PC@マレフィセント・フレア・ディアン
NPC@ザイリッツ、イザベル、傭兵達
場所@街道沿いの集落~はずれの獣道
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沼と森の悪夢は浄化され、残ったのは露草色の月夜だった。
「すまないな」
ザイリッツの苦い謝罪。
それをディアンは無表情に、フレアは耐えられないとばかりに、最後のマレは
ある種の怨恨を受けて頭を垂れていた。
「どう足掻いても、我らは人間なのだ。
そして、今回の事件は君が森にさえ行かなければ怒らなかった。見逃すのはい
ったが、見過ごすことはできないのだよ」
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森の悪夢から一週間。
ようやく全てが一段落しかけた街の端の小屋で、フレアたち三人とザイリッツ
が話し合っていた。
机に肘ついたザイリッツは苦々しく笑いながら、煙草を吸った。
「いいかね?」
「未成年者に害がない程度にな」
「厳しいな」
最初から吸う気がなかったのか。
一度出した煙草を苦笑しながら吐いて潰した、まだ十分残っていた煙草が薄い
煙を吹いて沈黙。
「君が出なければ傭兵達は死ぬことはなかった。
しかし君が出なければ別の被害者が生れていただろう…そして、どちらにしろ
死者は必然だった」
ザイリッツ自体、あまり快い気分でもないのだろう。
しきりに溜息をついて頭を掻いてはマレのほうをちらりと見やる。
「…これ以上、ここに置いておくことは出来ない。
傭兵達に不穏な動きがある、宣教師の一団にもな。おそらくその子を火炙りに
するのだろう。
…すまない、すまないな。どうやっても我らは亡き友の仇をと、誰かに求めて
いるのだ」
「部下も統率できねぇのかよ」
「君には理解できないか、白の傭兵。
お前のように孤独で、守れるだけの人数しか抱えてない者に、多くの者達を抱
くことの意味が」
ディアンは珍しく押し黙った。
「…誰も悪くないわけではない。
少なくともその少女が出なければ我らは別の町で仲間と共に酒を飲んで、馬鹿
騒ぎを朝まで興じ、そして新しい仕事を探して右往左往する日々に戻れたの
だ。
そして、別の人間達が嘆きのままに森に食われていた…」
ザイリッツとて、その言葉を言うのにどれほど苦しいか。
その答えは彼がマレフィセントと目を合わせないようとしているところからも
見える。
「…人には感情と、想いと、心がある。
それは時にどうしても抑えきれない場合があるのだ。それは理性を超えて行動
を求める」
フレアが、俯いていた顔を上げた。
「悪魔にだって、この子にだってそれはあるんだ!」
「理解できないんだ、その人の形さえまばらな生き物に、我らと同等のものが
あるなどと。
何故なら、我ら人は同じ人同士でさえ本当に理解し合えないものだ。全てが理
解しあえるのは、もう人ではないからな。分からないから知ろうとして、探り
合って、笑いあう。
…そんなことでしか、他人を信じられないんだ」
フレアは、何か言おうとした。
言わなければならなかった。間違ってる、そんな事は本当は間違ってるんだ
と。
だが、脳内はぽっかり虚が空いてしまって、何もいえなかった。
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出発はすぐだ、だから荷物まとめてこいよ。
ディアンはフレアの心中を察して余計な言葉をかけずにさっさと自室に戻って
しまった。
部屋に青い月明かりが差し込む。
明日の朝に何か動きがあるらしいので、もうすぐにでもここから立たねばなら
ない。
ベットに座って、荷物を確かめてふぅと息を吐く。
そのままこてりと横になる、約束の時間まであと13分。微妙な時間だ。
ふと、いつも側によってくマレがベットの向こうでこちらを見ているだけなの
に気がいつた。
おいで、と手を振っても来ようとしてない。
いぶかしみながらも近寄ると、しっぽさえ振ってこない。
「どうした?」
ベットのシーツをぎゅっと握っているだけで、目を合わそうとしない。
森で何かあったのか。少なくとも最近のマレの様子とは違うことにフレアは不
安を覚えた。
抱きしめてやると、少しだけ緊張して肩を強張らせる様子が伝わってきた。
今までにない、怯えた反応にフレアのほうが怯えた。
「…ごめんね、君のことがわからなくて」
あぁ、どうしてこんな時に言葉は通じないんだろう。
思いだって、うまく表現するのが不得手な自分にどうやってこの子を安心させ
てあげればいい?
