キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:ザイリッツ・イザベル・傭兵団
場所:魔の森・沼地
―――――――――――――――
- ACCESS TO WATER -
―――――――――――――――
恐ろしい。
この状況が、失われる命が、それに涙すら流せない自分が。
ぎろりと、魔物が幾人もの目で皆を見渡す。
きっと『彼ら』は、まだ殺されていないのだ。
ぎりぎりまで生かされ、苦痛や憎悪を搾取され、目撃者からも不快感や
絶望を吸い取る。そして絶望しているうちに、食われる。
このサークルを断つためには――
「俺には既に腕一本ぶんのハンデがある!両腕があるお前達が先に死んだら、
末代までの笑い者だぞ!」
絶望しないこと。
ザイリッツの激で、傭兵が動き出す。フレアも瘴気の中に飛び出すと、
剣をふるって蔦を斬り飛ばした。
「キリがねぇな」
ディアンの舌打ちが聞こえる。彼の剣戟は的確に蔦や触手を減らしているが、
本体がすぐにそれを再生させてしまう。
さらに本体が出現したことにより、瘴気の濃さが増している。このままだと
正気を失いかねない。
フレアはざっと周囲を見渡した――いつの間にか濃霧が周囲を包んでいるが、
イザベルの魔術の光のおかげで、かろうじて沼の対岸が見える。
沼の周辺は嫌に静かに見えた。どうやら、本体である魔物がその能力を自らの
防御、攻撃に総動員して、森の運営がおろそかになっているらしい。
もっとも、見た目はだが。
今なら、もしかすれば。
ざふっ!と足元の泥が跳ねる。鞭のようにしなる触手が、フレアの体を断ち切らんと
上空から落ちてきたのだった。
フレアは迷うことなくそれに剣を突き立てた。
まるでゴムのような手ごたえと、気味の悪いぬめりに顔をしかめる。
剣が抜けない。
と、横手から巨大な白い槍が割り込んできた。槍はフレアの剣が刺さったままの
触手をあっさり分断し、ついでにこちらを狙っていた別の蔦や触手を蹴散らすと、
重力を無視した蛇のように去っていった。
「ありがとう」
ようやく剣を抜いて、振り返る。白い槍の持ち主――マレフィセントは礼を言われても
さほど笑顔を見せなかったが、ぱたりと尻尾を振って見せた。
後ろには不安げなイザベルが控えている。
彼女は神聖な白い衣服を纏い、魔物に襲われ、悪魔に守られていた。
これが皮肉でなくて何なのだ、とフレアの胸中は翳ったものの、彼女の元へ走る。
「大丈夫ですか?」
こんな状況ですら、イザベルの口調は丁寧だ。フレアは頷いてから、
まくしたてるように早口で言った。
「このままじゃ埒があかない。もう沼ごと本体を浄化するしかない」
「え――」
宣教師は目を見開いて言葉につまる。説得するように、付け加える。
「消滅までは無理かもしれないけれど、状況は変わるはずです。
協力してください」
イザベルは目を伏せ、かすれた声で訊いてきた。
「…できるのでしょうか」
「私だけでは無理だ。私とあなたを含めたとしても、媒体があと3人は必要になる」
「生贄ということかね?」
いきなり会話に割り込んできたのはザイリッツだった。
フレアははじかれたように振り返って、その巨漢を見る。
「…いや、媒介者は動けないだけで、呪文が発動し終われば自由に」
「もし、呪文が完成しないうちに媒介者が死んだら?」
死んだら。
フレアは一瞬のうちで数種類の選択肢を思い浮かべた。逆上する、座り込む、
泣き出す、自分も後を追う。
だがもう既に、犠牲者は多すぎるほど出ているのだ。答えはもう出ている。
「…媒体がなければ浄化はできない。代役を立ててもらうしか…」
「何か魔術に対する知識が必要かね?」
「いや。銀製のものを持って、ここ以外の沼の三方に立っていてくれればそれで。
それさえできれば、あとはこちらで結界を張り、浄化をかけます」
この間にも、沼からの攻撃は続いている。しかしマレフィセントの能力が
非常に高く、こちらを狙ってくる触手や、地中から侵略してくる蔦までも、
すべて撃墜されてここまで届かない。
だが、ずっとそうしていられるわけでもない。フレアは焦燥にかられながら
ザイリッツかイザベルの返事を待っていた。
「……ザイリッツ様、やりましょう」
それまで黙っていたイザベルが、やはり戦っているマレフィセントやディアンの
姿を見てから、隻腕の傭兵に言った。
思わず彼女を見ると、それしかないでしょう?と言いたげに宣教師は
微笑んで見せた。
ザイリッツは鷹揚に頷き、やはりよく通る声で叫んだ。
「手が空いている奴は、ここ以外の沼の三方に散らばれ!
