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2024/11/01 08:38 |
8.White & Darkness/マレフィセント(Caku)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:宣教師達・露天商の男性
場所:フレデリア街道沿い~休憩地の宿屋
―――――――――――――――

White & Darkness
信仰の白い法衣と、悪魔の黒い翼

―――――――――――――――



小道は意外と、旅人に溢れている。
大きな荷物をロバで運ぶ業者、剣を抱えて笑いあう傭兵団。
奇抜な格好のサーカス団は道行く人々にも手持ちの動物を見せびらかしながら
鼻歌交じりに歩いていく。

久々の突き抜けるような青空。
小鳥の群れが上を通り過ぎる影が、道とそれを歩く人々の上に落ちる。

フレアは上機嫌でマレフィセントの頭を撫でた。
マレはそんな些細な仕草でも嬉しいのか、くすぐったそうに笑った。
周囲のざわめきにつられて、ディアンも心なしか微笑んでいた。

「いい天気だ」

突き抜けるような青空は、今まで見たこともなかったような綺麗さだった。
もしかしたら、見ていたのに気がつかなかったのかもしれない。

「そうだな、もってこいの花見日和だ」

「こういう雰囲気も悪くない、なあマレフィセント?」

フレアの問いかけを無視するマレフィセント。
さっきから道端の傭兵やサーカス団の奇抜さや物珍しさでいっぱいいっぱいの
ようだ。
フレアが手を繋いでいないと、ふらふらと別の集団についていきそうだ。
さほど無視されたことに怒りを覚えないフレアは、もう一度青空を見上げた。

「この様子じゃ、意外と早めに着けるかもな」

「通る人もいっぱいいるし、危険もないだろう」

思えば、こんなに明るい陽気で旅立つのはいつ振りだろうか。
今まで色んな事があったが、それを吹き飛ばしてくれるような青空の下の旅。



だが、それもしばらくすると表情が強張った。

「ディアン、あれは…」

「…面倒くさいもんがいるな」




道の向こう、小さな集落がある。
旅人の補給地点として発展したのか、家よりも露店が目立った村であった。
簡素なつくりに、溢れる道具、食物、武器、防具。
それだけなら彼らも立ち寄るのだが、その入り口には白い法衣の集団がいた。

「…あれは、確か…ええと」

「俺もよく知らんが、ほらー…あれだ。
よく食事の前に“神の恵みのたもとで”うんぬん言うアレじゃないか?」

うろ覚えのディアンの話に、ああ、とフレアは頷いた。



大陸には幾つもの宗教がある。
目の前の純白の法衣に掲げる白旗の金十字は、大陸で最も馴染み深い宗教の一
つだった。
内容は、さほど過激ではない。神に祈りを捧げて、聖書を唱える。主な行為は
それだけだ。なので、大陸全土の人々に受け入れられている一般的な宗教。
魔術都市コールベルに本山を置くその宗教のネーミングは強く、本山には聖堂
教会、賛美歌堂、また守護騎士団までいるとう大層振り。
その使節団のようなものか、目の前の集団は法衣の傍らに透明な水をたたえた
小瓶を持っていた。聖水である。

「どうしよう、か」

「避けて通れば怪しまれるな、俺らはともかく、こいつはやばいかもしれない
な」

こいつ、と指差されたマレフィセントは、しばらくきょとんとしていた。
と、突き刺された指を食べようとでもしたのか、口をあけて噛み付こうとし
た。
慌てて、ディアンが手を引き、ゴツンと刀の鞘で少女の後頭部を叩く。

「ディアン!」

「おい、今のは正当防衛だ。いや正統派教育的指導ってやつだ」

「大丈夫かマレ?痛くないか?」

「って俺が完璧悪役なのは気のせいか?俺はあやうく被害者になるところだっ
たんだが」


かみ合うテンポの悪い会話。
そんな三人を追い越して、傭兵団が補給地点に入ろうと村の手前まで歩いた。
と、法衣に気がついたのか。人の良さそうな幾人かが「ご苦労様だなぁ」とい
って胸で短い聖句をきった。法衣の集団も、にこやかに神の祈りを短く呟い
て、聖水を振り掛けた。
その後の聖水を無料で渡して、傭兵団は通っていく。

聖水は光の魔法で浄化された水である。
旅人にはお守りにもなるし、飲み水としても扱える。簡易のサークルを描くこ
とも出来るので知識のない者でも、聖水で描いた円の中で野宿すると安全度が
上がる。
別に使節団も強制的に押し付けたりはしない。
ただ、普通の者には断る理由もないので、大抵の人間がもらっていく。
宗教を信じていなくても、無料で聖水がもらえるのだから、損はまったくな
い。

そう、断る理由がないということは。
断る理由があるものが限定され、警戒感をもたれてしまうのだ。

「悪魔、なんだろ?聖水はやばいか…」

「わからないが、多分名前としては危ないと思う…ってマレフィセント!」



先ほどから、白い集団に興味を示していた少女。
白い旗に輝く金十字を玩具とでも勘違いしたのか、面白そうにじゃれつこうと
している。
と、若い女性が近づいてきて、微笑みながら聖水の注がれたコップを手渡して
いるではないか。
聖水は基本的に飲んでも大丈夫なため、旅人の貴重な資源となる。

