PC:クランティーニ・ブランシュ セシル・カース フロウリッド・ファーレン
イヴァン・ルシャヴナ
場所:クーロン カランズ邸・別宅
NPC:フィーク フィル・パンデゥール フィール・マグラルド ハロルド・カランズ
リリィ・カランズ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
パーティーもそろそろ中盤といったところか。金持ち達の自慢話のネタもそろそろ
尽きはじめた頃、会場の奥の扉が開き執事と思わしき男が一礼して現れた。
男はフィールと意地の張り合いで会話を続けていたカランズ令嬢、リリィの姿を見
つけるとゆっくりと近づいてくる。
こめかみの辺りに青筋を立てて、顔を引きつらせながらフィールと会話を続けていた
リリィに執事は小さく耳打ちをする。
「お嬢様」
「そう、わかりましたわ」
下がってよろしくてよ、と一言かけてリリィはフィールに笑みを向ける。その表情
は多少明るい物に変わっていた。
「フィールさん。私少々失礼させていただきますわ。どうぞお連れ様とパーティーを
お楽しみくださいね」
「そう、じゃあ私はそろそろお暇させていただこうかしら?」
「そ、それは困りますわ!!」
笑顔で返したフィールをリリィは慌てて止める、急に大声を出したせいで会場の注
目を一気に浴びてしまった。
小さく咳払いをしてリリィは言葉を続ける。
「こ、この後とてもおもしろい余興を用意させていただきましたの。フィールさんに
はきっと気に入ってもらえると思いましてよ」
「あら、そうなの? じゃあ、もう少し楽しませてもらおうかしら」
フィールに最初から帰る気などさらさら無かった。むしろ何事もなく終わってしま
う方が彼女にはなにより残念なのだ。
「ふふ、存分にお楽しみください」
不適な笑みを浮かべ、リリィは執事に伴われ会場を去っていった。
「さて、護衛さん達と合流しないとね。くーちゃんはちゃんとやっているかしら」
これから起こるであろう騒動に心躍らせながらフィールは、ようやく食事にひと段
落ついたセシル達のもとへ戻った。
「食事はもう済ませたかしら?」
「こんな格好で食えるかよ」
げんなりしているセシルの隣にフィールは腰掛けた。フィールが楽しそうに何かを
待っている表情を見てセシルの表情はさらに暗くなってしまった。
「セシルさん、顔色悪そうですのね。大丈夫ですか?」
心配そうにフロウはセシルの顔を覗き込む。片手にフルーツ盛り合わせの大皿を持
ったままでは本当に心配しているかどうか怪しいものだが。
イヴァンは、とりあえず満足したのかぼーっとどこ見ているかわからない顔で突っ
立っている。
「そろそろ、準備しておいてもらえる?」
「なんの?」
うんざりした感じでセシルは問い返す。必要以上に窮屈な服と、普段なら関わらな
い場所で脳みそが上手く働かない。
「何って……、不測の事態」
満面の笑みを浮かべ、フィールが答えた。フィールの笑顔を見て、セシルはその不
測の事態とやらが起こらない事を心底願うしかなかった。
「どうしたのですの?」
最後のメロンを食べ終わったフロウは、イヴァンの雰囲気の異変に気付く。少し張
り詰めた空気が周囲に流れた。
「ここは危険だ」
「はは、無駄だったな」
わかってはいたが、先ほどの祈りが全く無駄だった事に、セシルは本気で頭を抱え
た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クーロンの街をこれでもかといわんばかりに豪奢な馬車が駆けていく。クーロンに
それなりの長さ住んでいる者が一目見ればその馬車はカランズ商会のものだとわか
る。
「な、なぁリリィ。少しあれはやりすぎなんじゃないか?」
馬車の中でハロルド・カランズは汗を拭った。数年前まではカランズ商会の全てを
取仕切っていた会長だった。今でも肩書きは会長のままだが、実権は全て娘のリリィ
に奪われたも同然の状態だ。
「ほほほほ、何を言ってますのお父様。今までの損失と、これからのあの女の影響力
を考えれば、あれぐらい安い物ですわ」
扇で口元を隠してリリィは高笑いを上げる。猛スピードで疾走する馬車の外までも
その笑い声は漏れ出し、クーロンの闇に消えていった。
「相変わらず下品な笑い声だ」
クランティーニはカランズ親娘の乗った馬車を見送り一人ぼやいた。いつもよりも
幾分高い自分の声に苦笑を漏らし歩き出す。
ハイヒールの踵が石畳を叩く。着馴れない黒いフォーマルドレスが少々肌寒いが、い
つもの事だと割り切って目的地を目指す。
歩きながらいつもの癖で胸元に手を伸ばすがそこにタバコは無く、自分についてい
るのが不気味な膨らみにあたる。舌打ちをして、バックの中から女物のライターとタ
バコを取り出す。
「ここまで凝らなくてもいいと思うんだがな」
タバコに火をつけて吸い込んでみるが、軽すぎて吸った気がしない。ここから目的
地のカランズの本宅の間には嗜好品を売っている店は無い。ため息と一緒に煙を吐き
出した時背後から爆音が響く。
「なんだ?」
距離的にはちょうどセシル達がいるパーティー会場のあたりだ。もしかしたら会場
が爆破されたのかもしれない。
空に向かって伸びる黒煙をしばらく眺め、再びカランズ邸を目指す。例え巻き込ま
れていてもフィールが死ぬとは思えない。まあ、セシルあたりはフィークに盾にされ
て怪我ぐらいしているかもしれないが。
ふと路地裏に佇んでいる少年に目が行く。最初は浮浪者かなにかかとも思ったがそ
の顔には見覚えがあった。
「セシル? いや」
苦笑して首を振る。嫌気が差して会場から逃げ出したという可能性も無くは無い
が、それをフィールが許すとは思えない。だとすれば思い当たる人物は一人。
クランティーニはバックの中に手を入れ、銃を具現化させる。少年に近づいてい
く。上手くいけばしばらくはフィールに仕事を回してもらわなくて済む。相手が警戒
していないことを確かめ、クランティーニはすばやく銃を構えて引き金を二度引い
た。
乾いた音をたてて弾丸は青年を外れ、奥の暗闇に吸い込まれていく。驚いて振り返
った青年の後ろから品の無い悲鳴が路地裏に響いて男が一人走り去っていくのが見え
た。おそらく強盗か何かの類だろう。
「こんな場所で突っ立って、危ないわね。いったい何をしているの」
なるべく人懐っこい笑みを浮かべ青年に近づいていく。よく見ればセシルとは異質
の雰囲気を感じる。人間ではないからかもしれないが。
「ええと、どちら様でしょう?」
やや警戒されているのか、半身だけこちらに向けて青年はクランティーニに視線を
向けた。正確には手に持っている銃に。
「私? 私は味方、になるのかしらね。まあキミ次第だけど」
銃をバックに入れ――ふりだが――クランティーニは微笑む。
「僕次第?」
「そう。キミ、結構有名人でしょう? ライ・クローバー君」
青年、ライの警戒心が一気に強まる。自分の賞金額ぐらいは自覚しているようだ。
それに伴う危険も。
「そう警戒しないで。別に私は賞金稼ぎじゃないから。なんでキミがここにいるかわ
知らないけれど、街を出るまでに確実に捕まるでしょうね」
「そんなこと、わからないじゃないですか」
ライの言葉に少し苦笑してクランティーニは言葉を続けた。仕事の都合上あまり長
い時間を割くわけにはいかない。
「まあ、そうだけど。でもさっき逃げたあの男、キミを狙ってたわね。たぶんキミが
この街にいるってあっという間に広がるわよ。そうしたら、どうなるかしら」
クランティーニの言葉に、ライは渋い顔をする。さっきの男が知っているかどう
か? などということは些細な事である。重要なのはライが最悪を想像できるかであ
る。
「一人でここを脱出できる自信があるなら別にいいけれど。人間、何事も楽をしない
とね」
「楽、ですか?」
「そう。もし、キミが私の仕事を手伝ってくれるなら。安全にこの街を出る手段を用
意してあげるわ」
ライは視線を泳がせて、考え込む。
「難しく考える必要はないわよ。簡単な仕事だから、そうね夜が明けるまでには終わ
ってるわね。きっと」
「……わかりました。少し怪しい気もしますけど、その話乗りましょう」
「交渉成立ね」
満面の笑みを浮かべてクランティーニは右手を差し出した。それに応じてライも右
手を出す。
「私は、ええと、クリス、クリスティーナよ」
「ライ・クローバーです」
「それじゃあ、行きましょうか。さっきも言ったけど夜明けまでには終わらせたいの
よ」
握手していた右手を離し、クランティーニは馬車の走り去った方向へ歩き始める。
「あの、ところで」
「なに?」
「仕事って、なんなんですか?」
「要人暗殺」
笑顔で返した言葉に、ライは顔がひきつった。クーロンの闇夜は更に深くなり、奇
妙な二人組みを覆い隠していった。
イヴァン・ルシャヴナ
