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2025/03/10 07:15 |
獣化の呪いと騎士の槍  06/レオン(マリムラ)
PC:レオンハルト
NPC:アナスタシア ユリアン
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「アナ様に何をした!?」
 開口一番、凄い剣幕で怒鳴られた。
「こっちがされたんだクソガキ!」
 大人げなくもやけくそ気味に大声で応戦する。

 この声変わりも終わっていない子供が部屋に入ってきたのは、何かの薬湯を持って
のことだった。あの女が御前試合とやらを見に行くとかで、他の見合い相手を引き連
れて出かけたのが少し前。これ以上のチャンスがあるか?と逃げる算段をしていたそ
んなとき、重々しく扉が開いたのだった。
 無言で部屋に入ってきて、無言でテーブルにトレイを置いて。
 向き直って開口一番がコレだ。訳が分からない。

「アナ様にオッサンが似合わないって事くらい分かるだろ!!」
「知るか!!」
 まったく迷惑な話である。
 望まないことに巻き込まれた挙げ句に逆恨み。冗談じゃない。



 多分、いろんな事が限界だったのだと思う。
 普段なら相手にもしないような、自分の半分かそれ以下の年齢の子供に向かって怒
鳴り散らし、相手も引かないモノだから双方の息が切れるまで続け、
「はぁ、はぁ、はぁ……って、オマエ何者だ」
 そこへ来て初めて、相手の名前すら知らないことに気付く。
「アナ様の……相談役にして、はぁ、はぁ、宮廷魔術師見習いのユリアンだ!!」
 肩で息をしながら威勢のいい返事が返ってくる。
 なるほど、よく見ると魔術師っぽい服装の様な気もする。
「相談役って暇つぶし相手だろ。見習いごときがデカイ口叩くなよ」
 息を整え、水差しに手を延ばす。喉が渇いて痛いくらいだ。
「大魔術師ローウェン様の弟子をナメるなよっ! 私は大事な薬草集めだって言い使
っているんだぞ!」
 何かが、引っかかった。水差しに延ばした手が止まる。

「ほう……そりゃえらい下働きだな。小間使いか?」
 止めた手をなんとかもう一度動かし、何事もなかったように水を飲む。
「ローウェン様は凄い方なんだ。私はその薬を作る手伝いもしているんだ」
 得意げに胸を張るそのガキに、オレの不幸もお前達のせいかと怒りを憶える。……
が、何とか自制。もう一杯水を飲んでから、ふふんと見下してやる。
「手伝ったところで極秘の新薬だろ? 作り方も分からないクセに威張るなよ」
 身長差が頭二つ分くらいはあるだろうか。その高低差で見下ろすとそれなりの威圧
感があるはずなのに、相手は怯みもしない。
「……ふっふっふっふっふ」
 肩を揺らし笑う様は子供らしくなくて滑稽だったが、その次の言葉が吹き出そうと
する顔を凍り付かせた。
「ローウェン様のレシピの控えを持っているのはボクだけなんですよ~?
 もちろん解毒薬のレシピだって持ってるんですから」
 この子は自分が機密を漏らしたことに気付いているのだろうか?

 利害の一致だ。
 このガキは俺があの女に近づくのを嫌い、俺はあの女から逃げたいと思っている。
 だから。
「……頼みがある」
 まじめな顔でそう言った。
「お前の話など信用できるモノか」
 そう横を向くガキに、言葉を続ける。
「誤解があるようだが、俺は彼女と結婚するつもりなどない。ここにいるのは薬を盛
られたからだ。出来ればここから出て、一生彼女と合わない生活が送りたいと思って
いる」
「……」
 ガキの動きが止まった。
「だからここから逃げる手伝いをして欲しい。利害は一致するだろう?」
 なるべくトゲのないように。出来るだけ声をひそめて。

