PC:レオン ピエール
NPC:ユリアン
場所:シカラグァ連合王国・直轄領→紫の氏族領(途中の街道沿いの店
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んがっ」
がくんと馬車が揺れた拍子に目が覚めた。気がつけば日は昇り、幌の隙間か
ら光が差し込んでいる。隣で寝ていたユリアンはというと、気持ちよさそうに
まだ夢の中だ。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
思わず盛大な溜息を吐いて、頭をぼりぼりと掻く。切羽詰っていたとはい
え、小憎たらしいからとはいえ、そもそも子供の誘拐などを計画していたわけ
じゃないのだ。
「お客人、目が覚めましたかの」
幌の向こうで御者から声がかけられる。いつから気付いていたんだろう……
とりあえずユリアンを起こさないように御者台の方へ顔を出した。
「あー、お気付きでしたか」
「ふむ、気付いていないと思われていたとはな。我が名はピエール・ド・カッ
パーダボード卿じゃ。気を楽になされよ」
前を向いたまま馬を操る御者は普通の御者などではなく、まるでドワーフを
思わせる、しかしドワーフにしては大きすぎる不思議な風貌の男だった。
「レオン……です、どうもご親切に」
馬車の造りが半端じゃない。コレは面倒な馬車に転がり込んだものだと軽い
頭痛を覚える。どう考えても貴族専用の高級馬車だ。しかも乗っているのが騎
士風の男一人。何か重要なものを運んだ帰りか、それとも今から取りに行くの
か。どちらにしてもお貴族様と係わり合いになる気はさらさらなかった。
「この馬車はどこへ向かっているのでしょうか」
「うむ、宛があるわけではなくてな。騎士団から長い暇を貰ったゆえ、貴公ら
と共に旅をするのも良いかもしれん」
まるで見覚えの無い景色は、地元へ向かっているわけではなさそうだった。
途中、どこか適当なところで下ろしてもらわねばならないだろう。というか、
こんな胡散臭い出会い方をしたのにこちらを疑いもしないこの人を信用してい
いものだろうか?
「勝手に乗り込んですみません。どこかで止めていただければ、後は二人で歩
きますので」
「いやいや、旅は道連れという言葉がある。わしは意味のある出会いだと思っ
ておるから咎めずに乗せておるのだ」
「はぁ……」
とりあえず、変わり者の騎士であることは分かった。戦場へ赴くのでも無い
のにフルプレートを馬車に積み、馬上槍を加工したような短い槍もすぐに手に
出来るようになのか、御者台の傍に置いている。馬車を転がすときくらいは軽
装で充分だろうに、サーコートを纏うのはソレを由としない人なのだろう。
「えーと、とりあえずの目的地は?」
「この方角だと紫の氏族領だな。旧ナジェイラ氏族領でも第二直轄領でも呼び
やすいように呼べばよい」
確かにありがたい申し出ではある。ユリアンが古代ナジェイラ語でメモを取
っていたように、ナジェイラは古くから知識の集まる都として知られているか
らだ。解毒剤に必要な諸々の採集場所や採集方法が分かるかもしれない。……
が、本当に大丈夫なのだろうか?