場所:クーロン カランズ邸・別宅
NPC:フィーク フィル・パンデゥール フィール・マグラルド ハロルド・カランズ
リリィ・カランズ
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パーティーもそろそろ中盤といったところか。金持ち達の自慢話のネタもそろそろ
尽きはじめた頃、会場の奥の扉が開き執事と思わしき男が一礼して現れた。
男はフィールと意地の張り合いで会話を続けていたカランズ令嬢、リリィの姿を見
つけるとゆっくりと近づいてくる。
こめかみの辺りに青筋を立てて、顔を引きつらせながらフィールと会話を続けていた
リリィに執事は小さく耳打ちをする。
「お嬢様」
「そう、わかりましたわ」
下がってよろしくてよ、と一言かけてリリィはフィールに笑みを向ける。その表情
は多少明るい物に変わっていた。
「フィールさん。私少々失礼させていただきますわ。どうぞお連れ様とパーティーを
お楽しみくださいね」
「そう、じゃあ私はそろそろお暇させていただこうかしら?」
「そ、それは困りますわ!!」
笑顔で返したフィールをリリィは慌てて止める、急に大声を出したせいで会場の注
目を一気に浴びてしまった。
小さく咳払いをしてリリィは言葉を続ける。
「こ、この後とてもおもしろい余興を用意させていただきましたの。フィールさんに
はきっと気に入ってもらえると思いましてよ」
「あら、そうなの? じゃあ、もう少し楽しませてもらおうかしら」
フィールに最初から帰る気などさらさら無かった。むしろ何事もなく終わってしま
う方が彼女にはなにより残念なのだ。
「ふふ、存分にお楽しみください」
不適な笑みを浮かべ、リリィは執事に伴われ会場を去っていった。
「さて、護衛さん達と合流しないとね。くーちゃんはちゃんとやっているかしら」
これから起こるであろう騒動に心躍らせながらフィールは、ようやく食事にひと段
落ついたセシル達のもとへ戻った。
「食事はもう済ませたかしら?」
「こんな格好で食えるかよ」
げんなりしているセシルの隣にフィールは腰掛けた。フィールが楽しそうに何かを
待っている表情を見てセシルの表情はさらに暗くなってしまった。
「セシルさん、顔色悪そうですのね。大丈夫ですか?」
心配そうにフロウはセシルの顔を覗き込む。片手にフルーツ盛り合わせの大皿を持
ったままでは本当に心配しているかどうか怪しいものだが。
イヴァンは、とりあえず満足したのかぼーっとどこ見ているかわからない顔で突っ
立っている。
「そろそろ、準備しておいてもらえる?」
「なんの?」
うんざりした感じでセシルは問い返す。必要以上に窮屈な服と、普段なら関わらな
い場所で脳みそが上手く働かない。
「何って……、不測の事態」
満面の笑みを浮かべ、フィールが答えた。フィールの笑顔を見て、セシルはその不
測の事態とやらが起こらない事を心底願うしかなかった。
「どうしたのですの?」
最後のメロンを食べ終わったフロウは、イヴァンの雰囲気の異変に気付く。少し張
り詰めた空気が周囲に流れた。
「ここは危険だ」
「はは、無駄だったな」
わかってはいたが、先ほどの祈りが全く無駄だった事に、セシルは本気で頭を抱え
た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クーロンの街をこれでもかといわんばかりに豪奢な馬車が駆けていく。クーロンに
それなりの長さ住んでいる者が一目見ればその馬車はカランズ商会のものだとわか
る。
「な、なぁリリィ。少しあれはやりすぎなんじゃないか?」
馬車の中でハロルド・カランズは汗を拭った。数年前まではカランズ商会の全てを
取仕切っていた会長だった。今でも肩書きは会長のままだが、実権は全て娘のリリィ
に奪われたも同然の状態だ。
「ほほほほ、何を言ってますのお父様。今までの損失と、これからのあの女の影響力
を考えれば、あれぐらい安い物ですわ」
扇で口元を隠してリリィは高笑いを上げる。猛スピードで疾走する馬車の外までも
その笑い声は漏れ出し、クーロンの闇に消えていった。
「相変わらず下品な笑い声だ」
クランティーニはカランズ親娘の乗った馬車を見送り一人ぼやいた。いつもよりも
幾分高い自分の声に苦笑を漏らし歩き出す。
ハイヒールの踵が石畳を叩く。着馴れない黒いフォーマルドレスが少々肌寒いが、い
