PC:レオン ピエール
NPC:ユリアン
場所:紫の氏族領 街道
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長閑な午後の道を、カッポカッポガラガラガラと長閑な音を立てて馬車は行く。結局、昨日は時間も時間だったので道中の宿屋に泊まったのだが、何か1つ行動を起こすたびにあの2人は喧しかった。だが、ピエールの視点から見ればなんとなく親しい者のじゃれ合いにも見えて、そこはかとなく微笑ましい。もっとも、それを本人達に言えば力の限りに否定するのだろうが。
ともあれ、そんな身内のじゃれ合いを除けば道中は平和なものだった。
限られた人間が旅をする事で感じるであろう不快を出来るだけ軽減するように設計された馬車は抜群の乗り心地を発揮し、その馬車を引く馬は教育が行き届いているのか御者の命令には素直に従う。そして、フル装備の騎士が御者を務める、見た目は質素だがよく見ると造りが豪華などうみてもわけありな馬車を襲うチャレンジャーな盗賊たちもなかなかいないらしい。
時々後ろからギャーギャー喚く声が響いてくるのすらBGMとして聞き流しながら、ピエールはただ道なりに進むように馬を御する。実のところ、頼まれた仕事は護衛兼御者なわけで、行き先までは管轄外もいいところだ。だからと言って適当な方に進むのも仕事を投げている気はするが、かといって嘘を突き通したまま彼らの行き先を聞き出す自信もなかった。嘘を吐くのは苦手なのだ。
それにしても、こう長閑だと歌でも歌いたくなる自分は特殊なのだろうか?普段が兵隊などという殺伐とした仕事だから、もしかしたら心がこういう癒しに飢えているのかもしれない。特に兵役について不満をもった事もないのだが。
深い意味もなく古い童謡を思い出して、ピエールは苦笑した。仔牛を売りに行く御者の歌。あの御者も、今の自分のようにこのなんとも複雑な心境だったのだろうか。行き先を自分で決めているという事はつまり自分が彼らの行く末を決めているという事だ。だというのに、そこに彼らの意思は介入する余地はない。
「……おや、あれは?」
柄にも無い思考は思った程注意力を散漫させてはいなかったらしい。視界の端に変化を感じて、即座に意識が現実へと帰って来る。違和感の正体は一枚の立て看板だった。
『遺跡都市エンドライまで30km』
看板の矢印に釣られて先を見ると、少し先からは街道がちょっとした森の中へと進んでいっている。恐らくは、野宿をする広い場所が取れるのが今のうちなのだろう。
今のペースなら30kmくらいは2~3時間程度あれば走破できるだろう。それならば、順調に行けば今夜はその遺跡都市とやらで宿を取る事ができる。
「後2,3時間くらいの所に街があるそうなので、今夜はそこを宿としましょうぞ」
後ろに声を掛けてから、そういえばさっきまでギャーギャー言っていたBGMが途絶えている事に気づく。不毛な言い争いに疲れて寝る事にでもしたのだろうか?確認するために覗こうかとも思ったが、周囲はもう木が茂り始めており、ちょっと操作を間違えれば面倒な事になりかねない。
仕方なく鼻歌でも歌いながら、騎士はただひたすらに馬を御す事に集中する事にした。
◆◇★☆†◇◆☆★
ほぼ同時刻――エンドライ、町長の家
「町長、3人目の被害者が出た。やはり冒険者か何かを雇って調査してもらうべきだ!」
初老の男性に向かって、1人の若者が食って掛かっている。彼の名前はホフマン。鍛えられた肉体と責任感の強い性格を持ち、街の若いものを統率するような立場にある青年だ。
「冒険者に頼むとなれば金が要る。ただでさえこの間の発掘費がまだ取り戻せておらんのじゃ。これ以上の出費は……」
対する町長、ヒルトンの反応は鈍い。もともと遺跡を利用して作られたエンドライの街だが、一週間ほど前に今まで入れなかった新しい部分への入り口が見つかったのだ。新しい観光資源になるだろうと周囲を反対を押し切って発掘を進めた手前、その結果街に危険を齎しましたなどと認めるわけにはいかない。
「そんな事を言ってる場合か!ヤツは只の野犬じゃない。火を吹くのを見たってヤツもいるんだぞ!?ただの獣じゃない、魔獣かも知れないってのに!」
