PC:シオン、ヴォルペ、クロース、オプナ
場所:マキーナ――空家
NPC:フィミル、魔術師バウンズ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
「シオン君!?」
オプナが引き止めようと声を荒げたその時、シオンは振り向いて大丈夫と微か
に微笑んだ。そして、「危険ですから、ここで待っていて下さい。必ず、私が取
り戻しますから」そう言い残すと、歪[いびつ]な空間の裂け目へと飛び込んでい
った。単独で。だが、それを追おうとする者は居なかった。シオンが微かに微笑
んだその笑みの中に、何か決意めいた、強い制止の眼差しを見て取って察してい
たからであった。
――追ってはいけない。
と。この場は取り敢えず、シオンに任せるしかない、と。
歪曲した空間が閉じられたその後には、開け放たれたままの窓ガラスを風が揺
らしているだけであった。
「やっと見つけたぞ。オプナ」
唐突に声が降って来た。
オプナ達が声のした方へ目を転じると、魔術師らしき容姿をした男が窓枠に腰
掛けていた。黒いローブの裾が風にはためいている。口元を歪ませ婉然と笑んで
いる、少し陰りのある男だ。
「やっぱり追って来たわね」
そう言いながらも、即座に呪文を口ずさむオプナ。同時に、クロースを庇う姿
勢を見せる。それが自分の魔法を感知して追って来た追っ手だと言うことは、オ
プナには直ぐに解った。解ったからこその行動だった。
室内にいた者達の中で一番最初に動いたのは、意外にもオプナだった。
呪文の詠唱が終わると同時に足元に魔法陣が張られ、呪文の効力が発動する。
魔法陣は結界の効力があり、術者を呪文の波動から守る役割を担っている。
同様に相手の足元にも魔法陣が張られているところを見ると、呪文の詠唱が終
ったのはほぼ同時だった様だ。何の呪文かは解らないが、この場に居るものを全
て巻き込む恐れのある呪文である事は大方予想出来る。
「皆! 散開して! 出来るだけ、部屋の外へ!」
オプナが叫ぶと同時に、ヴォルペはフィミルを抱いて、部屋の外へと退避し
た。クロースはその場で立ち尽くしている。が、今はクロースに構っていられる
ほど余裕が無いのか、はたまたクロースは絶対に安全だという確固たる自信でも
あるのか、オプナは一先ず納得すると、再び黒ローブの魔術師に視線を戻す。
黒ローブの魔術師はそんな一同を見て取って、嘲りともつかない笑みを口元に
湛えて言った。
「流石だなぁ、オプナ。俺がどんな呪文を展開するか予想したか」
「“爆裂のバウンズ”と異名をとっているほどだからね。あらかた予想は出来る
わ」
「ほほぅ。この、俺の事を知っているとは、流石だな」
「能書きは後!」
――氷の矢[アイス・アロー]!
――炎塵[フレイム・ダスト]!
オプナの呪文と、バウンズの呪文とはほぼ同時に放たれた。
オプナの周囲に無数の氷の矢が出現し、翳した掌の先、バウンズの方へと直線
的に向かっていった。オプナの放った呪文はアイス・アロー。無数の氷の矢を術
者の意のままに操る魔法だ。直線的ではあるが、相手を貼り付けにするには丁度
良い術である。
対するバウンズの放ったフレイム・ダストは、周囲に炎属性の塵をばら撒く範
囲魔法である。攻守ともに優れた魔法で、質量を持つ物質が接触しただけで粉塵
爆発を起こす魔法である。バウンズにしてみれば、例えこの屋敷ごと燃やしてで
もクロースを取り巻く人間どもを一掃し、クロースを連れ帰りたいのだろう。そ
れは、とにも隠さず任務を速く遂行する事に他ならない。
「くっ、やっぱり!」
オプナは唇をかみ締めると同時に、別の呪文を口ずむ。今度は防御の魔法だ。
構築した呪文は――。
――水盾[ウォーター・シールド]!
ウォーター・シールド。水の幕を張って炎系のダメージを防ぐ、水系の防御魔
法だ。前面にのみ張ることも、全方位つまり球体の形に張ることも出来る。オプ
ナは、全方位に水の幕を張った。
と、同時に粉塵爆発が起こり氷の矢が弾け飛ぶ。爆発は部屋全体を焦がし、調
度品を燃やし尽くした。爆炎が部屋を嘗め回すように、焦がし尽くしていると言
うのに、オプナとクロースの周囲だけは不思議と焦げ跡一つ付かなかった。オプ
ナは水の盾で防がれているから。しかし、クロースは怖そうに蹲っているだけ
で、魔法を使った形跡は無い。水の幕を張ったようには見られないのだ。
クロースには、特異な能力があった。
――魔法障壁――
彼女は、魔法と言う魔法、物理攻撃と言う物理攻撃を全て遮ってしまう能力を
有しているのだ。しかし、それは“恐怖”と“命令”と言う二つのキーの内どち
らかが無ければ発動しないものだった。
それが発動した。
つまり、そのときクロースは恐怖を抱いていたのだ。
クロースの無事を一目で確認すると、オプナは次なる呪文を口ずさんでいた。
と、そこへ突如粉煙を掻き分けてオプナの方に向かって来た人影があった。オ
プナと同じ様にウォーター・シールドを球形に展開させて、粉塵爆発の中を突進
して来たバウンズだった。
ウォーター・シールド同士が干渉し、溶け込んで結界内が融合する。
「オプナあぁぁぁ!」
バウンズは一度叫ぶと、オプナに一撃を喰らわせんと拳を振るった。
「バウンズ!」
振るわれた拳を受け止めたオプナのその腕には、煌く物があった。いざという
時の接近戦用にいつも携帯している、短剣だった。オプナはバウンズが突っ込ん
で来る事を見越して、素早く杖を聞き手の逆に持ち替えて代わりに腰に吊るした
短剣を手に取っていたのだ。
「……成る程。一枚も二枚も上手だ、ということか」
受け止められた事に驚いた事実を隠すように、余裕の笑みを態と見せるバウン
ズ。その頬には冷や汗が光っていた。実際、彼の腕に巻きつけてある鋼鉄の手甲
が無ければ、彼の腕は短剣によって切り裂かれていただろう。それ程危うい状況
に置かれてしまったのだ。彼――バウンズは。
そして――。
オプナの表情が一瞬緩み、と同時に先程まで唱えていた呪文が展開した。
――氷結[フロスト]
呪文が展開すると、バウンズの足元から氷が這い上がっていき、完全に下半身
を凍りつかせてしまった。氷はじわじわとバウンズの体を蝕んでいく。
その瞬間、後ろを振り向いたオプナが放った言葉は――。
「先生! 後は、頼みます!!」
「先生って……誰?」
こめかみをポリポリ掻きながら、誰にともなく質問をぶつけて室内に入って来
た人物は――ヴォルペだった。
場所:マキーナ――空家
NPC:フィミル、魔術師バウンズ
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「シオン君!?」
オプナが引き止めようと声を荒げたその時、シオンは振り向いて大丈夫と微か
に微笑んだ。そして、「危険ですから、ここで待っていて下さい。必ず、私が取
り戻しますから」そう言い残すと、歪[いびつ]な空間の裂け目へと飛び込んでい
った。単独で。だが、それを追おうとする者は居なかった。シオンが微かに微笑
んだその笑みの中に、何か決意めいた、強い制止の眼差しを見て取って察してい
たからであった。
――追ってはいけない。
と。この場は取り敢えず、シオンに任せるしかない、と。
歪曲した空間が閉じられたその後には、開け放たれたままの窓ガラスを風が揺
らしているだけであった。
「やっと見つけたぞ。オプナ」
唐突に声が降って来た。
オプナ達が声のした方へ目を転じると、魔術師らしき容姿をした男が窓枠に腰
掛けていた。黒いローブの裾が風にはためいている。口元を歪ませ婉然と笑んで
いる、少し陰りのある男だ。
「やっぱり追って来たわね」
そう言いながらも、即座に呪文を口ずさむオプナ。同時に、クロースを庇う姿
勢を見せる。それが自分の魔法を感知して追って来た追っ手だと言うことは、オ
プナには直ぐに解った。解ったからこその行動だった。
室内にいた者達の中で一番最初に動いたのは、意外にもオプナだった。
呪文の詠唱が終わると同時に足元に魔法陣が張られ、呪文の効力が発動する。
魔法陣は結界の効力があり、術者を呪文の波動から守る役割を担っている。
同様に相手の足元にも魔法陣が張られているところを見ると、呪文の詠唱が終
ったのはほぼ同時だった様だ。何の呪文かは解らないが、この場に居るものを全
て巻き込む恐れのある呪文である事は大方予想出来る。
「皆! 散開して! 出来るだけ、部屋の外へ!」
オプナが叫ぶと同時に、ヴォルペはフィミルを抱いて、部屋の外へと退避し
た。クロースはその場で立ち尽くしている。が、今はクロースに構っていられる
ほど余裕が無いのか、はたまたクロースは絶対に安全だという確固たる自信でも
あるのか、オプナは一先ず納得すると、再び黒ローブの魔術師に視線を戻す。
黒ローブの魔術師はそんな一同を見て取って、嘲りともつかない笑みを口元に
湛えて言った。
「流石だなぁ、オプナ。俺がどんな呪文を展開するか予想したか」
「“爆裂のバウンズ”と異名をとっているほどだからね。あらかた予想は出来る
わ」
「ほほぅ。この、俺の事を知っているとは、流石だな」
「能書きは後!」
――氷の矢[アイス・アロー]!