「……話を聞こう。き、聞くだけだぞ!?」
 少しの沈黙の後、宮廷魔術師見習い様は手近な椅子に腰掛けた。



 事情を簡潔に説明する。
 元々見合いには乗り気ではなかったこと。何故か理由はよく分からないが気に入ら
れてしまったらしいこと。そして、自分を帰さないために新薬を盛られたこと。
 彼女に迫られたことは敢えて伏せておいた。神経を逆なでするだろうとの配慮から
だが、詳細を説明しようにも子供には刺激が強すぎる。聞かれると困るというのが本
当のところかもしれない。
「……信じられないね」
 そう言いながらも、声は半分以上信じかけていた。もしかすると新薬を持ち出すよ
うに頼まれたのはこの子だったのかもしれない。
「じゃあ……そうだな。ちょっと手、貸してみろ」
 指の関節付近に小さな切り傷を見つけたのだ。よく見ると手の甲にも無数の傷があ
る。
 こちらから手を延ばすと反射的に手を隠し、真っ赤になってだれも聞いていない弁
明を始めた。
「こ、これは今朝、実験中にヘマしたりなんかしたんじゃないぞ!」
 自分からやったと言っているようなモノだ。
「いいから貸せ。証拠を見せてやる」
 強引に手を引き寄せ、一か八か舐めてみる。
 何を? 勿論相手の手の甲だ。好いた相手でもない子供相手に何をやっているんだ
か。
 相手が体を硬直させるのが分かったが、そんなことに構っていられない。
「!?」
 思った通り、舐めた部分の傷が治っていた。
 深い傷で効果があるかはしらないが、この程度の浅い擦り傷には有効らしい。
「あの猫に舐められた。それ以来味覚がおかしいからそういうことなんだろう」
 手を無造作に放り出すと、それだけ言った。
 顔を真っ赤にしてこちらを睨むこの子に真意は通じただろうか?
「あ、あんたはすぐに出て行くべきだ!!」
 あーああ、涙目になっている。が、構ってられるか。
「解毒薬があるんだろ? 逃げるのとその薬を手に入れるために協力者が必要だ」
 目を見て、真剣な声色で。
 こっちは命が掛かっているのだ。子供だからって容赦してられるか!
「……わかった。部屋を出て見張りの気を逸らすからその間に……」
 道順の説明が始まる。
 何度も頭の中で反芻しながら、二人は同時に頷いた。



  † † † † † † † † †



 部屋を出たその子は、扉の前に見張りに声をかけた。
「申し訳ありませんが、アナ様のお部屋の模様替えを頼まれているのです。家具など
私では動かせませんから、あなた方の協力を仰ぐようにと……」
 勿論扉はまだ閉まりきっていない。というか、声が聞こえるように扉に物を挟んで
隙間を開けているのだが。
「しかし、交代の者が来ないことには……」
「アナ様のお帰りまでに間に合わなければお叱りを受けてしまいます。薬でしばらく
は眠っているでしょうから今のうちに頼みたいのです」
 しばらくのやりとりの後、廊下の向こうへ足音が遠ざかっていく。
 焦る心を抑えつつ、音が聞こえなくなるまで待ってからそっと扉を開けた。
 誰もいない。
(よしっ)
 音がしないよう、慎重に扉を閉める。
 部屋を覗き見たくらいでは逃げ出したことに気付かれないように、上着も壁に掛け
たままにしてきた。ベッドには詰め物までしてある。靴を片手に薄着なのは何とも心
許ないが、今は贅沢を言っていられない。
 道順は暗唱できるほど完璧に記憶済み。彼らが去った反対の方角へ素足で走る。靴
を手に持っているのは、音の響きやすいこの廊下対策だ。冷たかろうと我慢我慢。
 これであの子と合流し、薬をもらってさようなら。
 上手くいくことを祈るしかない。
(上手くやってくれよ……アナ様のためなんだからな)
 声に出さずにそう祈る。自分は見つからないことに力を注ぐ必要があるのだ。



  † † † † † † † † †



 一部の関係者しか通らない廊下を駆け抜け、更に薄暗い北側へと回り込む。
 あの子供の情報によると、この通路は魔術師とその弟子しか使わないらしい。魔術
師達に提供されている研究棟への通路だかららしいのだが……。
(……何故誰もいない?)
 途中、所々に隠れながら、周りの気配を窺いつつ進んでいるのだが。
(こんなに上手く行っていいのか?)
 誰もこの廊下を通らないのだ。
 普段もあまり使われておらず、殆ど自分専用の道だとあの子は自慢していたが、そ
れにしてもこう上手くいくと勘繰りたくなるではないか。
 そう、あの女に躍らされているのではないかと。
(……あの女ならやりかねないが、この機会を逃せば次はないだろうし……)
 それでも自分には道がないのだ。やるしかない。
 子供の指示した部屋まではもうすぐだ。



