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2024/05/16 22:58 |
3.ファウン/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・マレフィセント・フレア
NPC:なし
場所:街道
―――――――――――――――

-Birth-

―――――――――――――――

その少女はいかにも無垢そうな眼差しでこちらを見上げてきた。
そのまま、何を言うでもなくフレアとディアンを見ている。

「魔族…?」

こちらも少女の頭のてっぺんからつま先までざっと見て、まず出た結論は、
それだった。

「瘴気は感じねぇな」
「…うん」

ため息交じりにディアンが首のあたりを掻いている。
もはや状況の奇抜さに疲れて、警戒する事にも飽きたようだ。

確かに、目の前にいる少女からは、魔獣や魔族が発する負のエネルギー、
瘴気は伝わってこない。
しかし明らかにまともな人間では――ましてや、まともな馬でもない
少女を前に、困惑するしかすべがない。

蒼い瞳と髪、そこから生えた4本の角。
まだ幼い丸顔には、印にも見える紫の文様がはしっている。
ぴったりとした黒いタイツは全身を包んでいるが、この寒い中を
しのごうとしているにしては、あまりにも無防備だ。
背中にはコウモリのような羽が一対。
足は二本あるものの、それがむき出しの蹄で飾られているとあっては、
もはや常識の範疇を越えている。
さらには尻尾まであり、それからはなぜか枝葉が育っている…。

――悪魔。
そうだ、悪魔だ。

だが目の前にいる少女を、そんな禍々しい名前で呼びたくはなかった。
たった今、とても抗いきれないほどの攻撃を目の当たりにしたというのに、
恐怖すら感じていない。
ただその奇妙さに驚いて――ただ彼女の幼さが心配だったのだ。

「名前は?」

それ以外にも訊きたいことは山ほどあったが、一連の彼女の行動を見る限り、
望む答えは得られそうにない。
人に馴れていない犬に近づくような心持で、フレアはゆっくりと
少女に歩み寄った。

だが少女は答えず、かすかに首を捻っただけである。
こちらを怖がる様子もまったくない。

「言葉が通じないのか…」

じゃあ、と言葉を切り、フレアは少女の前に片膝をついて
視点をあわせると、自分の胸に手の平をあてた。

「フレア」

次に少女を手の平で促す。
彼女はしばし考え込んでいたが、フレアがもう一度同じ事を繰り返すと、
何かを思い出したかのように、ようやく口を開いた。

「δμκιλθξ」

と同時に、蛍火のような淡い燐光が、知らない文字に変じる。
文字だ、と判断したのはただの直感にすぎなかったが、そう的外れでも
ないだろう。
繊細な文字列はささやかに煌いて、その空間を飾っている。

「マレ…フィセント?それが君の名前か?これが?」

目の前で瞬く音の残像に目を丸くしながら、聞いたばかりの名前で少女に
呼びかけてみる。
今度こそ、少女――マレフィセントはうなづいた。

「さっき光ったのはこれか?」
「たぶん。…ディアン、もしかして私達、今すごい体験をしているのかも」
「うん?」

もう薄霧のように消えてゆく文字列を凝視しながら、フレアは自分が
いつになく興奮しているのを感じた。

「こんな種族見たことない――しかも知らない言語を使っている…
 この子、もしかして――」

マレフィセントに視線を転じる。

「違う世界から来たのかもしれない」
「……そりゃあ…ちっとばかり話が飛びすぎなんじゃねーのか?」

ディアンとしては、一刻も早くここから離れたいようだった。
フレアもそれは同じだったが、もう名前を知ってしまった少女を、
真夜中の道端で一人にするのはぞっとしない。

「でも、こんな種族見たことも聞いたこともないぞ?」
「まぁ、そうだけどよ…いいや。で、どうすんだ?」
「え?」
「六本指のヤロウにつきまとわれて逃げる途中、箱から出てきた馬だか山羊
 だかと混ざった子供――しかも異世界から来たってぇやつに出くわして、
 フレアはどうするんだって言ったのさ」
「どう…するって言われても」

確かに、今は一刻を争う。ヴィルフリードとリタが作ってくれた時間を
無駄にすることはできない。

でも。

「この街を出て、この子の親を探さなくちゃ。きっと迷子になったんだ」
「迷子、ねぇ」

そう言いながら、ディアンは道の端まで歩いてゆき、先ほどマレフィセントが
入っていた箱の残骸を拾い上げた。
箱は頑丈にはできているようだったが、所詮紙であることには変りなく、
鋭い角で完全に引き裂かれていた。
彼が拾い上げた欠片は、ちょうど箱に書いてあった文字の部分だった。

「普通、自分の子供を箱に詰めて夜まで放っておくかね?」

目を細めたディアンはその文字を読もうとしているらしかったが、すぐに
諦めたように、ぽいと背中へ放り投げた。
そこで、はっとしてフレアは立ち上がった。マレフィセントは話が解らない
事が不安なのか、わずかに尻尾を自分の足に巻きつけている。

「…捨て子?」
「仮に親がいたとして、だ。こいつをどこに帰すつもりだ?さっきお前は、
 こいつは異世界から来たって言ったよな?異世界まで行くってのか?」
「……」

ディアンの言っていることは間違いなく正論だ。フレアは唇を噛んだ。
今はここで立ち止まっていられない。今から、この大陸の端まで行こうと
しているのだ。
ましてや、迷子の――こちらの言葉も通じない、違う世界の子供の世話など。

「――とまぁ、普通はそう言うだろうけどな」

ふいにディアンの声のトーンが上がる。
面食らっていると、彼は人差し指を立て、まるで教師のように
フレアの目の前に突きつけてきた。

「フレア、今俺達はどこに向かっている?」
「――ライガール」
「そうだな。ライガール皇国だ」

即答すると、ディアンはうんうんと満足そうに手を引っ込めた。
と、腕にそっと触れてきたものがあった。
マレフィセントが擦り寄ってきている。見上げてくる顔は、わずかに眉を
下げているようにも見えた。
どうにかして安心させようと、フレアはマレフィセントの頭に手を置いた。

「ライガールはな、今は魔界なんだよ」

少女の頭を撫でながら、ディアンの黒い瞳を彼の眼鏡ごしに見やる。
そこから答えを見出す前に、彼が言った。

「…まぁ言ってみればそこも異世界だよな。んで、こいつ――長いから
 マレでいいか。マレも異世界の住人だってな?」

「もうわかるな?」とでもいいたげに、ディアンは肩をすくめた。
唐突にフレアはそこで合点がいき、思わず彼の名前を呼んだ。

「ディアン!」
「あんまり期待するなよ。ま、でもライガールにゃさらに異界に繋がってる
 道も沢山あるって話だからな。そう分の悪い賭けでもねぇだろ?」

ありがとう――と言いかけたが、ディアンが背中を向けたので、フレアは
微笑しながら口をつぐんだ。

「行くぜ」

歩き始めるディアンの背中を見、フレアはくすりと笑ってから、
マレフィセントに手を差し延べた。


「行こう。君の家まで」


少女はまだきょとんとしていたが、フレアが促すと、特にためらう様子もなく
繊細そうな手を預けてきた。
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2007/02/12 23:01 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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