「では、目的地も同じ方角のようですし、しばらくお世話になります」
「構わぬ構わぬ。まだ道は長い、ゆっくりするといい」
いざとなればまた逃げることになるかもしれない。一応そのことも考えてお
かなければ。
こうしてレオンはピエール卿との奇妙な旅をすることになったのだった。
すやすや眠るユリアンに許可を得ることもなく……。
「だからどうしてこういうことになってるんですか!!」
ユリアンは憤慨していた。自分を誘拐した相手は、目の前で大欠伸をしてい
る。
「どうしたもこうしたも……お前のメモじゃ解毒剤は作れないだろう」
「だったらご自分で古代ナジェイラ語の勉強でもしたらどうなんです!?」
自分が不覚にも馬車内で爆睡してしまったせいか、恥ずかしさも手伝って声
は自然と大きくなる。
「まあまあ、そう激昂なさるな」
ピエール卿が苦笑した。
「大体ねぇ、貴方も貴方ですよ!このオッサンは誘拐犯なんですからね!!」
「しかし……口の悪い息子だと聞いておるが」
「……騙されてる、貴方は騙されているんですよ!!」
わなわなと震えるユリアン。レオンはいけしゃあしゃあと口を挟んだ。
「ほら、口の悪い息子ですみませんねぇ。学だけはあるが、他の教育を怠った
ようだ」
「ふざけるなよ、オッサン!間違ってもあんたの息子でなんかあるもん
か!!」
「ユリアン、ピエール卿の前でその態度は無いだろう……」
レオンが大げさに溜息をつく。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……昔はそんなこと言わなかったのに」
「ユリアン殿、少々口が過ぎるようだ。レオン殿に失礼だろう」
「騙されてるんだー!貴方は騙されてるー!!」
……このやり取りが半日は続いただろうか。
ユリアンの腹の虫がくぅと鳴いたのは、もう日も傾きかけた頃だった。
「はっはっは、そろそろ飯にしますか」
もうすぐ街道沿いの小さな飯処に辿り着く、いいタイミングだったようだ。
実際、途中にはろくな店もなく、携帯食料の糒(ほしいい)や干し肉を少量
かじっただけである。
「助かります」
ピエール卿には伝えてあるが、文無しの状態で旅に出たのだ。暖かい食事を
奢ってもらえるのはありがたかった。
「お前も店では静かにしろよ」
「作法はちゃんと学んでるよ。オッサンより綺麗に食べるに決まってるだろ」
反目しながらも食事が必要だと判断したらしいユリアンは、レオンを睨み付
けるだけにした。
「はぁい、何になさいますぅー?」
甘い声のウェイトレスは、この異様な三人組にも笑顔を絶やさず接客した。
さすがプロだ。
「三人分の食事を適当に見繕ってくれまいか。あと、馬にも干草を……」
ちなみに馬車はお食事処に併設されている貸し馬屋に預けてある。ここは貸
し馬屋とお食事処に宿屋まで併設した施設らしい。長い街路に店が少なかった
せいか、ソレなりに繁盛しているようだ。
「馬のお世話は馬屋のほうにお任せくださぁい。料理はオススメをお持ちしま
すねぇ!」
フリルの付いたエプロンが流行っているのかもしれない。メニューを持ち、
去っていくウェイトレスの姿はやたらフリフリしていた。
「なんだよ、お前ああいうのが好みか」
水を飲みながらボーっとウェイトレスから目を離さないユリアンに、レオン
がチャチャを入れる。
「ばっ……違いますよ、服に興味があっただけです」
「なんだ、制服フェチか」
「だから違うって言ってるでしょう」
「俺はあんな小娘より、艶っぽい妙齢の女性の方が好みなんだがなぁ……」
言っているうちに悲しくなってきたレオンが肩を落とす。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「その大げさな溜息、やめた方がいいですよ」
「ほっとけ」
「むぅ、少し静かには出来ないのかね」
なかなか会話が噛み合わないピエール卿。というか、レオンとユリアンの会
話のスピードが速すぎるのだ。会話というよりも切り返しというべきか。何し
ろ相手が言い終わるか終わらないかのうちに返事が帰ってくるのだから。