抱きしめて温もりが伝わるように、思いだって突き抜きて伝わってしまえばい
いのに。
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マレフィセントは後悔した。
街の人が、白い人と黒髪の少女に冷たくなった理由が自分にあると知っている
から。
自分が、森になんかいかなければあんなことにならなかった。
恐い目で見られることが、とても怖い。
それだけの事をしてしまった自分のせいで、二人は追い出されてしまう。
纏めた荷物、ベットの上のそれは本当に小さなもの。必要最低限しか持ってな
いのだろうか。
言葉が通じないからか、二人は自分を怒らない。
怒ってほしい。そしたら謝れる。ごめんなさいといって赦してもらえる。
そんなことさえ、出来ない。
どうしたらいいんだろう。
こんな時、どうすればいいんだろう。
「本当は、少しだけ怒ってるんだ。君はいつも勝手に飛んで行ってしまうか
ら」
フレアの言葉。
顔を上げて見上げると、笑ったフレアの顔を青い月が照らしている。
必死に見つめて聞き取ろうとする。分からなくても聞こうとした。理解しよう
とした。
「だから…何度だって連れ戻してやるって、決めた。
危ないところになんか放り出しておくか、一人でいったって絶対追いかけてや
る。
君が安心して縋れる場所まで、とことん保護者面してやるって決めたんだ」
めっと、おでこをデコピンで軽くはたいた。
うみぃ、とかかろうじて聞き取れる発音でマレは額を押さえた。その動作が本
当に人間ぽくってフレアはもっと笑った。
「分からないよ、わかんないさ。
言葉だって通じない君の事、本当にわかんないんだよ。でも理解できないか
ら、こっちで勝手に解釈したって構わないだろう?だって、誰だって本当はわ
かんないものなんだから」
理解できないことは、悲しいことだけど。
わかってあげられないのは、苦しいけれど。
それでなくても、一緒にいて笑うことが出来るなら、きっとそれは必要ないの
かもしれない。
マレは、笑うフレアを不思議そうに見上げた。
そして、自分もフレアにデコピンしようと背を伸ばすがフレアに避けられてふく
れっ面を見せた。
その後、何回かそんな遊びを繰り返している内に、いつしか二人とも笑ってい
た。
息があがるまで笑い合った数分間。と、扉がノックの後に開いて、顔を見せた
ディアンはあっけにとられた。
「…おい、何やってんだよ」
「ははは……ディアン、私もやっぱり難しいことは分からなかった」
『υυωа』
ベットで息も絶え絶えに転がって笑い合っている二人を見て、若いっていいよ
なと思ったディアンであった。
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裏口から出て、そっと通りに出たとき。
「あのう」
小声で声をかけられて、ディアンとフレアが臨戦態勢に入り振りかえる。
そこには、やや驚いた様子で立っている一人の白衣の女性。夜目でもわかるそ
の白衣の主はイザベルだった。
「…あの、通りから出ないほうがいいです。
検問は誰もいませんが見張りがいます。村の端の獣道からなら、多少回り道に
なりますが街道へと出れます。よ、よければ私も獣道までご案内します」
「悪いが、アンタが俺達の味方だっつう理論があるか?」
う、と体をひきかけたイザベルだったが、マレをちらりと見て胸元のロザリオ
を握りしめる。
「私は…私は白い神に誓った身です。嘘を言葉にすることは決していたしませ
ん」
口元を引き締めて、きっとディアンを見つめた。
ディアンは、さてどうしたものかと二人を振り返る。フレアは、信じていいよ
うな気がした。
マレを見つめる視線が、とても優しそうだったとか、そんな理由で。
「ありがとうございます、イザベルさん。ディアン…大丈夫だと思う」
「ま、大丈夫じゃなくても俺は平気だぜ」
イザベルが反論しようとして、溜息をついた。
そして、「静かについて来てください」とそっと通りからはずれて歩き出し
た。