つもの事だと割り切って目的地を目指す。
歩きながらいつもの癖で胸元に手を伸ばすがそこにタバコは無く、自分についてい
るのが不気味な膨らみにあたる。舌打ちをして、バックの中から女物のライターとタ
バコを取り出す。
「ここまで凝らなくてもいいと思うんだがな」
タバコに火をつけて吸い込んでみるが、軽すぎて吸った気がしない。ここから目的
地のカランズの本宅の間には嗜好品を売っている店は無い。ため息と一緒に煙を吐き
出した時背後から爆音が響く。
「なんだ?」
距離的にはちょうどセシル達がいるパーティー会場のあたりだ。もしかしたら会場
が爆破されたのかもしれない。
空に向かって伸びる黒煙をしばらく眺め、再びカランズ邸を目指す。例え巻き込ま
れていてもフィールが死ぬとは思えない。まあ、セシルあたりはフィークに盾にされ
て怪我ぐらいしているかもしれないが。
ふと路地裏に佇んでいる少年に目が行く。最初は浮浪者かなにかかとも思ったがそ
の顔には見覚えがあった。
「セシル? いや」
苦笑して首を振る。嫌気が差して会場から逃げ出したという可能性も無くは無い
が、それをフィールが許すとは思えない。だとすれば思い当たる人物は一人。
クランティーニはバックの中に手を入れ、銃を具現化させる。少年に近づいてい
く。上手くいけばしばらくはフィールに仕事を回してもらわなくて済む。相手が警戒
していないことを確かめ、クランティーニはすばやく銃を構えて引き金を二度引い
た。
乾いた音をたてて弾丸は青年を外れ、奥の暗闇に吸い込まれていく。驚いて振り返
った青年の後ろから品の無い悲鳴が路地裏に響いて男が一人走り去っていくのが見え
た。おそらく強盗か何かの類だろう。
「こんな場所で突っ立って、危ないわね。いったい何をしているの」
なるべく人懐っこい笑みを浮かべ青年に近づいていく。よく見ればセシルとは異質
の雰囲気を感じる。人間ではないからかもしれないが。
「ええと、どちら様でしょう?」
やや警戒されているのか、半身だけこちらに向けて青年はクランティーニに視線を
向けた。正確には手に持っている銃に。
「私? 私は味方、になるのかしらね。まあキミ次第だけど」
銃をバックに入れ――ふりだが――クランティーニは微笑む。
「僕次第?」
「そう。キミ、結構有名人でしょう? ライ・クローバー君」
青年、ライの警戒心が一気に強まる。自分の賞金額ぐらいは自覚しているようだ。
それに伴う危険も。
「そう警戒しないで。別に私は賞金稼ぎじゃないから。なんでキミがここにいるかわ
知らないけれど、街を出るまでに確実に捕まるでしょうね」
「そんなこと、わからないじゃないですか」
ライの言葉に少し苦笑してクランティーニは言葉を続けた。仕事の都合上あまり長
い時間を割くわけにはいかない。
「まあ、そうだけど。でもさっき逃げたあの男、キミを狙ってたわね。たぶんキミが
この街にいるってあっという間に広がるわよ。そうしたら、どうなるかしら」
クランティーニの言葉に、ライは渋い顔をする。さっきの男が知っているかどう
か? などということは些細な事である。重要なのはライが最悪を想像できるかであ
る。
「一人でここを脱出できる自信があるなら別にいいけれど。人間、何事も楽をしない
とね」
「楽、ですか?」
「そう。もし、キミが私の仕事を手伝ってくれるなら。安全にこの街を出る手段を用
意してあげるわ」
ライは視線を泳がせて、考え込む。
「難しく考える必要はないわよ。簡単な仕事だから、そうね夜が明けるまでには終わ
ってるわね。きっと」
「……わかりました。少し怪しい気もしますけど、その話乗りましょう」
「交渉成立ね」
満面の笑みを浮かべてクランティーニは右手を差し出した。それに応じてライも右
手を出す。
「私は、ええと、クリス、クリスティーナよ」
「ライ・クローバーです」
「それじゃあ、行きましょうか。さっきも言ったけど夜明けまでには終わらせたいの
よ」
握手していた右手を離し、クランティーニは馬車の走り去った方向へ歩き始める。
「あの、ところで」
「なに?」
「仕事って、なんなんですか?」
「要人暗殺」
笑顔で返した言葉に、ライは顔がひきつった。クーロンの闇夜は更に深くなり、奇
妙な二人組みを覆い隠していった。
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