「まあ、仲良きことは良いことだが」
のんびりペースのピエール卿は、こうやって時々話を挟むだけ。ニコニコと
二人を眺めている。
「……とにかく、私は調べ物が済んだら帰らせてもらうからな!」
「ばーか、誰が調合するんだよ、他にいないだろう」
「そんな事、私には関係ないっ」
「そうか、仕方ないな。お姫さんと結婚するしか道はないのか……」
「それだけは駄目だって!!」
「じゃあ付き合え」
「誘拐しておいて卑怯だぞっ」
「こちらも命がかかってましてね」
物騒な話だが、騒々しい店内では誰も相手にしなかった。……まあ、ピエー
ル卿の言うように仲が良さそうに見えるのか、それとも聞こえなかっただけな
のか。
「お待たせしましたぁ、A定食3つでございまぁす!」
食事の時には臨時休戦。腹が減った二人は黙々と食べ始めた。
「うむ、食事は静かにするものだ」
ピエール卿は一人笑って、いただきます、と手を合わせた。
NPC:ユリアン
場所:シカラグァ連合王国・直轄領→紫の氏族領(途中の街道沿いの店
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んがっ」
がくんと馬車が揺れた拍子に目が覚めた。気がつけば日は昇り、幌の隙間か
ら光が差し込んでいる。隣で寝ていたユリアンはというと、気持ちよさそうに
まだ夢の中だ。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
思わず盛大な溜息を吐いて、頭をぼりぼりと掻く。切羽詰っていたとはい
え、小憎たらしいからとはいえ、そもそも子供の誘拐などを計画していたわけ
じゃないのだ。
「お客人、目が覚めましたかの」
幌の向こうで御者から声がかけられる。いつから気付いていたんだろう……
とりあえずユリアンを起こさないように御者台の方へ顔を出した。
「あー、お気付きでしたか」
「ふむ、気付いていないと思われていたとはな。我が名はピエール・ド・カッ
パーダボード卿じゃ。気を楽になされよ」
前を向いたまま馬を操る御者は普通の御者などではなく、まるでドワーフを
思わせる、しかしドワーフにしては大きすぎる不思議な風貌の男だった。
「レオン……です、どうもご親切に」
馬車の造りが半端じゃない。コレは面倒な馬車に転がり込んだものだと軽い
頭痛を覚える。どう考えても貴族専用の高級馬車だ。しかも乗っているのが騎
士風の男一人。何か重要なものを運んだ帰りか、それとも今から取りに行くの
か。どちらにしてもお貴族様と係わり合いになる気はさらさらなかった。
「この馬車はどこへ向かっているのでしょうか」
「うむ、宛があるわけではなくてな。騎士団から長い暇を貰ったゆえ、貴公ら
と共に旅をするのも良いかもしれん」
まるで見覚えの無い景色は、地元へ向かっているわけではなさそうだった。
途中、どこか適当なところで下ろしてもらわねばならないだろう。というか、
こんな胡散臭い出会い方をしたのにこちらを疑いもしないこの人を信用してい
いものだろうか?
「勝手に乗り込んですみません。どこかで止めていただければ、後は二人で歩
きますので」
「いやいや、旅は道連れという言葉がある。わしは意味のある出会いだと思っ
ておるから咎めずに乗せておるのだ」
「はぁ……」
とりあえず、変わり者の騎士であることは分かった。戦場へ赴くのでも無い
のにフルプレートを馬車に積み、馬上槍を加工したような短い槍もすぐに手に
出来るようになのか、御者台の傍に置いている。馬車を転がすときくらいは軽
装で充分だろうに、サーコートを纏うのはソレを由としない人なのだろう。
「えーと、とりあえずの目的地は?」
「この方角だと紫の氏族領だな。旧ナジェイラ氏族領でも第二直轄領でも呼び
やすいように呼べばよい」
確かにありがたい申し出ではある。ユリアンが古代ナジェイラ語でメモを取
っていたように、ナジェイラは古くから知識の集まる都として知られているか
らだ。解毒剤に必要な諸々の採集場所や採集方法が分かるかもしれない。……
が、本当に大丈夫なのだろうか?