――炎塵[フレイム・ダスト]!
オプナの呪文と、バウンズの呪文とはほぼ同時に放たれた。
オプナの周囲に無数の氷の矢が出現し、翳した掌の先、バウンズの方へと直線
的に向かっていった。オプナの放った呪文はアイス・アロー。無数の氷の矢を術
者の意のままに操る魔法だ。直線的ではあるが、相手を貼り付けにするには丁度
良い術である。
対するバウンズの放ったフレイム・ダストは、周囲に炎属性の塵をばら撒く範
囲魔法である。攻守ともに優れた魔法で、質量を持つ物質が接触しただけで粉塵
爆発を起こす魔法である。バウンズにしてみれば、例えこの屋敷ごと燃やしてで
もクロースを取り巻く人間どもを一掃し、クロースを連れ帰りたいのだろう。そ
れは、とにも隠さず任務を速く遂行する事に他ならない。
「くっ、やっぱり!」
オプナは唇をかみ締めると同時に、別の呪文を口ずむ。今度は防御の魔法だ。
構築した呪文は――。
――水盾[ウォーター・シールド]!
ウォーター・シールド。水の幕を張って炎系のダメージを防ぐ、水系の防御魔
法だ。前面にのみ張ることも、全方位つまり球体の形に張ることも出来る。オプ
ナは、全方位に水の幕を張った。
と、同時に粉塵爆発が起こり氷の矢が弾け飛ぶ。爆発は部屋全体を焦がし、調
度品を燃やし尽くした。爆炎が部屋を嘗め回すように、焦がし尽くしていると言
うのに、オプナとクロースの周囲だけは不思議と焦げ跡一つ付かなかった。オプ
ナは水の盾で防がれているから。しかし、クロースは怖そうに蹲っているだけ
で、魔法を使った形跡は無い。水の幕を張ったようには見られないのだ。
クロースには、特異な能力があった。
――魔法障壁――
彼女は、魔法と言う魔法、物理攻撃と言う物理攻撃を全て遮ってしまう能力を
有しているのだ。しかし、それは“恐怖”と“命令”と言う二つのキーの内どち
らかが無ければ発動しないものだった。
それが発動した。
つまり、そのときクロースは恐怖を抱いていたのだ。
クロースの無事を一目で確認すると、オプナは次なる呪文を口ずさんでいた。
と、そこへ突如粉煙を掻き分けてオプナの方に向かって来た人影があった。オ
プナと同じ様にウォーター・シールドを球形に展開させて、粉塵爆発の中を突進
して来たバウンズだった。
ウォーター・シールド同士が干渉し、溶け込んで結界内が融合する。
「オプナあぁぁぁ!」
バウンズは一度叫ぶと、オプナに一撃を喰らわせんと拳を振るった。
「バウンズ!」
振るわれた拳を受け止めたオプナのその腕には、煌く物があった。いざという
時の接近戦用にいつも携帯している、短剣だった。オプナはバウンズが突っ込ん
で来る事を見越して、素早く杖を聞き手の逆に持ち替えて代わりに腰に吊るした
短剣を手に取っていたのだ。
「……成る程。一枚も二枚も上手だ、ということか」
受け止められた事に驚いた事実を隠すように、余裕の笑みを態と見せるバウン
ズ。その頬には冷や汗が光っていた。実際、彼の腕に巻きつけてある鋼鉄の手甲
が無ければ、彼の腕は短剣によって切り裂かれていただろう。それ程危うい状況
に置かれてしまったのだ。彼――バウンズは。
そして――。
オプナの表情が一瞬緩み、と同時に先程まで唱えていた呪文が展開した。
――氷結[フロスト]
呪文が展開すると、バウンズの足元から氷が這い上がっていき、完全に下半身
を凍りつかせてしまった。氷はじわじわとバウンズの体を蝕んでいく。
その瞬間、後ろを振り向いたオプナが放った言葉は――。
「先生! 後は、頼みます!!」
「先生って……誰?」
こめかみをポリポリ掻きながら、誰にともなく質問をぶつけて室内に入って来
た人物は――ヴォルペだった。
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