そのうち一人は淵に立ち、銀の剣を掲げよ!ほかの者は援護をし、
準備ができしだい鏑矢を撃つのだ!」
返事はまばらだったが、おそらく全員の耳に届いただろう。
目に見えて、皆が移動を開始する。
いきなり陣営が動いたことに戸惑っているのか、魔物の攻撃が
少し緩慢になっていた。
「…」
マレフィセントがこちらを見ている。
フレアは安心させるように笑顔を作ると、少女の手を握って膝をついた。
「マレフィセント、今から沼を浄化する。『危険』だから下がっているんだ」
結局、笑顔は保てなかった。
NPC:ザイリッツ・イザベル・傭兵団
場所:魔の森・沼地
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恐ろしい。
この状況が、失われる命が、それに涙すら流せない自分が。
ぎろりと、魔物が幾人もの目で皆を見渡す。
きっと『彼ら』は、まだ殺されていないのだ。
ぎりぎりまで生かされ、苦痛や憎悪を搾取され、目撃者からも不快感や
絶望を吸い取る。そして絶望しているうちに、食われる。
このサークルを断つためには――
「俺には既に腕一本ぶんのハンデがある!両腕があるお前達が先に死んだら、
末代までの笑い者だぞ!」
絶望しないこと。
ザイリッツの激で、傭兵が動き出す。フレアも瘴気の中に飛び出すと、
剣をふるって蔦を斬り飛ばした。
「キリがねぇな」
ディアンの舌打ちが聞こえる。彼の剣戟は的確に蔦や触手を減らしているが、
本体がすぐにそれを再生させてしまう。
さらに本体が出現したことにより、瘴気の濃さが増している。このままだと
正気を失いかねない。
フレアはざっと周囲を見渡した――いつの間にか濃霧が周囲を包んでいるが、
イザベルの魔術の光のおかげで、かろうじて沼の対岸が見える。
沼の周辺は嫌に静かに見えた。どうやら、本体である魔物がその能力を自らの
防御、攻撃に総動員して、森の運営がおろそかになっているらしい。
もっとも、見た目はだが。
今なら、もしかすれば。
ざふっ!と足元の泥が跳ねる。鞭のようにしなる触手が、フレアの体を断ち切らんと
上空から落ちてきたのだった。
フレアは迷うことなくそれに剣を突き立てた。
まるでゴムのような手ごたえと、気味の悪いぬめりに顔をしかめる。
剣が抜けない。
と、横手から巨大な白い槍が割り込んできた。槍はフレアの剣が刺さったままの
触手をあっさり分断し、ついでにこちらを狙っていた別の蔦や触手を蹴散らすと、
重力を無視した蛇のように去っていった。
「ありがとう」
ようやく剣を抜いて、振り返る。白い槍の持ち主――マレフィセントは礼を言われても
さほど笑顔を見せなかったが、ぱたりと尻尾を振って見せた。
後ろには不安げなイザベルが控えている。
彼女は神聖な白い衣服を纏い、魔物に襲われ、悪魔に守られていた。
これが皮肉でなくて何なのだ、とフレアの胸中は翳ったものの、彼女の元へ走る。
「大丈夫ですか?」
こんな状況ですら、イザベルの口調は丁寧だ。フレアは頷いてから、
まくしたてるように早口で言った。
「このままじゃ埒があかない。もう沼ごと本体を浄化するしかない」
「え――」
宣教師は目を見開いて言葉につまる。説得するように、付け加える。
「消滅までは無理かもしれないけれど、状況は変わるはずです。
協力してください」
イザベルは目を伏せ、かすれた声で訊いてきた。
「…できるのでしょうか」
「私だけでは無理だ。私とあなたを含めたとしても、媒体があと3人は必要になる」
「生贄ということかね?」
いきなり会話に割り込んできたのはザイリッツだった。
フレアははじかれたように振り返って、その巨漢を見る。
「…いや、媒介者は動けないだけで、呪文が発動し終われば自由に」
「もし、呪文が完成しないうちに媒介者が死んだら?」
死んだら。
フレアは一瞬のうちで数種類の選択肢を思い浮かべた。逆上する、座り込む、
泣き出す、自分も後を追う。
だがもう既に、犠牲者は多すぎるほど出ているのだ。答えはもう出ている。
「…媒体がなければ浄化はできない。代役を立ててもらうしか…」
「何か魔術に対する知識が必要かね?」
「いや。銀製のものを持って、ここ以外の沼の三方に立っていてくれればそれで。
それさえできれば、あとはこちらで結界を張り、浄化をかけます」
この間にも、沼からの攻撃は続いている。しかしマレフィセントの能力が
非常に高く、こちらを狙ってくる触手や、地中から侵略してくる蔦までも、
すべて撃墜されてここまで届かない。
だが、ずっとそうしていられるわけでもない。フレアは焦燥にかられながら
ザイリッツかイザベルの返事を待っていた。
「……ザイリッツ様、やりましょう」
それまで黙っていたイザベルが、やはり戦っているマレフィセントやディアンの
姿を見てから、隻腕の傭兵に言った。
思わず彼女を見ると、それしかないでしょう?と言いたげに宣教師は
微笑んで見せた。
ザイリッツは鷹揚に頷き、やはりよく通る声で叫んだ。
「手が空いている奴は、ここ以外の沼の三方に散らばれ!
そのうち一人は淵に立ち、銀の剣を掲げよ!ほかの者は援護をし、
準備ができしだい鏑矢を撃つのだ!」
返事はまばらだったが、おそらく全員の耳に届いただろう。
目に見えて、皆が移動を開始する。
いきなり陣営が動いたことに戸惑っているのか、魔物の攻撃が
少し緩慢になっていた。
「…」
マレフィセントがこちらを見ている。
フレアは安心させるように笑顔を作ると、少女の手を握って膝をついた。
「マレフィセント、今から沼を浄化する。『危険』だから下がっているんだ」
結局、笑顔は保てなかった。
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