PC:セラフィナ ザンクード
NPC:イナゴ軍団リーダー、“六つ眼の奇術師”
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
─後頭部に手を当て…90度に往復に回転させてゴキりと首を鳴らし、
自身の顔面を片手で覆って片膝をつくと、まさにこれ以上無い災難を食らった様子を
見せたザンクードは、苛立って嘆くように呟き始める。
「俺に…お前の身を“守る戦いをしろ”と…言っているのか?」
「それは違います。私はあなたをカフールに連れて行くのと引き替えで…」
─刹那……、セラフィナの頬すれすれを投擲小鎌が空を斬って、彼女の背後の直ぐ付
近にある木に刃が突き刺さる。
「いささか…口が過ぎたな…」
“計画外の面倒事”
それは彼にとってこの上ない障害でしか無い。ましてやセラフィナが口にしたのは…
人間という“最悪の多種族”の国家上層部内の骨肉争いの臭いを漂わせる話である。
想定通り、標的となるのはカフールという国そのもの…。
しかし…
最もそれなら“連中”は
国家の上層部などに手をつけなくても、いとも容易く壊滅状態に追い込める程に
残虐な武力を有するという事も頭にあった。
第一…ましてや人間の政府内の事情を、奴らが易々請け負うという事は絶対に無
い…。
人間共との因縁深き連中の集まりであるはずが、協力関係を築く理屈など“断じて”
有りはしない…。
今まさに…“厄介事”に巻き込まれそうなこの状況を腹立たしく思うよりも、その戦
場に自分を雇うにしたとして…
そんな中で“守る戦い”という注文に対する理不尽さが癪に障った…。
「─お前の察する通り、連中はお前を“捕獲”するために“交渉”を持ちかけた
“死んでも治らん大マヌケ共”だ…」
声色に…怒りの色が混じり始めるのを察知し、セラフィナは目を細め尋ねる。
「断ると…?」
「違う…。しかし…俺から見た今のお前は、道案内役に“極上の釣り餌”という特典
がついた程度の価値しかない。
そんなお前が出した条件は…“守る為の戦い”で、生憎俺はそんな生ヌルい“殺戮”
など求めていない。
滅ぶなら勝手に自滅すれば良い。
必要あらばお前と国の民もろとも斬り刻む事すら、俺は何も思う事など無い。
いずれにせよお前の国は“俺達の戦場”になるのだからな。
“守るという正義”だけで…俺が奴らを狩る事を望んでいると思うな。」
修羅場をくぐり抜けてきたか、それとも王女としての育てられた風格故か…
まばたき一つしない彼女の態度ですら、ザンクードにはこれ以上無い目障りだった。
何故なら相手が国家の重要な人間である以上…あらゆる立場上…
彼女は己の敵になりうる可能性を充分なまでに有していたからである。
溢れ出る殺気と憎悪
彼は“連中”にぶつけるはずの感情を…その全てを投げつけていた。
が……
「それでも構わない…」
放った投擲小鎌を抜き、柄を向けて差し出すセラフィナは…
沈黙を引き裂くように言い放つ。
言葉は、彼の禍々しい激情のダムを崩した…。
鎖付き二丁鎌“スピリストマーダー”が彼の手によって引き抜かれ…、セラフィナの
喉へと牙をむく。
───
─────「……“あなたは彼らとは違う”…」
─その間、零コンマ零数ミリ………
彼の激情の刃は…彼女の絹のような肌に、既に触れているかも分からぬ程の極小単位
の間で、ピタリと動きを停めた。
「フザケるな」
「確かに憶測ですがフザケてなどいません。あなたが彼等を執拗に追う理由も分から
ない。
けど私は、その“違い”だけは信じられます…。
いずれにせよ事が起こるなら私は…あなたを止める」
「黙れ」
「では何故…あなたは私を…」
“人間風情に何が分かる?”
そんな思想を過剰に掲げ…今も狂ったように虐殺を繰り広げる“奴ら”に
自分は全てを奪われた……───
──忌まわしい記憶はフラッシュバックのように…再び眼前のセラフィナの姿をかつ
ての師へと変える。
─『あんたがあたしから…この技の全てを会得したその時……』─
───そんな古き教えさえも思い出した時…
…手の震えを伝って、自分の武器がカタカタと鳴るのにやっと気が付き…
即座に握るその手を退き静かに刃を収納して、差し出された投擲小鎌を受け取った。
─やりにくくなったようにまた頭を抱えるザンクードに…セラフィナは気まずそうに
尋ねた…。
「あなたは何故…そこまで彼らを…」
悲痛すぎる問いかけだった…
一方では同情だったのかもしれないが…それでも彼には口にするには酷過ぎる話であ
った…
「…“知りすぎると…死を招く”と言っただろう。頼む…その事には触れるな…」
再び訪れた嫌な沈黙……
別になんら問題とも思わない…が…
彼女が毛布にくるまり…深刻に悩んでそうな様子が彼の複眼に映る度……──
嫌な同情を誘う……。
「…良いだろう…」
「え…?」
「……報酬は…お前の案内でチャラにしてやる。
そういう事なら、お前が向こうに着くまでなら…良いだろう」
“不意”に言ってしまった一言。どういう訳か…
とんだやりにくい相手に出くわしてしまった事に苦渋もしていたが…、
それ以上に彼女が憎めなかった…
「………良いんですか?本当に…」
再確認を求める彼女に…
彼はそれ以上の質問に
「二度も言わすな」とだけ言って
とそっぽを向いて、耳を傾けようとはしなかった…
──同刻
二人からかなり離れた距離から、こちらも河川をそって苦し紛れに移動する者がい
た…
あらゆる箇所に深手を負い、地を這う…
あの蝗衆のリーダー格だった。
あの攻撃の嵐からなんとか生き延びたとは言え………
胸から下は既に持っていかれ、片腕だけでその血みどろの半身を引きずり…彼は、タ
ーゲットと脅威たるあの怪物が手を組んだ事を知らせる為…
“目的と大義”の為に捧げた最後の生命を振り絞る。
と、自分の触角に…
一瞬…何か違和感を感じ…
ふと進んできた血痕の道を振り返った…──
その時だった──
「ドコへ行くンだよォ~?…」
品のない不気味な声が聞こえたと同時に…
急にリーダー格は呼吸困難に陥った瞬間、急に自分の体が宙へと浮き上がり…
彼はもがくが…闇に見えぬ“拘束具”は次第に彼の運動能力を奪い…
気がつけば河川の真上で停まる。
彼は最初…魔術師にとらえられたのかとも思った…しかし…
ふと振り返った時、
側頭部のすぐ近くにいつの間にか闇から現れた六つの複眼を見ると…
彼は驚愕した。
<あんたは…>
まるで…闇の空に逆さまに浮く、けむくじゃらの影…
そこから生えるように自分に伸びてくる四本腕に捕らえられ、六つ眼の影が尋ねる。
<セラフィナ・カフューは…ドコだ?>
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NPC:イナゴ軍団リーダー、“六つ眼の奇術師”
場所:カフール国境近辺
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─後頭部に手を当て…90度に往復に回転させてゴキりと首を鳴らし、
自身の顔面を片手で覆って片膝をつくと、まさにこれ以上無い災難を食らった様子を
見せたザンクードは、苛立って嘆くように呟き始める。
「俺に…お前の身を“守る戦いをしろ”と…言っているのか?」
「それは違います。私はあなたをカフールに連れて行くのと引き替えで…」
─刹那……、セラフィナの頬すれすれを投擲小鎌が空を斬って、彼女の背後の直ぐ付
近にある木に刃が突き刺さる。
「いささか…口が過ぎたな…」
“計画外の面倒事”
それは彼にとってこの上ない障害でしか無い。ましてやセラフィナが口にしたのは…
人間という“最悪の多種族”の国家上層部内の骨肉争いの臭いを漂わせる話である。
想定通り、標的となるのはカフールという国そのもの…。
しかし…
最もそれなら“連中”は
国家の上層部などに手をつけなくても、いとも容易く壊滅状態に追い込める程に
残虐な武力を有するという事も頭にあった。
第一…ましてや人間の政府内の事情を、奴らが易々請け負うという事は絶対に無
い…。
人間共との因縁深き連中の集まりであるはずが、協力関係を築く理屈など“断じて”
有りはしない…。
今まさに…“厄介事”に巻き込まれそうなこの状況を腹立たしく思うよりも、その戦
場に自分を雇うにしたとして…
そんな中で“守る戦い”という注文に対する理不尽さが癪に障った…。
「─お前の察する通り、連中はお前を“捕獲”するために“交渉”を持ちかけた
“死んでも治らん大マヌケ共”だ…」
声色に…怒りの色が混じり始めるのを察知し、セラフィナは目を細め尋ねる。
「断ると…?」
「違う…。しかし…俺から見た今のお前は、道案内役に“極上の釣り餌”という特典
がついた程度の価値しかない。
そんなお前が出した条件は…“守る為の戦い”で、生憎俺はそんな生ヌルい“殺戮”
など求めていない。
滅ぶなら勝手に自滅すれば良い。
必要あらばお前と国の民もろとも斬り刻む事すら、俺は何も思う事など無い。
いずれにせよお前の国は“俺達の戦場”になるのだからな。
“守るという正義”だけで…俺が奴らを狩る事を望んでいると思うな。」
修羅場をくぐり抜けてきたか、それとも王女としての育てられた風格故か…
まばたき一つしない彼女の態度ですら、ザンクードにはこれ以上無い目障りだった。
何故なら相手が国家の重要な人間である以上…あらゆる立場上…
彼女は己の敵になりうる可能性を充分なまでに有していたからである。
溢れ出る殺気と憎悪
彼は“連中”にぶつけるはずの感情を…その全てを投げつけていた。
が……
「それでも構わない…」
放った投擲小鎌を抜き、柄を向けて差し出すセラフィナは…
沈黙を引き裂くように言い放つ。
言葉は、彼の禍々しい激情のダムを崩した…。
鎖付き二丁鎌“スピリストマーダー”が彼の手によって引き抜かれ…、セラフィナの
喉へと牙をむく。
───
─────「……“あなたは彼らとは違う”…」
─その間、零コンマ零数ミリ………
彼の激情の刃は…彼女の絹のような肌に、既に触れているかも分からぬ程の極小単位
の間で、ピタリと動きを停めた。
「フザケるな」
「確かに憶測ですがフザケてなどいません。あなたが彼等を執拗に追う理由も分から
ない。
けど私は、その“違い”だけは信じられます…。
いずれにせよ事が起こるなら私は…あなたを止める」
「黙れ」
「では何故…あなたは私を…」
“人間風情に何が分かる?”
そんな思想を過剰に掲げ…今も狂ったように虐殺を繰り広げる“奴ら”に
自分は全てを奪われた……───
──忌まわしい記憶はフラッシュバックのように…再び眼前のセラフィナの姿をかつ
ての師へと変える。
─『あんたがあたしから…この技の全てを会得したその時……』─
───そんな古き教えさえも思い出した時…
…手の震えを伝って、自分の武器がカタカタと鳴るのにやっと気が付き…
即座に握るその手を退き静かに刃を収納して、差し出された投擲小鎌を受け取った。
─やりにくくなったようにまた頭を抱えるザンクードに…セラフィナは気まずそうに
尋ねた…。
「あなたは何故…そこまで彼らを…」
悲痛すぎる問いかけだった…
一方では同情だったのかもしれないが…それでも彼には口にするには酷過ぎる話であ
った…
「…“知りすぎると…死を招く”と言っただろう。頼む…その事には触れるな…」
再び訪れた嫌な沈黙……
別になんら問題とも思わない…が…
彼女が毛布にくるまり…深刻に悩んでそうな様子が彼の複眼に映る度……──
嫌な同情を誘う……。
「…良いだろう…」
「え…?」
「……報酬は…お前の案内でチャラにしてやる。
そういう事なら、お前が向こうに着くまでなら…良いだろう」
“不意”に言ってしまった一言。どういう訳か…
とんだやりにくい相手に出くわしてしまった事に苦渋もしていたが…、
それ以上に彼女が憎めなかった…
「………良いんですか?本当に…」
再確認を求める彼女に…
彼はそれ以上の質問に
「二度も言わすな」とだけ言って
とそっぽを向いて、耳を傾けようとはしなかった…
──同刻
二人からかなり離れた距離から、こちらも河川をそって苦し紛れに移動する者がい
た…
あらゆる箇所に深手を負い、地を這う…
あの蝗衆のリーダー格だった。
あの攻撃の嵐からなんとか生き延びたとは言え………
胸から下は既に持っていかれ、片腕だけでその血みどろの半身を引きずり…彼は、タ
ーゲットと脅威たるあの怪物が手を組んだ事を知らせる為…
“目的と大義”の為に捧げた最後の生命を振り絞る。
と、自分の触角に…
一瞬…何か違和感を感じ…
ふと進んできた血痕の道を振り返った…──
その時だった──
「ドコへ行くンだよォ~?…」
品のない不気味な声が聞こえたと同時に…
急にリーダー格は呼吸困難に陥った瞬間、急に自分の体が宙へと浮き上がり…
彼はもがくが…闇に見えぬ“拘束具”は次第に彼の運動能力を奪い…
気がつけば河川の真上で停まる。
彼は最初…魔術師にとらえられたのかとも思った…しかし…
ふと振り返った時、
側頭部のすぐ近くにいつの間にか闇から現れた六つの複眼を見ると…
彼は驚愕した。
<あんたは…>
まるで…闇の空に逆さまに浮く、けむくじゃらの影…
そこから生えるように自分に伸びてくる四本腕に捕らえられ、六つ眼の影が尋ねる。
<セラフィナ・カフューは…ドコだ?>
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