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2025/03/10 12:36 |
第十五話「焦燥」/ヴォル(生物)
PC:ヴォルペ オプナ クロース(シオン)
NPC:フィミル ブレッザ・プリマヴェリーレ 魔術師バウンズ グラブラ

場所:マキーナ幽霊屋敷~博士の家

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 とりあえずフィミルを一階に避難させて戻っていきなりの先生扱い、正直譲
られるほどオプナが苦戦しているようにも見えないが。
「よろしくね」
「よくわかんないけど、わかりました」
 笑顔のオプナに苦笑で返して、氷漬けになりそうな魔術師に言葉をかける。
「えーと、とりあえず降参しませんか?」
 事も無げにそう言ったヴォルペに魔術師、バウンズが憤慨した。なにか自尊
心とやらを傷つけてしまったのか。
「ふざけるな小僧! この程度で俺が負けたとでも言いたいのか!」
 誰がどう見てもそうだろう。バウンズが今生きているのは間違いなくオプナ
の気まぐれとヴォルペの性格的物だ。その気になればオプナも、そしてヴォル
ペもバウンズを殺すことができる。
「ははは、舐められたもんだな。この程度の束縛術でもう勝った気でいるの
か。おめでたいな」
『レン、おめでたいのはお前の頭だって言ってあげなさい』
(ダメだよ。よけい可愛そうじゃないか)
 直接バウンズの耳に入れば間違いなく頭の血管が3本ぐらい軽くちぎれる音
が聞こえる会話だ。
「俺がその気になればこの程度」
 バウンズが短く呪文を唱えて体の半分を覆っていた氷を手甲をつけた手で殴
り砕く。到底魔術師とは思えない行為だ。
「ふははは、これで貴様等の優位はなくなったぞ!」
「あら、今まで情けをかけられていたって自覚はあるのね。以外だわ」
 オプナがクロースの傍らでくすくすと笑う。美しいという形容詞が似合う笑
顔だが、言葉には毒が多すぎる。
「き、ききさまぁああ!」
「オプナさん。言いすぎですよ」
『あら、でも事実よ?』
 どうもこの二人は言葉に加減が無い。まあ、ブレッザが相手ならバウンズは
もう影すら残っていないだろうが。
「まあ、二対一だし。おじさん大人しく逃げた方がいいと思うんだけど」
「黙れ! 錬金術師どもの実験動物の分際で。真理を追う高潔な魔術師の俺に
意見するか!」
 勢いよく手甲を鳴らし、バウンズはさらに罵倒を続ける。この時点でヴォル
ペの表情が変わっていることに気付けば、あるいはまだ救いがあったかもしれ
ない。
「我らのクロゼン師がさらに真理に近づくためにその娘がいるのだ! 醜悪な
改造人間は大人しく錬金術師どものラボでおとなしくしていろ」
 言いたいことを言って満足したのか、バウンズは醜く顔を変形させる。本人
は笑っているつもりだろうが、馬が苦しんでいる表情ぐらいにしか見えない。
「クロースちゃんを連れて行ってどうするつもりだ」
 ヴォルペが低い声で喋る。バウンズはこれを怯えていると勘違いして声高に
応えた。
「ふははは、決まっているだろう。あの小娘は実験対象として非常に興味深い
からな、解剖するのもいい。どちらにしても飼い殺しだ、貴様も同じ実験動物
なら」
「ふざけるな……」
 声を震わせて、ヴォルペは拳を作る。力が入りすぎて掌に爪が食い込み血が
滲む。
「あ?」
「お前らは、お前らは命をなんだと思ってるんだ!」
 ヴォルペは手加減無しにバウンズの顔に拳を叩き込み吹っ飛ばす。顎の骨と
歯が砕ける音が手を通して伝わってきたはずだが、怒りでヴォルペには聞こえ
ない。
「な、なふぃを」
 一瞬で脳を揺さぶられ、ろれつが回ってない。それどころか立つことすらで
きない。
「僕は僕のものだ……、ブレッザもブレッザのものだ」
 ゆっくりと、ヴォルペはバウンズに近づく。不幸にも虎の尻尾を踏んでしま
った事をバウンズはようやく理解した。理解しても、既に遅かったが。
「クロースちゃんも、クロースちゃん自身のものだ。他の誰にも、誰にもその
命を自由にできる権利なんてもってない!」
 拳を床に這い蹲るバウンズ目掛けて振り下ろす。
「あふぁぁあ」
 バウンズの奇声は床を突き破る音に掻き消されるた。
 埃の舞い立つ部屋の中で、ヴォルペは立ち上がった。失禁して気絶している
この魔術師は放っておいても大丈夫だろう。ブレッザは甘いと、また頭の中で
ため息をついているが。やっぱり、こんな奴でも人間を殺すのは、気が引け
る。
「大丈夫?」
 血の滲んだ掌を見てオプナが声をかけてきた。大丈夫、と曖昧に応えて掌を
見せる。傷はほぼ塞がって、少しだけ爪の跡が残っているだけだった。
「これからどうするの?」
「とりあえず僕は町外れに用事があるけど」
 もともとマキーナに来たのは、元に戻るための情報を集めている時にその手
のことを研究している博士がいると聞いたからだ。
「そう、じゃあ私達も着いて行ってもいいかしら?」
「え?」
 唐突な申し出だった。思えばオプナ達とは済し崩しのような形で一緒にいた
から、ヴォルペには以外だった。
「シオン君も探さないといけないけど、どこにいるかわからないから」
 言葉どおりとるなら、とりあえずと、言ったところだろうか。
「いいですよ、旅をするなら大勢がいいですからね」
 笑顔で承諾する。悪い人間ではないし、なによりシオンの事はヴォルペも気
になっていた。今から尋ねる人物がもしかしたらシオンが消えた空間の歪みに
ついても何か知っているかもしれない。
『それは楽観的観測と言うものよ』
 ブレッザの現実的な言葉に苦笑して、ヴォルペはオプナ達を促して一階に降
りた。残してきたフィミルを交えてこれからの事を話そうと思ったからだ。
「あれ?」
「フィミルちゃん、いないわね」
 フィミルがいるはずの一階の応接間には誰もいなかった。何かの羽根が散乱
して、窓が開いていた。
「まいったわね。もしかして彼女も」
「違うよ。きっと、帰ったんじゃないかな」
 どこに? と、聞かれると困るが。ヴォルペにはなんとなくそんな気がし
た。恐らくもう二度とは会えないという気もする。
「行こう、オプナさん」
「え、ええ」
 笑顔でオプナを促して、ヴォルペは屋敷の外に出た。午後に入って少しした
マキーナの空にはどんよりとした雲の隙間から陽の光が差していた。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 少し、陽が傾いてきた頃に、ヴォルペ達は目的の場所についていた。マキー
ナの町外れ、ちょうどベリドットの屋敷から反対方向の山のふもとにある潰れ
かけた小屋だ。
「……あれ、人住んでるの?」
 オプナは率直に意見を言う。確かに人が住んでいるにしては荒れすぎてい
る。いや、荒れているというよりは何かに破壊された後という表現がぴったり
だろう。
「あれは!」
「ヴォル君!?」
 ヴォルペは小屋の後ろに広がる森の中に疾走していく。オプナには見えなか
ったかもしれない、だがヴォルペには確かに見えた。人に似て、人とは著しく
違う影を。
「待て!」
「うはは、来た来た。マジできたぜぇ」
 白衣を着たザリガニ、そう言えば一番わかりやすいだろうか。大きなはさみ
を開閉しながら巨大な人型のザリガニは笑ったように見えた。
「とりあえず、はじめましてだなぁ。俺様はグラブライ、まあ、メッセンジャ
ーってとこだ」
 グラブライは不気味な音を立ててお辞儀をした。赤いお玉のような目だけで
ヴォルペを見据える。
「ここにいたジジィは俺達が預かってる。助けに来るかどうかはお前次第だ。
そうそう、ついでにツクヨミが連れてきたにぃちゃんもいるぜぇ」
『こいつ』
 グラブライはヴォルペが必ず来るということを前提で挑発している以上、罠
の可能性が高い。そのこと自体はヴォルペにもわかっている。わかっている
が。
「どこにいる」
「はははは、そうこなくっちゃな。ここからそう遠くはねぇ、なぁに、こっか
ら山二つ挟んだランダグローツって谷の底さ。じゃあ、待ってるぜ」
 そう言い残してグラブライは森の中に姿を消した。
「ヴォル君」
「オプナさんは、クロースちゃんとここで待っててください」
「何言ってるの、私も行くわよ?」
「でも」
「言ったでしょシオン君を探すって。捕まってるなら助けに行かなきゃ」
 二十分ぐらい押し問答をして、結局ヴォルペはオプナの押しの強さに負け
た。どうも、こういうタイプの人には弱い。
「大丈夫よ。自分の身は自分で守れるわ。私も、クロースもね」
「わかりました。でもホントに気をつけてくださいよ」
 お人好し、と頭の中でブレッザが呆れた声が響く。しょうがないじゃない
か、と返して。ヴォルペはランダグローツを目指して森の中に足を踏み入れ
た。

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2007/02/17 00:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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