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2025/03/10 06:40 |
7.カーテン・コール/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

-Rose letter-

―――――――――――――――

足元の少女は、器用に身体を丸めて眠っていた。その寝顔を崩すのは気がひけたが、
フレアは肩に毛布を羽織ったまま、膝を折って少女の身体を揺さぶった。

「マレフィセント、朝だぞ」

寝返りをうった少女の背に生えた黒い翼をみとって、フレアはとっさに窓を見た。

窓が開いている。

ほかに変わった所はなく、押し寄せた穏やかな朝の風が、カーテンを揺らしている。
ここの女将はよほど清潔好きなのか、カーテンはまるで新品のような白さだ。

それが風を孕んで膨らみ、風に吸い込まれてを繰り返す様は、
朝一番に見る情景としては悪くなかった。
だが、もちろん窓を開けたまま寝た覚えはない。


――もしかして、外に?


答えを求めるように振り返るが、足元の少女は何も言わず、
ただ眠そうに目をこするだけだった。

・・・★・・・

「なんで二人減るだけでこんなに静かかね」

付け合わせの揚げパンを粥の中に浸しながら、ディアンが言う。
食堂には誰もいない。こんな街外れに宿をとる者も、そうはいないという事か。

ちょっと前には、旅行者ふうの若い男が向こうのテーブルにいたが、
先ほど慌ただしく出ていったきり、食堂の中は静かだ。

「でも一人増えただろう?」

まだスプーンの使い方に慣れていないらしいマレフィセントの
口を拭いてやりながら、フレアは笑った。

厨房は白い蒸気の幕にうっすら覆われている。
食器の触れ合う音と、忙しそうに動き回る主人の姿に、少女はしばし
スプーンを口に運ぶ事を忘れて見入っていた。そんな調子で、
彼女の前にある味つき卵でとじた粥は、まだ半分も減っていない。

「ほら、早く食べてしまわないと!冷めてしまう」

フレアこそ、マレフィセントの世話で食事にはほとんど手をつけていないのだが、
もちろんそのあたりは忘れている。

「…やっぱりあんまり変わんねぇか」

声のほうを向くと、すでに空になった皿を前にして、ディアンが苦笑しながら
窓ごしに碧瑠璃の空を見ている。
彼はこちらの視線に気がつくと、つと声を低くして身を乗り出してきた。

「なぁ、明け方にそいつ――マレ、外に出てかなかったか?」
「…そうみたいだいだ」

ようやく手と口を動かすマレフィセントを横目に、フレアもスプーンを取った。

「私が起きたときには部屋にいたけれど…窓が開いていた」
「家出。…ってわけでもないよなぁ」

粥を頬張る少女にまじまじと目をやって、ディアンが唸る。
夜とはまた違い、明るい場所で見るこの少女は、殊更に異様だった。
一応、ここでも外套を着せてフードまで被らせているが、これからの季節を
考えると、この方法もとれなくなってしまうだろう。

「でもディアン、気づいていたのなら止めてくれればよかったのに」
「まぁ、なんとなく戻ってくると思ったからな」

すっかり冷めてしまった粥を不満げに飲み込んでフレアは抗議したが、
ディアンは口の端を上げている。何がそれだけの自信を生むのかわからないが、
この化け物のような男は、こちらの文句などどうとも思っていないらしかった。

「こういう種族ってのはな、家族愛ってやつが強いのさ」
「家族?」

答えはない。かわりに、ずずず、と椅子をずらして彼は立ち上がった。

「――さ、行くぜ。雨が降り出すまでにフレデリアに着かんと厄介だ」
「あ、そうだ。ヴィルフリードとリタに手紙を書いたんだ。
 ディアンも何か一言くらい送ったらどうだ?」

そう言って、昨日書いた手紙を渡す。ディアンは適当なあいづちを打ち、
やおら手紙に向かって口を寄せると、なげやりな口調で言った。

「風邪ひけー」
「ディアン!!」
「俺からはこれでよし、と」
「よくない!取り消せ!」


結局、手紙はそのまま発送された。


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2007/02/12 23:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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