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2024/05/17 06:22 |
獣化の呪いと騎士の槍  05/ピエール(魅流)
PC:ピエール
NPC:団長とか。
場所:シカラグァ連合王国・直轄領 ピエールの回想。
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 太陽が完全に沈み、夜の帳が降りきった頃。夕食を終え、部屋に戻ってきたピエールは一人で寛いでいた。

「そういえば、騎士団から離れて夜を越すのも久しぶりだのう」

 騎士団に入団してより十余年。ピエールにとっての家は生まれ育った実家よりではなく団員達が寝食を共にする隊舎になっていたし、家族といえばその意味の半分以上が仲間達を指す言葉だった。
 団体行動を常とする生活の中で、このように独りで夜を過ごす事なぞ滅多にあるものではない。まだ眠るには早く、かと言って何かやる事できる事があるわけでもない。時間を持て余したピエールは酒の効果と相まって、なんとなく昔の事を思い返していた。

 思い出される事はやはり騎士団に纏わる事が大多数を占めている。その中でも特に多いのが団長に関わるエピソードで、その数は優に総数の9割程に登る。
 "戦乙女の投げ槍"の団長はいわゆるトラブルメーカーだ。彼を知るものでこの意見に首肯しない者はいないだろう。
 戦においては絡め手というものを好まず力押しの正攻法な戦法のみを取り、油断慢心当たり前。見かねた部下が諌めれば「戯け、この程度の相手に慢心せずして何の団長か」と言い返す始末。それにも関わらず、結果として全ての戦に勝ち抜いて来たという冗談のような経歴を持つ男。"戦乙女の投げ槍"の団長はそういう男だ。
 さらには不幸な事にというべきか、団長は不思議なカリスマを持っていた。天上天下唯我独尊の考え、振る舞いの中に人を惹き付ける何かがあるのだ。それさえ無ければとっくに回りからひんしゅくを買って大した事もせず終わっていたはずだった。しかし、彼はそれを持っていたのだ。結果として、回りの人間を全て巻き込むまるで台風のような存在としていつでも彼は絶好調だった。

 実を言えば、今ピエールがこの場にいるのも団長からの"影響"の一つなのだ。というのも、元々この女王御前試合に招かれたのは団長の方だったのにも関わらず「面倒だ。任せた」の二言で済ませてしまい、ピエールが代役として出場する事になったからだ。
 まぁ、それが良い影響であったのか悪い影響だったのかと言えば、微妙なところなのだが。

「そういえば、あの時も団長の一言で苦労したもんだったなぁ……」

 思い返すのは数年前。冬を前にして太陽が地を照らす時間がだんだんと短くなり、いよいよ寒さが顎を開いて襲い掛からんとしているような時期の事だ。
 近隣の住民からの陳情――盗賊団にカモられてるので助けてほしい――を聞いた団長は、「その程度に兵を割くまでもない。我(オレ)とピエールだけで十分だ」と言うやいなや手に入れたばかりの剣を片手に嬉々として飛び出してしまった。団長がそういう行動にでる事そのものはいつもの事で、もはや周りでフォローする体制が整ってしまっているので問題ない。
 ただ、不幸だったのが名指しにされたピエールで、遠征から帰ってきた次の日には再び荷物を持って街道をえっちらおっちらと行く羽目になってしまったのだった。

 盗賊団探しそのものはすぐに終わった。陳情を出した村全てをまわり、情報を集めてみるとあっさりと盗賊達がどこからやってくるのかが特定できたからだ。情報を総合すると、村を襲う盗賊団は食うに困って落ちぶれた野盗の類ではなく、隣国からわざわざやってきて略奪行為を行う、私掠盗賊団だという事がわかった。さすがにアジトまで相手国内に作る度胸はないようで、毎回毎回国境の川に架かっている大橋を渡ってやってきているらしい。盗賊達と戦うにあつらえたような絶好のロケーションである大橋を。

