キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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延々と続く黒い町。ここは悪夢の光景に似ている。
どこまで歩いても終わらない景色に朝まで魘され続けた記憶は、もうどれだけ
昔のものだろう。心の一部を闇精霊に売り渡してから、悪い夢なんてもう見ない。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
元気に走っていく人型の群は、たぶん、絵だとか玩具だとかであればまだ、か
わいいと笑い飛ばせるのだろう。無数に蠢いているとなれば話は別で、間違えて
も愛玩対象にはなりようがない。人の嗜好はそれぞれだから、隣の軍人に同意を
求めるつもりにはならないけれど。
歩いて、歩いて――今まで歩き続けたのと何が違ったのかはわからないが、やが
て行く手に見え始めたのは、巨大な建造物だった。張り巡らされた高い壁を繋
ぎ、尖塔が並んでいる。
城郭。
人間社会で生きるようになって何年にもなるが、間近で見るのは珍しく、まじ
まじと見上げてしまう。灯りはない。音もない。生の気配は微塵もない。
「ここが目的地ですか?」
「……」
城壁を囲う堀の中は真黒で、空堀なのか何か嫌なもので満たされているのか判
断できなかった。飛び込む気は起こらない。
隣の軍人は、奇妙なまでの無表情で城壁を睨み、それから踵を返して歩き出した。
人型の黒は、既に堀に沿って進んでいる。
楽しげな足取りのそれらは、油断して目を離せば景色に溶けてしまいそうだ。
少し数が減ったように思える。見失っただけか、本当に減っているのか。
延々と歩き続けて、また無限の迷路に紛れたかと思い始めたころに、人型の様
子が変わった。歩みを止めて集まって、何かを待っている。
「……門」
上がっていた跳ね橋が鎖の音と共に落下して、堀の此方と彼方を結んだ。
音の余韻が静謐に響く。人型の群は躊躇いなく橋を渡り始めた。
「どうするですか?」
「今のところ矢の一本も飛んでこないから、あからさまな敵意はないんじゃない?」
「兵隊がいるようには見えませんですからね」
「そうね」
重い一歩め。歩き始めるオルレアンについて橋を渡った。
小さな塔をくぐり、中庭へ。
山ほどの軍隊を収められそうな広場は、がらんとして人影一つなかった。
どれだけの広さがあるのだろう。立ち並ぶ建物のどれがどの役割のためのもの
なのかもわからない。
人間の建築に無知だから――というよりも、単に、広すぎて何が何だかわからない。
距離感が狂い、大きささえも曖昧だ。一段と威容を誇る主塔は、果たして人間
に相応しい大きさをしているのだろうか。
「……どこへ行ったんでしょう」
「近くに本体がいるのよ、きっと」
一瞬のうちに見失った人型を探そうとはせず、オルレアンはすたすたと前庭へ
足を踏み入れた。砂利を踏む音が鋭く耳に届く。
「本体って」
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場所:正エディウス国内?
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延々と続く黒い町。ここは悪夢の光景に似ている。
どこまで歩いても終わらない景色に朝まで魘され続けた記憶は、もうどれだけ
昔のものだろう。心の一部を闇精霊に売り渡してから、悪い夢なんてもう見ない。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
元気に走っていく人型の群は、たぶん、絵だとか玩具だとかであればまだ、か
わいいと笑い飛ばせるのだろう。無数に蠢いているとなれば話は別で、間違えて
も愛玩対象にはなりようがない。人の嗜好はそれぞれだから、隣の軍人に同意を
求めるつもりにはならないけれど。
歩いて、歩いて――今まで歩き続けたのと何が違ったのかはわからないが、やが
て行く手に見え始めたのは、巨大な建造物だった。張り巡らされた高い壁を繋
ぎ、尖塔が並んでいる。
城郭。
人間社会で生きるようになって何年にもなるが、間近で見るのは珍しく、まじ
まじと見上げてしまう。灯りはない。音もない。生の気配は微塵もない。
「ここが目的地ですか?」
「……」
城壁を囲う堀の中は真黒で、空堀なのか何か嫌なもので満たされているのか判
断できなかった。飛び込む気は起こらない。
隣の軍人は、奇妙なまでの無表情で城壁を睨み、それから踵を返して歩き出した。
人型の黒は、既に堀に沿って進んでいる。
楽しげな足取りのそれらは、油断して目を離せば景色に溶けてしまいそうだ。
少し数が減ったように思える。見失っただけか、本当に減っているのか。
延々と歩き続けて、また無限の迷路に紛れたかと思い始めたころに、人型の様
子が変わった。歩みを止めて集まって、何かを待っている。
「……門」
上がっていた跳ね橋が鎖の音と共に落下して、堀の此方と彼方を結んだ。
音の余韻が静謐に響く。人型の群は躊躇いなく橋を渡り始めた。
「どうするですか?」
「今のところ矢の一本も飛んでこないから、あからさまな敵意はないんじゃない?」
「兵隊がいるようには見えませんですからね」
「そうね」
重い一歩め。歩き始めるオルレアンについて橋を渡った。
小さな塔をくぐり、中庭へ。
山ほどの軍隊を収められそうな広場は、がらんとして人影一つなかった。
どれだけの広さがあるのだろう。立ち並ぶ建物のどれがどの役割のためのもの
なのかもわからない。
人間の建築に無知だから――というよりも、単に、広すぎて何が何だかわからない。
距離感が狂い、大きささえも曖昧だ。一段と威容を誇る主塔は、果たして人間
に相応しい大きさをしているのだろうか。
「……どこへ行ったんでしょう」
「近くに本体がいるのよ、きっと」
一瞬のうちに見失った人型を探そうとはせず、オルレアンはすたすたと前庭へ
足を踏み入れた。砂利を踏む音が鋭く耳に届く。
「本体って」
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