入り口の開通に成功した3日前と時期をあわせるように、町人が大型の獣に襲われるという事件が起こるようになった。今日で犠牲者は3人。わりと洒落にならないペースで人が襲われている。たまたま近隣に住む獣が凶暴化したと考えるよりも、遺跡の中にいた何かが出てきてしまったと考える方が自然なタイミングだった。
「じゃが、火を吹くのを見たというのはあのいたずら者のパノだと聞いておるぞ。またいつもの嘘ではないのか?」
そういうヒルトンも、本気でそう思っているというよりは自分の体面を気にした部分が大きい。被害が出ている事には違いがないので紫の氏族領が抱える騎士団に助けを求める旨の書状は出したが、そのくらいが精々だ。ホフマンに説得され、冒険者を雇うなどという選択肢はヒルトンの胸の内には存在しえないのだから。
「そういう事は一度でも直接今のあの子を見てから言ってくれ!」
「普通の嘘では皆騙されなくなってきたから手を変えたのかもしれんじゃろう。とにかく、冒険者なんぞを雇う金はないしその気もない。とりあえずは騎士団の返事を待とうではないか」
さらにホフマンにとって厄介な事に、今街に冒険者を雇うような金が無いことはどうしようもない事実として圧し掛かってきている。だが、このままでは街が危ないのも事実だ。どうにかしなければならない現実は目の前にあるのに、どうにかし得る手段だけがない。
「何を悠長な!……くっ、もういい。アンタには頼まん!」
結局、今日も説得は上手く行かず、ホフマンはすごすごと自分の家に帰るしかなかった。
彼としてはヒルトンを責めるつもりはなく、ただあの黒い獣が現れるたびになす術も無く傷つく仲間の姿を見るのが嫌なだけだ。現れれば武器を手に立ち向かいもするが、効果を上げられた事はなかった。
「くそっ!どうにもできないのかっ!」
石壁に叩き付けた拳がガン、という鈍い音を立てる。今のホフマンはただ悲嘆に暮れる事しかできない。数時間後に、希望の光が届くまでは。
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NPC:ユリアン
場所:紫の氏族領 街道
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長閑な午後の道を、カッポカッポガラガラガラと長閑な音を立てて馬車は行く。結局、昨日は時間も時間だったので道中の宿屋に泊まったのだが、何か1つ行動を起こすたびにあの2人は喧しかった。だが、ピエールの視点から見ればなんとなく親しい者のじゃれ合いにも見えて、そこはかとなく微笑ましい。もっとも、それを本人達に言えば力の限りに否定するのだろうが。
ともあれ、そんな身内のじゃれ合いを除けば道中は平和なものだった。
限られた人間が旅をする事で感じるであろう不快を出来るだけ軽減するように設計された馬車は抜群の乗り心地を発揮し、その馬車を引く馬は教育が行き届いているのか御者の命令には素直に従う。そして、フル装備の騎士が御者を務める、見た目は質素だがよく見ると造りが豪華などうみてもわけありな馬車を襲うチャレンジャーな盗賊たちもなかなかいないらしい。
時々後ろからギャーギャー喚く声が響いてくるのすらBGMとして聞き流しながら、ピエールはただ道なりに進むように馬を御する。実のところ、頼まれた仕事は護衛兼御者なわけで、行き先までは管轄外もいいところだ。だからと言って適当な方に進むのも仕事を投げている気はするが、かといって嘘を突き通したまま彼らの行き先を聞き出す自信もなかった。嘘を吐くのは苦手なのだ。
それにしても、こう長閑だと歌でも歌いたくなる自分は特殊なのだろうか?普段が兵隊などという殺伐とした仕事だから、もしかしたら心がこういう癒しに飢えているのかもしれない。特に兵役について不満をもった事もないのだが。
深い意味もなく古い童謡を思い出して、ピエールは苦笑した。仔牛を売りに行く御者の歌。あの御者も、今の自分のようにこのなんとも複雑な心境だったのだろうか。行き先を自分で決めているという事はつまり自分が彼らの行く末を決めているという事だ。だというのに、そこに彼らの意思は介入する余地はない。