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そして、獣道は鬱蒼と待ち構えていた。
森につくづく縁があるな と皮肉めいたディアンを横目に、フレアは振り返
る。
「あなたは?」
「ここに残ります。そして、悪魔のことを本部に報告しなければなりません」
「…まさか」
かんぐるフレアに、慌てて手をふるイザベル。
「その子のことは書きません!……あ、最後ですが、これを」
手に持った硝子瓶には、琥珀色の液体が揺れていた。
フレアをすり抜けて、マレが手を伸ばした。一瞬だけ怯えたイザベルだが、や
がて優しく微笑んでそれをそっと手に握らせてやった。
「せい、すい?」
「いえ、ただの蜂蜜をお茶葉と混ぜた蜂蜜茶です。子供がぐずったときに、飲
ませるといいんですよ」
見え隠れするかつての母親の姿に、フレアは少しだけ胸が苦しくなった。
過去は知らないが、きっとこの人にも子供がいたんだろう。そう容易に想像で
きた。
「あの、失礼ですがお子さんは…?」
「死にました。聖ジョルジオの悲劇で」
悪魔復活劇、そしてイムヌス権威失墜の話は広まっている。
噂でかじった程度だったが、フレアは息をのんだ。
「だから、貴方達はどうか旅を続けてください。そして、その子に優しくして
あげてくださいね。
私には、もうそんな事をしてあげる権利も、立場もないのですから」
人には、思いと、感情があるから。
悪魔の子でさえも抱きしめてあげたいが、今の彼女は白い法衣の宣教者。
自分はきっと赦されないから、どうぞ貴方達が。
「ありがとう」
「…あなた方に、神のご加護が頭上で微笑むように」
神の言葉は、悪魔の娘を連れたメンバーに加護を与えるのだろうか。
NPC@ザイリッツ、イザベル、傭兵達
場所@街道沿いの集落~はずれの獣道
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沼と森の悪夢は浄化され、残ったのは露草色の月夜だった。
「すまないな」
ザイリッツの苦い謝罪。
それをディアンは無表情に、フレアは耐えられないとばかりに、最後のマレは
ある種の怨恨を受けて頭を垂れていた。
「どう足掻いても、我らは人間なのだ。
そして、今回の事件は君が森にさえ行かなければ怒らなかった。見逃すのはい
ったが、見過ごすことはできないのだよ」
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森の悪夢から一週間。
ようやく全てが一段落しかけた街の端の小屋で、フレアたち三人とザイリッツ
が話し合っていた。
机に肘ついたザイリッツは苦々しく笑いながら、煙草を吸った。
「いいかね?」
「未成年者に害がない程度にな」
「厳しいな」
最初から吸う気がなかったのか。
一度出した煙草を苦笑しながら吐いて潰した、まだ十分残っていた煙草が薄い
煙を吹いて沈黙。
「君が出なければ傭兵達は死ぬことはなかった。
しかし君が出なければ別の被害者が生れていただろう…そして、どちらにしろ
死者は必然だった」
ザイリッツ自体、あまり快い気分でもないのだろう。
しきりに溜息をついて頭を掻いてはマレのほうをちらりと見やる。
「…これ以上、ここに置いておくことは出来ない。
傭兵達に不穏な動きがある、宣教師の一団にもな。おそらくその子を火炙りに
するのだろう。
…すまない、すまないな。どうやっても我らは亡き友の仇をと、誰かに求めて
いるのだ」
「部下も統率できねぇのかよ」
「君には理解できないか、白の傭兵。
お前のように孤独で、守れるだけの人数しか抱えてない者に、多くの者達を抱
くことの意味が」
ディアンは珍しく押し黙った。
「…誰も悪くないわけではない。
少なくともその少女が出なければ我らは別の町で仲間と共に酒を飲んで、馬鹿
騒ぎを朝まで興じ、そして新しい仕事を探して右往左往する日々に戻れたの
だ。
そして、別の人間達が嘆きのままに森に食われていた…」
ザイリッツとて、その言葉を言うのにどれほど苦しいか。
その答えは彼がマレフィセントと目を合わせないようとしているところからも