  † † † † † † † † †



 結局、狭く物の多い部屋で半日近く待たされた。日が傾いてきている。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 盛大に溜め息も出るというものだ。
 おそらく本当に模様替えをやっていたのだろう。戻ってきた子供はすまなそうに、
そして疲れた笑顔で紙袋を差し出した。
「予定よりずいぶん待たせて悪かった。夕飯は部屋で取るからと、夕飯分と夜食分を
詰めてもらったんだ。食べていいよ」
 ぐぅ。図ったかのように腹の虫が鳴く。こんな時でも腹は減るらしい。
「……すまん」
「いいって」
 二人で黙々とサンドイッチを食う。
 飲み物はフラスコと漏斗でコーヒーを入れてもらった。なかなか美味だ。
「で、薬の方は?」
「うん、その事なんだけど……」
 言いづらそうな語尾の濁し方に、イヤな予感がする。
 が、相手が切り出すまで根気強く待った。ああ、勘違いでありますように。
「……薬が持ち出されてた。材料も揃ってない」
 やっぱりか。あのお姫様に躍らされていたというのか?
「で、でも、レシピはあるよ。材料と分量を書いたメモをあげる」
 そう言って差し出されたメモには、知らない字が踊っていた。
「……読めん」
「あー……古代ナジェイラ語だから」
「そんなもん、読めるか!」
 思わず声が大きくなって、慌てて声をひそめる。
「……お前は作れるのか?」
「うん、材料さえ揃えばね。だってコレ調合したのボクだし」
 なんだと?
「えーと、偉いお師匠様が新薬作ったんだよな?」
「そうだよ。で、解毒薬はボクが作った。言ってなかったっけ?」
 聞いてない。
 混乱する頭を抱え、考えを整理する。
「あと必要な材料は幾つくらいあるんだ」
「えーと、コレとコレは買えるとしてもコレは……」
「幾つだ」
「竜の髭と火蜥蜴の牙と銀真珠、かな。あとはどうにか手に入ると思うよ」
「……どれも聞いたことねぇ」
 普段全く縁のない名前ばかりだ。なんかもう聞くことすら放棄してしまおうかなと
思ったが、そういうワケにもいかない。
「だろうね。おかげで入手困難。手に入れてくれたら薬作ってあげてもいい」
 ぶつぶつ言いながらレシピとにらめっこをする子供の言葉を、聞き逃しはしなかっ
た。
 丈夫そうな背負い袋を部屋の片隅から見つけ出し、ついでに革のマントを身に着け
る。雨風にも強そうなそのマントは、クローゼットから拝借した。
「あ、ローウェン様のマント……」
 小声の訴えなど聞こえなかったことにする。身支度を整えながら、聞いた。
「そういえばお師匠は?」
「ソフィニアまで出かけてくるって。一月じゃ戻らないと思うよ」
「いつ発った?」
「一昨日かな」
 ……彼女の陰謀のような気がしてならない。が、逃げないわけには行かないのだ。
「よし、必要な材料を用意してくれ」
「……って、今用意したって作れないよ。材料足りないんだもん」
「そもそも名前を聞いたところで、何処で手に入るか知らないんだぞ」
 それもそうかと頷く子供。お前実は騙されやすいだろ、と不憫に思わなくもない。
「じゃあ油紙で包んでおく。お金までは用意できないけど、オジサン頑張ってね」
「オジサン言うな」
 木の根やら何かの尻尾やら、丁寧に包んでくれた。持ち運ぶのに不便な材料もある
からと、すりつぶす器具も持たせてくれる。
「じゃあ、二度とアナ様に近づくなよ。こっちから出てここを通れば人に遭わないか
ら」
 手を振り送り出そうとするそのこの手首をおもむろに掴んだ。さっきのことを思い
出したのか、ビクッと体を硬直させるその子に、非常な言葉を投げる。
「悪いな、お前にも来てもらう」
「……はぁ!?」
 そう言って口を塞ぎ、毛布にくるんで抱え上げた。軽い。じたばた暴れようとして
いるものの、力で敵うはずもなく。
「解毒薬が効いたら、解放してやるよ。あ、後な、男色の気はないから安心しろ」
 なんの気休めにもならないなと思いつつ、子供を肩に担ぎ、裏口から脱出した。
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2007/02/12 16:57 | Comments(0) | TrackBack() | ○獣化の呪いと騎士の槍

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