「……おや、あれは?」
柄にも無い思考は思った程注意力を散漫させてはいなかったらしい。視界の端に変化を感じて、即座に意識が現実へと帰って来る。違和感の正体は一枚の立て看板だった。
『遺跡都市エンドライまで30km』
看板の矢印に釣られて先を見ると、少し先からは街道がちょっとした森の中へと進んでいっている。恐らくは、野宿をする広い場所が取れるのが今のうちなのだろう。
今のペースなら30kmくらいは2~3時間程度あれば走破できるだろう。それならば、順調に行けば今夜はその遺跡都市とやらで宿を取る事ができる。
「後2,3時間くらいの所に街があるそうなので、今夜はそこを宿としましょうぞ」
後ろに声を掛けてから、そういえばさっきまでギャーギャー言っていたBGMが途絶えている事に気づく。不毛な言い争いに疲れて寝る事にでもしたのだろうか?確認するために覗こうかとも思ったが、周囲はもう木が茂り始めており、ちょっと操作を間違えれば面倒な事になりかねない。
仕方なく鼻歌でも歌いながら、騎士はただひたすらに馬を御す事に集中する事にした。
◆◇★☆†◇◆☆★
ほぼ同時刻――エンドライ、町長の家
「町長、3人目の被害者が出た。やはり冒険者か何かを雇って調査してもらうべきだ!」
初老の男性に向かって、1人の若者が食って掛かっている。彼の名前はホフマン。鍛えられた肉体と責任感の強い性格を持ち、街の若いものを統率するような立場にある青年だ。
「冒険者に頼むとなれば金が要る。ただでさえこの間の発掘費がまだ取り戻せておらんのじゃ。これ以上の出費は……」
対する町長、ヒルトンの反応は鈍い。もともと遺跡を利用して作られたエンドライの街だが、一週間ほど前に今まで入れなかった新しい部分への入り口が見つかったのだ。新しい観光資源になるだろうと周囲を反対を押し切って発掘を進めた手前、その結果街に危険を齎しましたなどと認めるわけにはいかない。
「そんな事を言ってる場合か!ヤツは只の野犬じゃない。火を吹くのを見たってヤツもいるんだぞ!?ただの獣じゃない、魔獣かも知れないってのに!」
入り口の開通に成功した3日前と時期をあわせるように、町人が大型の獣に襲われるという事件が起こるようになった。今日で犠牲者は3人。わりと洒落にならないペースで人が襲われている。たまたま近隣に住む獣が凶暴化したと考えるよりも、遺跡の中にいた何かが出てきてしまったと考える方が自然なタイミングだった。
「じゃが、火を吹くのを見たというのはあのいたずら者のパノだと聞いておるぞ。またいつもの嘘ではないのか?」
そういうヒルトンも、本気でそう思っているというよりは自分の体面を気にした部分が大きい。被害が出ている事には違いがないので紫の氏族領が抱える騎士団に助けを求める旨の書状は出したが、そのくらいが精々だ。ホフマンに説得され、冒険者を雇うなどという選択肢はヒルトンの胸の内には存在しえないのだから。
「そういう事は一度でも直接今のあの子を見てから言ってくれ!」
「普通の嘘では皆騙されなくなってきたから手を変えたのかもしれんじゃろう。とにかく、冒険者なんぞを雇う金はないしその気もない。とりあえずは騎士団の返事を待とうではないか」
さらにホフマンにとって厄介な事に、今街に冒険者を雇うような金が無いことはどうしようもない事実として圧し掛かってきている。だが、このままでは街が危ないのも事実だ。どうにかしなければならない現実は目の前にあるのに、どうにかし得る手段だけがない。
「何を悠長な!……くっ、もういい。アンタには頼まん!」
結局、今日も説得は上手く行かず、ホフマンはすごすごと自分の家に帰るしかなかった。
彼としてはヒルトンを責めるつもりはなく、ただあの黒い獣が現れるたびになす術も無く傷つく仲間の姿を見るのが嫌なだけだ。現れれば武器を手に立ち向かいもするが、効果を上げられた事はなかった。
「くそっ!どうにもできないのかっ!」
石壁に叩き付けた拳がガン、という鈍い音を立てる。今のホフマンはただ悲嘆に暮れる事しかできない。数時間後に、希望の光が届くまでは。
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