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2024/05/16 15:08 |
『δμκιλθξ(茨の魔女)』/マレフィセント(Caku)
  PC:悪魔の娘
 NPC:魔女(母親)、とある不思議な青年(笑)
  場所: ?
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             茨の魔女,斜陽の娘、悪魔の愛娘
            『δμκιλθξ』(マレフィセント)








少女は悪魔と魔女の間に産まれた子供だった。
父親は知らなかった、物心ついたときには母親である魔女しかいなかったので
ある。

すぐに少女は自分が悪魔であるということを知ることができた。
尻尾も黒い翼もキチンとあったし、なにより下半身が動物でツノまで生えてい
れば、いやがおうにも人間の基本的な形との差異は明らかであった。
自分の姿が嫌い、というわけでもなかったが。

母親は、美人だった。
少女とは似ても似つかぬ美しい人間の体と、美貌の女性であった。
大理石よりも白い肌に、夜よりも暗い黒の髪。服はいつも黒だった。
母親は、赤い血が流れているとは思えないほどの、美しい白磁の肌の持ち主だ
った。

いつも赤や紫や青い夕暮れの禁忌の森。それが少女の遊ぶ場所だった。
斜陽の城、糸紡ぎのような鋭く天を突き刺す針のような城。それが少女の家だ
った。

ある日、母親が王の姫君に呪いをかけた。
その王女の聖誕祭に、少女の母親は招かれなかった。母親は嫌われていた。
仲間はずれ、とは幼稚で容易な単語と行為だが、効果は絶大である。
他の魔女は招かれた、祝福された。母親は祝福も、招待状も受けられなかっ
た。
独りだけ集団の枠から外された母親は怒った。悲しかった。辛かった。
元々、母親は群れる性質の持ち主ではなかった。それでも、あからさまに孤独
を突きつけられて怒った。

母親は百年の呪いをかけた。
王女に、そして城に。王に、大臣に、兵士に、侍女に、馬に、犬に。
城に在るべきもの全てに、呪いをかけた。

そして、百年後。
約束の王子が現れて、姫君を救った。城を救った。
村人は祝福し、感激し、歓呼した。城の人々も、自分達の英雄に感謝と崇拝を
捧げた。

王子は言った。
「まだ物語りは終わっていない。悪しき魔女を倒すのだ!」と。



少女が、ある真夜中に目が覚めたら、世界はすでに鮮血色に染まっていた。
城は燃え、森は焼かれ、空は爛れて赤くなっていた。
焦げる匂いと熱い炎の風で、城は満たされていた。
窓辺に駆け寄ると、下には松明や剣を掲げた人間の集団があった。
叫んでいた「悪い魔女を殺せ!」「悪の御使いを倒せ!」「正義を行使し
ろ!」

少女は走った、走った、走った。
何度も炎に炙られ、割れた石のヒビ目に足を取られた。
炎の熱気で眼球が乾いて、涙が出た。ぼやけた視界で、必死に走った。

汚れてすすけた手で、大広間の扉を力任せに開いた。



赤く赤く燃える広間、溶けるシャンデリア。
赤いカーテンは血よりも真っ赤に燃え盛り、金の装飾は原型を残さず崩れてい
た。

母親は美しい姿のままで、そこにいた。
美しい胸の双丘の間に、少女を抱きしめてくれるそこには、少女ではなく光輝
く大振りの剣が埋まっていた。
少女は初めて、母親の血の色はやっぱり赤色だったのだと理解した瞬間だっ
た。
美しい母親は、いつもと同じで綺麗だった。剣に貫かれても、美しかった。
いつもの、変わらない母親であった。美しい人だった。


どこかで、勇者によって柱が崩れたのだろう。
大音響と共に歓声と振動が同時に聞こえた。城が、二人の世界が崩れ始めてい
た。

『αθ、θζζγαθβ?(お母さん、死んじゃうの?)』

答えはなかった。
美しい人は、赤い血溜まりにうずくまって、か細い呼吸を繰り返していた。
少女は、乾いた眼球から流れる涙はそのまま、冷静に問いかけた。

『αθ、ωσθθβαγθωσ?(お母さんは、どうして死んじゃうの?)』


眼球の作用ではない涙が流れても、炎の熱気で蒸発してしまう。

『αθ、βααωβζθγσαωββω?(お母さんは、悪い人なの?)』

息が苦しくて、声が掠れても、少女は問いかけた。



『αθ、βααωβζθγσαθωσ、ωβωω?(お母さんは悪い魔女だから、
死んじゃうの?)』

少女は問うた。悪しきものなら、死んでしまってもいいのか。


『αθ、βααωβζθγσαω、ββω?(お母さんは、悪い人だから、死ん
じゃうの?)』


少女は問うた。世界はどうやって悪と正義を見分けるのか。
少女の母が悪ならば、一体誰が正義なのか。王子や村人が正義なら、少女のか
けがえない大切な母を奪ってしまってもいいものなのか? と。




母親は、城に思い知らせてやりたかった。
置き去りに、仲間はずれにされることの悲しさ、辛さ、苦しさ、痛み、思い
を。
百年経てば、城は周囲から時間的に社会的に取り残されている状態。
取り残されることがどんなに悲しくて寂しいか、それを思い知らせてやりたか
ったのだろう。

確かに、賢い手段でも理性ある大人の行動でもなかった。
でも、彼女は誰も殺さなかった。誰も殺しも傷つけもしなかった。
だが城は自らが招いた行動の報復に、過剰な報復をもって対応した。
魔女は、ただ思い知らせてやりたかった。それだけだった。


崩れ落ちる城で、少女は途方にくれた。
悲しもうにも炎の風で翻弄されて、母親に擦り寄りたくても巨大な裂け目が二
人を別つ。
もう、どうしようもなかった。

母親が立った。
鮮血の赤に塗れたその姿は、とても美しい人だった。

『来たれ、次元の門。世界の繋ぎ目、領域の狭間。物語の切れ端にて舞台の幕
よ。
我が呼び声に答え、叫び、絶叫して響け。開け我が望みの一縷よ』

それは少女には分からない呪文で、魔法だった。
ものすごい魔力が溢れ出して爆発する、飛び散った破片がまた収束して、巨大
な扉が出てきた。

少女の、後ろに。



炎の舞台で、暗黒のような断裂の裂け目を挟み、魔女と娘は相対する。

『θγγ(行きなさい)』
『αθ?(お母さんは?)』

火の粉が舞って、さらに世界は赤く見えた。

『ττ、τψ。ττ、αθχβζθ(いやだ、いやだよう。お母さんと一緒
にいる)』
『υ、φθθταωζγαρ(さあ、早く。もうこの姿も命も持たないのだ
から)』

扉が開いた。
中は真っ黒な底なし沼のようだった。恐怖に怯えて、母を振り返った。

『αθ、ορσωθζρα(お母さん、一緒にいこう)』
『κλαθ、μμωζδηθββσρυ、φθ(私の可愛い娘よ、いい子だから
歩みなさい)』

白い扉、暗黒の内部。
少女は泣き始めた。恐くて恐くて、心が潰されそうだった。
何より、これから起こるであろう母親の永劫の不在が、もっと恐かった。

『ττ、τψ。βααωβζφισμμ、ξοοτχψαα(いやだ、いやだよ。
悪い子でいい。お母さんと一緒がいい、恐いよ、行きたくない)』
『…κλαθ、φφαυσωλ。(…愛してるわ可愛い子、私のたった一人の娘)』




少女には、何が起こったのかよく分からなかった。
魔女は初めて娘に手をあげて娘を魔法で弾き飛ばした。
冗談みたいに舞った少女の肢体は扉の中に吸い込まれて、最後の名残に精一杯
手を伸ばして母親を求めようとして…消えた。




最後に、魔女は鮮血の言葉を残して、その体は灰となり。
それでも、干乾びた唇は美しい言葉を紡いでいた。





            『 κλαθ、φφαυσωλ 』
              
        愛しているわ可愛い我が子、私の大切な娘よ

 








少女には名前がなかった。
いつだって母親と二人きりだった。
だから区別する記号なんて、いらなかった。
母親は少女を『娘』と呼んでいたし、それが該当する人物は自分しかあり得な
かった。
だから。

少女は名前がなかった。
少女の世界は、母親と少女だけのものだった。あと、母親から貰った初めての
使い魔だけ。
使い魔の名前は『スティック・ピープル(魔物の意)』
だけれども、少女には、名前がなかった。
誰も必要としなかったし、必要とも思わなかった。
二人と一匹だけの世界で、少女は世界は完全だったのだから。


