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2025/03/10 06:23 |
異界巡礼(マレ&フレア) -0,1「長い別れ」/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・マレフィセント・フレア
場所:バッカ→クーロンまでの道のり
―――――――――――――――

マレフィセントの姿は案の定「よくできた仮装」と思われているようで、
はじめは警戒していたフレア(むしろ警戒しすぎて目立っていた)も、
ようやくパレードの雰囲気に身体を慣らしはじめていた。

フレア自身、マレフィセントに貸し出していたフードつきの外套を羽織り、
いつも束ねている髪をおろして『仮装』してみてはいるが、我ながら
地味すぎてこれならば何もしないほうがいいのではないかとさえ思えた。

行列に混じっている楽団が、楽しげな音楽を奏で続けている。
道化のような格好をして、仮面をかぶったバイオリン弾きが、
手を休めないまま軽快な足取りでディアンの横をすり抜けていった。

ディアンはうさんくさそうな目つきでそのバイオリン弾きを見送って、
ため息をついた――その手にはなぜか細い針のようなものを持っている。
それが何かを聞く前に、彼は横手の茂みに向かってそれを放ってしまう。
おそらく、ごみだったのだろう。と、フレアは思って質問を変えた。

「結構歩いたけれど…今はどのあたりなんだろう?」
「そうだな、クーロンまであと数刻…てとこかな。おいっ、コラ」

相変わらず彼のマントを引っ張るのをやめないマレフィセントに
叱咤しながら、ディアンはそう答えた。
くす、とフレアは微笑んで、その光景の端にいる自分を嬉しく思った。

・・・★・・・


夕暮れになって、雨が降り始めた。


雨は最初小雨だったものが、だんだん激しくその粒の大きさを増し、
雷鳴まで鳴り始めたために行列は足を速めざるを得なかった。

下ろした髪が水を吸って重い。マントが多少の雨しのぎになるが、
こちらもだいぶ濡れ、フレアの動きを制限させていた。

だが祭りの熱気は雨などまったくお構いなしといった風で、
行列に参加している者たちは激しい雷鳴のたびに笑顔で歓声をあげた。

見えた、と突然誰かが叫んだ。
一瞬、なんのことかわからずフレアが前を見ると、
人々の隙間からクーロンの灯が見えた。
クーロンに来るのは初めてではないが、雨の中にある欲望の都は、
その当時とはまた違う雰囲気があった。

思ったより早く到着した喜びと、これから始まるクーロンでの祭りに
胸躍らせた仮装者たちが、我先にとフレア達を追い越してゆく。
雨にわざと濡れ、仮面をかぶった子供達がわあわあと騒ぎ立てつつ
人ごみを貫いていった。

だが、前を歩くディアンの足取りが重い。
それどころか立ち止まろうとさえしている。

「ディアン?」

彼がちょっと振向いたようだ。額あての先から、雨の滴がばらりと毀れた。
歩調を合わせてフレアとマレフィセントも自然に歩みを遅めた。

ついに、彼が立ち止まる。

その間も行列は行軍を続け、とうとう3人は取り残された。
いや――

雷鳴が瞬き、真っ黒な影を落とす。雨の粒がスローモーションのように
ゆっくり流れ落ちていくような光景の中、一瞬だけ、
ほかの誰かがいるのがはっきり見てとれた。

光が消えて、闇に目を凝らす。

まるで墓標のように立っている者がいた。前後左右見渡してざっと5人。
皆それぞれ違う仮装をしているが、その誰もが仮面をしていた。
その中にはさきほどのバイオリン弾きもいる。さっき走っていった
子供の一人と思われる、小さな人影すらある。

「!」

驚いているのはフレアだけだった。マレフィセントはもとより、気づいて
足を止めたディアン、そして得体も素顔すらわからない者たち。彼らには
ほとんど感情の起伏は見られない。

「悪ぃ」
「え――」

いきなりディアンが謝った。声の調子とは裏腹に、柄に手をかけて、
氷のように冷たく静かな目で前方を見ている。だがきっと、彼のことだ。
前を見ておきながらほかの方向も「視て」いるに違いない。

「抜くなよ」

ひとつ先のセリフの意味もわかっていないのに、今度は釘を刺されて
フレアは完全に状況が読めなくなっていた。が、とりあえず指摘された通り
握っていた柄と鞘から手を離す。かち、と数センチ抜き出されていた白刃が
白磁の鞘に滑り込んだ。

マレフィセントの尾がさわさわと揺れている。喜んでいるはずがない、無論
警戒しているのだ。雨の中をさぐって、フレアの手を掴んできた。
思わず握り返す。

どうしても合点がいかない。一体どういう事なのだ?

「何者だ?ディアン、知っているのか?」
「知らんけど心当たりはある…ま、刺客ってとこだ。」
「刺客!?」

物騒な単語にまた剣に手が伸びるが、再度、彼の視線で制される。
その目には、懇願するような色さえ含まれていた。仕方なく、周囲にいる
不気味な人影を睨むことでフレアは感情を抑えた。

「どういう事だ…狙われているのか?誰から?」
「誰からも、さ」

自嘲気味に放たれたそのセリフが合図だった。
仮面の者達が、いっせいに身構えた――いつの間にか手にはそれぞれ
多種多様な武器を持っている。

ディアンのすぐ前でキン、と硬い音がした。仮面の者に何かを投げられ、
それを彼が剣で叩き落としたという理屈はすぐにわかった。
地面に落ちたのは、さきほど彼が捨てた小さな針。
泥の中で雨に濡れたそれから――夕闇の中ですらわかる、不気味な墨色が
流れ出す。

毒に間違いなかった。

おそらく、パレード中にも何度か放たれていたのではないだろうか。
フレアが気づいていないところで。

気配が一気に動いた。こちらではなく、あくまでもディアンを狙って。

「ディアン!」

しかし彼は誰よりも早く動き出していた。横手の茂みに、
雷鳴と共に消える。
仮面の者たちも迅速に、音をたてずにその後を追って消えた。
あとには豪雨の中立ち尽くすフレアと、ようやく尾を振るのをやめた
マレフィセントだけが取り残された。



雷鳴だけが、悲鳴のように轟いている。

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2007/02/12 23:14 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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