見える。
「…人には感情と、想いと、心がある。
それは時にどうしても抑えきれない場合があるのだ。それは理性を超えて行動
を求める」
フレアが、俯いていた顔を上げた。
「悪魔にだって、この子にだってそれはあるんだ!」
「理解できないんだ、その人の形さえまばらな生き物に、我らと同等のものが
あるなどと。
何故なら、我ら人は同じ人同士でさえ本当に理解し合えないものだ。全てが理
解しあえるのは、もう人ではないからな。分からないから知ろうとして、探り
合って、笑いあう。
…そんなことでしか、他人を信じられないんだ」
フレアは、何か言おうとした。
言わなければならなかった。間違ってる、そんな事は本当は間違ってるんだ
と。
だが、脳内はぽっかり虚が空いてしまって、何もいえなかった。
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出発はすぐだ、だから荷物まとめてこいよ。
ディアンはフレアの心中を察して余計な言葉をかけずにさっさと自室に戻って
しまった。
部屋に青い月明かりが差し込む。
明日の朝に何か動きがあるらしいので、もうすぐにでもここから立たねばなら
ない。
ベットに座って、荷物を確かめてふぅと息を吐く。
そのままこてりと横になる、約束の時間まであと13分。微妙な時間だ。
ふと、いつも側によってくマレがベットの向こうでこちらを見ているだけなの
に気がいつた。
おいで、と手を振っても来ようとしてない。
いぶかしみながらも近寄ると、しっぽさえ振ってこない。
「どうした?」
ベットのシーツをぎゅっと握っているだけで、目を合わそうとしない。
森で何かあったのか。少なくとも最近のマレの様子とは違うことにフレアは不
安を覚えた。
抱きしめてやると、少しだけ緊張して肩を強張らせる様子が伝わってきた。
今までにない、怯えた反応にフレアのほうが怯えた。
「…ごめんね、君のことがわからなくて」
あぁ、どうしてこんな時に言葉は通じないんだろう。
思いだって、うまく表現するのが不得手な自分にどうやってこの子を安心させ
てあげればいい?
抱きしめて温もりが伝わるように、思いだって突き抜きて伝わってしまえばい
いのに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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マレフィセントは後悔した。
街の人が、白い人と黒髪の少女に冷たくなった理由が自分にあると知っている
から。
自分が、森になんかいかなければあんなことにならなかった。
恐い目で見られることが、とても怖い。
それだけの事をしてしまった自分のせいで、二人は追い出されてしまう。
纏めた荷物、ベットの上のそれは本当に小さなもの。必要最低限しか持ってな
いのだろうか。
言葉が通じないからか、二人は自分を怒らない。
怒ってほしい。そしたら謝れる。ごめんなさいといって赦してもらえる。
そんなことさえ、出来ない。
どうしたらいいんだろう。
こんな時、どうすればいいんだろう。
「本当は、少しだけ怒ってるんだ。君はいつも勝手に飛んで行ってしまうか
ら」
フレアの言葉。
顔を上げて見上げると、笑ったフレアの顔を青い月が照らしている。
必死に見つめて聞き取ろうとする。分からなくても聞こうとした。理解しよう
とした。
「だから…何度だって連れ戻してやるって、決めた。
危ないところになんか放り出しておくか、一人でいったって絶対追いかけてや
る。
君が安心して縋れる場所まで、とことん保護者面してやるって決めたんだ」
めっと、おでこをデコピンで軽くはたいた。
うみぃ、とかかろうじて聞き取れる発音でマレは額を押さえた。その動作が本
当に人間ぽくってフレアはもっと笑った。
「分からないよ、わかんないさ。
言葉だって通じない君の事、本当にわかんないんだよ。でも理解できないか
ら、こっちで勝手に解釈したって構わないだろう?だって、誰だって本当はわ
