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2024/05/17 00:36 |
2.bone white/マレフィセント(Caku)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:箱(謎
場所:街道


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bone white
 ~骨色の白~






ごん、と衝撃があって、思わず目を開けた。
寝相でひっくり返ったらしい、目の前には粗末な茶色の紙の色彩。
ほのかに蜜柑の酸味が香るその箱は、つい先日、道端でみつけたものだ。

あんまりにも匂いが気に入ったので、うっかり遊んでいるうち、その中で寝て
しまった。
ひっくり返った衝撃で、箱の口が開いて、思わず羊のような造詣の足がダンボ
ールを突っ切って外に出ている。

…傍目から見れば、ダンボールの箱から羊の足と青い髪と角が突き出ていると
いう、なんとも形容し難い不思議ボックスだろう。



「ρ……ρυ」


異界言語。
それ自体が世界には異質なようで、音が青白い光臨を放ってふわりと空中に昇
って消えた。
もぞもぞ、と動こうとするが足が紙を突き破って突っ込んでいるので中々思う
ように動けない。
さらに、さっきまで寝ていたので酷く動作が鈍い。

…傍目から見れば、いや傍目の傍観人から見れば、角と足が生えたダンボール
箱(記載名・愛媛蜜柑)がもぞもぞと動いている。かなり不気味だ。







………………………

「ディアン…その、あれは?」

「俺に聞くな」

二人はどこか真剣味すら帯びた表情で、じっと未確認生命体(ダンボール)を
見つめている。

一人は少女、線の細い印象が目立った娘。服装も実用一点張り。
一人は青年。白装束の衣に、歴戦の雰囲気を漂わせる。
今、彼らは道の端で未知の生命体らしきものと邂逅していた。

始めはなんか怪しい箱があるなと思ったぐらいだった。
それが横を通り過ぎようとすると、突然ごとんをひっくり返ってきたのだ。
思わずディアンはフレア抱えて後ずさり、その後臨戦体勢を取った二人の前
で、またも箱は奇怪な身震いを起こして


足とか角を、にょっきり生やしたのだ。





謎である。謎だろう。






怪しまないほうが無理に決まってる。

「さっき、光が見えたな。呪文系か?フレアわかるか?」
「全然…それに、今まで聞いたことないような音だった」

何がしたいのか、箱(記載名・愛媛蜜柑)はにょきにょきと足をばたつかせつ
つ、もぞもぞ動いている。突き出した足の鎖が揺れて、月の青い光に金色の波
紋を呼んだ。

「…アレ、馬か?」

「いや、羊かな?」

足の議論をしていると、再び破裂音。
びくりと二人で肩を震わせると、箱から今度は歪に捩れた角が、でたらめな角
度で突き出した。






この時、マレフィセントはかなり苦労していた。
抜けない足を引っ張ろうとしても、体勢で上手くいかない。出ようとしても、
頭の角や尻尾の草木が引っかかる。思わず苛立ち半分で自身の攻撃能力「虐殺
の欠損」と呼ばれる物質生成能力を発動させてしまっていたのだ。

「虐殺の欠損(ブラッドショウド・レス)」とは単純な生体特徴で、体中のあ
りあらゆる部位から、瞬間的に角、硬い突起物の起伏を自在に生成・開放でき
る能力である。
ようは、全身から角や骨、爪など結合組織を生やせるのだ。

皮膚を突き破っているようにしか見えないが、実は元の皮膚が基盤になって、
皮膚を積み重ねるように生成するので痛みはない。しかも結合組織を崩壊させ
る物質を体内ですぐ生成できるので折れても平気。しかも、その硬度は宝石レ
ベルまで跳ね上がる。



「…フレアはここにいろ、俺が様子を見てくる」

「ディアン、でも…その」

こちらに手出しはしてこないものの、このままでは道を通れないし、何よりあ
の不気味極まる生物(謎)が自分達が通り過ぎた後の人々に牙を向けるかもし
れない。
無用な戦はしない性分だが、少々このような微妙な経験は、彼も少なかった。
とりあえず、中を確かめなければ。

「大丈夫だ、確かめてくるだけだ…向こうが何もしなければな」

言葉の最後のほうは、低く呟くに留めておいて。
彼は足音一つも立てずに、ゆっくりと謎の箱に近づいていった。









懸命にもぞもぞと頑張っている少女は、ふと全ての表情を消して動きを停止さ
せた。
元々、あまり表情がないのだ。
だが、ないわけではない。嬉しいなら小さく微笑むし、尻尾を振る。元々、生
まれたときは人間の顔形ではなく、羊のような姿で生まれた悪魔だ。まだ、よ
く顔の表情筋の動きになれてないのかもしれなかった。




これは、表情がないではなく。
これは、表情を出していないのだ。





来る。
何か?
何かってなんだろう?