マレフィセントを旅人の子供と思った女性は、大きい瞳で旗にじゃれる子供に
コップを渡した。
と、二人が止める間もなくマレフィセントは聖水を飲み干してしまう。

「………って、あれ?」

「………なんだよ、大丈夫なのかよ」

二人が危惧したことなど、まったくお構いナシに。
マレフィセントは綺麗に水を飲み干してしまった。差し出して返す動作を、我
が子の動作と重ねたのか、女性はマントの上から少女の頭を撫でて、聖水の瓶
を渡している。

ディアンが遠慮なく聖水の瓶をもらっている間、フレアは慌ててマレフィセン
トに駆け寄った。

「駄目じゃないか、離れて歩いちゃ…大丈夫なのか?ほら、口をあけて」

あーんと、口を開けさせてみても異常はまったくない。
綺麗に並んだ歯と、人間の歯として鋭すぎる八重歯が、彼女は悪魔であること
を証明している。
とりあえず、何事もなかったようにほっと一息つくフレア。


ここに、熟練した魔術師がいれば、少女を見て驚愕したであろう。

聖水を飲んだ瞬間、聖水の光の属性が少女の体内で霞んでしまったことに。
そう、少女は純粋なる闇の欠片。そして、その血肉は魔女たる人間の母親の血
筋。
闇に注がれた光は、闇を打ち消すどころか吸い込まれてしまった。

闇夜に堕ちた光の波紋の音は、とある存在以外、誰も聞こえなどしなかった。






「おい、若いお連れさん。今日はいい天気だな」

携帯食料を主に扱う露天商が、髭面を崩して商品を並べた。
愛想無く相槌するディアンの横で、マレとフレアが商品を覗き込んでいる。

露天商の手さばきは効率よくて、まるで慣れたピアノ旋律のように流麗だ。
品々を並べ替えながら、目線は品物のまま、口だけで会話する。

「どうだ、最近は天気がよかったからな。この間雨で荷物が右往左往したぶん
もやっとこさ着いたんだ。今のうちに買っておいてもいいとおもうぞ」

「そうか…おいマレ、食うな。ついでに食べ物で遊ぶな」

どさくさに紛れて手を出しかけていた少女に、ディアンはそつなく停止命令を
出した。
びくりと身を竦ませて、やや上目遣いに見上げる少女に、ディアンよりもフレ
アのほうが先にダウンした。

「いいじゃないか、なら私が買ってやろう。マレ、どれがいい?」

「いいさ、子供連れは大変だろう。一つぐらいなら構わない」

フレアよりも先に、露天商が落ちたらしい。
言葉がわからないはずのマレフィセントが、嬉しそうに瞳を輝かせた。
ディアンのマントに包まりながら、広げられた携帯食料の品定めを始める。
子供は役得だよな、と突っ込みたい気持ちを抑えながら、旅に必要な品々を購
入していく。


「そうだ、東の沼には近づかないほうがいいぞ」

「ほう?」

露天商などの人材は、ときに貴重な情報者となる。
移動して、商いを行うものは総じて情報にも聡い。ディアンは、購入した品々
を片付けながら露天商の話を促した。聞いていたほうがいいだろう。

「旅団が一つ全滅した。なんでも喰われて死んだそうだから、人間ではない
な。
魔物か、悪魔か。魔族って話もあるかもしれん。どっちにしろ近づくことは賢
明じゃあないわな」

さらりと、事情を話す。
ディアンが、訝しがるような表情になった。悪魔、という単語に反応したマレ
フィセントを、同じく反応したフレアがぎゅっと抱きしめる。


「ずいぶん物騒だな、土地の持ち主は?」

「おらんよ、見てのとおり、街道が出来てから発展した場所さ。
好き勝手に皆、店を広げてやってる。まあ、東の沼地は遠くはないが、ここに
は入り口のアレ、宣教師らがいるしな。その護衛団もここにおる。
この場所はほぼ安全だろうな」





真夜中。
宿屋で、そつなく夕餉をすませ、眠りにつく旅人達。
誰もが静かに寝息を立て、誰かが大きくいびきをかいている。

フレアと一緒に毛布に包まっていたマレフィセントは、ふと目が覚めた。
そのまま、しばらくじっと虚空を見つめていた。と、まるで匂いを嗅ぎつけた
かのように鼻を動かして、ベットから降りる。
ようやく常識の欠片程度は覚え始めたのか、貰ったマントをきちんとかぶり、
外へ出る。
扉を閉めようとする前に、一回だけフレアの事をじっと眺めて。


外に出ると、少女はもう一回虚空を見つめた。
見つめる方角は…………東。



村の入り口で待機していた、見張りの傭兵の数人が、子供らしき人影が村から
出て行くところを目撃していたという。

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2007/02/12 23:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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