かんないものなんだから」
理解できないことは、悲しいことだけど。
わかってあげられないのは、苦しいけれど。
それでなくても、一緒にいて笑うことが出来るなら、きっとそれは必要ないの
かもしれない。
マレは、笑うフレアを不思議そうに見上げた。
そして、自分もフレアにデコピンしようと背を伸ばすがフレアに避けられてふく
れっ面を見せた。
その後、何回かそんな遊びを繰り返している内に、いつしか二人とも笑ってい
た。
息があがるまで笑い合った数分間。と、扉がノックの後に開いて、顔を見せた
ディアンはあっけにとられた。
「…おい、何やってんだよ」
「ははは……ディアン、私もやっぱり難しいことは分からなかった」
『υυωа』
ベットで息も絶え絶えに転がって笑い合っている二人を見て、若いっていいよ
なと思ったディアンであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
裏口から出て、そっと通りに出たとき。
「あのう」
小声で声をかけられて、ディアンとフレアが臨戦態勢に入り振りかえる。
そこには、やや驚いた様子で立っている一人の白衣の女性。夜目でもわかるそ
の白衣の主はイザベルだった。
「…あの、通りから出ないほうがいいです。
検問は誰もいませんが見張りがいます。村の端の獣道からなら、多少回り道に
なりますが街道へと出れます。よ、よければ私も獣道までご案内します」
「悪いが、アンタが俺達の味方だっつう理論があるか?」
う、と体をひきかけたイザベルだったが、マレをちらりと見て胸元のロザリオ
を握りしめる。
「私は…私は白い神に誓った身です。嘘を言葉にすることは決していたしませ
ん」
口元を引き締めて、きっとディアンを見つめた。
ディアンは、さてどうしたものかと二人を振り返る。フレアは、信じていいよ
うな気がした。
マレを見つめる視線が、とても優しそうだったとか、そんな理由で。
「ありがとうございます、イザベルさん。ディアン…大丈夫だと思う」
「ま、大丈夫じゃなくても俺は平気だぜ」
イザベルが反論しようとして、溜息をついた。
そして、「静かについて来てください」とそっと通りからはずれて歩き出し
た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
そして、獣道は鬱蒼と待ち構えていた。
森につくづく縁があるな と皮肉めいたディアンを横目に、フレアは振り返
る。
「あなたは?」
「ここに残ります。そして、悪魔のことを本部に報告しなければなりません」
「…まさか」
かんぐるフレアに、慌てて手をふるイザベル。
「その子のことは書きません!……あ、最後ですが、これを」
手に持った硝子瓶には、琥珀色の液体が揺れていた。
フレアをすり抜けて、マレが手を伸ばした。一瞬だけ怯えたイザベルだが、や
がて優しく微笑んでそれをそっと手に握らせてやった。
「せい、すい?」
「いえ、ただの蜂蜜をお茶葉と混ぜた蜂蜜茶です。子供がぐずったときに、飲
ませるといいんですよ」
見え隠れするかつての母親の姿に、フレアは少しだけ胸が苦しくなった。
過去は知らないが、きっとこの人にも子供がいたんだろう。そう容易に想像で
きた。
「あの、失礼ですがお子さんは…?」
「死にました。聖ジョルジオの悲劇で」
悪魔復活劇、そしてイムヌス権威失墜の話は広まっている。
噂でかじった程度だったが、フレアは息をのんだ。
「だから、貴方達はどうか旅を続けてください。そして、その子に優しくして
あげてくださいね。
私には、もうそんな事をしてあげる権利も、立場もないのですから」
人には、思いと、感情があるから。
悪魔の子でさえも抱きしめてあげたいが、今の彼女は白い法衣の宣教者。
自分はきっと赦されないから、どうぞ貴方達が。
「ありがとう」
「…あなた方に、神のご加護が頭上で微笑むように」
神の言葉は、悪魔の娘を連れたメンバーに加護を与えるのだろうか。
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