隣の国の軍人か傭兵なら、
知っているだろうが。

 女は続けた。

「……きみたちは、川原へ行ったことがあるか?
 こう、水流で角が削れて丸くなった石が沢山落ちているような……」

「は? あるけど……それが?」

「この町の城壁を抜けすぐ南に、川が流れている。無理をすれば徒歩でも渡れる、普通
の川だ。その傍らに、古い塔の瓦礫が散乱している箇所があるのだが……そのあたりで、
石を拾ってきて欲しい」

「……え?」

「まあ、その、何というべきか……どうやら私は誤解を招きやすいようで……」

 女は口元を指で隠したまま、何かに耐える表情で視線を逸らした。頬が紅潮している。
 重大な秘密を打ち明ける乙女の姿そのもの、或いは、屈辱を暴露かれた騎士の表情か。
 女は、声を絞り出した。

「……恋人に、逃げられてしまったんだ。探してくれ」

「それで、どうして、石を?」

 女は落ちつかなげに脚を組みかえ、眉をひそめた。

「あのひとは、魔法使いに頼んで、その川原で自分を石に変えてしまったんだ。
 私だけには絶対に見つけられないようにと、そのための魔法まで用意して……」



         ○  ●  ○  ●  ○



 秋の空はどこまでも高く、青く澄み渡っていた。風は冬の予兆の冷たさをはらんでい
たが、それでも絶好の行楽日和と言うのに不都合はなく、悠々と流れる川の波はきらき
らと輝いている。

「わー!」

 フェドートは視界が開けてその光景が目に入るなり、歓声を上げた。

「ついた! 広ーい、石いっぱいある! 川きれー!」

「…………そうね」

 どうして自分がこんなところにいるのかさっぱりわからない、という表情で、ヴァー
ジニアが頷いた。フェドートはツィツィリエとの会話の中でヴァージニアが最も感心を
払った事柄が破格の報酬額であることを覚えていたが、あえて指摘して怒らせることは
しなかった。

「見つかるといいねー」

 言いながら、足元の石を拾い上げてみる。丸みを帯びて表面に灰色の輪を浮かせた灰
色の石は何の変哲もないようだった。手の中で転がして、川に向けて投げる。
 石は綺麗な放物線を描き、ちゃぽんと飛沫を立てて沈んだ。

「それが目的の石だったらどうするの?」

「そうだと思う?」

「いいえ」

 ヴァージニアは醒めた目で川原を眺めた。
 日の照り返しで白く褪せてみえる丸い砂利に、古い建築物の瓦礫が混ざっているが、
それらももう既に名残を失いつつあり、半ば自然へと還っている。

「わたし、どうしてここにいるのかしら」

「…………」

 イヴァンは空から落ちた青が人の形をしているだけのように佇んでいる。彼が何を考
えているのかはまったく想像がつかない。が、フェドートはとりあえず自分は楽しいの
で気にしないことにした。


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2008/09/22 00:20 | Comments(0) | TrackBack() | ○AAA

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