「いやぁ、今日も冷えますなぁ」

 大橋の途中にいくつか作ってある小部屋の一つでピエールと団長は何をするというわけでもなくただ時間をつぶしていた。何しろ盗賊達の行動に一貫性はなく、連日来たかと思えばしばらくこなかったり、かといってその繰り返しかと言うとそうでもなく一日置きだったり二日置きだったりと次にいつ来るのかがまったく予想できないのだ。迎撃する側にできる事と言えばただ待つのみ。来るルートが限定されているという救いがなければとても二人ではやってられない仕事だった。
 石造りの小部屋は風こそ凌げるものの、寒さを完全に防ぐ事はできず冷気の侵入を許してしまっている。鎧に掛けられている魔術があるので寒さによって体力を消耗する事はないが、お陰で寝る時も鎧を脱ぐ事はできない。お世辞にも快適な状態とはいえない状況が、三日間続いた。

 三日目の夕暮れ。いい加減待つのに飽きた団長がいっそ隣国の領土に攻め込むのを本気で検討しはじめた頃、ようやく待ちかねていた盗賊団が姿を現した。
 平和条約を結んでいる為お互いに迂闊に兵を置けない大橋を我が物顔で通り抜けようとする盗賊達はその数約五十人。通常の盗賊団の規模から考えると計り知れない人数だ。

「おー?どこの騎士様だかしらねぇけど、俺たちのジャマはよくねぇなぁ」

 いわゆる小者によく見られる傾向だが、数で相手を圧倒すると途端に気が大きくなる人間というものがいる。この男もその一人だった。

「光栄に思え。貴様らを我(オレ)の剣の試し斬りに使ってやる」

 沈み行く太陽を背後に背負い、黄金に輝く男は不敵に哂う。無視された形になって、安い自尊心を傷つけられた盗賊は、太陽光の照り返しだけではなく男本人もまた光をまとっている事に気づけなかった。もっとも、冷静だったとしても気づけたかどうかは怪しいものだが。

「け、たった二人で俺たち全員を斬る気かよ?できるもんならやってみやがれってんだ」

 五十対二。この人数差の前にはどんなに腕が立つ人間だろうと数に押し切られて負けるのみだ。だから、この盗賊団の首領の油断はある種仕方がないと言えるだろう。騎士団を相手に何回もやりあい、負けても生き延び時には勝ってきた経験に裏づけされた判断に狂いはないと自負してきたし、実際ここ数年はそれで上手くいっていたのだ。
 ――彼にとって唯一不幸だったのは、今まで自分の想像を超えるような規格の敵に出会う幸運に恵まれなかった事だろうか。だが、それも仕方がない。たった一人で五十人もの人間を無力化してのける人間など、そうそう転がっていては世の中がおかしな事になってしまう。

 盗賊団の首領が自分の失策に気づいた時にはもう手遅れだった。鎧から立ち上る、目にはっきりと見えるほど具現化した魔力を湯水のように吸い尽くし、黄金の魔剣は思うがままに己の性能を、造られた意義を哀れな盗賊達へと揮う。振られた剣から一閃、伸びた白い光は盗賊達全員を貫き、石の壁に当たって消滅する。
 自分の上半身と下半身が分離していくのを、首領はただ冷静に他人事のように見守っていた。過ぎた痛みはいっそ何も感じないというが、まさにその通り。下半身の支えを失った上半身が地面に落ちても、落下する感覚もなければ地面に当たった感触もしない。――って、いくらなんでもそんな馬鹿な。一度目を閉じて再び開く。そこに見える景色は、魔剣による一撃をくらう直前とほとんど同じ、太陽を背に立つ黄金の鎧。違う事といえば、剣が振り切られている事と、目の前に白銀の鎧を着た男が迫ってる事だろうか。

                ◆◇★☆†◇◆☆★

 ――少し昔語りをしよう。その昔、ある若いがとても腕のいい鍛冶屋がいた。右に出るものなし、周りとはまったく比較にならぬ、過去最高の腕を持つブラックスミス。彼を持て囃す声は絶える事がなく、また本人も腕が立つとは言えまだ若者。鍛冶神ヴァルカンの現界という二つ名と共に、様々な名剣名刀を生み出した。
 ある時。ふと手に取った書物――ある水に囲まれた王国の伝承を読んだ彼は、その物語の中にでてくる救国の聖剣を実際にこの世に生み出そうと思い、その実現の為に己が持つ全ての力を注ぎ込んだ。稼いだ金は魔力を増幅する効果がある希少な鉱物を買い求める為に費やされ、他の注文は全て断り、ただ一振りの聖剣を生み出さんとした。