「では、目的地も同じ方角のようですし、しばらくお世話になります」
「構わぬ構わぬ。まだ道は長い、ゆっくりするといい」
いざとなればまた逃げることになるかもしれない。一応そのことも考えてお
かなければ。
こうしてレオンはピエール卿との奇妙な旅をすることになったのだった。
すやすや眠るユリアンに許可を得ることもなく……。
「だからどうしてこういうことになってるんですか!!」
ユリアンは憤慨していた。自分を誘拐した相手は、目の前で大欠伸をしてい
る。
「どうしたもこうしたも……お前のメモじゃ解毒剤は作れないだろう」
「だったらご自分で古代ナジェイラ語の勉強でもしたらどうなんです!?」
自分が不覚にも馬車内で爆睡してしまったせいか、恥ずかしさも手伝って声
は自然と大きくなる。
「まあまあ、そう激昂なさるな」
ピエール卿が苦笑した。
「大体ねぇ、貴方も貴方ですよ!このオッサンは誘拐犯なんですからね!!」
「しかし……口の悪い息子だと聞いておるが」
「……騙されてる、貴方は騙されているんですよ!!」
わなわなと震えるユリアン。レオンはいけしゃあしゃあと口を挟んだ。
「ほら、口の悪い息子ですみませんねぇ。学だけはあるが、他の教育を怠った
ようだ」
「ふざけるなよ、オッサン!間違ってもあんたの息子でなんかあるもん
か!!」
「ユリアン、ピエール卿の前でその態度は無いだろう……」
レオンが大げさに溜息をつく。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……昔はそんなこと言わなかったのに」
「ユリアン殿、少々口が過ぎるようだ。レオン殿に失礼だろう」
「騙されてるんだー!貴方は騙されてるー!!」
……このやり取りが半日は続いただろうか。
ユリアンの腹の虫がくぅと鳴いたのは、もう日も傾きかけた頃だった。
「はっはっは、そろそろ飯にしますか」
もうすぐ街道沿いの小さな飯処に辿り着く、いいタイミングだったようだ。
実際、途中にはろくな店もなく、携帯食料の糒(ほしいい)や干し肉を少量
かじっただけである。
「助かります」
ピエール卿には伝えてあるが、文無しの状態で旅に出たのだ。暖かい食事を
奢ってもらえるのはありがたかった。
「お前も店では静かにしろよ」
「作法はちゃんと学んでるよ。オッサンより綺麗に食べるに決まってるだろ」
反目しながらも食事が必要だと判断したらしいユリアンは、レオンを睨み付
けるだけにした。
「はぁい、何になさいますぅー?」
甘い声のウェイトレスは、この異様な三人組にも笑顔を絶やさず接客した。
さすがプロだ。
「三人分の食事を適当に見繕ってくれまいか。あと、馬にも干草を……」
ちなみに馬車はお食事処に併設されている貸し馬屋に預けてある。ここは貸
し馬屋とお食事処に宿屋まで併設した施設らしい。長い街路に店が少なかった
せいか、ソレなりに繁盛しているようだ。
「馬のお世話は馬屋のほうにお任せくださぁい。料理はオススメをお持ちしま
すねぇ!」
フリルの付いたエプロンが流行っているのかもしれない。メニューを持ち、
去っていくウェイトレスの姿はやたらフリフリしていた。
「なんだよ、お前ああいうのが好みか」
水を飲みながらボーっとウェイトレスから目を離さないユリアンに、レオン
がチャチャを入れる。
「ばっ……違いますよ、服に興味があっただけです」
「なんだ、制服フェチか」
「だから違うって言ってるでしょう」
「俺はあんな小娘より、艶っぽい妙齢の女性の方が好みなんだがなぁ……」
言っているうちに悲しくなってきたレオンが肩を落とす。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「その大げさな溜息、やめた方がいいですよ」
「ほっとけ」
「むぅ、少し静かには出来ないのかね」
なかなか会話が噛み合わないピエール卿。というか、レオンとユリアンの会
話のスピードが速すぎるのだ。会話というよりも切り返しというべきか。何し
ろ相手が言い終わるか終わらないかのうちに返事が帰ってくるのだから。
「まあ、仲良きことは良いことだが」
のんびりペースのピエール卿は、こうやって時々話を挟むだけ。ニコニコと
二人を眺めている。
「……とにかく、私は調べ物が済んだら帰らせてもらうからな!」
「ばーか、誰が調合するんだよ、他にいないだろう」
「そんな事、私には関係ないっ」
「そうか、仕方ないな。お姫さんと結婚するしか道はないのか……」
「それだけは駄目だって!!」
「じゃあ付き合え」
「誘拐しておいて卑怯だぞっ」
「こちらも命がかかってましてね」
物騒な話だが、騒々しい店内では誰も相手にしなかった。……まあ、ピエー
ル卿の言うように仲が良さそうに見えるのか、それとも聞こえなかっただけな
のか。
「お待たせしましたぁ、A定食3つでございまぁす!」
食事の時には臨時休戦。腹が減った二人は黙々と食べ始めた。
「うむ、食事は静かにするものだ」
ピエール卿は一人笑って、いただきます、と手を合わせた。
PR
トラックバック
トラックバックURL: