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2024/05/18 21:30 |
立金花の咲く場所(トコロ) 62/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:セリア ギア
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おお~、やっぱりおまえかぁ」

 ギアは男を見た途端、あきれたような顔をした。

「ゲッ! な、なんでアースマスターがくんだよ??」

 たしかにギアの名声やギルドに評価されているランクを考えれば、男の起こし
た事件は一部にはおおごとでもせ世間的にはたかが香草ドロボウ、とても「マス
ター」と称されるギアが出張ってくるケースではないはずだった。

「お前は根性とやる気だけでなく、運もなかったようだな」

 ギアは思いっきり馬鹿にした表情で、縛られたまま転がされた男を見下ろした。

「ここはな俺がいまだに頭の上がらない恩人ゆかりの村なのさ。 ついでに言う
ならお前を捕まえたこいつらは俺がアカデミーに連れてきたってことで、保護者
がわりでもある」

 男は驚いた顔をして、改めて周りを見渡し、付き添いのウサギの長老や腹立た
しい小僧と小娘をみてがっくりとうなだれる。

「なあ、やっぱり知ってるやつなんだ?」

 やり取りを眺めていたアベルがじれてギアの袖を引いた。

「ああ、こいつはもともとアカデミーの予備校、リックとかがいたみたいなとこ
だが、その一つにいたんだけど、努力するよりもいかに楽して儲けるかばかり考
えてるようなやつでな……ほら来る途中に話した、アカデミーに盗みに入った間抜
けな盗人、あれさ」

 ギアと一緒に男を確認していたセリアも苦い顔をする。

「逃げ出したあと追っ手を出さなかったのは実害がなかったことからの温情処置
だったんだが、『教室』を動員してでも狩だしてやればよかった」

 はっきり言って無視してもよい程度の小物であった男だったため、「めんどく
さいし」と忘れたのが真相だったが、セリア達一般職員向けには温情処置と説明
されていた。

「さて、色々聞きたいことがあるんだけどなぁ」

 ギアはうなだれる男の首根っこを掴んで引きずり起こすと、壁にもたれかける
ようにして座らせた。

「まー、あれだ、お前が単なる雑魚だってのは知ってるから、お前自身のことに
ついては何も言わなくていーよ」

「うわ、なんだか怒ってない?(ヒソヒソ)」

「そうね、笑顔なのに目が怖いかも……(ヒソヒソ)」

「うむ、それはな、あのとき最初はアカデミーへの不法侵入なうえ、一度罠で捕
まえながら逃がしてしまったこともあり、逃げられた当初は完全警戒態勢が敷か
れたんだ。 ギアは大地の精霊魔法にかなりつかえる追跡系の魔法があるものだ
から、かなりこき使われたらしいんだ(ヒソヒソ)」

 声をひそめて話すアベルとヴァネッサにつられるようにセリアも小声で説明を
した。

「それも無報酬で(ヒソヒソ)」

 わーそりゃおこるよー、とアベルもヴァネッサも頬を引きつらせた。

「さて、まずはお前が何のためにこんなことをしでかしたか、だが……」

「くっ! なにもいわねえぞ!」

「どうせ楽して儲けらんねーかとかおもいながらブラブラしてるところを声掛け
られて、言われるまま、とかそんなとこだろう」

「な、なんで! って、いわねぇって言ってるだろ!」

「そ・ん・な・とこ、だろ?」

「う……」

 ギアの問いかけに強気に反発しようとした男は、すぐにギアの目が座っている
のに気付き、再び気弱げに言葉を飲み込んだ。

「どうせウサギがたはおとなしいとか言われたんだろうけど、ほかの盗賊とかが
やらないのは、アカデミーにも調合用の野草を届けてくれたりとかで結構つなが
りがあって意外と厄介なことになりやすいからさ、知ってたら、普通は何度も繰
り返すような間抜けな真似はしないさ」