 しかし、結論から言えばそれは不可能な事だったのだ。伝承の中にある、実在したかも怪しい聖剣。それは妖精が当時の王に与え、その王の死と共に妖精に返却されたという幻想の産物。多少腕が立つとはいえ、人間によって造れる物ではない。
 金属を鋳溶かし、叩き上げ、剣の形にする。出来上がった剣の中にはいままでの作品に比べれば比較にならぬほどの力を秘めた剣も数多くあった。しかし、結局伝承通りの力を発揮できるような聖剣は一振りとてできなかったのだ。
 聖剣を打つと決めてから早数年。稼いだ財はほぼ全てが消え、注文を断り続けた結果信用も名声も全てをなくし、それでもまだ諦めずに挑み続ける男がいた。最後の金で手に入れた一振りの剣を造れる量の希少金を前に、鍛冶屋は死に瀕していた。本当に最後の最後、彼の魂を打ち込まれた剣は、彼の親友の魔導師の手によって振られ、一軍を一振りで薙ぎ倒すという成果を出す。鍛冶屋はその様子を見て、満足した表情で息を引き取ったのだ。

 だが、思い出して欲しい。鍛冶屋は死に瀕した体だった。必要な栄養も何も取らず、病に罹っても養生せず、そんな生活を数年間続けたのだからそうなるのは当たり前だ。そんな鍛冶屋が真に優れた剣を生み出す事ができるのだろうか?――答えは否。彼の最期の一振りは、今までの魔力剣の中でも五指に入る駄作だったと言う。そんな剣が何故一軍を薙ぎ倒す事ができたのか?その答えは、鍛冶屋の親友の魔導師の術にある。魔導師が得意とするのは、相手に幻を見せて惑わす幻惑の術。死に行く友に、せめてもの餞と倒れ行く大軍の姿を見せたのだ。しかし、その術の対象は鍛冶屋だけに留まらなかった。
 衰えた力で鍛えられた剣は、いままでの剣に比べて明らかに駄作だった。だか、それは剣としてそれを見た場合の話だ。鍛冶屋の最期の鎚は、結果として希少金の金属としての性質よりも、魔力を増幅するという性質の方を強化していたのである。そして、死に行く親友の最期にと魔導師が使った幻術は剣の力によって増幅され、軍全てに彼ら自身が斬られるという幻覚を見せたのだ。幻術はあくまでも幻それは本物ではないが、それを見る者がそれを真実と心の底から信じれば少なくとも綻びに気づくまでの間は間違いなく真実だ。拡散した所為か視覚しか惑わされなかったものの、伝説とまで言われた鍛冶屋の作、そして実際に剣から白い光がでて自分たちに至るのを感じた軍人たちの大半はそれを本物と受け入れてしまったのだ。

 そして、魔導師は亡き友の名誉の為に三日三晩の儀式を行い、『自分が真っ二つに斬られたように思わせる幻術』を剣に篭めた。それも、人間の思い込みの力を使い、食らった者は実際に体が裂けるほど強力な、禁呪とされている術を。
 そして時は流れ、剣は結局その危険度の為に上から幻術を封印する術を掛けられ、封印された。『もう二度と歴史の表舞台に出る事はないだろう』封印がされた時、剣の存在を知る誰もがそう思った。何しろ13人の当時最高の力を持つ魔術師達がそれぞれに施した封印は相互干渉によってもはや掛けた本人たちでさえ解く事ができないレベルに達していたのだから。
 彼らは知らなかったのだ。圧倒的な魔力を持ってすれば効果が弱くなるもののちゃんと魔剣を発動させる事ができる事、そして装備しているものの魔力を倍増させる、剣と同じ希少金で造られた鎧の存在を。まぁ、仮に知っていたとしても彼らは黙殺しただろう。なぜなら、よっぽどの魔力(ちから)持ちでもない限りは鎧の効果を持ってしても剣を発動させるには至らないのだから。