だから。
放り出された、訳ののわからない世界で、一人で泣きじゃくっていた時。
“偶然”通りかかったある青年に名前を尋ねられても、答えられなかった。

「こんばんわ、可愛いお嬢さん。こんな森のはずれでどのようなご用件で?
こんな物騒な場所にいては、いずれ喰われてしまいますよ」

場違いなまでに慇懃無礼な落ち着いた声音。
しかし、彼女にはその言葉は聞き取れなかった。分からなかった。

「言葉は通じませんか。
しかし、敵意はないようですね。さて、どうしたものか…」

彼は少女の小さな掌の上で、細い指先を使っていくつかの単語をかいた。
魔法文字・精霊文字・ルーン単語・異界文面・古代文字。
だがしかし、全て少女にはおかしな記号の羅列にしかわからなかった。

「どれも通じないとは…せめて名前だけでも伺いたいのですが…」

彼はそう言って、自分自身を指差して呟いた。
5回ほど発音してみると、少女はそれが彼を示す単語(名前)であると理解
し、途切れ途切れながらも真似して発音してみた。

「そうそう、お上手ですよ。お嬢さん、あなたのお名前は?」

次に指を指されて、ようやく自分のことを言われているのだと理解した少女。

自分の名前は、なかった。
名前になりそうな、名前もなかった。
思いつく名前は、一つしかなかった。






『δμκιλθξ(茨の魔女)』





「マレフィセント?」


青年は、意外そうに呟いた。彼には、そうやってその異界の音は聞き取れた。
そしてその名前は、少女の母親の名前だった。それは眠れる王女に呪いをかけ
た仲間はずれの魔女の名前。

「なるほど、さしずめ童話の闇の魔城ホロウバスティオンよりやってきた異界
の魔女
という事ですか」

ホロウナントカという単語は少女には不明であり、少女は不思議そうに見つめ
る。
青年は自己完結したようで、なぜか満足げに微笑んでいる。

「いやいや、偶然の一致か。いや違う、これは“アリス”の望みのままか。
どちらにしろ同じ事だ…」

微笑んだ口唇は三日月型。
少女は、なぜか母親を思い出した。母親は一度もそんな風に笑ったことなどな
かった。
それでも。その大理石のような白い肌と、闇夜すら凍らせる黒髪と姿に、母親
が重なった。
縋れる者は、彼しかいなかった。
青年は、そうやって泣きながらすがりつく悪魔の娘を、優しく抱き上げた。


 「ええ、安心なさい。貴方は私が引き取りましょう。
貴方の物語、魂、心、夢、絶望、悲嘆。全て私が受け入れましょう」








少女は、そうやって新しい「母親」を手に入れた。
新しい「母親」はちょっと不思議な人だったけれど、本当のお母さんと同じぐ
らい優しかった。
新しい「母親」は、何でも少女に与えて、教えてくれた。
世界のこと、人々のこと、季節のこと、風のこと、陽光の輝き、星辰の瞬き、
朝焼けの光。
言葉が通じなくても、身振り手振りや雰囲気で教えてくれた。

そうして、少女は次第に、とある考えを抱き始めた。



ある日。
母親に内緒でこっそり『家』を抜け出した。
もちろん、覚えたてのつたない文字で『遊んできます』とかいてみたが、あの
呪術文字レベルな造詣の曲がりくねった文字を解読するのはあの「母親」でも
時間がかかるだろうという出来であったが。


本当の母親は、魔女。
父親は知らないが、以前聞いたことはあった。
彼は純粋な悪魔で、少女は父親の遺伝を受け継いでいると。
父親は、どこにいるんだろうか?ここは、いろいろな種族がいる世界。
お父さんは、どこにいるんだろう?ここは、様々な人々と人でない者達が交差
する世界。


それだけで、幼い少女が夜明けの空に飛び立つ理由は、十分だったのだろう。





朝日の輝きの中に、悪魔の少女が飛んでいる。


マレフィセント
茨の魔女、斜陽の娘。異界の悪魔。
歪な角を持って生まれた、呪われた魔女の可愛い愛娘。

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2007/02/12 22:59 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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