来る。
何だろう?
来る、判らなくても来る。理解できなくてもそれはこちらに来る。
何だろうって何だっけ?

来る。
悪魔の瞳には透視できる能力を持った者達もいる。
少女にはそういう透過の目はなかったが、箱の切れ目から見えたのは、白い姿
と。





抜き身の、刃。





来る。
白い刃だ。
刃って何だっけ?
来る。警戒と、少しの興味を持って。
白い姿が立ち止まり、緊張じみた動作で剣を構えて身構えた。




月の光の水溜り突っ込んだように、剣の透明な反射光が目に届いた。
剣って何だっけ?
ああ、そうだ。あれは。





あれは。







あれは、殺すものだ。
剣は、滅ぼすものだ。
剣は、貫くものだ。
剣は、切り裂くものだ。


殺されたのは、産みの母親。
滅ぼされたのは、あるべき世界。
貫いたのは、白い胸元。
赤い世界で、母は息絶えた。
自分と母の完全な世界は、あれで切り裂かれたのだ。



光の中で輝く道具に、悪魔の娘は憎悪も怨恨もなく攻撃を仕掛けた。

それは、敵意だ。
闇の深淵で生まれた娘にとって、輝く剣は忌むべき対象。
輝く剣は、闇を貫き、母を串刺してしまった。
悪魔の本能がもぞりと首を動かした。使い手ではなく、少女は剣を標的にし
た。






闇よ、闇夜。
愛し子は今、汝のように光に敵対する。

月夜、月よ。
剣に輝きを与える者よ、見るがいい闇の末裔の娘を。







「!!!」

怖気が走るような戦慄を感じて、飛び退いた時の刹那に轟音が夜に木霊した。

破裂したダンボールから、一気にこちら目掛けて向けられた白い角の奔流。そ
れらはどれもが歪に捻くれては歪み、まるでのたうつ蛇のような異形の雰囲気
を見せていた。

ディアンの立っていた場所は深々と穴が穿たれていた。
獲物を取り逃がした白い槍達は、ずりずりと地面から自らを引き戻した。表層
すらつき抜け、岩盤まで到達していたのか、切っ先についた土が表層とは違う
色をしていて、はらはらと零れる。

「なんなんだ…?」

慌てて近づこうとするフレアに「近づくな」と目線で制していると、白い角の
群れからまた攻撃。
だが、彼は悠々と避ける。
態度や息遣いは上がっていない。だが動作は誰にも捕らえられないほど早く、
速い。

彼の表情がわずかに曇った。
負けを確信したわけではない、むしろこの程度の連戟なら幾らでもかわせる自
身がある。
向かってくる槍を愛刀ではじく、硬質な音が夜気を渡った。


骨、か?

いや、これは角だろうか?
それにこの攻撃の標準が狂っているとしか思えない。
何せディアンではなく、その一歩手前をいつも狙うような軌跡を描いてやって
くるのだ。
そう、まるで目前で振るう刀を狙うような。

だから、肝心の攻撃はほとんど彼に届かないし、彼が余裕でかわせたり防御で
きる位置になる。
大抵は身体を防御せずともよい攻撃ばかりだ。舐められているのか?



埒があかない。
目前の白い角の元は、なにやら小柄な人影のようだ。
といっても顔胸胴体膝足すべてが白い骨で作られたような鎧に覆われていて男
か女かも判別不能。
そこから骨格を無視したありあらゆる角の槍が生え出して、不規則に脈動して
いる。
それ自体はそこから動かず、じっと白い槍を捻らせてこちらの様子を見守る。





かちん、と彼は刀を仕舞った。
そして、一呼吸置いて、目つきが変わる。
それは覚悟の瞳。目の前の障壁を断ち切る決断のー…


「……?」


雰囲気、とでもいうのだろうか。
ぴたっと刀が仕舞われると同時に、角もぴたりと動きを止めた。

こちらの様子を伺ったり、とか、自分の決意に気がついたわけでもなさそう
だ。
なんだかしきりに辺りをふるふる震えて右往左往する様は、なんだか目前の謎
の敵の真意もわからないのに、ひどく幼い動作に見えた。

「ディ、ディアン?」

いつの間にか側にいた少女に、まったくと苦笑してから、前を向いた。
刀に手をかけているのは変わりないが、先ほどの決意が見当たらない。

それもそうだろう。
何せ、イキナリ襲ってきた角達が、目標を見失ったようにずるずると後退しは
じめたのだ。
不気味極まりないが、なんとなく刀を仕舞ったまま出せなくなってしまった。
タイミングの問題だろう。






そうして。
骨が皮膚にもぐりこむ終わる頃。二人の目の前にいたのは。



きょとんとして見上げてくる、半人半馬の悪魔の少女であった。




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2007/02/12 23:00 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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