 とにかく、こうしてしばらくの間剣は封印した者達の意思どおりに歴史の表舞台から姿を消す事になる。長い眠りに就いていた剣が再び世に放たれる事になったきっかけは、一つの国が異界へと消えた事だ。皇室の宝物庫に収められていたはずのその剣がどうして異界行きを免れたかは今となっては分からないが、倉の片隅でその使い手を得る事もなく眠るはずだった剣は世に放たれ、こうして"戦乙女の投げ槍"の団長の手に渡る事になった。
 その成果がここに現れたのだ。元々強い魔力を持つ人間と、それを増幅する黄金の鎧。必要な条件を全て満たし、永い時を越えて再び偽聖剣(せいけん)は思うがままに与えられた能力(ちから)を揮う。今ここに、かの剣は二度目の産声を上げたのだ。

 ――昔語りはこれで終わり。後は、現代に蘇ったその剣の力をとくと照覧あれ――!

「野郎ども、目をさませがふっ!?」

 いち早く幻覚状態から立ち直った盗賊団の首領は、まだ勝機は失われていないと考えていた。いくら一度50人全員が幻覚に囚われたとは言え、所詮そう質のいいものではない。恐らく声を掛けて教えてやればそれだけで正気に立ち返るだろうし、そうなれば後は数で圧すだけなのだから。――だが、それは少し見込みが甘かったようだ。

 団長の魔剣解放の直後、愛用の槍を置いてピエールは盗賊達に向かってダッシュを掛けた。一人一人槍で小突いていてはキリがない。それよりも、ここは橋の上。敵の数を減らすにもってこいの場所があるではないか――!!
 ピエールが最初に抱え上げたのが、いち早く正気を取り戻した団長だった事は、実際ただの偶然に過ぎない。だが、その偶然が勝負を完全に決める事になった。

「少し頭を冷やしてこいっ!」

「てめぇ、何しやがる。や、やめろ、やめうわああああああああああああああ」

 いくら正気に戻っていたとは言え、自分の視界が急激に変化して戸惑わない人間はいない。そして、その隙はピエールをとって絶好の好機だった。棒立ちになっている首領の脚の間に手を入れ、砲丸投げの要領で橋の外に向かって投げ飛ばす。人並み外れた膂力を持つピエールだからこその荒業だ。

「がば、てめぇ!おぼぼぼぼ、げふん、覚えてやがれ!がぼぐぼごぼ」

 首領が流されていく間にも、次から次へと盗賊達は川に投げ込まれてく。全員が正気を取り戻した頃には、優に40人以上が寒川の中を岸に向かって泳ぐ羽目に遭っていたのだ。これで残る盗賊達は10人。かたや人数で勝るとはいえあっという間に仲間を蹴散らされて意気消沈の、もともと弱いものイジメしか脳がないような盗賊達。かたや40人を川流しにして疲れてはいるが気力は十分、さらに言うならば常日頃から鍛錬を重ねるプロの兵隊。8人という人数差では実力差をひっくり返すにはいたらなかった。

 以降、何度か盗賊団が現れ近隣の村人達を苦しめたことがあったが、その全てが例外なく川流しの刑に処されるのがこのあたりの伝統になった。結果として、今いる者達を徹底的に酷い目に逢わせる事でやる気を失わせる事になり、その後しばらくの間近隣の住民たちが盗賊団に悩まされる事はなくなったと言う。

「さて、そろそろ寝るとするかの」

 明りを消して、ピエールはベッドの上に横になった。睡眠時間が限られている生活を長く続けている所為か、寝つきの良さはピエールの特技のひとつだ。

 ちなみに、今夜ピエールが見た夢は数十人を橋から投げ落としたせいで、数日の間付き合う事になった筋肉痛と戦う自分の夢だったそうな。

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2007/02/12 16:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○獣化の呪いと騎士の槍

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