 意地悪く笑うとギアはアベルたちを指でさした。

「あいつらにやられた話は聞いたが、結構分不相応なもん持ってたらしいな」

 言いながら例の指輪を出して見せた。

「あ、それは……」

「これもらって妙な自信植えつけられてまんまとノセられたわけか」

 小馬鹿にしたギアの物言いに、気を悪くした男が睨むように見上げた。

「ところでさ、なんで黒幕がいるって断定するような聞き方なんだ?(ヒソヒソ)」

「え、それは……どうしてかしら?(ヒソヒソ)」

「それは指輪をみたからさ(ヒソヒソ)」

「セリア先生、指輪ってべつに鑑定とかしてないですよね?(ヒソヒソ)」

「ふむ、アベルにはまだ難しいか? ヴァネッサは?(ヒソヒソ)」

「ええと……すいません、わかりません(ヒソヒソ)」

 睨んだまま男が口を開いた。

「……遺跡で見つけてきた俺の秘蔵の逸品……」

「……お前そんなんだから道踏み外してもうだつ上がらんままなんだよ、いい加減
いいように利用されたことに気づけよなぁ」

「は?」

 こころなしギアは憐れむように言った。
 男はギアが憐れみだした理由が分からず、さっきまでの怒りを感じさせる様子
からの変化についていけないのか、みるからに「わかりません」という顔をして
ポカンとしていた。
 アベルとヴァネッサも今一ギアの言ってることがわからずに、こっちはこっち
でセリアを助けを求めるように見た。

「あー、ギア、説明が必要じゃありませんか?」

「ん? こいつはともかくそっちの二人もか?」

「のようです」

 セリアの提案にギアが聞き返す。
 仕方ないという風に息をつくと、ギアは指輪をかざして話し出した。

「いいか、こいつは何かの魔力はあるが、それはコボルドを使役するものじゃな
いし、そもそも話で聞く限り、そのコボルドは召喚とか支配とかじゃなく、ゴー
レム系の使い魔だったらしいから、おそらくそれを維持し命令時の鍵として使わ
れてたにすぎん」

「あれ? でもその指輪で呼び出したんじゃなくて単に維持してたってなんでわ
かるの?」

「おいアベルこれぐらいわからんのか? ヴァネッサは?」

「えーと……あ、そうか、最初から連れまわしていたから?」

「そうだ、やっぱりお前らもレポート書くかぁ?」

 指輪で呼び出すなら現場で呼べばよいが、たしかにあの時、男ははじめからコ
ボルド達を従えてやってきたのだ。

「そしてこの指輪に彫りこまれた言葉は呪文の類としては機能してないうえに、
この指輪一つでは意味がつながらない」

「あ、前後に続きがまだあるって言ってたやつか」

「そうだ、わざわざこんな雑魚に中途半端な文言を刻んだ指輪、わざとらしく使
い魔のコマンドアイテムになってりゃ見逃すわけないし……」

「おまけにそのザコはアカデミーの指輪、もちろんアカデミーで保管している以
上、普通でない指輪の保管庫に盗みに入った男だ」

 ギアにぶせるようにセリアも補足を入れた。

「ああ、おまけにアカデミーにもつながりも深い上に距離も近いこの村を狙うわ
かりやすさ」

「……何が言いたいんだ?」

 男が耐えかねるように聞いた。

「お前はメッセンジャーにされたのさ」

「な、何だと!」

「普通こんなアカデミーの近場で何かしでかすのに雑魚にコボルド3匹ってあり
えんだろうが」

「そ、そんな……」

 ようやく男はギアが何を聞き出そうとしていたのか理解し、再びがっくりと肩
を落とした。

「でもこんな手の込んだこと、だれが何のために」

 うーん、とアベルが首をひねる。
 ここまでして何の目的があるのかさっぱりわからなかったからだ。

「さあな、それをこれから調べるんだが……、ま、だいたい思ったとおりだった
し、アカデミーに連行すっか、セリア!」

「わかった……よ、行くぞ、たて!」

 ギアに促されてセリアが引きずり起こすように男を立たせた。
 
(こいつはひょっとすると、アカデミーにって言うより、ひょっとするとグラン
ト先輩に……だとしたら……)

 鍛え上げられたセリアの力に逆らえるはずもなく、小突かれながら部屋を出て
いく男の後ろについて歩きながら、同じようについてくるアベルとヴァネッサを
横目で見ながらギアは何かが動きだした予感を感じていた。
 ギアがそんなことに思いをはせているとも知らないアベルと後を追うヴァネッ
サは別のことに思いをはせていた。

(あの戦いのとき感じた力は確かに……何か関係があるの?)

 知らずに胸、というよりも心臓を抑えるように右手のひらを当てたヴァネッサ
は、得体の知れない不安を感じていた。
 

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2008/09/22 00:19 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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